東京震災記 (河出文庫)

著者 :
  • 河出書房新社
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309411002

作品紹介・あらすじ

一九二三年九月一日、関東大震災。地震直後の東京の街を歩き回り、壊滅した市中で動揺する民衆の声を拾い集めたルポルタージュ。流言が飛び交い混乱の中で歪む人間群像。人々はいかにしてこの大震災から立ち上がったのか。歴史から学び、備えるための記録と記憶。

感想・レビュー・書評

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  • 関東大震災のルポ。
    当事者の視点から、著者本人や周りの人の生々しい被災体験が語られる。火災の脅威が印象的。東京は本当に焼け野原になり、遺体が転がっていたらしい。
    著者は日露戦争に行ったので死屍は見慣れていると言い、そのためか遺体を見たこと自体への衝撃は割合あっさりしている。それでも被服廠跡を見に行った時の様子(p86)は、「正面に見ることが出来なかった」としてあえて語られていない。
    建物が壊れ避難民が溢れている町の現状とともに、その場所のかつての風景が語られる。災害の中でも花の美しさに目を留める(p132)感性ならではの細やかさで、懐かしく風情ある眺めが失われた悲しみが浮かび上がる。
    一方で、筆者はこの災害を、東京が新しく生まれ変わる契機ととらえてもいる。
    「今までは、東京と言っても、江戸趣味や江戸気分がまだ雑然としてその間に残っていて、完全に「東京」というものになることが出来なかったが、今度は、今度こそは、初めて新しい、純乎とした「東京」を打建てることが出来るわけかも知れないね(p105)」
    「塞ったものを通じ、流れないものを流し、労れたものを蘇らせ、ぐずぐずしているものを振い起したことだけは事実だね(p177)」
    他方、災害の混乱から生じた大杉栄事件(p213)や、自警団事件(p221)についての知人との会話については、なんというかやや距離のある見解を口にしている。異常な出来事と受け止めつつも、被害者への同情の視点があまり描き込まれないという点で。あえて避けたのか、同時代人にはそういう感情が自然だったのか。
    被災した「外国人」が日本人の親切を受けて感激するエピソード(p146)の数ページ後に「今度は不逞鮮人と見誤られることの危険―一々弁解して通らなければならない危険を感じた。(p150)」。

  • 大正に起こった関東大震災の実際のリアルな風景を描いた随筆。
    やっぱ地震は、二次災害が一番怖いなって。

  • 歴史

  • 読み助2013年9月24日(火)を参照のこと。http://yomisuke.tea-nifty.com/yomisuke/2013/09/post-afd9.html

  • 誰かが再編集したのではなく、その渦中にあった作家の手記だけに、震災の被害の描写に衝撃を受けることも多かった。
    その日の朝がどんな天気で、どんな空気だったか。
    ささいなことだけれど、これだけでもずいぶん「その日」のことがリアルに感じられる。
    火災直後の下町で見聞したことは生々しくて、とてもやりきれない思いがした。

    興味深かったのが、花袋の東京への思い。
    関東大震災では、江戸時代から続く町並みが破壊されたと聞く。
    明治10年代早くに上京した花袋も、もちろん江戸の名残を愛惜している部分もあるが、同時に、「これで東京の町並みが一新する」という期待を少なからず抱いているようなのに驚いた。

  •  田山花袋は『蒲団』で有名だが、読んだこともない。

     たまたま、題名で購入。

     当時は、小説家がノンフィクション作家も兼ねていたので、関東大震災の雰囲気がよくわかる。

    (1)関東大震災の避難先として福島など東北に多数の避難民が殺到した。(p154)

     当時は、東北の出身者が実家に避難したということだが、時代の巡り合わせを感じる。今度は東京が東北を支えないといけないと思う。

    (2)大杉事件について「私はつとめてそれに対して意見がましいことを言うのを避けた。」(p217)

     当時のなんとなく、うしろめたい雰囲気が伝わってくる。

    (3)「不逞鮮人」の表現は、p150,p193,p224の3カ所にでてくる。

     努めて抑制的に書かれている感じがする。

     そのほか、イニシャルで書かれている人名がおおいのがちょっと不思議。検閲?それとも当時の風潮か?

     こういう、なんとなく、文学作品として現場の雰囲気を語るものが今回の震災でもこれからでてくるかもしれないと思う。

  • 昨日購入。震災の現実は写真や動画だけでは理解することが難しいという結論に至っているため、とにかく読み漁るしかない。物書きのプロの視点での文章が読みたいという欲求がたまりまくっている。現在の新聞記者にはたぶん気骨な人材はかなり少ないと思う。

    読み終わってから別途感想を寄稿予定。

  • 関東大震災の未曾有の被害状況を一人の作家として
    その肝の座ったルポジュター魂に田山花袋の知らない面を見た気がいたしました。
    江戸の風情がどこかしらに残っていた東京がすっかりなくなってしまった瞬間。新しい東京を予感したい思いも感じられ
    今私たちが直面しているさまざまな自然被害(場合によっては人災)とどう向き合っていたらよいのか。
    それは、まず現場にたったかどうか。
    そして、どう感じたか。
    先人の思いを、経験を、無にしてはいけませんね。

  • 代々木付近に住んでいた田山花袋が、関東大震災後、山の手から下町までを歩き回って記録したルポである。花袋は、過去の教訓が生かされていないことに嘆く。新しい東京に生まれ変わることへの期待を示す。

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著者プロフィール

1872年群馬県生まれ。小説家。『蒲団』『田舎教師』等、自然主義派の作品を発表。1930年没。

「2017年 『温泉天国 ごきげん文藝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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