生きていく民俗 ---生業の推移 (河出文庫)

著者 :
  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (257ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309411637

作品紹介・あらすじ

海の民、山の民、川の民、村の民、町の民。それぞれの職業との関わりとその変遷、またお互いの交流・交易のありようとその移り変わりの実態を、文献渉猟、徹底したフィールド調査、そして刻明な記憶をまじえながら解明していく、生業の民俗学の決定版。差別・被差別の民俗学とも深く結び着いてゆく。

感想・レビュー・書評

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  • 社会に生業が生まれ、家業となり、やがて職業へと移り変わる。
    そんな大きな流れを描いた本。

    いつの間にか持っていたイメージのいくつもが、本書によってくつがえされた。

    印象的だったのは、かつていたという押し売りのこと。

    自分は「サザエさん」の中でしかその存在を知らない。
    今話題なのは「押し買い」だが、押し売りもその手の「悪徳業者」「詐欺業者」だと思ってきた。
    ところが、本書によれば、かつては相互扶助のようなものであったらしい。

    自給自足でやっていけない土地で、凶作が起こったりすることで流浪の民が生まれる。
    乞食になることをよしとせず、食べ物などをめぐんでもらう形ばかりの対価として、粗末であっても品物を置いていく。
    富める者は貧しい者を助けるのが当たり前という発想の贈与=交換だったというのだ。
    十分なのかはわからないが、貧しい人の誇りにも配慮した社会のありかたなのではないか、と感じた。

    イメージが大きく変わったといえば、農業者も漁業者も、かつては移動しながら生活していたということも挙げられる。
    たしかに、漁業者については、季節によって魚がいる場所がかわるから、それを追って住居も変えるのは言われてみれば納得する。

    農業者の方も、出稼ぎが多い。
    男性だけでなく、女性も、子どもも。
    昭和の「出稼ぎ」のイメージだと、農閑期=冬に都会の工場に働きに行くという感じだが…。
    土地にもよろうが、田植え、養蚕など、年中何かしらと出ていく。
    それだけ自分の土地だけでやっていけなかったということだ。

    農業者が報われないと感じていたのは今に始まらないことだったようで、特に女性に強くそれが内面化されるとう指摘にも、ぎくっとする。
    女性が流出すると、集落の人口が減少する。
    現在の状況は、急に成立したわけでなく、明治以前から用意されていたということか。

    そのほか、どう一人前になるかという話も面白かった。
    漁業者となるには、海のあらゆることを知らなければならない。
    毎日海に行き、学ばないと一人前になれない。
    学校へ行っている暇はないということだ。
    商人の方も、厳しい修行を経る。
    こちらは特に具体的に詳しく説明されていた。

    大きな流れが書かれているのだが、そこはさすがの希代のフィールドワーカー、あちこちの集落の個別的な状況を通して語られる。
    巨視的にも、微視的に読むこともできる、一冊で何度でもおいしい本といえそうだ。

  • 「みんなの民俗学」を読んでからまた民俗学づいている。
    民俗学の本、読んでるととても楽しい。なにか知識として身についている気は特にしないが、きっともっと大事な何かが身についているはず!
    民俗学って、「普段の生活」が時間が経つと「学問になる」というのが面白いと思っている。いっそのこと、今この瞬間が既に民俗学の対象になりうるわけだし。

    この本は江戸から昭和あたりの人々の暮らしー農民、出稼ぎ、行商、丁稚奉公、女性の仕事など、なんかよく見るテーマから、物乞い、被差別職業、人身売買など、おおっぴらに語られなさそうなものも研究対象の一つとして平等に紹介しているのがとても良い。
    ただ、それぞれ一つのテーマを別々に紹介していくというより、「すべてが繋がっている」ように説明してくれるので理解しやすい。

    あとは昔は良かったみたいな風潮あるが、昔のクソなところは本当にクソというのはちゃんと理解しておかなきゃとはやはり思う。昔はなにより人の命が軽すぎた。

    また、日本の古い言葉は漢字の読みも含め、今の観点から見直すととてもエモいので覚えていきたい。

    かもじ: カツラ
    販女 (ひさぎめ): 魚売りのこと
    杣 (そま):古代から中世にかけて律令国家や貴族・寺社などのいわゆる権門勢家が、造都や建立など大規模な建設用材を必要とする事業に際して、その用材の伐採地として設置した山林のこと
    オーレン:黄連という生薬?

    塩飽諸島 )しあく) 香川県
    雑喉場 (ざこば) 大阪
    水分 (みくまり)
    特牛 (とつこい)

  • 青春18切符で旅行中、移動の電車の中で読みました。

    地域に生きた人の生業が地域をつくってきて、その軌跡を思い浮かべながらの電車旅。旅行に持っていってよかった。

    企業に雇われ働くようになったのはたったここ1世紀の話。
    常に貧困と隣り合わせの中で、必死に働き、仕事をつくり日本人は生きてきた。どのような地域で、どのような自然の中で暮らしているかによって、仕事のあり方は違った。仕事×民俗学。地理的、歴史的に俯瞰する本。
    面白かったーーー。

  • 積読消化。「第一章 くらしのたて方」まで読んで放置したようだった。最初から読み直す。
    サブタイトルの通り、民俗学的観点からの日本の職の推移がわかる。おもしろい。書かれたのが60年前だと言うことを差し引いても。

  •  読了して、民俗(学)というのは、理想ではなく現実だという思いを強くしました。宮本常一「生きていく民俗」、生業の推移、2012.7発行(1965.2刊行、1976.5文庫化)。長い間、女の勤め口といえば、小学校の先生か女工か女中くらいのもの、大半の娘は家にいて嫁に。(でも、農家には嫁に行かぬ) 戦後、有名大学卒業という条件はあるものの、男女とも、職業が自分の好みで自由に選ばれるようになった。でも、大会社は小会社に、中央官庁は地方官庁に、官吏は一般民衆に、優越感を抱き、職業による貴賤感はいまだ根強い。

  • むかしの人がどのように働いて、どのように生きてきたか、働き方の移りかわりと生活の移りかわりを紐づけながら追いかけた宮本常一の本です。
    それぞれの時代、それぞれの地域の人々が、その時代その地域に合わせてなんとか食いぶちを作ってしぶとく生きてきたのだというのが印象的でした。昔からそうであったようにこれからの仕事のありかたも移りかわっていくのだろうと思え、読み終えて労働感が柔軟になった気がしました。

  • 民衆の生活史を通して、日本人、日本国の特性が読み取れる。

  • 「家職・家業がしだいに姿を消して、子が親の職業を継がなくなり、出稼ぎから解放されると初めて、近代化したと言えるのであろうが、まだ遠い距離がある」と結ばれている。1965年頃らしいのだが、すでにそんな時代がとうに来てしまっているのだった。

  • 時代の制約から来る生業の移り変わり

  • 日本の経済史と産業史を地方を見聞して歩いた経験を持ってまとめようとしたもの。農村で完全に自給自足ができなかったことからいろいろな生業が生まれた。その中で、忌み嫌われるがなくてはならない生業の一部が差別の対象となったことなども記されている。
    『民俗のふるさと』の下巻のようなつもりで書かれたとのこと。
    宮本常一が社会を見つめる視線は温かいなぁと感じる。

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著者プロフィール

1907年(明治40)~1981年(昭和56)。山口県周防大島に生まれる。柳田國男の「旅と伝説」を手にしたことがきっかけとなり、柳田國男、澁澤敬三という生涯の師に出会い、民俗学者への道を歩み始める。1939年(昭和14)、澁澤の主宰するアチック・ミューゼアムの所員となり、五七歳で武蔵野美術大学に奉職するまで、在野の民俗学者として日本の津々浦々を歩き、離島や地方の農山漁村の生活を記録に残すと共に村々の生活向上に尽力した。1953年(昭和28)、全国離島振興協議会結成とともに無給事務局長に就任して以降、1981年1月に73歳で没するまで、全国の離島振興運動の指導者として運動の先頭に立ちつづけた。また、1966年(昭和41)に日本観光文化研究所を設立、後進の育成にも努めた。「忘れられた日本人」(岩波文庫)、「宮本常一著作集」(未來社)、「宮本常一離島論集」(みずのわ出版)他、多数の著作を遺した。宮本の遺品、著作・蔵書、写真類は遺族から山口県東和町(現周防大島町)に寄贈され、宮本常一記念館(周防大島文化交流センター)が所蔵している。

「2022年 『ふるさとを憶う 宮本常一ふるさと選書』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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