- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309411668
作品紹介・あらすじ
「次は…人間を撃ちたいと思っているんでしょ?」
雨が降りしきる河原で大学生の西川が<出会った>動かなくなっていた男、その傍らに落ちていた黒い物体。圧倒的な美しさと存在感を持つ「銃」に魅せられた彼はやがて、「私はいつか拳銃を撃つ」という確信を持つようになるのだが……。TVで流れる事件のニュース、突然の刑事の訪問――次第に追いつめられて行く中、西川が下した決断とは?
「衝撃でした。より一層、僕が文学を好きになる契機になった小説」(又吉直樹氏)
「孤独は向かってくるのではない 帰ってくるのだ」(綾野剛氏)
他、絶賛の声続々! 新潮新人賞を受賞した、中村文則、衝撃のデビュー作。ベストセラー&大江賞受賞作『掏摸(スリ)』の原点がここに!
*単行本未収録小説「火」を併録。
感想・レビュー・書評
-
私の大好きな著者の世界観の元祖を見るつもりでこの作品を手に取ってみたのだが、なんか違かった。
そもそも狂気を演出するのに「動物の死」を使う事に、創作だから許される許容は勿論持ち合わせていても今回は心底胸糞悪かった。ある意味リアルって事なのだろうか。経験値ゼロのメンズの脳内みたいな官能的シーンも下品で汚い。
今の作品を楽しめるのもココがあってからこそなんですよね。ただそれだけを感じれた事が嬉しい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
中村文則さんのデビュー作。
「銃」をひょんなことから拾ってしまった普通の大学生の、心とからだと頭の変化をヒリヒリとした文体で描ききっています。
一緒に、ハラハラ、ドキドキしました。
ラストにかけては、ページを捲る手が止まりませんでした。心理描写がとても素晴らしいなと。そうだよな。きっとそうなるだろうな。人って。
鬱々した作品は苦手意識がありましたが、もっと読んでみたいと思わせて貰いました。 -
中村文則氏の作品は初めて手に取ったのだが、改行や会話が極端に少ないためか、見開きのページに文字がびっしりと埋められていて驚いた。
これが中村文則氏の文体や作風なのか、それとも本作を書く上であえて意識していることなのかは分からないが、銃の魅力に取り憑かれた青年の意識がぎちぎちに詰め込まれているような文章に圧倒される。
作中では銃を拾った大学生・西川の視点で、ひたすらに銃の美しさや畏怖の念が語られる。銃の形状・生まれた過程・用途……一丁の銃にこれほどまでの描写を詰め込めるのは流石と唸らざるを得ない。銃という存在のすべてに惚れ惚れしている青年の様子は、どこか羨ましいとすら思え、それらの感情が次第に破滅願望のように膨張していく様子は見ていてゾクゾクした。
しかし、サスペンスやミステリーのような導入に惹かれた反面、純文学らしく事件のようなものはあまり起こらず、タバコとセックスに溺れた自堕落な大学生が、銃を手に入れたことで自身が何者かなったように錯覚する話、としか思えなかった。主人公の輪郭がのっぺりとしており、感情移入できなかったのが要因だろうか。
『銃』と共に本作に収録されている『火』は、錯覚と葛藤を描く『銃』とは異なり、罪を重ねた女性の一生が当人から語られるという陰鬱なもの。女性の語りの節々から彼女が錯乱していることが窺い知れ、これ以上進むことがない物語にもかかわらず、濃密なエネルギーのようなものを感じずにはいられない。
私は一人称の小説が好みではあるのだが、読み終わって二篇とも合っていないと感じた。さまざまな方が絶賛されている作品なだけに、読む前のハードルが高くなってしまったのだろう。まだ私の想像力・感受性が身中なだけかもしれないが……。
それぞれ読み心地が良かっただけに、やはり純文学は肌に合わないなと改めて感じるてしまい、少しだけ悲しい気持ちになった。 -
感情とは怪物なのかもしれない。
事象があるから感情が起きるのか、感情があるから事象が起きるのか。ただ、ただ、切迫する空気に追い詰められた。 -
中村文則のデビュー作。勢いが凄い。熱量が伝わってくるようで一気に読んだ。
-
著者のデビュー作であるこの作品、読んでみて感じたのは何とも言えない、いい意味での後味の悪さ。
たまたま銃を拾った主人公が、銃に呑まれて、翻弄され、最終的に人格までもが、何とも言えないクライマックスだけどもそこが、中村文則の真骨頂だと思う、ぜひ読んでみてください。 -
「列」に続いて読んだけど、大変面白かった。人は執着する対象に振り回されるものだけど、「銃」というただそこにあるだけの物に対して、主人公自身が一方的に幻想や思い込みを抱き、壊れていくのが興味深かった。人間が潜在的に抱える切り札や時限爆弾的な何かの示唆にも思える。
-
「銃」
主人公は一見充実した生活を送る、ごく平均的であり、それ以上でもそれ以下でもない大学生。自己の奥底に潜んでいた破滅へと向かうのを望む願望が銃を拾うことによって肥大化する。自らの生い立ちの特殊性から、自分は周りの人間とは隔絶された存在であると認識している。銃という究極の実用的美に魅せられ、銃に傅き、銃を自己の内面の表層部分に融合させる。どこまでも平凡な人生(物語)を大きく捻じ曲げるきっかけはどこまでも平凡な事象であり、それに触れるどこまでも平凡な狂気との化学反応なのだ。意識と無意識に境界は無く、そこには下した判断にかけた時間の差しかない。
この物語の主人公は『罪と罰』のラスコーリニコフだ。ラズミーヒン(ケイスケ)という友を持ち、判事ポルフィーリー(警察)に追い詰められ、ソーニャ(ヨシカワユウコ)に罪の告白を試みる。この主人公はラスコーリニコフのように罪を悔いることはなく、ラスコーリニコフのもう一つのエンディングの可能性、スヴィドリガイロフと同様の運命をたどった。ラスコーリニコフは罪を犯したあとに苦悩するのに対して、この主人公(西川)は罪を犯す前の段階で、銃とともに起きるその後の可能性に苦悩し、あるいは思考停止した。この作品『銃』は『罪と罰』の前日譚を含む、あり得たもう一つの物語の可能性なのだ。