十蘭ラスト傑作選 (河出文庫)

著者 :
  • 河出書房新社
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309412269

作品紹介・あらすじ

文体の魔術師・久生十蘭コレクションの最終第7巻。

感想・レビュー・書評

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  • 2017年度系推薦図書 総合教育院
    【配架場所】 図・3F開架 
    【請求記号】 913.6||HI
    【OPACへのリンク】
     https://opac.lib.tut.ac.jp/opac/book/181791

  • 7冊で十蘭傑作選は、打ち止めのようだ。7冊目も戦記、ナポレオンもの、時代もの等盛り沢山で楽しめた。巻頭の「風流旅情記」は、海軍報道班員になった画家の目からみたニューギニア戦記。徴用漁船による航海、行きついた島の守備隊の状況が凄まじい。去年刊行された十蘭の「従軍日記」の体験と一致するから、背景は事実に基づいている。戦後すぐに、このような悲惨な体験を笑いのめす十蘭の根性は据わっている。7冊すべて堪能した。

  • しみじみと印象に残ったのは、太平洋戦争を描いた「風流旅情記」。
    主人公の五流画家・三河万蔵は報道班員として、民間の徴用船に乗り込み、日本の勢力圏の南端にあるニューギニア・アルー諸島をめざす。
    彼がこの島をめざすのは、鶏の卵を人肌で抱いて孵化させた兵士がいるから、という一風変わった理由のため。
    乗り込んだ輸送船は鉄屑みたいな貧相な代物で、乗組員も曲者揃い。海底を自由に歩ける八重山の少年、鉄兜とふんどし一丁で敵の機銃掃射と戦う野武士みたいな男、盗賊の親玉みたいな船長。
    この船のくだりだけで、もう十分おかしくて笑える。だいたい、主人公の名前自体が三河万歳と一字違いで、いかにも人を食っている。
    島にたどり着いてからのくだりも、ユーモラスで楽しい。
    が、読み終えた後はどこか澄んだ切なさが心に残る。
    確実に待ち受けている死を覚悟しながらも、のどかに笑いあい、決して明るさを忘れない兵士たちはかなしい。
    この話は、自身も戦時中報道班員として南方に派遣された十蘭の体験が凝縮されているのかもしれない。

    そのほかには、ナポレオンのロシア遠征、マリーセレスト号を筆頭に国内外で起こった謎の軍艦失踪、チャップリン「殺人狂時代」のモデルになった殺人犯を題材にした猟奇事件など、歴史的事象をクールに追ったドキュメンタリーが多い。
    なかでも「カイゼルの白書」は、暢気で頓馬なムードがくすくす笑いを引き起こす名品。
    掉尾を飾るのにふさわしい、充実の一冊だった。

  • 河出文庫の十蘭シリーズ、ラストと銘打ってあるからにはこれがラスト?今回久々に買ったのは八犬伝マニア的に「信乃と浜路」が読みたかったから。

    解説にもありましたが、これが意外と原作に忠実。むろん直訳ではありませんが、大幅にアレンジされた部分はなく、馬琴の原文を現代語訳して読みやすくしただけみたいな。原作ファンとしては特に不満もなく、なんというか可もなく不可もなく。それにしても女子に夜這いまでされておきながら据え膳も食えない信乃の乙女心のわからなさには相変わらず呆れます(苦笑)

    他の収録作では、処女作らしき「かいこ」や、実体験を元にした「風流旅情記」あたりは“小説”として面白かったですが、他はナポレオンものの「雪原敗走記」「フランス伯N・B」、海で行方が知れなくなった船についての「幻の軍艦未だ応答なし」、実在した連続殺人犯ランドリュの「青髭二百三十八人の妻」等、創作ではなく実話をもとにしたノンフィクションぽい作品が多くて、“取材記事”としては題材も内容も面白いのだけれど、“小説”を読んだという気があまりしなかったのがちょっと残念。

    ※収録作品
    風流旅情記/蠶/雪原敗走記/フランス伯N・B/幻の軍艦未だ応答なし/カイゼルの白書/青髭二百八十三人の妻/信乃と浜路

  • 『久生十蘭ジュラネスク』から続く、河出文庫の久生十蘭短篇集の最終巻。
    戦争もの、西洋史もの、時代ものとバラエティに富んだ内容だった。
    『風流旅情記』『雪原敗走記』『幻の軍艦未だ応答なし』が面白かった。

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著者プロフィール

1902年北海道函館市生まれ。本名、阿部正雄。1952年『鈴木主水』で第26回直木賞を受賞。推理小説、ユーモア小説、歴史小説などその作品の幅は広く、「小説の魔術師」「多面体作家」の異名を持つ。代表作に、「湖畔」「黒い手帳」「ハムレット」「無月物語」「母子像」など多数。『キャラコさん』『肌色の月』など映画・ドラマ化作品も多い。1957年没。

「2023年 『あなたも私も』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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