東京プリズン (河出文庫)

著者 :
  • 河出書房新社
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本棚登録 : 575
レビュー : 70
  • Amazon.co.jp ・本 (533ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309412993

感想・レビュー・書評

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  • 小説の面白さは素材選択の時点であらかた決まるようです。

    「天皇の戦争責任」という重いテーマを、戦勝国の米国で、そして理詰めだけの議論競技「ディベート」という場で、さらに日本人一人という孤立無援の状況で展開されるストーリーの着想は秀逸です。

    とはいえ、付随して展開されるサブストーリーは私には意味不明で、この小説の素晴らしさを減じたように感じました。

    そして私がこの小説から気づかされた点が2箇所ありましたので、紹介します。

    キリスト像はなぜ磔の図であるのか、なぜ拷問の果てに死んだ救世主の図を崇め、その後に復活した彼の方に興味を持たないのか?
    それは、イエスを教会が神の一人子として独占するために、子孫のない絶対唯一の存在とした方が都合がよかったからなのでは?という指摘が1つ。(P516)

    もう1点は、議論相手から真珠湾攻撃というだまし討ちを非難されたときに、これはあくまでも手違いの事故であってそもそも軍事施設を攻撃したもので民間人を狙ったものではないと主張すると、では南京大虐殺や731部隊が犯した残虐行為は?と問われたときの答えです。
    この時、当時の天皇が彼女に乗り移ったかのようにこう答えます。
    「彼らの過ちはすべて私にある。子供たちの非道を詫びるように、私は詫びなければならない。しかし、私の子供たちに対する気持ちを吐露する人の親であることをつかの間許していただけるなら、やはり、前線の兵士の狂気やはねっかえり行動と、民間人を消し去る周到な計画とはまた別次元であると言おう。そしてこの意味において、あなた方の東京大空襲や原爆投下は、ナチスのホロコーストと同次元だと言おう。だからといって何もわが方を正当化はしない。が、前線で極限状態の者は狂気に襲われうる。彼らが狂気の方へと身をゆだねてしまったときの拠り所が、私であり、私の名であったことを、私は恥じ、悔い、私の名においてそれを止められなかったことを罪だと感じるのだ。私はその罪を負いたい。」(P521)

    この小説を読んでよかったと心底思えた箇所でもありました。

    解説の池澤夏樹は「小説にはこんなこともできるのか」という言葉で締めくくっていましたが、間違いなく小説の可能性を味わうことができる1冊です。

  • 面白かったけど、話にまとまりがない。

  • 読みにくい話だと思う。

    主人公マリの1980年と2011年を、アメリカと日本を行き来しながら、更に彼女の実世界と精神世界を混沌としながら渡り歩いてゆく。
    初読では捉えられない、たった一人の女の子に翻弄されてしまった。

    東京裁判、敗戦国、天皇の戦争責任。
    ベトナム戦争、南北戦争、東日本大震災。

    散りばめられた点は、自分自身が考えて線にしていかなくてはならない。

    抗いようもなく蹂躙されるヘラジカも、マリも、敗者としての私たちの姿の代わりである。
    天皇とは何か、日本とか何か。
    神によって創られた国に住みながら、私たちは朧げにしかそのことを考えない。

    私たちは何故戦ったのか。
    原子爆弾は何故落とされたのか。

    負うた傷に涙は流せど、考えることはどんどんと阻害され、白痴化する現代が到来した。
    私たちの立場は、変わったか。

    この国は紛れもなく日本である。
    グローバルである前に、足下を見るべきだ。

    私たちにとって、天皇とは何か。

    なんだろう。ズキズキする話なのである。
    悲しいではなく、懐かしいでもない。
    紛れもなく日本にいるから、当たり前の問いを考えずにいられるのかもしれない。

    さて。2014年の私たちには『東京プリズン』を通じて、大きな問いが投げかけられてしまった。

    私たちは、何のために戦うのだろうか。

    補足的に。
    この小説にはリトルピープルと白い繭が出てくる。
    初出は村上春樹『1Q84』のおよそ一年後。
    オーウェルの『一九八四年』に対し、マリの時間軸は1981年。

    これらの相関性がどうであるかは分からないが、置いておきたい。

  • 16歳のマリが挑む現代の「東京裁判」とは? 少女の目から今もなおこの国に続く『戦後』の正体に迫り、毎日出版文化賞、司馬遼太郎賞受賞。読書界の話題を独占し“文学史的事件”とまで呼ばれた名作!

  • 複雑。
    いろいろ思うところはあるし、考えるネタは提供されるが、夢のような部分が長く、そこが個人的には共感し難く、読むことも苦痛に近かった。
    そこを越えて、天皇の戦争責任に関するディベートのところは示唆に富み、なるほど、と思わされるところも多く、あらためて考えてみたいと思わせられた。戦後の日本人が「女」になったとの分析は、特になるほどと思わされた。妙に納得できた。媚びなのだな、と。

    母親とのくだりや、幻想の場面よりも、ここに集中してくれれば良いのにと思ったが、作者にはこだわりの部分なのだろうな。

  • どこからが現実部分なのかわからない、ふわふわとした作品。この小説を読むまで、A級戦犯の意味も知らなかったことに気がついた。

  •  『愛と暴力の戦後とその後』が素晴らしくて、それを読んで以来憲法改正には慎重な立場となった。それからずっとこちらの小説も気になっていて参院選の機会に読んでみたのだけど、けっこうしんどくて投票までに読み終わらなかった。

     高校生なのに頭が良すぎる。外国語でディベートをするのもすごいし、それ以前に知識と知能がめちゃくちゃしっかりしていて、そんな子を落第させるなんて、アメリカの先生どうかしている。今50歳のオレの人生のどこを区切っても16歳の彼女より頭がよかったことなんかない。そういう意味ではあまり現実味を感じないほどだった。

     時空と人格を超えて通信する場面は面白かったけど、ほかの幻想的な描写は頭に入って来なくて読むのに苦労した。そして何より長くてつらかった。

  • 天皇の戦争責任のことを
    日本人の少女が
    アメリカで弁明する
    というあらすじに惹かれて手に取ってみた。

    これまで深く考えようと思ったことはなかったけど、確かに天皇って、世界に類を見ない不思議な存在だ。
    生と死、男と女、戦争と平和、傀儡と主体、人民と統治。
    色々な概念を総合して考えても、答えの出せない人?神?

    だから、この小説は正直とてもわかりづらい。
    色々なところへ飛んでいき、これはあれだと思った。
    難解な演劇によくあるやつ。
    ひとつの空間を色んなものにみせてくかんじ。
    演劇みたいな読書体験。
    でもこれはそうしないと、伝えられないからなんだ。
    それくらい、私たちは複雑に屈折したものを抱えている。
    それは天皇という範囲を超えて、太古の日本から、第二次世界大戦以降まで、私たち日本人が抱えているもの。
    もっと広く、世界中の「国民」と呼ばれる人たちが、かかえているものなのかもしれない。

    その国に生まれただけだけど、その国の国民となって、生きていく。
    その国のルールの中で、考え方の中で。
    これまで戦争ものって、人としての生死の尊厳を主題として感じることが多かった。
    でもこの本が私に提示してくれたのは、人として生き、行動し、意思を持つことに対する尊厳の根源のようなものだ。
    それを揺るがされてしまうものが、戦争ということそれ自体に内包されている。
    こんなことしていいのかっていう畏怖みたいなもの。
    それを抱えきれない、人は。
    そんなストレスフルなこと、絶対やめようよ。

  • 村上春樹の小説みたいに現実味のない世界が描かれる。米国メイン州と東京が舞台であっちへ行ったり戻ったり。天皇の戦争責任のディベートが中心に置かれるが、何となく勉強になった感じはする。

  • 東京裁判における天皇の責任という問題を、アメリカ留学中の高校生マリがディベートで追訴する。自分の土壌でない場所で、相手のルールで物事が進めらていく極度のストレスは経験からかなり共感するところがあった。母娘関係、第二次世界大戦の振り返り、戦後の日本人の思考方法など様々な重い問題が何層にも書かれていて、正直読んでて気が重かった。だがそれらを束ね、振り分けて小説にうまく取り込み、主人公の30年の虚無感に救いを見出して示してくれた作者には拍手を送りたい。

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著者プロフィール

人間の知覚の限界に迫る『ミューズ』で野間新人賞、『東京プリズン』では、少女の目で「戦後」を問い、毎日出版文化賞、司馬遼太郎賞受賞。小説の他に、『愛と暴力の戦後とその後』『モテたい理由』など評論も話題。

「2019年 『箱の中の天皇』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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