書き下ろし日本SFコレクション NOVA+:屍者たちの帝国 (河出文庫)

制作 : 大森 望 
  • 河出書房新社
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本棚登録 : 292
レビュー : 33
  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309414072

感想・レビュー・書評

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  • 藤井太洋 『徒卒トム』
    高野史緒 『小ねずみと童貞と復活した女』
    仁木稔 『神の御名は黙して唱えよ』
    北原尚彦 『屍者狩り大佐』
    津原泰水 『エリス、聞えるか?』
    山田正紀 『石に漱ぎて滅びなば』
    坂永雄一 『ジャングルの物語、その他の物語』
    宮部みゆき 『海神の裔』
    特別インタビュー:円城塔  『屍者の帝国』を完成させて

  • 映画の公開に合わせて出版されたアンソロジー。伊藤計劃さんが書いたエピローグに円城氏が長編作品として仕上げた「屍者の帝国」。この作品をもとにしたシェアード・ワールドものである。屍者が登場するのはすべての作品で共通しているが、役割や生者との関わりが異なる。この作品集を読んで、改めて「屍者の帝国」を読みたくなった。円城氏のインタビューも屍者の帝国を読む上で役に立つだろう。面白かったのは、「小ねずみと童貞と復活した女」「屍者狩り大佐」「海神の裔」。

    以下、個別作品の感想。

    ◎従卒トム(藤井 太洋)
    江戸城無血開城とアンクル・トムと屍者を絡めた物語。奴隷だったトムであるが、屍者になってしまっても元主人への忠誠が変わらないところは日本的で素晴らしい。江戸時代の武士が持つ主君への忠誠心ともリンクする。

    ◎小ねずみと童貞と復活した女(高野 史緒)
    読みはじめは、笑えるという意味の面白さであったのが、エンディングに向けて、物語自体の面白さを感じるようになった。驚きの結末が見事。

    ◎神の御名は黙して唱えよ(仁木 稔)
    宗教(特にイスラム教)と絡めた屍者の物語。あまりのめり込めなかった。

    ◎屍者狩り大佐(北原 尚彦)
    「屍者の帝国」のパスティースュであり、シャーロック・ホームズのパスティースュでもあり、その他の作品のパスティースュでもある。こんなことは関係なく単純に面白い。

    ◎エリス、聞えるか?(津原 泰水)
    コミカルであるが、どこか哀しげな感じがする物語。いくつもの作品で、屍者は死んでいるのか生きているのか議論になるが、本作品を読むと、屍者は生きていてくれと思いたくなる。

    ◎石に漱ぎて滅びなば(山田 正紀)
    夏目漱石が登場する英国での屍者の物語。似たような舞台の「エリス、聞えるか?」が哀しい感じがするのに対し、こちらは冒険活劇といっていいと思う。登場するものが現実にあるものとリンクして、「なるほど、こうきたか」とくすりと笑わせる部分もあり、楽しく読めた。

    ◎ジャングルの物語、その他の物語(坂永 雄一)
    前半はゆったりとした展開でなかなか物語の中に入って行けなかった。それが最後はトントントンと展開し、スピード感があって楽しく読めた。物語の背景にある別の作品をよく知らないからなのか、あまり面白味を理解できなかった。作品末に挙げられている本を読めば楽しめるようになるのだろうか。

    ◎海神の裔(宮部 みゆき)
    いい話だ。屍者が漁村でひっそりと活躍する話はほっこりしていい感じ。おばあさんの証言という形式なのもいい。

    ◎『屍者の帝国』を完成させて 特別インタビュー(円城 塔/述)
    『屍者の帝国』が書かれた背景を作者本人が語るインタビュー。円城氏の苦しみや『屍者の帝国』と伊藤計劃の関係を知ることができる。

  • 伊藤計劃の「屍者の帝国」は完結しなくても、受け継がれる世界観は生き続ける。従卒トムは思いもつかない展開、いきなり楽しめました。屍者、ゾンビはこれから、ますます存在感を増していくのでしょう。

  • 3月2日読了。図書館。「従卒トム」「エリス、聞こえるか?」「海神の裔」が好き。

  •  没後6年を経て伊藤計劃の名声はいや増しに高まっている。生きていれば駄作を書くかも知れないのに、もう絶対に駄作を書くことのない彼は不滅だ。
     でも読者はもっと彼の作品を読みたい。『屍者の帝国』。プロローグだけが書かれた第4長編。1878年、ヴィクター・フランケンシュタインの先駆的研究から100年、屍者に疑似霊素を注入することでロボットのように使役できるように蘇生させる技術が一般化していた。わたし、医学生のジョン・H・ワトソン、すなわち後のシャーロック・ホームズの記録作家は女王陛下の諜報機関にスカウトされ、グレート・ゲーム(中央アジアでの大英帝国とロシア帝国の覇権争い)のプレイヤーとして乗り出すことになる。
     舞台はアフガニスタンから日本へという程度の構想しかはっきりしていなかったこの作品を円城塔が書き継いで長編として完成させた。このゲーム「プロジェクト伊藤」に大森望が他のプレイヤーを招集したのが、オリジナル・アンソロジー『NOVA+』の第二弾「屍者たちの帝国」である。『屍者の帝国』の設定を共有して短編を書く使命が8人の作家に与えられたのだ。もう作品を書かない伊藤計劃に代わって物語を紡ぐために。

     藤井大洋「従卒トム」。屍者による軍隊、屍兵を統率するという忌み嫌われる仕事は黒人の解放奴隷に任される。テネシーの農場で綿花栽培に従事していた奴隷のトムは7年後、薩長の要請で屍兵を率いて江戸城攻めに向かおうとしている。ある種の人情話である。
     『屍者の帝国』と同じ月に『カラマーゾフの妹』を上梓した高野史緒は今度は『白痴』の続編を書くが、これがとんでもない大暴走。白痴に戻ってしまったムイシュキン公爵。ムイシュキンとは小ねずみの意味。そして白痴の治療とねずみといったら、ドラマ化までされてSFファンでなくとも知ってるあの話。パルフョン(童貞の意味)・ロゴージンに殺されたナスターシャ(復活の意味)は首だけ他の死体にすげ替えられて死者として復活する。そうそう、首だけ生きてるってのはあの教授。といった具合のネタが繰り出されて最後は地球を飛び出していく「小ねずみと童貞と復活した女」。
     仁木稔「神の御名は目して唱えよ」は「我」をなくして神と一体化するというイスラム神秘思想がネタ。ヴォルガ・ウラル地方のイスラム神秘主義教団を舞台に、この思想と屍者をからませた作品。作品で思索するという点で伊藤計劃の道を正しく進む。
     シャーロキアン北原尚彦は円城塔版『屍者の帝国』の一挿話をでっち上げる、シャーロック・ホームズの登場人物を連れてきて。タイトル「屍者狩り大佐」はのちにモリアーティの右腕となるモラン大佐のこと。そして「まだらの紐」の粗暴なロイロット博士、さらにウェルズの登場人物や中島敦のまで登場。話はワトソン一行がインドで屍者化された虎に人が襲われる事件に遭遇するというもの。インドの虎刈りだから、宮澤賢治、いやそこまでは言ってないか。
     愛する者を生き返らせるのはオルフェウスの冥府下り、イザナギの黄泉の国行きの昔から人間の欲するところだが、『屍者の帝国』のアイディアのキモは屍者が個性をなくして道具になるところにある。森鴎外が主人公の津原泰水「エリス、聞こえるか?」は伊藤計劃に背いて愛する者の蘇生をテーマにするが、屍者たる作曲家の作品などという変なアイディアで単なる感傷的な作品に終わらない。
     山田正紀「石に漱ぎて、滅びなば」はロンドンの夏目漱石を引っ張り出す。漱石、すなわち「石に漱ぐ」という言葉と、海軍カレーの誕生を結びつけるが、その論理の強引さと説得力のなさは「トンデモ」というほかない。彼も『神狩り』『弥勒戦争』で夭折していたら、伊藤計劃のような伝説になっていただろう。ま、その後、駄作も書いたが,傑作も書いたから、生き延びることは無条件で正しい。でも、たいがいにしてもらいたいこともある。
     屍者技術が時代遅れとなった時点から語られる坂永雄一「ジャングルの物語、その他の物語」はこのアンソロジーの他の作品からは異彩を放っている。伊藤計劃の世界から軽々と遠ざかりつつも,その独創性から伊藤計劃の境位にまで迫っている、というべきか。
     トリは宮部みゆき。舞台は第二次大戦後の日本。後者の管理を離れた「拡散屍者」についての調査報告書の体をなす老婆の証言、「海神の裔」。「3回生まれ変わっても」『虐殺器官』のようなものは書けない宮部が、宮部にしか書けないお話を書いている。この作品でトムさんが登場するは藤井と申し合わせたわけでないのに、面白い。

     最後にオマケで円城塔のインタヴュー。次のセリフがキマってる。

     「伊藤計劃の名前で商売している」と言われてもいいんですよ。死体を働かせる話なので、「そうだ」と言える。

     そうか、伊藤計劃は今も働いているんだ。

  •  若くして夭逝したSF小説家、伊藤計劃が冒頭だけ書き残し、友人の作家円城塔が書き継いで完成させた『屍者の帝国』。一度死んだ者にネクロウェアというソフトを注入して、労働力や軍隊として使役させている世界。この世界設定をベースに、8人の作家たちが新作短編を寄稿したオリジナル・アンソロジー。
     伊藤計劃の遺志を継いで円城塔が完成させた『屍者の帝国』も読みごたえがあったが、短編を寄せた8人の書き手の発想力・創造力もすばらしい。キャリアも作風もバラバラだが、見事に『屍者の帝国』をアレンジし、原作の世界観を損なうことなく、むしろ幅や奥を広げてくれている(当然ながら、この魅力を味わうにはあらかじめ『屍者の帝国』を読んでおく必要がある)。

     よくよく考えてみれば、このアンソロジーもテーマ別に再出発した『NOVA+』の第二弾である訳で、大森望氏は今回もいい仕事をしてくれた。

  • 屍者の帝国の世界観を元にした短編集。シェアードワールドというらしい。二次創作みたいなもの?
    なかなか良質な小編が多かったなぁ。宮部さんの語りはやはりうまい。山月記やくまのぷーさん、アルジャーノンに花束をなど他作品のネタを混ぜ混むのが流行りなのかお手前なのか?とりあえず好き勝手ぶちこんどけーみたいなノリもある。
    特に好きだったのは「神の御名は黙して唱えよ」と「ジャングルの物語、その他の物語」かなぁ。宗教観や文体・展開など、伊藤先生へのリスペクトの現れ方が好み。
    編集者や円城先生の裏話なんかも楽しく読めた。ノリ的には同人的な、商業性の薄い話だったんだね。そりゃ賛否あるだろうけど、そういう悪巧み的なノリは好きです。

  • 屍者と人間社会というIFが様々な形で楽しめる 藤井太洋「従卒トム」や、宮部みゆき「海神の裔」のような、屍者に対する人間の心の在り様を描出した物語が特に良かった 高野史緒「小ねずみと童貞と復活した女」は、しっかりと読ませる文章でありながら、ストーリーが大胆に次から次へと展開され読んでいて一番ドキドキした 宗教と屍者をテーマにした、仁木稔「神の御名は黙して唱えよ」も面白い 坂永雄一「ジャングルの物語、その他の物語」は、「屍者の帝国」のシェアード・ワールド作品にまさかあのキャラクター達が登場するとは思わなかった

  • ※暴力及び流血、性表現の含まれる作品です。

    【印象】
    復活する"存在しなかった19世紀末"コンピレーション。
    ある意味での"祭典感"を味わいたい人にお薦めします。
    最後の編が好みでした。

    【類別】
    小説。短編集。
    オカルト的ファンタジー、人物/事物引用あるいは"多次創作"、"共有世界"、歴史改変、少しSFでスチームパンク要素。
    史実虚構両方に取材し実在架空区別なく過去の人物組織その他を盛りこんでいます。

    【構成等】
    8編。

    【表現】
    地の文は一人称視点、三人称一元視点、三人称視点と様々。
    表現も様々であり、一部、方言を用いたものもあります。

    【備考】
    本書は下記作者による作品との内容関連がある編を含んでいます。
    ドストエフスキー、ダニエル・キイス、リドリー・スコット、中島敦、森鷗外、H・G・ウェルズ、他。

  • 贅沢であった。本を読んで贅沢と思うのは初めてではないか。

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