- Amazon.co.jp ・本 (629ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309414478
感想・レビュー・書評
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驚愕のラストに度肝抜かれた。賛否両論が出そうな話。
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長くてみっちりと文章が詰まっていて読むのが大変だった。
猫がかわいい。ネタ元の猫はここまで可愛くはなかった覚えがあるので、著者の力量だと思う。小理屈をこねくり回し、達観と矮小さの間でくるくると歩き回る猫。とても愛おしくなる。仲間の猫たちも個性的で、好きにならざるを得ない。
後半でファンタジーSF的な展開が入ってくるのは著者の作品によく見られる構成だけど、それが猫たちの冒険譚という世界観と妙に馴染んでいた。むしろこれこそが本当の猫的な世界観かもしれない、と思わせる。
魔都上海、という舞台設定もよかった。日本だとこういう冒険はリアリティがなさすぎちゃうよね。 -
作者の技量の確かさが分かる作品。
タイトルが示す通り『吾輩は猫である』のパスティーシュになっていて、上手いんだこれが。
本編の後日譚をミステリーというスタイルを利用して読ませる作品に仕立てている。皮肉の効き方も、思わず苦笑しちゃうくらいで程よいところ。「殺人事件」とはいうけど謎解きは、まぁどうでもいい扱いですね。 -
本歌取りの本歌を読む前にこっちを読み、それから本歌を読んだ。奥泉光版の方がわずかに冗長かも。わずかにいずれにしても文体の模倣がうまい…!ストーリーはなんでもありで、まあ、漱石文体でめちゃくちゃなストーリーを読むのが本作の醍醐味といったところか。
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解説の円城塔が細かな背景や出典、企みを気にしなくとも、楽しめると書いているが、やっぱり注釈が欲しい!どこからの出典なのか、どんな人物なのか…吾輩は猫である、夢十夜、坊ちゃんはなんとなくわかったけれども。満韓ところどころも入っていたのかしらん。ここまで文体模写ができてしまうなんて、どれだけ研究したのだろう。
吾輩はあの後助かってて欲しいなと妄想したクチなので、実は生きていたという設定が嬉しくてしょうがない。上海で出会った猫たちが強烈な個性の持ち主ばかりだけれど、猫の姿でいろいろ議論したり冒険したりしたのかと想像すると可愛くてニヤける。 -
麦酒に酔っぱらって水甕に落ち死んだはずの吾輩は、なぜか上海行きの船倉で目覚める。上海に上陸した吾輩は、なんとか上海の猫社会にも馴染み逞しく生きていたが、ある日、上海の日本租界・虹口(ホンキュウ)でみつけた古新聞で、かつての主人である苦沙弥先生が非業の死を遂げられたことを知る。猫仲間たちが事件に興味を示し、おのおの推理合戦を繰り広げることになるが…。
書き出しはもちろん本家と同じく「吾輩は猫である。名前はまだ無い。」漱石の文体そのままに、生きていた名無しの吾輩が、上海の猫仲間たちの手を借りて苦沙弥先生殺害事件の謎を追う。この猫仲間たちが個性的。一座のボスであるシャム猫「伯爵」、ドイツ軍人に飼われていた隻眼の黒猫「将軍」、ロシア領事館の白いチンチラ「マダム」、地元上海の情報通「虎」君、そしてイギリス猫のホームズとワトソン。最後の二匹の飼い主はもちろんあの人たちで、上海に逃げたモリアチー教授を追いかけて主人と共に来たという設定。宿的はもちろんバスカビルの狗(笑)
中盤は猫たちの推理合戦。本家『吾輩は猫である』の登場人物たちのうち、苦沙弥先生の家に頻繁に出入りしていた迷亭、寒月、東風、独仙、多々良、鈴木、甘木らお馴染みの登場人物たちが容疑者として名をあげられる。さらに水甕に落ちてから上海行きの船で目覚めるまでの記憶がすっかり抜け落ちている吾輩は、虎君に催眠術を使う雌猫のもとへ連れていかれて夢を見るくだりは「夢十夜」になっており、この夢が謎解きに重要な役割を果たすことになる。
やがて上海に上記7人やさらに山芋泥棒まで姿を現し、事件は苦沙弥先生殺害事件のみならず、それ以前に変死した苦沙弥先生の同窓生らの変死にまで関わり、変人だが善良だったはずの『吾輩は猫である』登場人物たちが次々と麻薬密輸だの動物兵器開発だの猫を使ったある実験だのの悪事を暴かれてゆき、さらなる死人も出ることに。最終的にミステリーどころかSF的な展開をみせ、驚愕怒涛のラストへ…。
読み始めてすぐ、これは本家『吾輩は猫である』を再読しておけばもっと楽しめたのに、と後悔したのですが、とりあえずそのまま読み進めることに。うろ覚えとはいえ、おそらく本家に書かれていることをそのまま伏線として利用し、破たんなくまとめてある手腕はさすが!と感動。もし今から漱石のほうを読んだら、この登場人物がのちのちあんな悪事を…とか、この言動の裏にはこんな事情が…とか、ありもしない深読みをしてしまいそう。
そもそも漱石の『坊ちゃん』『吾輩~』あたりについては、文豪ものの中では比較的とっつきやすいおかげで中学生くらいで読んでしまっていてすっかり読んだ気になっていたけれど、当時すじがきを追うだけの読みかたしかしておらず(まあ今もそうだけどさ)細部については当然もう覚えていない。個人的に漱石で繰り返し読んだのは『夢十夜』だけだ。今更だけど改めてちゃんと漱石を読みなおそうかなと思いました。
それにしても600頁越えの分厚い文庫で大変読みごたえはありましたが、ラストについては、だから面白い、という気持ちと、ミステリーとしてこれは反則では?(SFだし)という気持ちが半々。何冊か奥泉光を続けて読んで、なるほどこの作家ならこう書くだろうなという認識ができてきていたので、すんなり受容できたけれど、免疫なく初めて読むのがこの本だったら、ラストでちょっと怒っていたかもしれない(苦笑)
対談:柄谷行人×奥泉光/解説:円城塔 -
「猫」も含めて漱石の小説が随所に盛り込まれている。
原作のエピソードを利用した推理合戦は「解釈の仕方では確かにそうとも言える」論理が猫たちによって披露され、それがまた原作の人間たちの会話のようで面白かった。
「猫」読んだ直後だと、より一層楽しめるかなと思ったが、原作の登場人物たちが少し黒くなってるので、やはり直後は嫌かな。
「外国人から見た日本人」論は「Why Japanese people?」的で面白かった。 -
うわぁ、大変な本だったあ。
少なくともインフルエンザの病床で読む本じゃない。
珍野苦沙弥先生が殺害された。
現場には季節外れの百合の花。
そしてその日、ビールに酔って水瓶に落ちて死んだはずの吾輩はなぜか上海に接岸する「虞美人丸」に捕らわれている。
上海租界のフランス猫伯爵、イギリス猫のホームズ君とワトソン君、現地猫の虎君など、猫達が捜査に乗り出す。
記憶障害を患う吾輩の無意識を辿ると、夢十夜の話が、それぞれ混然一体となって甦ってくる。
モリアチー教授やラスプーチンが一枚噛んでいて、寒月君の一大発明と関わって...と、そういった筋立てに、夢十夜をはじめ、漱石の作品が絡んでくる、というか、剣呑な陰謀を読み解くカギになっている。
よくぞまあ、ここまで結びつけた!と感心してしまう。
一応、本作はミステリーということになるのだろうけど、なぜか最後はSF仕立て。
いやそもそも、文体模写にこだわったパロディとも言え、仕舞にはジャンル論がバカバカしくなる。
そういう、怪作だ。 -
以前新潮文庫版を読んでいたのですが、河出文庫版が出たというので購入。
さすがに全部再読するのは無理。全部読むと1カ月かかります。
よって、飛ばし読み。
色々と忘れていたこと、読み取れなかったことも多いと判明。
これはやはり全部再読する必要があるかも。
「犯人は、寒月と云う男だ」
「越智東風です」
「迷亭及び甘木医師である」
かの作品の登場人物は容疑者だらけだった!?太平の逸民どころか、裏の顔は凄かった!
迷亭のフルネームが判明したのがツボ。
上海における最後の幕で、苦沙弥先生に殺意を持つ人物は判明します。
しかし、彼が行おうとしていた目論見は色々な突発事件が発生したために失敗に終わった様子。
とすれば、歴史が変わって苦沙弥先生殺害は未遂に終わったのか?
主人公の名無し猫は再び苦沙弥先生宅に送り込まれます。
そこに現れた来訪客。
>>
「先生、私です」と表から潜めた声が聞こえる。
「何だ、君か」と主人は気安く云いながら鍵を抜いて戸を引き開ける。背後から覗いた吾輩はそこへ立った人物の顔を見る。
<<
これ、一体誰なんでしょうか。
読解力のない私には見当もつきません。
上海で苦沙弥先生殺害を企んでいた奴でしょうか。
この時点で既に苦沙弥先生に殺意があったということ?
色々検索しても、この来訪者について推測している記事を見つけることはできません。
結局、苦沙弥先生は助かったのかやはり殺害されたのか、殺害されたのなら犯人は誰?
他にも色々と解明されていない謎が沢山あると思いますが、皆さんどう解釈されたのでしょうか。
書くとしたらネタバレになるから自粛しているのか、それとも私のように見当がつかないからあえて触れていないのか。
リドル・ストーリー仕立てになっているので、人によって解釈が違い、従って犯人も違ってくるのかもしれません。
真犯人探し検討会、やらないんですか?
新潮文庫版と河出文庫版を比べると、表記が違います。
河出文庫版の方がより現代表記に近く、新潮文庫版は、漱石時代の表記に近い。
1ページ当たりの文字数は
新潮文庫版 41字 × 17行
河出文庫版 39字 × 18行
どちらも、600ページとちょっとのページ数となります。
活字の方は、河出文庫版は太く、新潮文庫版は繊細で、河出文庫版の方が黒っぽく見えます。
解説は、新潮文庫版は文芸・ミステリ評論家の長谷部史親氏。
河出文庫版の解説は
対談『吾輩は猫である』殺人事件をめぐって 柄谷行人 × 奥泉光
『『吾輩は猫である』殺人事件』文庫版自作解題
新装版へのあとがき
解説 円城塔
円城塔さんはファンも多い大作家。
私が感じた疑問を解決して下さるかと思ったのですが、そういった解説はなし。
作品内容にも踏み込まず、言葉の解釈と言葉遊びに終始して軽く書きすぎでは?
ネタバレを書くわけにはいかないというのは分かりますが、もう少し内容に踏み込んで頂きたかった。
私は円城塔氏の作品を読んだことないのですが、ウィキペディアの記述を読むと、まさにこの作品の解説を書くにふさわしい・或いは最適の人選かと思われます。
ところが期待外れに終わったように思えるのですが、どうでしょうか。
(生意気書いて御本人及びファンの皆様、すみません。)
一方、新潮文庫版の長谷部史親氏の解説は、古今東西の小説の続編についての蘊蓄から始まって面白く展開。
やはり評論家の方が解説を書き慣れているようです。
ところで、日本の推理小説で「三大奇書」という分類があります。
ウィキペディアにはそれに続く四つ目や五つ目の作品が挙げられています。
『吾輩は猫である』殺人事件 も、第五の奇書、或いは第八の奇書でもいいのですが、リストに加えられてしかるべき作品では?
奥泉光ファンの皆様、ミステリファンの皆様、どうですか?
OLDIES 三丁目のブログ
■[名作文学]『吾輩は猫である』殺人事件 (河出文庫版)
http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20161113/p1
■[名作文学]灰猫ホームズの推理競争 「吾輩は猫である」殺人事件
http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20150617/p1
少年少女・ネタバレ談話室(ネタばらし注意!)
『「吾輩は猫である」殺人事件』(奥泉光)ネタバレ検討会
http://sfclub.sblo.jp/article/142598831.html -
やっと読み終わった。エネルギーがいります。