旅芸人のいた風景: 遍歴・流浪・渡世 (河出文庫 お 15-2)

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  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (228ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309414720

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  • 差別と芸能の歴史。被差別民の予祝芸と香具師の大道芸のはなし。
    彼らが生きた場は、「周縁(マージナル)」というより「境界」じゃないかと思った。

  • かつての日本には被差別の対象となった様々な人びとが居た。物乞い、旅芸人、香具師…

    漂泊の旅芸人を通して、失われた古き善き文化と被差別の歴史を描いた貴重な著書である。本書では著者が暮らした大阪を中心とした漂泊の人びとの歴史を描くと共に、大道芸などの芸能の起源にも言及していく。

    かつては当たり前だった旅芸人などの漂泊の人びとの生活は、サンカの生活とも重なる部分もあり、非常に興味深いものだった。

  • 遊芸民の歴史

  • 230205011

    放浪の芸人たちや香具師、ハレとケ、仕切るものと仕切られるもの、表と裏、さまざまな想いが巡る。

  • ・沖浦和光「旅芸人のいた風景 遍歴・流浪・渡世」(河出文庫)は その書名の如く「旅芸人のいた風景」を描く書である。旅芸人だから遍歴し、流浪しながら渡世するのである。そんな風景の前に、私にはまづ、「幕末に編纂さ れた斎藤月岑の『東都歳事記』は(中略)正月行事をみると、私の子どもの頃とほぼそのままである。」(15頁)といふ一文が気になつた。大晦日の大掃除、 年越しそば、門松、注連縄張り、除夜の鐘、このあたりは今でもある。除夜の鐘「が終わると、待ち構えていたようにみな連れ立って、近くの寺や氏神様に詣でて若水を汲んできた。」(16頁)といふ。正月、初詣の若水汲みである。「二日から三日にかけて、家内安全を予祝する『万歳』『大黒舞』『春駒』などの門 付け芸人がやってきた。」(同前)これらは幕末には当然として、万歳は戦後でも来てゐたのだが、大黒舞や春駒はいつ頃まで来たのだらうか。筆者は1927 年、昭和2年生まれ、子どもの頃は大阪の西国街道筋と大阪南部の紀州街道筋に住んだ。いづれも「歴史に残る由緒ある街道で、遊行民や遊芸民、そして旅に生きる渡世人がよく通る道だった。」(10頁)といふ。筆者は戦前の大阪下町の「旅芸人のいた風景」を、知識ではなく体験として知つてゐる人なのであつた。 本書中でもそんな記憶が述べられたりするが、私にはそれはほとんど夢のやうな物語であつた。それは「東都歳事記」とほとんど変はらない風景であつたらしい。戦前にはまだそれほど旅芸人がゐたのである。
    ・そんな中の一つが旅芝居である。本書では播州歌舞伎が採り上げられてゐる。愛知県も芝居が盛んだつた。そこらのお宮にも舞台が残つてゐる。現在も使はれてゐる舞台も多い。そんなところは素人芝居である。ところが、買ひ芝居だつたといふ話もよくきく。地元の人間は舞台に立たずに他所から一座を呼ぶのであ る。それがどんな情景であつたのか。買つた方はさぞ楽しい思ひをしたであらうと想像できる。その具体的な情景がここにある。播州歌舞伎はその買はれていく一座であつた。その昔はいくつもの座があつたらしい。そんな芝居の「昭和初期の情景」(107頁)が出てくる。「地元の興行師が勧進元となって……観覧料をとった。」(同前)とある。これは知らなかつた。どこでもさうなのであらうか。私は買ひ芝居と聞いたら、金をとつて見せるものだとは考へなかつた。単純に村で共同で(おまつりの余興に)芝居を買つて皆で楽しむ、さういふものだと思つてゐた。少なくとも播州ではさうではなかつたらしい。現在の地芝居興行とは違つてゐたらしい。役者もセミプロ、それで生活してゐたからには、芝居を買ふためにはそれなりの金額が必要になる。それを観客に転嫁して商売にすることがあつても不思議ではない。それゆゑにこそかもしれない、「芝居の一行がやってくることが知れ渡ると……村中がなんとなく浮き浮きした。」(108頁)と いふ。その日は一座の村回りもあり、触れ太鼓も聞こえる。娯楽の少ない時代である。めつたにないハレの日である。浮き浮きしてくるのも当然であらう。実はこの気分が本書には色濃く出てくる。第四章は「香具師は縁日の花形だった」(111頁)と題されてゐる。ここで筆者の子供の頃の、縁日の浮き浮きした情景 が語られる。昭和に入ると本来の旅芸人は少なくなるが、「威勢のよい口上で客を寄せている『口上商人』」(116頁)が人気だつたらしい。こんな情景も私は知らない。個人的にはそんな情景ばかりの書であつたらと思ふ。しかしさうではない。より広範な内容の書である。それでこそ旅芸人の実態が知れるといふことであらうが……。

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著者プロフィール

沖浦 和光(おきうら・かずてる): 1927−2015年。大阪府生まれ。東京大学文学部卒業。桃山学院大学名誉教授。民俗学、比較文化論、社会思想史専攻。被差別民と被差別部落の研究をおこなった。国内外の辺境、都市、島嶼を歩き、日本文化の深層をさぐる研究をつづけた。主な著書に、『宣教師ザビエルと被差別民』 (筑摩選書)、『幻の漂泊民・サンカ』 (文春文庫)、『天皇と賤民の国』 (河出文庫)がある。

「2023年 『「悪所」の民俗誌』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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