悲の器 (河出文庫 た 13-16)

著者 :
  • 河出書房新社
3.55
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本棚登録 : 145
感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (549ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309414805

作品紹介・あらすじ

第一回文藝賞受賞、早逝した天才作家デビュー作。妻が神経を病む中、家政婦と関係を持った法学部教授・正木。妻の死後知人の娘と婚約し、家政婦から婚約不履行で告訴された彼の孤立と破滅に迫る。亀山郁夫氏絶賛!

感想・レビュー・書評

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  • 病気の妻をもつ法学者・正木典膳は家政婦と関係をもつ。妻の死後、知人の令嬢と婚約するが、家政婦から婚約不履行で訴えられる。孤高の一法学者の転落の軌跡を描いた高橋和巳のデビュー作(第一回文藝賞受賞作)。

    読み終え嫌悪感しか抱けない孤高の学者・正木典膳の姿。何がうんざりかというとひたすらの自己弁護と憐憫、淫蕩とエゴ、弱さと傲慢の数々に辟易した。
    彼の振る舞いに大学教員のくだらなさを見出すこともできる。女性を役割か性欲の対象にしかみれない固定観念に女性蔑視と、保身と出世のため自らの立場を逡巡なく変える我執にインテリの脆さをみることも可能だろう。
    表面のストーリーラインだけを追えばそれのみの小説である。
    だが、最後の一文を読み終えたとき、勝手な解釈だが彼は神になろうとしたのか、と思う。主人子の傲岸不遜と愛欲とエゴ、その裏返しとしての憐れみ、寛大、人を裁く力は人間が人間以上のものになろうしたそのあがきと、そこへ辿り付けない絶望の叫びと悲しみであるように思う。超越的なもの。絶対者。有限性のなかでしか生きれぬ人間がその存在に憬れ嫉妬し手を伸ばそうとするが成れない。そのことが充分に分かっていながら、それでももがき悩み苦しみながら近づこうとする。
    届かぬゆえに、人は悲しい、と。

    全く魅力を感じない主人公の軌跡を、しかし最後まで読めたのは高橋和巳の文章だから。デビュー作とはいえ、詩情をたっぷり含んだ風景描写や抒情性に富んだ文章は美しい。文体の美しさなど主観だが、高橋和巳が紡いだ言葉と和歌のような情感にずっと浸っていたいと思い続け、結局読み終えてしまった。

    • nejidonさん
      はじめまして♪
      拙本棚をフォローしてくださり、ありがとうございます。
      どの本にしようかと悩みましたが、懐かしいこの本にコメントすることに...
      はじめまして♪
      拙本棚をフォローしてくださり、ありがとうございます。
      どの本にしようかと悩みましたが、懐かしいこの本にコメントすることにしました。
      言われる通り「しょーもない話や!」と思いながら読んだ記憶があります(笑)
      奥様の方は好きだったのですけどね。

      こちらからもリフォローさせていただきます。
      どうぞよろしく。
      2017/11/12
    • ノブさん
      >nejidonさん
      はじめまして。
      フォローしていただきありがとうございました。どうぞよろしくです。
      高橋和巳の小説は、正木のような...
      >nejidonさん
      はじめまして。
      フォローしていただきありがとうございました。どうぞよろしくです。
      高橋和巳の小説は、正木のようなろくでもない男がよく出てきますし、描写が巧いです。正木の奥さんは悲しかったです。研究に没頭する正木の部屋に来て、何も言わず後背を眺めてため息をもらす奥さんの姿が切なかったです。
      2017/11/12
  • 今まで読んだあらゆるものの中で1番厭でした。ぶっちぎりで最悪の本。

    知識の優越を誇りたがるだけの、出世と保身しか考えてないジジイが、この世に存在するあらゆるハラスメントをする様を読まされるだけの小説です。

    クソダサい誘い文句で逆らえない年増の家政婦と肉体関係になり、関係を清算することなく若い女と婚約したところ、その不倫相手の家政婦に慰謝料を請求される訴訟を起こされますが、自分は何も法は侵していないと、逆に相手を名誉毀損で訴えて転落の道へ…と背表紙の紹介文にもありますが、全てがただの自業自得でしかなく、何を読まされているのか分かりませんでした。

    また女性の登場人物への記述が特に酷く、婚期を逃した、栄養状態が悪い、化粧が下手、女には食膳の運び方にしか個性はない、挙げ句の果てには生理の時の酸えた臭いがすると、会ったばかりの相手に、この爺さんめちゃくちゃ気持ち悪いです…

    あと、この主人公には末期癌の奥さんがいるのですが、頑なに病院へは入院させないで自宅療養させるんです。それはどうしてかというと、自分が奥さんの身体で性行為したいから。でも奥さんの事は好きでも何でもないんです…奥さんの手首のためらい傷を見て汚いというし、口から癌のくさい臭いがするとか平然と言います…

    そして巻末の解説によると、こういう女性観は誰かモデルが存在するのではなく、作者本人のものらしいのです…梅原猛と小松左京によるとこの高橋和巳という作者は、お金を払った売春婦にしか相手にされないガチの非モテだったらしく、おそらく非モテを拗らせて今風に言うとミソジニーを抱くようになったのでしょう。男である自分のファンタジーを実現してくれないお前ら女は悪い、と。昔の男尊女卑がどうとかの文脈ではなく、マジで気持ち悪い小説と作者でした。

    加えてこの作者の特徴なのですが、作中で哲学や思想から引用をするのですが自分に都合の良い部分を自分の都合の良いように解釈して、浅い理解とオリジナルの理論でドヤってきます。読んでいて恥ずかしいです。

    また風景や心情の描写はめっちゃヘタクソです。この本の主人公は芸術の類いは全く理解出来ないという設定で予防線を張っていますが、例えば香水の匂いも食べ物の匂いも鼻で感じるものは全て"香料"と表現されています…

    …しかしそれがどんな香りなのか、それこそを文章表現するのが、謂わば文学なのではないでしょうか?

    あと戦後日本の歴史をパノラマに〜とアオリにありますが、歴史的な事件や事柄にはほぼ触れられていません。そもそも時系列がとても分かりにくい書き方でした。


    パワハラセクハラする老害を俯瞰的に描いた小説ではなく、自分がパワハラセクハラクソジジイだと解ってない老害が書いた小説、です。


    嫁ぎ先で上手くいっていない主人公の娘が出産のために帰省しているのですが、その娘が誰も私になんて構ってくれない、お父さんだって孫なんて欲しくないでしょ?と涙声で言うんです。

    それに対する主人公の返事が、


    そんなことはいいから、新聞を取ってきてくれ

    ……


    焚書すべき本。

  • 現代的な観点から見るとインテリゲス野郎な正木教授の転落記…。であるが単純な肉欲スキャンダルな話ではない寂寥感が話を覆っている。
    読んでいて末弟との会話に圧倒されたが後半に挿入された夫人の手記を読んでみて、胸が締め付けられるような孤独感と絶望感に襲われた。
    解説にもあるが作者が若い頃に書かれたらしいがとてもそうは思えない程老成されている。

    • botannesanさん
      私も手記が印象的です。
      子供を産んだのが最大の罪と言う件り・・。
      実話を基にして書かれたらしいですよね。
      三島由紀夫みたいにプライバシー侵害...
      私も手記が印象的です。
      子供を産んだのが最大の罪と言う件り・・。
      実話を基にして書かれたらしいですよね。
      三島由紀夫みたいにプライバシー侵害で提訴されてないんですね。
      2018/08/03
  •  
    ── 高橋 和巳《悲の器 1962‥‥ 20160906 河出文庫》
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/430941480X
     
     
    (20231128)

  • 名作かどうかはしらないけど、やっぱり進まんものは進まんわ。法律学に関する時代的な移り変わりとか、そんなものを読みたくて小説読んでる訳ではない。どうしても取り入れたい内容なら、もっと血湧き肉躍るものにしてくれないと。ドロップアウト上等!

  • 高橋和巳、かっこよすぎる文体。

  • 本作を読み終わってまず思ったのは、はたして正木典膳は「特別」な人間なのだろうかということだ。正木は本作の主人公で、かつて最高検察庁の検事を務め、現在は大学法学部の教授として何不自由ない生活を送っていたが、私生活での婚約をめぐるトラブルから告訴され、以後歯車が狂い出してゆく。こう聞くとよくある筋書のようだが、巻末エッセイによればじっさい本作にはモデルがいるようで、そこまで特別な世界を描いたわけではないということになる。くわえて、正木は女性をはじめ他者に対する蔑視を隠すこともない。当時の価値観でいえばムリもないことのように思うが、そもそもこういった思想は、正木に固有のものなのだろうか。同時代のエリートのあいだにある程度共有された感覚なのではないだろうか。大学教授と学生が完全に対等な立場で向かい合うことはありえないし、本作には学生運動に執心する学生が登場するが、逆に学生の立場からみると、大学教授はその地位に恋恋としているだけの、意識が低い人間と映るだろう。このように他者を見下すという感覚もまた、誰にでもある普遍的なものなのである。智的エリートでありながら普通、そういう矛盾した世界を本作は描いているのである。また、本作には『はだしのゲン』の鮫島伝次郎のように、戦後その思想を極端に転換した人人も登場する。思わず眉を顰めたくなってしまうが、しかしこれもまた「特別」なんかではない。たとえば現在のコロナウイルス禍では、あれほど大切にされていた多様性という概念はどこかに押しやられ、各国が「鎖国」に踏み切り、自粛要請に従わないような「異分子」を排除する動きが世界中に広まっている。世界もまた、変わり身が速いのだ。そもそも検事という「正義」であり、教育者という「模範」たるべき正木がこのようなスキャンダルを起こすことじたい、おおいに矛盾している。本作はこういった矛盾に満ちた世界に対する痛烈な諷刺であるとともに、そんな世界のリアルを描いた「実録」でもある。正木はわたしでありあなたでもあり、またそれと同時に社会でもある。そして、正木以外の人物もまた、わたしでありあなたであり社会なのである。

  • 非常に難解な文章ながら、挑戦する価値有

    所蔵情報
    https://keiai-media.opac.jp/opac/Holding_list/search?rgtn=B17440

  • 構想力がすごい。

  • 一行一行読むごとに著者の懊悩が私に蔦のように絡まって容易に読み進められない。正木法学部教授の栄光と自己矛盾からの墜落を追体験して感じたのは人生の虚無である。老教授の心境が冷たく論理的ではなるが荘厳な文章の大波となって襲い掛かってくるようだった

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