JR上野駅公園口 (河出文庫)

著者 :
  • 河出書房新社
3.14
  • (83)
  • (232)
  • (331)
  • (139)
  • (68)
本棚登録 : 3726
感想 : 377
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (184ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309415086

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 全米図書賞受賞作。しかし、何の気なしに手にする本ではなかった。

    上野公園でホームレスをしている昭和8年生まれの72歳の男性。
    彼の人生の記憶が波のように押しては返す。

    上野の雑踏で 目に入る(見るではなく)もの、耳にする(聞くではなく)音が、蓋をしたはずの彼の記憶を否応なく刺激する。

    彼は後悔の海を漂い、他の感情をほぼ失っているのだが、こう述懐する。
    「自分は悪いことはしていない。他人様に後ろ指を差されるようなことはしていない。
    ただ、慣れることができなかったのだ。人生にだけは慣れることができなかった。人生の苦しみにも、悲しみにも・・・喜びにも・・・」

    これに私は衝撃を受けた。この人は私なのかもしれないと感じた。

    作者はあとがきで、ホームレスと、震災で家を失った人たちの痛苦が相対したと書いている。

  • 福島出身の男は、東京オリンピックの前年に出稼ぎのために上野駅に降り立つ。
    この頃は、出稼ぎに出ることは普通であったのかもしれない。
    男は、盆正月以外家に帰ることなく仕事をし続ける。
    21歳だった長男を亡くし、そして父、母…と。
    家に戻り年金で夫婦で暮らしていたが、妻をも亡くし、ふたたび足を向けたところは上野だった。
    上野でホームレスとなる。

    何故に上野に…なのか?
    生き続けるのも辛いのか…?
    なんとも息苦しい、暗い、と感じてしまう。

  • 久々に柳美里さんの小説を読んだ。
    全米図書賞ということで、話題になった本。

    同じ日に生まれた二人。
    一方は公園に招かれ、一方は公園から排除される。
    柳さんが「山狩り」を見たことがこの小説執筆のきっかけになったと言う。

    「見えない人」であるホームレス。
    でも、人生はあった。人より運がなかっただけだ。
    読んでいて、ただただ悲しくなった。

    (2021.2.5追記)
    凪紗さんのレビュー読んで、全面的に「そのとおりだ!」と思いました。

    全米はこの小説の何を評価したのか?気になるところ。

    あと、主人公が自死したのか否か?
    はっきりとは書かれていないと思いました。
    そう決めつけて読む方がストンとは落ちますが…

  • 2020年の全米図書賞(翻訳文学部門)を受賞したということで読んでみた。

    内容は、上野公園に住むホームレスの男性を主人公にした、孤独と死を主題にした小説。
    主人公の男性は、1963年福島県南相馬郡から東京に出稼ぎにきた。人生のほとんどを東京で過ごし、妻や子供に会えるのは盆と正月のみ。そんな彼の人生に無常にも次々と訪れる愛する者の死。
    そんな彼は自らの人生の意味をひたすら考える。
    そして彼が至った結論とは・・・。

    非常に考えさせられる小説だった。
    小説全般に流れる主人公の感じている疎外感を読者も同じように感じることができる。

    この本がどのようにアメリカで受け入れられたのだろう。
    翻訳文を読んでいないのでここに書かれているニュアンスがどの程度英語の言葉で表現されているのか分からないが、こんど英文で読んでみよう。

  • 柳美里『JR上野駅公園口』河出文庫。

    全米図書賞・翻訳文学部門受賞作。

    いつか故郷へ帰ることに微かな希望を持ちながら東京の玄関口と言える上野に留まる人びと……ホームレス……家族と帰る場所を失った男の物語。読んでいると、様々なことが頭の中を過る。

    欺瞞と矛盾に満ちたこの国は、天皇や皇族に国の暗部を、本当の姿を見せようとしない。上野公園に住まうホームレスは天皇や皇族が傍らを通り過ぎる際に移動を余儀無くされる。一体何時の時代の考え方なのだろう。そのくせ政治家は平気で悪を働きながら、悪政を続けながらもその地位に居座り続ける。

    息子を東京で失い、失意の中、妻をも失い……次いで福島県南相馬市の故郷も、何もかも全てを失い、ただひたすらさ迷う男……人間は決して平等ではないし、いくら努力しても叶う希望など無いのかも知れない。それに気付かずにあがき苦しむ不幸。

    本体価格600円
    ★★★★

  • 柳美里さん「夜ノ森駅」執筆構想 全米図書賞受賞作の対なす物語:福島民友ニュース:福島民友新聞社 みんゆうNet
    https://www.minyu-net.com/news/news/FM20201224-570470.php

    全米図書賞の翻訳部門を受賞した柳美里『JR上野駅公園口』の功労者は誰か | HON.jp News Blog
    https://hon.jp/news/1.0/0/30120

    柳美里さん「居場所ない人のために」 全米図書賞で会見:朝日新聞デジタル
    https://www.asahi.com/articles/ASNCM4RHSNCMUCVL012.html

    「東京の“真の姿”を知りたいなら、この10冊を読みなさい」 | クーリエ・ジャポン
    https://courrier.jp/news/archives/205096/?ate_cookie=1594768607

    JR上野駅公園口 :柳 美里|河出書房新社
    http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309415086/

  • 2020全米図書賞(翻訳部門)受賞作品。

    物語というより散文詩のようで、語句ひとつひとつの美しさは感じるものの、全体を通してとても抽象的です。
    意味があるのか分からない擬音と会話、過剰に多用される改行と「……」。

    天皇制の怖ろしさや震災後の東北出身者の生活、ホームレスの実態を丁寧に描いたとのことですが、何しろ作品が抽象的なので…あまり理解できませんでした。

    ひとつ感じたのは、人は人を見て「女性」「若者」「子供」などその人が何に属するのか判断しますが
    ホームレスの場合「ホームレス」でしかなく、男女も関係はなく、しかもまるでそのホームレスが見えていないかのように擦れ違います。

    ホームレスが生きていようがいまいが、突然消えようとも、誰にも分からない。
    死がいつも身近に存在しているようで、私には得体の知れない不安を感じる作品でした。

  • ことわざアップデート大賞2020は
    「長い物には巻かれろ」
       ↓
    「全米が泣いたら泣いとけ」
    でした。うまいなあ。

    というわけで2020年全米図書賞受賞
    「TIMEが選ぶ今年の100冊」の
    『JR上野駅公園口』を読みました。
    柳美里さんの小説は初めて。

    暗いです。
    平成天皇と同い年の男が、貧乏だし、出稼ぎばかりで
    家族と関わることが少なく、また大事な家族が次々亡くなり、最後は震災。
    しかも福島なんだけど、元は富山から来たよそ者。

    上野というところには美術館がたくさんあって
    東京文化会館ではバレエも見れるのに
    そういうこととは無縁の主人公。

    小説の中の「身内の死」では、今までの中でトップ5に入る位悲しかったけど、アメリカでの賞はそういうことではないですよね?
    アメリカ人の感想が知りたい。

    それと、いくつかのレビューに「主人公が自死」とあったけど、私にはわかりませんでした。
    文化人の皆さんの書評が読みたい。

  • 「諦念」という言葉が先ず浮かんだ。読んでいて愉しい類いの作品ではないが、貴重な読書体験になった。感謝。

  • 上野公園に住む福島出身のホームレスが自身の生涯を振り返る形で、ホームレスの生活や、世の中の理不尽さを、描いた小説。しかも最後のシーンは、彼に優しくしてくれた孫娘が、東日本大震災の津波にのまれるという、ホントに救いのない話で、前向きになれる要素がなく、ずんと重い、モヤモヤした読後感が残った。

    著者は実際に、上野公園のホームレスの人たちにインタビューしたそうで、その暮らしぶりなどはかなりリアルなんだと思う。
    どんなにがんばっても貧困から抜け出せない人、景気の変わり目でうまく適応できずにホームレスになった人、そして、主人公のように、息子を早くに亡くし、何十年にもわたる出稼ぎを終えて家に戻って間もなく妻にも先立たれ、やるせなさから抜け出せず、人生の意味を見出だせなくなってしまった人など、その過去を知ると、誰でも何かの拍子にホームレスになる可能性はあるのだと思えてくる。
    それでも、皇室の方が上野の博物館美術館にお出ましになれば、"山狩り"が行われ、立ち退きの指示に従順に従い、居場所を失なっていくホームレスがいる一方で、おそらく皇室の方々は、自分達が出かけることで、そうやってさらに隅に追いやられる人たちがいることをご存じないだろう。

全377件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

柳美里(ゆう・みり) 小説家・劇作家。1968年、神奈川県出身。高校中退後、劇団「東京キッドブラザース」に入団。女優、演出助手を経て、1987年、演劇ユニット「青春五月党」を結成。1993年、『魚の祭』で、第37回岸田國士戯曲賞を受賞。1994年、初の小説作品「石に泳ぐ魚」を「新潮」に発表。1996年、『フルハウス』で、第18回野間文芸新人賞、第24回泉鏡花文学賞を受賞。1997年、「家族シネマ」で、第116回芥川賞を受賞。著書多数。2015年から福島県南相馬市に居住。2018年4月、南相馬市小高区の自宅で本屋「フルハウス」をオープン。同年9月には、自宅敷地内の「La MaMa ODAKA」で「青春五月党」の復活公演を実施。

「2020年 『南相馬メドレー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

柳美里の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
真藤 順丈
平野 啓一郎
恩田 陸
川越 宗一
塩田 武士
西 加奈子
ヴィクトール・E...
呉 勝浩
村田 沙耶香
中村 文則
原田 マハ
辻村深月
柚木 麻子
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×