蟇屋敷の殺人 (河出文庫 こ 21-1)

著者 :
  • 河出書房新社
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309415338

感想・レビュー・書評

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  • 甲賀三郎は乱歩と同年代の推理作家。河出文庫は最近このあたりの古き良き探偵小説の復刊に力を入れてくれて嬉しい。もともと私は別にミステリーが好きなわけではないので最近の作家さんのはほぼ読んでおらず、単純に乱歩や十蘭の時代の空気感、レトロなようで近代的でもあり、猥雑でどこか頽廃的でもあり・・・というのが好きなだけなのですが。

    さてこの『蟇屋敷の殺人』は雑誌連載されたのが昭和13年。電話をかけるのにいちいち交換手が出たり、東京から大阪に行くのに当然新幹線がまだなかったり、ちょっとしたところに時代を感じさせられるものの、それ以外の謎解きの部分は現代に置き換えても全く遜色ない内容。謎解きの過程における種明かしの手順みたいなものが上手いのかな。意外な展開も自然に受け入れられるし続きが気になってぐいぐい読めました。

    路駐の車の運転席に座らされた死体、しかもよく見ると首はバッサリ切断されている。持ち物等から被害者は蟇屋敷と呼ばれる熊丸家の当主・熊丸猛と思われたが、当の熊丸がぴんぴんして生きており、警察に怒鳴り込んでくる。ではこの死体は誰!?という導入部でまず掴みはオッケー。死体の正体もわからないうちに蟇屋敷では不気味な怪人物が徘徊、さらに第二の殺人が起こり・・・。

    探偵役を務めるのは、探偵小説家の村橋信太郎32才。事件当夜に混線したのか怪しい電話を聞いてしまい、事件に係ることになる。しかしこの村橋くん、作家になる前に女学校で臨時の教師をしていたことがあり、当時の教え子で密かに恋心を抱いていた薄幸そうな美少女あい子が蟇屋敷で熊丸の秘書として働いているのにバッタリ再会したとたん、あい子ラブ!彼女の事情はよくわからないけどとりあえず、あい子に首ったけ!みたいな状態になってしまい、二言目にはあい子あい子とうるさいので、ちょっとウザい(笑)

    まあ探偵役としてそれなりの役割もそこそこ果たすものの、実はこの小説のすごいところ(?)は、主人公の探偵よりも刑事さんたちが優秀なこと。乱歩の明智ものなどでも定番の、まぬけな警部が間違った推理をして、それを探偵が正す・・・という定番の展開はなく、刑事さんたちは探偵以上に足をつかい、頭を働かせ、せっせと証拠を集めて事件解決に貢献する。えらい。事件解決よりあい子ラブな探偵と比べたら刑事さんたちのほうがよっぽどカッコイイ(笑)これ探偵小説では珍しいパターンな気がします。

  • 読んだ本はこれでなく、図書館で借りたもの。
    底本『甲賀三郎全集』昭和22年6月〜23年9月
    湊書房。

    底本を拡大して収めた本だったので、印刷が悪いし旧漢字やしで中々苦戦をしいられそうでしたが、面白くてサクサク読めました。旧漢字よりも印刷悪いのに苦戦した。
    車の中で頭を切り落とされて死んでいた蝦蟇屋敷の実業家。でも実は本人は生きていて、被害者は誰なのか!?と始まるミステリー。
    こういうミステリーが大好きです。

    他にも情況証拠と月魔将軍も収録されていました。

  • 車中の首なし死体、不気味な蟇屋敷、ドッペルゲンガー、謎の美女…
    甲賀三郎とは思えないB級ガジェットてんこ盛りの通俗スリラーで、面白かった。
    主人公が肩入れする女が頑に口を閉ざしていたり、主人公も一人で突っ走って結局ピンチに陥ったりするところもこの当時の探偵小説のお約束か。
    著者の代表作とか傑作とかにはほど遠いと思うが、楽しい作品だった。

  • もっとガチガチなのかと思っていたら、なかなかいい感じに盛り上げてくれるじゃないか。ミステリとしてはスマートではないにしても、アイデアもおもしろい。

  • このタイトルだけでぐぐっと引き付けられてしまいました(笑)。蟇屋敷、連続殺人、跳梁跋扈する怪人、と魅力的なガジェットてんこ盛り。ミステリとしての読みごたえとトリックも……いや、これって現代のミステリでやっちゃうとダメなような気がしないではないのですが(この真相にはちょっとぽかーんとしてしまった)。いいよねこの時代だと。おそらく当時は衝撃的だったのでは。
    何といってもストーリーのハラハラドキドキ感が止まりません。主人公や警部がまさかあんな目に遭うだなんて! とか。いったい何を隠してるんだ! とか(そしてそんな風に言われれば言われるほど気になって事件から手を引くなんてできないと思います)。時代の古さも気にならないくらいぐぐっと引き込まれました。

  • 蟇尽くしの奇怪な屋敷を中心とした連続首裂き事件。戦前の作品にして破格の読みやすさ。無数の蟇、徘徊するのっぺらぼう、各所で目撃される同じ顔の人物と盛りに盛られた奇想が昭和の闇に溶け込み独特の雰囲気を醸します。今でこそ定型な真相も、80年前に書かれたことを考えるとむしろ先取りしていたと言えましょう。とはいえ複雑な状況を解せば予想されるネタにもうひと捻りあるのに気付け、そこから綺麗に正答に持っていけるつくりは感心です。ただし主人公、テメーはダメだ。

  • 2017/05/26読了

  • 「蟇屋敷」と銘打ってあるので、最近のミステリファンだと「おっ館モノの系統か?」と思うかもしれませんが、そういう方向性の作品じゃございませぬ。
    丸の内のビル街に駐車されっぱなしの車。それを不審に思った警官が中をあらためてみると首を切られた死体が!……という冒頭から始まり、三年前のお屋敷の火事から人が変わったように引き籠もる蟇屋敷の主人、何か謎を抱えた秘書あい子、主人公を付け狙う謎の女性、そして探偵役は探偵作家村橋と萱場警部のW主演。早すぎる埋葬もあるよ! ……なんとまぁ盛り沢山ですね。

    基本、刑事達があちこち移動しながら情報をかき集めてきて事件の輪郭が見えてくる系統のお話しなので、ものすごい大トリックが!みたいな作品ではありませんが、あの時代の探偵活劇モノとして堪能いたしました。

  • 甲賀三郎の代表作が文庫化。巻末の解説によると本書の文庫化は始めてのことになるようだ。
    お約束を踏襲した『古き良き探偵小説』そのものの本書は、『KAWADEノスタルジック 探偵・怪奇・幻想シリーズ』と題された叢書に収録されるに相応しい。

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著者プロフィール

1893年、滋賀県生まれ。本名・春田能為。1918年、東京帝大工学部化学科を卒業後、農商務省臨時窒素研究所技手となる。23年に雑誌『新趣味』の懸賞応募作「真珠塔の秘密」でデビューを果たし、以降、「琥珀のパイプ」(24)や「ニッケルの文鎮」(26)など理化学トリックを使った作品を数多く発表する。28年に窒素研究所技師を退任して専業作家となり、様々な分野へ創作活動の幅を広げていき、32年に新潮社の「新作探偵小説全集」へ書下ろした長編『姿なき怪盗』は代表作となった。33年から35年まで文藝家協会理事を、42年から44年にかけて日本文学報国会事務局総務部長を務める。44年10月から日本少国民文化協会事務局長に就任。1945年、公務で訪れた九州からの帰都途中、急性肺炎のため岡山県内の病院で死去。

「2020年 『甲賀三郎探偵小説選 Ⅳ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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