消滅世界 (河出文庫)

著者 :
  • 河出書房新社
3.48
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本棚登録 : 1099
レビュー : 117
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309416212

作品紹介・あらすじ

「セックス」も「家族」も、世界から消える……日本の未来を予言と話題騒然! 芥川賞作家の集大成ともいうべき圧倒的衝撃作。

感想・レビュー・書評

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  • 夫婦とは家族で、家族がセックスをすることは近親相姦で、じゃあ夫婦は、近親相姦ではないのか。
    不倫は気持ちが悪いと言うけれど、家族以外と性行為を行うという点においては、とても健全ではないか。
    そんな風に思えなくもない。いつからこんなに不倫をバッシングするようになった?結婚したらパートナー以外との性行為をはじめとする異性交流が禁止、あるいは制限されるということは、逆に社会性のある人間を苦しめるのではないか。

    こんなにもセックスを不潔としなくても、と思いはしたけれど、ある意味で、とてもいい「家族」の形なのかもしれない、と同時に思えてくる作品。
    (子どもについて語る時の主人公夫婦はなんだかとても気味悪かったけれど。)
    自立した人間が増えてくると、こういう世界、価値観が当然になってくるのはおかしくないかもしれない。
    ほとんど人工授精、というのはあくまで物語であって、現実にはぶっ飛んでいるけれど、でも、子どもがほしくないなら信頼できる人とルームシェアをして、一生結婚しないことや家族を持たないこと、というのは有り得るし、夫婦にそれぞれ恋人がいて、それを許容する形っていうのも、自立した人間が、安心できる場として家族を捉えているとしたら、いい形なんじゃないかな、とかね。

    そうなるといよいよルームシェアと結婚、ここでいう家族との違いがなんなのかよく分からなくなってくる。結婚はただの子どものための契約、なのか。
    主人公も混乱して、それでも家族であると言い聞かせる。でないと、自分の存在を保てないから。
    だからこそまだ見ぬ子どもという存在への期待がどんどん高まっていく。子どもはそんなに万能か?しかしこの世界で「家族であること」を証明するのは子どもの存在だ。

    でも。必ずしも出産に至らないかもしれない命だってあるし、出産に至っても、継続困難な命だってある。たとえどんなに健康でも、「寂しい」その感情を知らない子どもが大人になるということ。それは人間から大切なものを奪うことと同じこと。傷つくことも、傷つけることも感じなくなる、そんな世界。それは間違いなく、ディストピアだ。

    世界が、ここまでに陥ることはないかもしれない。
    ただ、読み終えてリアルだったのはやはり、家族というものの捉え方かもしれない。家族は性的な繋がりを持たないけれど、夫婦は持っている。でも、夫婦も家族だ。現在主流となっている恋愛結婚が、「異常」な時代が来るんだろうか。家族をつくるとは、家族になるとは、なんだ。

  • "夫の頭を撫でていると、首筋にはキスマークと小さな噛み跡がついていた。恋人と会ったあとなのだろう。私は微笑ましくそれを見つめた。"

    いきなりぶっ飛んだ引用から始まってすみません。
    ん、あれ、夫の首筋にキスマーク見つけちゃったら、微笑ましく見つめたらいいんだっけ…?一瞬わけがわからなくなったが、そう、この世界では不倫などない。
    だって夫は「家族」で恋愛対象ではない、むしろ配偶者を恋愛対象とみるのは汚らわしいことだから。
    子供をもうけるためには人工授精をする。人間は交尾する必要がなくなり、さらに高等な生き物になったのだから。

    夫から彼女との恋愛相談を受けて慰めているうちに、夫はポツンとこんなこと言うのだ。
    「君はやっぱり、世界でただ一人の僕の家族だ。君にだけは絶対に恋をしないでいられるんだから。」

    んんん???超絶ディスってるの?いや、めっちゃ褒めてるのか??(混乱)

    「家族」とは、「結婚」とは。
    そう、今では当たり前と思う価値観だって普遍的なものではない。国や地域や民族や宗教観によって違っていて当然で、それもどんどん時代とともに変わっていく。
    日本だって平安時代は相手の顔も見ずに恋をし、夜這いして通い婚していたわけだし、つい最近までは家制度があったし、今も昔も一夫多妻制をとる国や民族はあるわけで。娘をレイプした相手と結婚させようとする地域があったり、多数の人たちが家族のように壁もない家で暮らす民族があったり、同姓同士での結婚を認める国があったり。

    じゃあ合理的で確実な人工授精があるのだから、家族となった配偶者とはセックスはしない、むしろセックスなど汚らわしいしする必要もない、さらにはヒト相手の恋愛など必要がない、、、そんな世界が絶対こないなんて保証はある?

    あれー、別にあり…得る…の…か…??(また混乱)

    しかし、村田さんの恐ろしいところは、これくらいの混乱では済ませてくれないところ。

    後半は、千葉の実験都市・エデンに移り住む。そこにはもはや、旧態依然とした「家族」はなく、市民がひとつの家族として生活する。市民には繁殖に協力する義務があり、抽選で選ばれた男女(※男性も人工子宮で子供を産む実験が進められている)が人工授精で同時に妊娠し、出産する。
    子供はセンターに集められて育てられるから、生まれたその時から「私の子供」の概念はない。大人はみんながお母さん、そして生まれてきた子供皆が愛されるべき子供ちゃんなのだ。

    なんという近未来。でもこれすらも絶対あり得ないっていえる…?
    何が正常で何が異常なのかわからなくなる。現に、「愛した夫との交尾」で主人公を産んだ母親は、読み進めるうちに古い考えに固執するおかしな人に思えてきてしまうのだ。
    正直なところ、読後感は、いいとか悪いとかそういう次元でなく、えらいもの読んでもうたと気持ちが悪くなるというか…。帯の書評「グロテスクな思考実験、異様な設定のディストピア小説(東京・中日新聞)」に、読む前は酷い書きぶりだなと苦笑したのに、読後はしっくりきてしまう。
    村田さんの異名、クレイジー沙耶香の意味もよくわかった。この方やばいですわ。。。(でもまた手を出しそうな自分)

    この本の評価はとてもしにくいのだけど、私には最後がよく理解できなくて…星はとりあえず4つにしました。

    • マリモさん
      kazzu008さん
      こんにちは。コメントありがとうございます。いやこれ本当に衝撃で。読みながらあれ?ここはどこ?私の常識って何?と足元がふ...
      kazzu008さん
      こんにちは。コメントありがとうございます。いやこれ本当に衝撃で。読みながらあれ?ここはどこ?私の常識って何?と足元がふわふわしてくるんですよね。
      最初のさわりを読んだら眠れなくなって、最後まで読んでしまいましたが、読み終わるとさらに目が冴えてしまい。。。いやはやkazzu008さんが沙耶香(呼び捨てか)の虜になってしまうのはわかります。囚われますね。えらいもん読みました。。。まだ借りているのあるんですが、まだ消滅世界の毒がまわっているところなので、次のはちょっと先にしようかなとも思ってしまいます(笑)
      2020/01/13
    • kazzu008さん
      マリモさん。
      お返事ありがとうございます。
      そうなんですよね。「囚われてしまう」というのはよくわかります。
      僕も連続して村田沙耶香作品...
      マリモさん。
      お返事ありがとうございます。
      そうなんですよね。「囚われてしまう」というのはよくわかります。
      僕も連続して村田沙耶香作品は読まないように気を付けてます。向こう側へ行ってしまって帰ってこれなくなってしまうので(笑)。
      というわけで次のレビューも楽しみにしていますね!
      2020/01/13
    • マリモさん
      kazzu008さん
      そう、向こう側にいっちゃう感じはありました。今でも人工授精やキャラとの恋愛や若者の草食化は違和感なくなってしてますし、...
      kazzu008さん
      そう、向こう側にいっちゃう感じはありました。今でも人工授精やキャラとの恋愛や若者の草食化は違和感なくなってしてますし、世界観の素地はすでにあるんですよね。ないでしょー(笑)とは笑えない。
      kazzu008さんのタダイマトビラのレビューで、消滅世界は10狂気とあったので、タダイマトビラはどんだけー!!と今からガクブルです!笑 
      2020/01/13
  • 夫婦は『家族』である。
    この文章には全く間違いがない。意味そのままだ。
    それはこの小説『消滅世界』の中でも同じだ。

    しかし、この小説で描かれる『夫婦』は、本当に『家族』なのだ、つまり、兄弟や親子のような『家族』なのだ。
    そのような『家族』の間柄では、当然「セックス」などはしない。なぜならこの小説に登場する夫婦は『家族』だからだ。
    夫婦間の性行為は『近親相姦』と呼ばれ忌み嫌われている、というよりはむしろ犯罪に近い。

    『子供』は、夫婦のそれぞれの精子と卵子を受精させ、予め受精された受精卵を子宮内に着床させて『子供』を『妊娠』する。
    この世界で暮らす夫婦の間には「恋愛感情」は無い。人々の恋をする対象は、『家族』以外の恋人やアニメのキャラクターなどだ。

    村田沙耶香はこうした我々が当たり前に持っている価値観をいとも簡単に壊してくれる。その世界はまるで、ドラえもんに登場するひみつ道具「もしもボックス」で作られた世界だ。

    「もしもボックス」とは、公衆電話ボックス型で、中に入って受話器を掛け、「もしも○○が××だったら?」のように話してベルが鳴れば、その通りになるというひみつ道具。

      「もしも、この世からセックスがなくなって、子供がみな人工授精で生まれる世界だったら?」

    という条件を入力して作られて出てきた世界がこの小説に描かれた世界。

    この『消滅世界』の世界で『普通』に暮らす『普通』の人達、その中で描かれる主人公の坂口雨音は若干この『普通』からは逸脱している。
    彼女の『夫婦』間の『近親相姦』によって生まれた子供だからだ。
    雨音は、自らの出自と母親に嫌悪を感じながらも、他者への『異常』とされる恋愛にのめり込んでいく。

    雨音もごく普通に『結婚』はする。
    雨音が参加した婚活パーティー「30代限定、スタンダード婚パーティー☆」の参加者条件が

    「30代限定、子供希望、共働き希望、家事・家計完全折半希望、都内マンション購入希望、年収400万円以上希望 ※家の中に互いの恋人を連れ込んでの性行為厳禁」

    との宣伝文句が、ある一点だけを除いて、あまりに今の日本の社会そのままで逆に可笑しい。
    マッチングが成立し、雨音が挙げた結婚式では新郎新婦とそのお互いの恋人の4人で記念撮影をする。もはや、完全に我々の理解の能力を超える。

    この物語は雨音とその夫・朔が実験都市・千葉へ移住するところからクライマックスを迎える。

    そこでは『家族』という概念もなくなり、千葉に住む住民全員が『家族』であり、そこで生まれる『子供』は、住民全員の『子供』なのだ。そして、男性も人工子宮を身体に移植し、男性が子供を産むための研究も進められている。

    そして千葉で暮らす雨音の『異常』は徐々に『正常』へと壊れていく・・・。

    自分はこの本を読みながら、最初は吐き気を催すほどの嫌悪感を抱いていたが、やがて、このような世界が本当にやってくるのではないか、あるいは、もう既に足を一歩踏み入れてしまっているのではないかと錯覚した。

    「この『消滅世界』の方が真実で、今、ここにある世界の方が虚構なのではないのか?」
    と何度も、本から顔を上げ、自分の周りと自分の認識に齟齬がないかを確認した回数は1、2回ではすまない。

    それほど、この小説を読んで感じたショックは筆舌に尽くしがたい。

    芥川賞を受賞した『コンビニ人間』やこの『消滅世界』のように村田沙耶香は我々の常識や価値観を完全に打ち壊す。
    その常識や価値観のぶっ壊しっぷりの激しさが「クレイジー沙耶香」と彼女が呼ばれる所以なのだろう。

    我々読者は、彼女の描く特異な世界に足を踏み入れ、今まで自分が何一つ疑わず、安心して立っているこの地面が、実は『ごくごく薄いただの氷の膜の上』にあるということを強制的に体験させられる。

    そう言えば、ドラえもんの「もしもボックス」は、実は『新しい世界』を作る道具なのではなく、この宇宙には本当に無数のパラレルワールドが存在していて、その中から使用者の入力した事柄が実現しているパラレルワールドを探し出し、その世界と今の世界を入れ替えるというのが本来の機能らしい。
     
    『消滅世界』で描写されているこの異常な世界も我々が生きているこの宇宙の中に無数に存在するパラレルワールドの一つなのだ。
    「クレイジー沙耶香」はそのようなパラレルワールドを覗き見る能力を持っていて、彼女はそのパラレルワールドの一つをすくい取って、そこに暮らす人々の生活や心情を丁寧に描写し、こちらの世界にいる我々にそっと見せてくれているだけなのかもしれない。

    「家族」とは?
    「結婚」とは?
    「生殖」とは?
    「男」とは?
    「女」とは?

    自分が思っている答えと村田沙耶香の出す答えは全く違っているのだろう。
    だからこそ、村田沙耶香の小説にこれほど惹かれるのだ。

  • 「消滅世界」 村田沙耶香(著)

    2015 12/30 初版 (株)河出書房新社
    2016 8/10 7刷

    2020 5/13 読了

    世界は常に消滅と発生を続けていて
    その型に合わせる事が人の進化なのか。

    消滅と発生の狭間で母親に「正常」という
    呪いをかけられた主人公は

    常に自分の本能に従おうとする。

    どちらが正しいか?間違いか?ではなく

    どちらが合理的か。
    どちらが多数派か。

    あっちの世界にゾッとします。

    村田沙耶香は未来を見でもしてきたのかもね。

  • #読了 2020.4.7

    今回はより一層、"当たり前""正常""常識"などに対して問題提起どころか、人の心からそれらをメリメリとひっぺがしに来た作品!ちからわざ!!痛い!!怖い!!(笑)

    母性、子供、性愛、家族、出産。すべてがなんだか不気味な価値観なのに、近未来にそうならないと誰が言える?ってくらい説得力のあるリアルな設定になっている。「フェミニズムSF小説」と呼ばれるらしい。(フェミニズムな本が意図せず続いてしまったなw)

    真っ白でピュアで"正しい"狂った怖い話だった。すごかった。
    終盤で、急速に狂いながら正しく整われていく姿に、自分自身動揺することさえ、正しいのかどうか分からなくなってくる。
    感情移入はできてる。それなのにずっと違和感があって、でもいつか無くなるかなぁって期待してたら、最後は一気に乖離して、なのにそのまま引きづられていく感覚。すげえ。

    母の呪いを(こちらの期待通りに)母ごとギャフンと言わせたはずなのに、真っ白に蠢く気味の悪い飲み込み方を目の当たりにして、喜んでいいのか分からなくなった:( ;´꒳`;):

    ただ。なんか。
    設定も話の流れも面白いんだけど、大衆心理?性の捉え方?性欲の処理の仕方?家族の定義?何かに納得いかない感が残る。どこかと明記できないんだけど「とはいえ、その感情にはならないんじゃない?そういう感情の着地にはならないんじゃない?」ってかんじの。なんだろな。

    村田沙耶香さんの作品は「コンビニ人間」「殺人出産」を読んだけど、個人的には「コンビニ人間」くらい余白を残しておいてくれると読後もゆっくりと余韻を楽しめる。「コンビニ人間」は、不思議な感受性を持った天然ちゃんが素朴に素直に、こちらが答えに困る質問をしてくるような感じだったけど、今回は意図的に狂気的に"私の何が間違ってるか言ってみて?"って迫ってくるかんじ。でもたぶん元々はこうゆうの書く人なんだろうなぁ。

    今回はめちゃめちゃパワーのある作品に圧倒されしっかり飲み込まれちゃいました!教団X(中村文則)くらいの圧を感じた。飲み込まれるような作品にはなかなか出会えないから嬉しかった!「ディストピア」と評されてることもあるが村田さん的にはユートピアのつもりで書いたらしい(笑)さすがクレイジー沙耶香!

    ▼著者 村田沙耶香さんインタビュー
    「私は今36才で、友達には子供ができなくて不妊治療をする人や、子供がほしくて、とにかく結婚したほうがいいか、 卵子を保存したほうがいいのか悩む人もいます。もし、そういう苦しみのない世界があったら、家族とは違うシステムで繁殖できる体や技術があったとして、まっさらな状態からやり直すとしたら、私たちはどういう繁殖のしかたを選んで生きていくだろう、と創造した世界です。書きながら、技術という意味ではすでに自分たちはそういう世界にいることも考えていました」

    「うちは貧乏なのに、どうして親は私にご飯を食べさせてくれたり寝床を与えてくれたりするんだろうって不思議でした。家族だからだよ、ってふんわり納得させられそうになるけど、その奥にある本当のことを知りたかったですね」



    ◆内容(BOOK データベースより)
    セックスではなく人工授精で、子どもを産むことが定着した世界。そこでは、夫婦間の性行為は「近親相姦」とタブー視され、「両親が愛し合った末」に生まれた雨音は、母親に嫌悪を抱いていた。清潔な結婚生活を送り、夫以外のヒトやキャラクターと恋愛を重ねる雨音。だがその“正常”な日々は、夫と移住した実験都市・楽園で一変する…日本の未来を予言する傑作長篇。

  • 人の世において、「常識」や「正しいこと」というものは少しずつ変化していき、多くの人がそれに順応していく。その不気味さがとてもよく描かれているなあと思った。


    この小説では、「男女が愛し合って性交して子どもが生まれる」のが既に昔の話となり「子どもがほしいヒトは人工受精で繁殖する(恋愛感情や性欲は架空のキャラを消費して処理する)」時代からはじまり、さらに実験都市・千葉では、より管理の進んだ新システムのなかでの繁殖、育成が試みられている。そうした世界の行く末も気になるけれど、それより目を引くのは、各フェーズで主人公が「正しさ」に対して憎悪や違和感を抱き、もがき、そのうち馴れていく、その様子のほうだ。


    「ヒトは世界を食べ、その世界にぴったりの形になっていく」
    「世界でいちばん恐ろしい発狂は、"正常"でいること」


    働き方改革、新しい生活様式、俺の若い頃は、なんとかなんとかいいながら器用に進化しながら生きていく。そうしないと生きられない。のんきに生きたい。

  • 第二次大戦で男性が徴兵された影響で人工授精制度が進化したパラレル日本。人間の大半は出産目的としては不要となったセックスをしなくなり、ヒト同志の恋愛は稀にあるものの、性欲はアニメや二次元のキャラクターとの疑似恋愛で解消されている。夫婦がセックスすることは「近親相姦」と呼ばれて忌避され、場合によっては犯罪に。

    そんな世界に生きる雨音(あまね)は、両親の昔ながらの「交尾」で生まれた子供。母親はそれが正しいことだと雨音を教育するが、それがバレると異端視され、雨音自身もそういう母を嫌っている。このお母さんがとてもイヤな感じだ。言ってることは現実には私たちの生きている世界で「正常」とされている内容だけれど、すでにそれが「異常」とされているこの小説の中の世界でなくても、ひたすらに自分の価値観を娘に押し付け呪いをかけるその姿勢そのものがただただ不快。正しいか否かは問題ではない。自分と異なる価値観を認めない自己中心さが嫌。

    近未来ディストピアという点では『殺人出産』と同ジャンルだけれど、あちらはルールが極端ながらもシンプルで明確だったのに対し、本作の世界では制度自体が過度期ということもあるだろうけど設定がちょっと中途半端だった印象。恋愛対象に二次元を含んだことで反って散らかってしまった気がする。もしくは、その設定だけを究めて、人間同士の恋愛や性交が一切なくなった世界にしてしまえばそれはそれで別作品としてアリだったかもと思うけれど。総じてディストピア度では『殺人出産』のインパクトと説得力のほうが上。

    タイトルの意味的には、恋愛、結婚、家族、等の概念のみならず羞恥や寂しさといった感情までが「消滅」していった世界、ということなのだろうけど、個人的には結局性欲は消滅してない点と、その性欲と恋愛の関係についてモヤモヤが残ってスッキリしなかった。配偶者は家族であるから性の対象にしない、してはいけない、というルールはわかるが、それ以外の人間とはとっかえひっかえ「恋愛」をする、しかしそこにほとんどの場合セックス及び肉体的接触が一切含まれていない、というのなら、恋愛とは何を指しているのかの定義が難しい気がした。もちろん恋愛=セックスではないけれど。

    実験都市となった千葉では子供はすべて人工受精児となり管理され社会で育てられ、恋愛や結婚制度は不要、家族制度は崩壊という近未来図が描かれているけれど、似たような未来予想図のSFなら何十年も前から多数存在しているので『楽園(エデン)システム』というネーミングも含めとくに目新しさはなかった。すべての子供が『子供ちゃん』大人は老若男女問わず『おかあさん』と呼ばれる世界の気持ち悪さは十二分に伝わったけれど。

    結局、ディストピアか否かは問題ではなく、ラストでは主人公の母親との関係の歪みのほうが大きな問題だった気がした。

  • ぶっ飛び沙耶香ワールド全開の作品。
    今の世界が消滅してこの世界にパラレルしたとしても何ら違和感は無いのかもしれないと思わせてしまうのが村田沙耶香のディストピア作品の恐ろしくまた魅力的でもある所。
    しかし、村田沙耶香の作品はディストピア的特徴があるように思われるが、考え方を変えれば、価値観、倫理観が少しでも代わってしまえばその世界はユートピアにも写り得るというのがまた面白い所である。
    私達は一般的なディストピアの概念がユートピアと変わる世界線と隣り合わせに生きているのかもしれない。

    近しい異性と行うセックスへの嫌悪感は自分が抱いているものと同じ感覚だったので一気に作品に引き込まれた。
    また、主人公の女性が、母のようにはなるまいと懸命に「正しい世界」で生きようとしながらも、狂気じみた母の像に重ね合わされてしまう所がある。
    物語のラストが特に村田沙耶香らしい狂気的なラストでゾクゾクした。

    そして、二次元の世界と人と恋をすることが普通になったこの世界は、異常なように見えて私達とかけ離れているどころか非常に近い世界である。

    二次元と恋をする世界も、配偶者以外に恋人を持つことが普通となる世界も、男性が出産をする世界も、子供たちが周りの大人たちみんなを「おかあさん」とする世界、「家族」ではない「楽園システム」も…
    ひとつ、何か大きく世界の常識や倫理観が変われば転ずる可能性が十分にある世界線だと思う。
    村田沙耶香作品で描かれる世界が、実現する可能性を感じられる妙なリアル感を持った世界に思われるのは何故か。
    それは、村田沙耶香の描く異世界の中に、私達がリアルに感じているものや私達の「普通」や「常識」を残したまま、あくまで登場人物はリアリズムのままで描いているところにある。

    医療技術の面などでは私達は既に村田沙耶香ワールドに片足を突っ込んでいるのである。

  • 100年前の人から見れば、今のきっと家族のあり方や性のあり方は信じられないと思う。人工授精なんて、想像もつかないと思う。だから、村田沙耶香さんのこの物語も決して突飛なことではないのかもしれない。村田沙耶香さんは常に物事に違和感を持って向き合ってるのがすごいと思う。

  • 文庫で再読しました。
    村田作品は価値観がぐらぐらして再構築される感じがとても好きです。
    生きていくと、いつの間にか新しい価値観や状況の中にいて、この作品の「どの世界でも正常な私」に知らず知らずのうちに皆なっているのかも、と思います。
    子どもの頃はこんな電脳世界になっているなんて影も形も想像していなかったので、この作品のような世界にこれからならないとも限らないです。
    「命あるものはみんな化け物で、私も、ちゃんと、化け物だったの。」という台詞にはっとしました。
    「どうせなら、その世界に一番適した狂い方で、発狂するのがいちばん楽なのに」というのは村田さんの作品の根底に流れているもののように感じました。
    村田さんの頭の中はいったいどうなっているのだろう…これからも追いかけます。

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著者プロフィール

1979年千葉県生まれ。玉川大学文学部芸術文化学科卒。2003年「授乳」で群像新人文学賞(小説部門・優秀作)受賞。09年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、13年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島由紀夫賞、16年「コンビニ人間」で芥川龍之介賞受賞。その他の小説に『マウス』『星が吸う水』『ハコブネ』『タダイマトビラ』『殺人出産』『消滅世界』『地球星人』、エッセイに『となりの脳世界』『私が食べた本』などがある。

「2020年 『丸の内魔法少女ミラクリーナ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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