消滅世界 (河出文庫 む 4-1)

著者 :
  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309416212

作品紹介・あらすじ

「セックス」も「家族」も、世界から消える……日本の未来を予言と話題騒然! 芥川賞作家の集大成ともいうべき圧倒的衝撃作。

感想・レビュー・書評

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  • 人工授精が定着した日本の近未来。夫婦は、家族となり近親となる。近親相姦はタブー行為とされる。欲求は家庭に持ち込まない。
    その最終形態としての実験都市が作られる。男性も出産可能となり、家族形態も消滅する。子供は、センターで育てて、その街の大人が全て、おかあさんとなる。そこでは、各自の性欲をクリーンとするクリーンルームも作られる。
    正欲の多様性の昇華、あるいは、減殺させた行き着くところといった世界観。
    親の収入や愛情の格差、結婚育児の強制、現在の課題が全て解決されようとするのに、この異質感に満たされた社会。
    現在の家族制度にしても歴史は浅い。少子化、介護、子育てと破綻は遠くない。消滅する世界はどちら側でしょうか。

    • ゆーき本さん
      これが村田沙耶香ワールドですね!(あまり知りませんが)。両方の世界のいいとこ取りしたい。
      これが村田沙耶香ワールドですね!(あまり知りませんが)。両方の世界のいいとこ取りしたい。
      2023/07/06
    • おびのりさん
      こんばんは♩
      これは、今までも作品に比べれば、落ち着いてます!クレイジーまでいかないです。
      こんばんは♩
      これは、今までも作品に比べれば、落ち着いてます!クレイジーまでいかないです。
      2023/07/06
  • 夫婦とは家族で、家族がセックスをすることは近親相姦で、じゃあ夫婦は、近親相姦ではないのか。
    不倫は気持ちが悪いと言うけれど、家族以外と性行為を行うという点においては、とても健全ではないか。
    そんな風に思えなくもない。いつからこんなに不倫をバッシングするようになった?結婚したらパートナー以外との性行為をはじめとする異性交流が禁止、あるいは制限されるということは、逆に社会性のある人間を苦しめるのではないか。

    こんなにもセックスを不潔としなくても、と思いはしたけれど、ある意味で、とてもいい「家族」の形なのかもしれない、と同時に思えてくる作品。
    (子どもについて語る時の主人公夫婦はなんだかとても気味悪かったけれど。)
    自立した人間が増えてくると、こういう世界、価値観が当然になってくるのはおかしくないかもしれない。
    ほとんど人工授精、というのはあくまで物語であって、現実にはぶっ飛んでいるけれど、でも、子どもがほしくないなら信頼できる人とルームシェアをして、一生結婚しないことや家族を持たないこと、というのは有り得るし、夫婦にそれぞれ恋人がいて、それを許容する形っていうのも、自立した人間が、安心できる場として家族を捉えているとしたら、いい形なんじゃないかな、とかね。

    そうなるといよいよルームシェアと結婚、ここでいう家族との違いがなんなのかよく分からなくなってくる。結婚はただの子どものための契約、なのか。
    主人公も混乱して、それでも家族であると言い聞かせる。でないと、自分の存在を保てないから。
    だからこそまだ見ぬ子どもという存在への期待がどんどん高まっていく。子どもはそんなに万能か?しかしこの世界で「家族であること」を証明するのは子どもの存在だ。

    でも。必ずしも出産に至らないかもしれない命だってあるし、出産に至っても、継続困難な命だってある。たとえどんなに健康でも、「寂しい」その感情を知らない子どもが大人になるということ。それは人間から大切なものを奪うことと同じこと。傷つくことも、傷つけることも感じなくなる、そんな世界。それは間違いなく、ディストピアだ。

    世界が、ここまでに陥ることはないかもしれない。
    ただ、読み終えてリアルだったのはやはり、家族というものの捉え方かもしれない。家族は性的な繋がりを持たないけれど、夫婦は持っている。でも、夫婦も家族だ。現在主流となっている恋愛結婚が、「異常」な時代が来るんだろうか。家族をつくるとは、家族になるとは、なんだ。

  • 解説にあったように、この小説はユートピアなのか?それともディストピアなのか?たしかに、合理的で犯罪も少なるなることは間違いないが、もはや人間ではない別の生物になってしまう。人が動く原動力のひとつに愛があるが、聞こえがいい大きな愛がそれを引き出すことなんてできるのか?それを進化ととるのか、はたまた退化と見るのか?

  • 「消滅世界」

    【テーマ】
    世界とは、生活様式、常識、ルール。
    いま、私たちが暮らしている世界が、少子化が進んだ未来ではどうなるのか?
    それを作家村田さんの視点で、創造した作品です。
    SF的な作品です。

    【小説のなかの世界】
    子供は、人工授精が一般的となります。
    育ての親は、両親ではなく、地域全体となります。
    子供の生活費は、地域全体で負担、分賦します。
    出産は、女性特有ではなく、男性でも可能な医療の世界となります。

    【読み終えて】
    村田さんのコンビニ人間は、コンビニを利用するひとが多数で、働くひとは少数の世界でした。
    また、その少数の世界を、その世界で働く人の視点で描いた作品でした。

    今回の消滅世界も、現在の枠組みを取っ払う、マイノリティ世界を描いています。

    現代社会、生活を外側から観察する、そのなかの課題、歪みを抽出する、さらにその解決、アプローチ方法まで演出した作品です。

    レビューのとおり、好き、嫌いはあると考えます。

    読み終えて、二週間が経過しました。
    内容を咀嚼するに必要な時間でした。

  • 【寂しくもないし、孤独でもないけれど、じゃあこの心のモヤモヤは何だと言うのか 女の人生をナナメ上から見つめるブックガイド】に出てきたこちらの作品
    ぶっ飛んでた…
    我々が生きてるこの世界もいずれこうなるとは思えないけど、事実婚とかもある今、全くないとは言えないよなとちょっと怖くなった

  • 既読の殺人出産に続き、独創性の強い【性】【生命】と【家族】【子供】の在り方をテーマとした未来予言作品。

    この著者の描く空想世界は何故かいつも現実味を感じてしまう。

    性行為、結婚、家族…そんな、制度も、あったねと。

    こんな世界が、やがて未来にやってくるのではないかと。

    でもなぜか今回の作品は私には合わなかった。どうしても文章文体に魅かれず、終盤は気が散ったまま読了。

  • 夫婦は『家族』である。
    この文章には全く間違いがない。意味そのままだ。
    それはこの小説『消滅世界』の中でも同じだ。

    しかし、この小説で描かれる『夫婦』は、本当に『家族』なのだ、つまり、兄弟や親子のような『家族』なのだ。
    そのような『家族』の間柄では、当然「セックス」などはしない。なぜならこの小説に登場する夫婦は『家族』だからだ。
    夫婦間の性行為は『近親相姦』と呼ばれ忌み嫌われている、というよりはむしろ犯罪に近い。

    『子供』は、夫婦のそれぞれの精子と卵子を受精させ、予め受精された受精卵を子宮内に着床させて『子供』を『妊娠』する。
    この世界で暮らす夫婦の間には「恋愛感情」は無い。人々の恋をする対象は、『家族』以外の恋人やアニメのキャラクターなどだ。

    村田沙耶香はこうした我々が当たり前に持っている価値観をいとも簡単に壊してくれる。その世界はまるで、ドラえもんに登場するひみつ道具「もしもボックス」で作られた世界だ。

    「もしもボックス」とは、公衆電話ボックス型で、中に入って受話器を掛け、「もしも○○が××だったら?」のように話してベルが鳴れば、その通りになるというひみつ道具。

      「もしも、この世からセックスがなくなって、子供がみな人工授精で生まれる世界だったら?」

    という条件を入力して作られて出てきた世界がこの小説に描かれた世界。

    この『消滅世界』の世界で『普通』に暮らす『普通』の人達、その中で描かれる主人公の坂口雨音は若干この『普通』からは逸脱している。
    彼女の『夫婦』間の『近親相姦』によって生まれた子供だからだ。
    雨音は、自らの出自と母親に嫌悪を感じながらも、他者への『異常』とされる恋愛にのめり込んでいく。

    雨音もごく普通に『結婚』はする。
    雨音が参加した婚活パーティー「30代限定、スタンダード婚パーティー☆」の参加者条件が

    「30代限定、子供希望、共働き希望、家事・家計完全折半希望、都内マンション購入希望、年収400万円以上希望 ※家の中に互いの恋人を連れ込んでの性行為厳禁」

    との宣伝文句が、ある一点だけを除いて、あまりに今の日本の社会そのままで逆に可笑しい。
    マッチングが成立し、雨音が挙げた結婚式では新郎新婦とそのお互いの恋人の4人で記念撮影をする。もはや、完全に我々の理解の能力を超える。

    この物語は雨音とその夫・朔が実験都市・千葉へ移住するところからクライマックスを迎える。

    そこでは『家族』という概念もなくなり、千葉に住む住民全員が『家族』であり、そこで生まれる『子供』は、住民全員の『子供』なのだ。そして、男性も人工子宮を身体に移植し、男性が子供を産むための研究も進められている。

    そして千葉で暮らす雨音の『異常』は徐々に『正常』へと壊れていく・・・。

    自分はこの本を読みながら、最初は吐き気を催すほどの嫌悪感を抱いていたが、やがて、このような世界が本当にやってくるのではないか、あるいは、もう既に足を一歩踏み入れてしまっているのではないかと錯覚した。

    「この『消滅世界』の方が真実で、今、ここにある世界の方が虚構なのではないのか?」
    と何度も、本から顔を上げ、自分の周りと自分の認識に齟齬がないかを確認した回数は1、2回ではすまない。

    それほど、この小説を読んで感じたショックは筆舌に尽くしがたい。

    芥川賞を受賞した『コンビニ人間』やこの『消滅世界』のように村田沙耶香は我々の常識や価値観を完全に打ち壊す。
    その常識や価値観のぶっ壊しっぷりの激しさが「クレイジー沙耶香」と彼女が呼ばれる所以なのだろう。

    我々読者は、彼女の描く特異な世界に足を踏み入れ、今まで自分が何一つ疑わず、安心して立っているこの地面が、実は『ごくごく薄いただの氷の膜の上』にあるということを強制的に体験させられる。

    そう言えば、ドラえもんの「もしもボックス」は、実は『新しい世界』を作る道具なのではなく、この宇宙には本当に無数のパラレルワールドが存在していて、その中から使用者の入力した事柄が実現しているパラレルワールドを探し出し、その世界と今の世界を入れ替えるというのが本来の機能らしい。
     
    『消滅世界』で描写されているこの異常な世界も我々が生きているこの宇宙の中に無数に存在するパラレルワールドの一つなのだ。
    「クレイジー沙耶香」はそのようなパラレルワールドを覗き見る能力を持っていて、彼女はそのパラレルワールドの一つをすくい取って、そこに暮らす人々の生活や心情を丁寧に描写し、こちらの世界にいる我々にそっと見せてくれているだけなのかもしれない。

    「家族」とは?
    「結婚」とは?
    「生殖」とは?
    「男」とは?
    「女」とは?

    自分が思っている答えと村田沙耶香の出す答えは全く違っているのだろう。
    だからこそ、村田沙耶香の小説にこれほど惹かれるのだ。

  • 読んでいくうちに、「ハコブネ」や「星が吸う水」、「タダイマトビラ」や「殺人出産」を思い出し、全ての作品を読んだわけではないが、ある意味これまでの村田さんの集大成的な作品だと思いました。

    これまで幾度か取り上げてきた、女性の愛やセックスや恋や家族について、人間も動物なのに、心や感情が入るだけで、何故にこうも振り回され、悩まされるのか? 動物は単純に子孫を絶やさぬ為の本能が働くからだと思うのだが、人間はこうはいかない。この物語の主人公、「雨音」も悩み苦しんでいる。

    「どんな残酷な真実でもいいから、私は自分の真実が知りたかった。母から植え付けられたわけでも、世界に合わせて発生させたのでもない。自分の身体の中の本物の本能を暴きたかった。」

    もちろんこの物語の場合、母親の頃とセックスの概念が変わってしまった事や、未来の設定の「実験都市」での洗脳のような理由もあるとは思うが、その正常と狂気の狭間においても、雨音はちゃんと自らの本能で察している部分もある。上記で述べているように。

    例えば、

    「子供がいるいないにかかわらず、自分と人生が繋がってる人っていうのが、人間には必要。そういうのを欲するように、心と身体ができてるんだと思う。」

    「恋を失っても、私には家族がいる。子供だって産む。私は子宮で世界と繋がっている。そのことは私を安堵させた。」

    「こうして自分の身の回りを整頓してみると、自分の人生には夫と未来の子供以外、何もないのだと気がついた。それはとても幸福な発見だった。」

    等々。上記の内容はどちらかというと、実験都市のシステムというよりは現代寄りで、私から見たら、これこそ普遍的に近い愛の形だと実感したわけです。

    そして、繋がっていたいのですよ。人間が寂しさに不安や恐怖を覚えるのは、世界から孤立しているような錯覚や、まるで見捨てられているかのような感覚に陥ってしまうからだと思うのと同時に、理屈ではない部分もあるじゃないですか。ことにセックスについては。それを言葉や理論的に説明することも出来るかもしれないけど、私はしたくない。

    好きになることもそうだし、頭の中で考えるよりも先に、普段とは違う身体の感覚を実感したりとか、欲や切なさや温かみや高揚感のようなものを、正に人間の本能が感じ取るとしか、私は言えないのではないかと。よく分からないものなのに、すごく確かなもののように信じられる感覚というか。

    まあ色々書きましたが、愛なんて、それこそ人の数だけ、生きてきた環境や多様な価値観が存在する分、それだけ異なる考え方や本能もあるはずだし、そもそも神秘性も存在している、これらの事象について、システムのようなもので縛っていいのだろうか? なんて思ってしまった。

    それにしても村田沙耶香さん。

    あなたは何故にこうも狂おしくて切ない作品を書かれたのか。

    エンディングの、狂気間際の美意識は、私を完全に打ちのめしました。

    一生ついて行きます(これは確かなこと)。

  • ◯作品紹介にあるほど、集大成というほどの内容かはやや疑問であるが、不妊治療に強く大きく光が当たった今般、せっかくなので読んでみた。
    ◯この著者の本は、コンビニ人間を読んだことがある。消滅世界においても、「違和感」というか「気持ちの悪さ」の表現が異常に上手いと思う。しっかりと身に染みてきて吐き気を催す(最大限の賞賛です。)そしてやたらと潔癖なのだ。もはや著者がそういう人間なのでは?と思ってしまうほどだが、プロで狙ってやっているのだろうと思えば、本当にすごい。
    ◯小説自体としては、SFと思って読むと、なんだかちょっと物足りない気がするが、潔癖な世界を突き詰めたらどうなるんだろうという設定で描いていると思えば、漫画のような読み味があって面白い。

  • 夫婦とは? 家族とは? 著者の描く世界はいつも異次元・異世界だが、100年後、1,000年後に、“こうなっているかも”と思ってしまう。解説で斎藤先生が「異性愛主義との闘い」と評した著者の“闘い”をこれからも見守りたいと思える一冊。

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著者プロフィール

村田沙耶香(むらた・さやか)
1979年千葉県生れ。玉川大学文学部卒業。2003年『授乳』で群像新人文学賞(小説部門・優秀作)を受賞しデビュー。09年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、13年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島由紀夫賞、16年「コンビニ人間」で芥川賞を受賞。その他の作品に『殺人出産』、『消滅世界』、『地球星人』、『丸の内魔法少女ミラクリーナ』などがある。

「2021年 『変半身(かわりみ)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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