- Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309416342
感想・レビュー・書評
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昭和11年に出版された作品の初文庫化。書かれたのはもっと前の初期の頃で、これの完成形(?)が黒死館~になるらしい。とはいえ共通点は大邸宅で起こる殺人事件という点と、その屋敷を建築した外国人建築士にいろいろあって・・・という部分くらい。結局その「死のベッド」は本筋とはあまり関係なかったし。
とにかく登場人物が多く、その関係性も複雑で、さらに赤穂浪士の時代にまで因縁話が遡るので、事情・状況を把握するのに時間がかかります。のわりに、あの時代の探偵小説らしく、ただただ奇抜な事件が次々起こり、解決しないまま次の殺人、ずばぬけた頭脳をもつ探偵役が自分だけ理解していてそれを読者には説明してくれないので、結構ストレスがたまる(苦笑)
事件の発端は元禄時代に来日した宣教師シドッチが切支丹禁制のご時世ゆえ捕縛され獄中死、その遺品である「シドッチの石(聖書の文句が刻まれている)」を偶然手に入れた殿村という男。以降その石は代々殿村家に蔵されていたが、攘夷ブームの幕末に子孫が恐れてその石を捨ててしまう。明治になって殉教者の遺品としてその石に高額な価値がつくと知った殿村力三郎は父親が捨てた石を探すも、事情をしった小悪党・戸部林蔵に殺害されてしまう。
林蔵はお宝「シドッチの石」を手に入れるが、殺人とは別件で逮捕され小菅監獄に収監。そこで悪党仲間の金森伝吉という男に脅され、シドッチの石の隠し場所について「紅殻駱駝」と謎の言葉を残し、それを看守の今木野七三郎も立ち聞きする。やがて監獄内で林蔵は変死。犯人は金森なのか今木野なのかも謎なまま。ここまでが前置き。
やがて時は流れ、紅駱駝を名乗る謎の人物から殺人予告が届き、神田明神の祭礼の山車で最初の殺人事件が。被害者は「小菅監獄怪死事件」の関係者の子孫の一人であることがわかり、紅駱駝から挑戦状をつきつけられた形の小岩井警部と、探偵役(本業は弁護士?)の尾形修平は事件解決に乗り出すが・・・。
この「小菅監獄怪死事件」をなぜか噺家・馬頭軒鯉州を誘拐脅迫してまで人前で語らせ、わざわざ警察と探偵に披露させる紅駱駝のの意図がいまいちわからない。目的が「シドッチの石」を手に入れることなのか、子孫の復讐(だとしたら誰から誰への?)なのか、まあこのへんは動機の掘り下げより娯楽性優先なのだろうけれど、派手な事件ばかり起こすわりに犯人の目的は曖昧でちょっとモヤモヤした。
第二の殺人は、わざわざ脚本を書いて劇場で上演させ、それに警部と探偵を招待して殺そうという意味不明なもの(復讐とも宝探しとも関係ない上に無関係な人間が犠牲になる)。しかもその芝居の内容が、聖痕をもつシャーロック・ホームズが、都市炎上させた犯人として再来したイエス・キリストを捕縛するという荒唐無稽さ(笑)なにか事件解決のヒントがあるのかと思って真面目に読んじゃったけど全然事件と芝居の内容関係ないし!
さらにシドッチの石の本来の持ち主で林蔵に殺害された殿村の子孫である殿村四郎八(百万長者で音楽家のパトロン)の邸宅「赤錨閣」で、「正霊教」という胡散臭い新興宗教の教祖で実は金森の子孫である騎西駒子が殺害され、正霊教の黒幕である牧医学博士、その妻で音楽家の頼子、頼子の音楽家仲間、殿村の秘書・純子らが不審な動きを見せる。そんな中警備の警官が殺害され・・・。
後半はなにがなんだかもうよくわからなかった(苦笑)しまいに催眠術だの薬物だの、そりゃ作者が書いてくれなきゃ読者は知らないよという後出しジャンケン的な人物が出てきたりして、突然あれよあれよと犯人を追いつめるも、謎解きが未消化なのでカタルシスが得られない。とはいえ、この荒唐無稽さも含めて面白くは読めます。黒死館に比べたらずっとわかりやすいし、エンタメ作品としては十分楽しめました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
虫太郎がデビュー前に書いていた長編。初文庫化。
突然の場面転換、話の展開や説明無しに唐突に出てくる登場人物など、読んでて多少読者を置いてきぼりにするとっちらかった感じはありますが、後半に探偵が次々と繰り出す推理の根拠たる医学系及び科学系の衒学チックなネタの嵐が、「ああ、なるほどこれがこのまま黒死館に繋がっていくのね…」という所で妙な納得感がありました。