シメール (河出文庫)

著者 :
  • 河出書房新社
4.13
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本棚登録 : 110
レビュー : 12
  • Amazon.co.jp ・本 (377ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309416595

感想・レビュー・書評

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  • こうなる以外はあり得ないなという完璧なオチ。
    美少年に魅せられた男の物語と聞いて、『ヴェニスに死す』を思わずにいられないが、『ヴェニスに死す』では主人公自身に破滅が訪れるのとは対照的に、本作では主人公の想い人である翔(とその家族)が破滅の運命を辿っていく。つまり、まさに主人公の片桐は作中で翔が思い描いた「魔王」そのものである。

    退廃美を描いた至高の作品だった。

  • 面白かったです。
    幻を求めた為に、ひとつの家族を壊してしまうお話。
    主人公のひとりである美術家の片桐が、もう一人の主人公の美しい少年・翔へ向ける、崇拝と所有欲は狂気じみていました。
    翔には双子の兄・聖がいるようですが、巧みな描写でラスト付近までどちらが生きているのかわからずでした。家族は、生きているのは聖だと思い、でも本人は、自分は翔だと答える。この辺りで、翔も少しずつ壊れていっていたのかなと思いました。
    こちらでも、テレヴィ・ゲームが出てきました。でも面白そうなRPGです。
    人々は転落していき、悲劇的な結末を迎えるのも好きでした。片桐はひとり、空洞を抱えて生きていくのかな。それとも、生を失った翔を本当に飾るのか…片桐ならやりかねない、と思いました。
    うっとりする世界でした。「ナジャ」や「さかしま」を読みたくなり、「詩人とミューズの結婚」は検索しました。綺麗な光の画でした。

  • 美少年に魅せられた男の物語。といっても下心のある感じではなくて、あくまでもその美を愛でる、というような純粋な思いだと感じられるのですが。それでも恋に似た感情なのかも。微笑ましいようにも思えたのだけれど、ぴりぴりと危なっかしい雰囲気が漂う作品です。
    秘密を持った少年、どこかしら歪みを見せる少年の家族、という道具立ても相まって、物語の進み方はとにかく不穏。美しい雰囲気とファンタジックな要素も交えつつ、この生活は絶妙なバランスの上に成り立っている気がしました。だからこそそこに綻びが見え始めた時にどのようになってしまうのか、という危惧が感じられて、それがなんとも言えず不安です。
    そしてこの急激な幕切れ。後に残るのはなんとも言えない読後感……でも最後まで「美しい物語」という印象は消えませんでした。

  • 長らく入手困難だった『シメール』が文庫化された!!
    河出文庫からは『罪深き緑の夏』からは2作目。角川文庫で代表作が復刊された時から、アチコチで『シメール』『シメール』を連発していたので、河出の復刊2作目が『シメール』と知った時は嬉しかった。
    破滅美、退廃美を具現化したような小説で、この復刊文庫化で、望んでいる人の手に渡るといいなぁと思う。
    で、次は当然、『ラ・ロンド』が来るよね???

  • 2000年の作品の文庫化。河出文庫が次々と服部まゆみを復刊してくれて嬉しい。

    美大出の両親と幸福に暮らしていた双子の聖と翔。外見はともに母の美貌を受け継いでいるが、快活な聖とは対照的に翔は内向的。しかし八歳のときの火事で家を失って以来状況は一変。虚栄心が強く貧しい暮らしに愚痴ばかりの母、性格は優しいが転職を繰り返す生活力のない父。家族の物語は翔視点で語られているので、翔はまるで聖が存在するかのように語っているが、読者の感じる違和感。おそらく、双子の片方は火事で亡くなり、生き残ったほうが二人分の人格を何らかの形で共存させているのだろうなというのはすぐに気づく。そして翔が14才のときに、両親の大学時代の同級生で現在は成功している片桐哲哉と偶然再会、妻を亡くしたばかりの片桐は一目で翔に惹かれ・・・。

    ユイスマンス『さかしま』を翻訳したという片桐のモデルはたぶんこれまた澁澤龍彦かしら。なんだか少年版『ロリータ』か『ヴェニスに死す』っぽいな~と思いながら読んでいたら作中で片桐が自分でそう分析していた。よって、ミステリー的な要素はあまりない。双子のうち本当に生き残ったのはどちらだったのか、なぜ一人二役を演じ続けるのか、いずれも簡単に想像がつく通りだし、大きなドンデン返しも起こらないので、読者は片桐という男の美少年への執着、その遠慮がちな駆け引き、作品全体の雰囲気などを楽しむのが正解と思われます。

    それにしても翔くんは外見は天使のように美しいのだけど、中身が年齢通りのまさに中2で、読んでいるほうが無駄に気恥ずかしくなってしまった。彼が創作中のRPGの内容もだけど、堕天使ルシファー略して「ルシ」とかベタすぎて。まあそんなところも可愛いっちゃ可愛いのだけど。ブルトンの『ナジャ』を若い頃読んだときは感銘を受けたが大人になって読み直したらそれほどでもなかった私としては、そういうところも含めて全体的にこの翔くんという少年を片桐氏と一緒になってウットリ鑑賞するには年を取りすぎたのかもしれない。外見だけは美しい両親の中身がとんでもない俗物だったように翔くんもいつかはただのおっさんになる可能性大で、その現実を見なくてすむように、結末はやっぱりこうなるしかなかっただろう。

    お金持ちの知的で紳士なおじさまが、美少年に心惹かれるという展開はけして目新しくはないし、森茉莉ほど耽美でもないので、それを読み易いと思うか、むしろ物足りないと思うかは判断に迷う匙加減。個人的には耽美度合はこれくらいで良いけど、代わりにもう少しミステリー要素は欲しかったかな。

  • あぁ美しい・・・この破滅美をどう伝えれば良いのだろう。

    河出文庫様、『罪深き緑の夏』に続き『シメール』の復刊をありがとうございます♪

    『この闇と光』で服部まゆみ先生の美しい世界に魅せられ、手に入った作品を読み漁っているけれど、毎回その期待を裏切られることはなく安心する。


    作品紹介
    満開の桜の下、大学教授の片桐は精霊と見紛う少年に出会う。その美を手に入れたいと願う彼の心は、やがて少年と少年のの家族を壊してゆき――。陶酔と悲痛な狂気が織りなす、極上のゴシック・サスペンス。(河出書房)


    本作にサスペンスの要素はあまりないと思う。様々なことがわりと早い段階で種明かしをされていくし、トリックのようなものもない。

    でも、だからこその、片桐と少年とその家族との薄氷越しの会話や行動が読み手の心を掴んでいくのだと思う。
    片桐は紳士的でありながらも、究極の「美」を求めるその心と行動が、「美」そのものである少年を癒し、そして追い詰めてゆく。

    片桐も、少年の家族もみんな少年を愛しているのに、薄氷の向こうにいる少年にはその愛が届かない。そしてその氷は解けることなく割れる。

    その突然の幕引きに暫し思考が停止した。。。

    ああそうか、という思いに至るまでにかなりの時間を要した。
    そうだね。うん。やっぱり美しいね・・・。

  • 美しい少年は聖なのか翔なのか?

    少年に魅入られた男の柔らかい傲慢さ。
    関係を端からみしみしと詰めてきて、息苦しいほど。
    少年も男も、欲しい相手の愛情は手に入れられなかった……

    自分で創る物語や、鑑賞してきた絵画や小説に浸る分には、この家は少年にも楽園だったはずなのに。

    男が身勝手極まりないのに紳士すぎて笑える。
    が、彼が評する翔の姿は、うっとりするほど美しかった。それがよけいに残酷に感じる。
    相手をまるで一人の人間として扱っていないようで。
    だからこその美か。

    どうしても大谷亮平さんの顔しか浮かばなくて……
    実写化されることがあったらぜひにw

  • カバーの耽美さに引き寄せられ初読作家様。テレヴィ(テレビ)表記に森茉莉先生思い出す。美セレブ「私」が美少年「僕」に焦がれる描写は「ヴェニスに死す」のよう(文中にも出て来る!)。最後まで美しくやっぱりなバッドエンドを堪能。BLならご都合主義なほどの展開、2人は相愛になるんだろうに…。何百枚の隠し撮りへの(僕の)容赦ない反応に泣く(なんの涙じゃ)。しかし「私」の思考回路も大いにズレてるよ。他の作品も是非読みたいが解説で作家様が10作品を遺し他界されているとの事でしばし茫然。

  • 解説にあった通り、読み終えてから最初の一文をもう一度読んで背筋に悪寒が走りました。不安と不穏、狂気に執着、欠片の救いもなく最後まで走りきった悲劇。ここまで徹底されるとハピエン主義でも読みきらざるを得ない。ゾッとするほどの美しさがある小説。

  • 美しい少年に魅せられた若き大学教授。
    なんとも言えぬ読後感。

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著者プロフィール

1948年生まれ。版画家。日仏現代美術展でビブリオティック・デ・ザール賞受賞。『時のアラベスク』で横溝正史賞を受賞しデビュー。著書に『この闇と光』、『一八八八 切り裂きジャック』(角川文庫)など。

「2019年 『最後の楽園 服部まゆみ全短編集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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