推し、燃ゆ (河出文庫)

著者 :
  • 河出書房新社
3.13
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本棚登録 : 3537
感想 : 228
  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309419787

感想・レビュー・書評

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  • 「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい」
    高校生のあかりは、アイドル・上野真幸(まさき)を推している。彼の活動をすべて拾い集め、彼を解釈することにのめり込んでいた。家も学校もバイトもうまくいかない中で、それだけがあかりを成り立たせる「背骨」だった。しかし、推しが炎上してしまったことで、彼女の生活は変わり始める──。

    第164回芥川賞受賞作。「推し」という響きに共感を覚えて、文庫化を機に手に取った。推しという概念や、アイドルとファンについての小説かと思いきや、それはあくまでテーマを伝えるための手段だと感じた。なので、そういうものを求める人や、真幸はなぜファンを殴ったのか?ということが気になって読みたい方にはお薦めしづらい。ぼくはそういうものを予想していたけど、良い方に裏切られたのでよかった。

    ぼくが作品を読んで一番感じたものは「他者との隔絶」だった。お互いのことは決して理解し合えない。人はどこまで行っても「孤独」に生きていく。そんな現実を映し出す鏡だった。それを描く手段の一つが、推しとファンの関係性。どんなに応援しても解釈しようとしても、間には埋まらない溝がある。それを生活のすべて──背骨とまで言い切るあかりは危ういのだ。アイドルという偶像が消えた瞬間、虚像で隠されていた現実が彼女を襲う。推しに憧れ、もはや一体となっていた彼女から「推しという背骨」がもぎ取られた瞬間の、肉体を実感するシーンはまるで自分の骨を拾い集めて生まれ直しているようだった。

    あかりと家族との関係性も「他者との隔絶」を表していると思う。診断名は具体的に表記されていないものの、アスペルガー症候群や学習障害と推測できる描写がある。彼女は普通に生きることが、すでに生きづらいのだ。それを言語化できないもどかしさ。診断がついても家族からは理解されずに「普通」であることを要求される。この作品を読んで感じたのは「普通」は「不通」であるということだ。誰にもその人なりの普通がある。当たり前だと思っても、相手にとっては当たり前ではないかもしれない。それを疑問に思わない普通は暴力だ。ただ、そんな暴力は現実にもありふれているんだよね。家族だろうが他者である以上、理解はされない。それをただただ残酷に、現実的に描いている作品。あかりも世界を閉じているし、家も外界から閉じている。ここで地域の支援という他者が家に入るといいんだけどね。ぼくに初めて寄り添ってくれた人は地域包括支援センターの相談員さんだったから、そういう選択肢があることが「普通」になってほしいと思った。

    自分なりに長々と書いたんですが、文庫版あとがきと、金原ひとみ先生の解説がわかりやすいのでお薦めです。そこを読むと印象がかなり変わるかも?

    p.13,14
    寝起きするだけでシーツに皺が寄るように、生きているだけで皺寄せがくる。誰かとしゃべるために顔の肉を持ち上げ、垢が出るから風呂に入り、伸びるから爪を切る。最低限を成し遂げるために力を振り絞っても足りたことはなかった。いつも、最低限に達する前に意思と肉体が途切れる。

    p.14
    保健室で病院の受診を勧められ、ふたつほど診断名がついた。薬を飲んだら気分が悪くなり、何度も予約をばっくれるうちに、病院に足を運ぶのさえ億劫になった。肉体の重さについた名前はあたしを一度は楽にしたけど、さらにそこにもたれ、ぶら下がるようになった自分を感じてもいた。推しを推すときだけあたしは重さから逃れられる。

  • なんとも言えない感情が浮き出てくる作品。高校生のあかりにとって、何もかもうまくいかない毎日の中で、「推し」は全てで、生きる糧だったのだろう。その「推し」が居なくなるとは、背骨を無くすこと。その先の長い長い人生これからどう立ち向かうのか。新しい「推し」に出会えるのか…


  • 高校中退、バイトも続かない、コミュニティー能力が乏しい女性が、家族に見捨てられ、最後は推しの引退で日常をも失う「推し活」のお話。

    こんな本を読むと常に心が落ちた感じがして気が病んでしまう。
    推しは背骨。最後に綿棒を投げて拾うさまは納骨の例えか?

    全世界80万部!芥川賞受賞作
    「今どきな感じで面白かったですよ」とのことで読みましたが、今どきすぎて分からない。

  • 芥川賞受賞作で文庫になったので、読んでみた。
    高校生のあけみは、高校生活も上手く行かず、バイト先でもなじめず、生きづらさを感じて、毎日を過ごしていた。
    そのあけみの生きがいは「推し」
    その「推し」がファンを殴って、炎上したらしい。
    だからと言って、特に何が起きるわけでもない。
    高校を辞めて、バイトもクビになり、家族に見放されても、あけみの日常は「推し」だけ。
    その「推し」の突然の引退宣言。
    最後の生きる糧のようなものも失ってしまう。
    タイトルや表紙のイメージからは想像も出来ないくらい、内容は重い。
    「推し」がいない自分には主人公の気持ちが理解出来ないし、この本を読めば「推し活」を楽しんでいる友人の気持ちが分かるかとも思ったが、そちらも全然見当違い。
    読む人によって、意見の分かれる作品かもしれない。

  • ブクログで上位でしたので読んでみた。
    推し活ってすごいな。
    自分も好きなアーティストやスポーツ選手は居るけど
    とてもじゃないけど自分の生活すべてを捧げるのは無理だ。

  • 生き辛さを紛らわす強力な拠り所の存在は一つの幸せとも感じつつ、ふとそれは自分なら、例えば宇佐見りんさんの物語の中で、自らとは異なる人物の中の生に対する必死さに共鳴させて貰うことで、前を向く力を得ているのかもしれないと感じて胸が熱くなった。

  • 文庫版が出たので再読。コミュニティの概念の変化を感じた。

  • ずっと気になっていました。
    芥川賞受賞というのもありますし、
    なんと言ってもタイトルと装丁のインパクト。
    ただ、個人的に河出文庫との相性があまり良くないので、どうかなあと不安でした。
    それでも手に取った理由は、純粋に気になったからです。

    あかりの推しである、
    アイドル上野真幸がファンを殴って炎上した。

    手のひらにおさまる小さな機械の中で、
    罵詈雑言、糾弾する声が
    どんどん溢れて加熱し、
    燃え上がっていく。

    修行僧のように
    たんたんとこんこんと推し活にいそしむあかり。
    それ以外は、何もできない。
    普通にみんながこなしていることができない。
    どんどんあかりの歯車も狂っていく。

    100%とは言わないけれど、
    あかりの気持ちがわかる気もします。
    特に19~20頃は私も狂ったように、同じアーティストのライブに行きまくっていたので。苦笑

    思春期(青春期)とアイドルを掛け合わせると、
    爆発的な力が生まれますよね。苦笑
    どう考えても日常のほとんどがその人のことで埋めつくされる。

    推しが同じ土俵に、世間に埋もれていくこと。
    自分以外の人間が推しを語り、
    押しの人柄や人となりを勝手に判断すること。
    とても不健康な危うい感情をどうすれば良いのか。
    うう~、と結構唸りながら読み進めました。苦笑

    いつか大好きな推しも年を重ねて中年になり、初老を迎える。
    時間は平等にあっという間。
    あかりはどう大人になっていくんだろう。
    短い本でしたが、ぐるぐると違和感と既視感と止まりませんでした。

  • ずっと読みたかったので、文庫でてる!と勢いで読み切った。頭をトンカチで殴られるみたいな衝撃。こんな文章が書ける人いるんだなっていう、感動?羨望?憧れというか、尊敬というか。ただただ圧倒された。話の中身は重くて苦しくて痛くて、身をぎりぎり締め付けられるみたいな。推しへの愛なのか、執着なのか。推しがいて初めて呼吸できる。いつまでも、何があっても、捨てることができない。読んでいて息を吐く暇がない。書いてあることに対して、文体はとてもポップで、冷静に進んでいくので、それがまたよかった。肉体の表現が生々しくて、ああそこに生きてるんだなって思った。背骨が印象的だった。

  • 単行本以来の再読。ネタバレ含みます。



    前回の自分のレビューは、「推し」に抱く感情ってどんなものぞや?ということが中心だった。
    今回は、家族とあかりの関係性に対する印象の方が残ったように思う。

    勉強も、バイトに類するような社会生活も、あかりは出来ないといけないものとは分かりながらも、出来ないままでいる。
    そうした状況を、父は元より、母も姉も理解することが〝出来ない〟。

    苦しみながら習得したことが、苦しみながら継続していることが、どうして当たり前だと思ってしまうんだろう。
    こんなこと、子どもだって出来るのに、とか。
    私だって、嫌だけど仕事行っているんだよ、とか。

    出来る側の人たちは、舞台を降りないわけだから、あかりが必死に舞台に上がるか、舞台を諦めるしかないことになる。

    最終的に、姉から一人暮らしを半ば強制されるシーンは、まるでカフカの『変身』である。
    家族から見えなくされ、少しずつ、少しずつ、絶たれていく。

    「ため息は埃のように居間に降りつもり、すすり泣きは床板の隙間や箪笥の木目に染み入った。家というものは、乱暴に引かれた椅子や扉の音が堆積し、歯軋りや小言が漏れ落ち続けることで、埃が溜まり黴が生えて、少しずつ古びていくものなのかもしれない」

    家とは、呪いだ。
    家にいながらにして、呪いから、一時逃げられる先が、推しという空間だったのかもしれない。

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著者プロフィール

1999年生まれ。2019年、『かか』で文藝賞を受賞しデビュー。同作は史上最年少で三島由紀夫賞受賞。第二作『推し、燃ゆ』は21年1月、芥川賞を受賞。同作は現在、世界14か国/地域で翻訳が決定している。

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