長靴をはいた猫 (河出文庫 528A)

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309460574

作品紹介・あらすじ

「赤頭巾ちゃん」にしても「眠れる森の美女」にしても、本来は血なまぐさくて荒々しく、セクシャルで残酷な民話だった。ペローの童話はその味わいを残しながら、一方では皮肉な人間観察や教訓にみち、童話文学の先駆的作品となった…この残酷で異様なメルヘンの世界を、渋沢龍彦はしなやかな日本語で甦らせた。独特の魅力あふれる片山健の装画をそえておくる決定版ペロー童話集。

感想・レビュー・書評

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  • 子ども向けというには毒があるし、児童書という区分では物足りない。
    とりあえず「小説」のカテゴリーにいれさせていただきました、シャルル様。
    表題作はもちろんのこと「赤ずきん」やら「シンデレラ」やら「青髭」や「眠りの森の美女」等々。
    誰もが知っているはずのお話が、目眩がするほどの残酷さと片山健氏の耽美的な挿し絵ですすめられる。
    絵本の挿し絵画家としてしか知らなかった片山氏だが、以前はこういう絵を描いていたのね。
    モノクロのあやうい世界観は、当時は前衛であったことだろう。
    「長靴をはいた猫」に登場する猫は、黒い眼帯をしてふんぞりかえり、悪知恵にたけていて小憎らしい。
    なるほどご主人様は見事に出世するけど、こんなことしちゃダメでしょ、の連続である。
    しかし、そこがまた面白く刺激的なのだ。
    全裸で森の中を歩く「赤ずきん」は警戒心のかけらもなく、オオカミに食べられておしまい。
    あっと声を上げたくなる展開の最後には、シャルル様の辛みの効いた「教訓」がある。
    「青髭」の教訓なんて、ちょっと胸がどきっとしますよ。
    何度読んでも面白い、大人子ども向け(?)の一冊。
    これを読んだ後では、グリムやディズニーが虚飾に満ちたものに見えてくるから不思議。
    でもグリムやディズニーが、幼少期には良いのでしょうね。

    ちなみに、子ども向けの絵本に「くつやのねこ」という作品がある。
    シャルル・ペローの「長靴をはいた猫」へのオマージュということになっているが、
    こちらも相当に美しい絵本です。おすすめ。

  • 再読。ペローの童話は、グリムなどより初期形態に近く、結末がやや残酷だったり投げっぱなしの印象。「赤頭巾ちゃん」は、狼に食べられたっきり、助けてもらえないエンド。

    「眠れる森の美女」は、王子様が無事眠り姫を起こしたあとに、別の話がくっついててしまってるバージョン。王子様の母親が、なぜか人食い鬼で、眠り姫と王子の間に出来た子供を食べようと画策、親切な料理人が子供を殺したふりをして別の動物を食べさせ…。最終的には人食い王妃退治の話になっちゃう。

    「親指太郎」はヘンゼルとグレーテル等と同じ原形の、子捨てエピソードから導入、末っ子機転で人食い鬼から兄弟を救うパターン。やたらと人食い鬼が出てくるの気になる。「青髭」「サンドリヨン~(シンデレラ)」「驢馬の皮」はお馴染みのあらすじ。

    片山健の挿画がファンタスティックなのにエロティックで良い感じ。

    ※収録
    「猫の親方あるいは長靴をはいた猫」「赤頭巾ちゃん」「仙女たち」「サンドリヨンあるいは小さなガラスの上靴」「捲き毛のリケ」「眠れる森の美女」「青髭」「親指太郎」「驢馬の皮」

  • 澁澤訳なので 独自の世界観に期待した
    絵が素晴らしいアバンギャルドな時代背景を感じる

  • 伝承・口承で語り継がれていた物語が本来持っていたセクシャルで残酷な血生臭さ、荒々しさの味わいを多分に残しながら、一方では風刺や教訓に満ちた『ペロー童話集』を、澁澤龍彦の柔らかな文章に独特の画風を持つ片山健の装画を添えてみるとメルヘンを越えて幻想譚になる──。

    岩波文庫から出ている『完訳 ペロー童話集』が学術的な視点から忠実に翻訳されているのに対して、こちらはやはり芸術家肌と言うか審美的な訳し方がされていると思います。
    物語の空気感が違います。表題作『猫の親分あるいは長靴をはいた猫』のほか、裸になっておばあさん(狼)のベッドに入ってしまう『赤頭巾ちゃん』、『捲き毛のリケ』などを収録。
    『完訳 ペロー童話集』のほうには収録されている、韻文体で書かれた3作「グルゼリディス」「滑稽な願いごと」は割愛、「驢馬の皮」が散文体で翻訳されてます。これが澁澤テイストがよく出ていて、文体の違いを気にせず充分面白く読めると思います。

  • ペロー童話といえば、「赤ずきん」や「長靴をはいた猫」、「眠れる森の美女」あたりが有名だろうか。数多くリライトもされ、そうして出版されるものの多くは「子供向け」にアレンジされている。
    だが、実は原作はかなり荒削り、ときに残酷、ときにかなり性的だ。それが逆に「味わい」でもあるのだが。
    ペローが採話した民間伝承・昔話がベースになり、そこにペローが多少の脚色と「教訓」を加えている。アカデミー・フランセーズの会員であったペローが、文芸サロンで発表したものを徐々に練り上げて形にしていったもので、そのあたりは別の本(『いま読む ペロー「昔話」』)に詳しい。

    河出文庫版は澁澤龍彦訳、底本はガルニエ古典叢書1967年版。
    収録作は、「猫の親方あるいは長靴をはいた猫」「赤頭巾ちゃん」「仙女たち」「サンドリヨンあるいは小さなガラスの上靴」「捲き毛のリケ」「眠れる森の美女」「青髯」「親指太郎」「驢馬の皮」の8編(こうしてタイトルを書き出してみるだけで、訳語や漢字の選び方に、澁澤のこだわりがそこはかとなく感じられるようにも思う)。
    原作にほぼ即しているが、最後の「驢馬の皮」のみは韻文であったものを散文形式に訳している。
    初出は創刊時(昭和45年)の雑誌「アンアン」だったそうで、「アンアン」てかなり尖がった雑誌だったのだな、というのも興味深いところである。

    グリム童話に比べてプリミティブで荒っぽいのがペローの味わい。
    「赤頭巾ちゃん」は狼に食べられっぱなしで終わる(猟師は助けに来てはくれない)し、「眠れる森の美女」は王子様に助けられてめでたしめでたしかと思えば、お姑さんが人食い鬼(!)で危うく子供もろとも食われそうになる。
    「えええー」と呆然としているところに、わかったようなわからないような「教訓」が最後に述べられ、「ああ、そう、なんですか・・・?」とさらにぽかんとしてしまう。
    「赤頭巾ちゃん」の教訓の一部はこんな風。
    狼は食べるのが商売なのだから
    食べられたって不思議はないのです。
    (中略)
    牙をかくし、爪をかくし
    御機嫌とりの、甘い言葉をささやきながら
    (中略)
    この甘ったるい狼ほど、
    危険なものはないのです。

    ・・・赤頭巾ちゃん、可哀そうだったけど、自己責任なの、これ・・・?

    澁澤の流麗な訳に、片山健の妖しく美しい絵。どこか四谷シモンの人形なども連想させる、異界のエロス。少女性愛なども匂わせる。
    そういう意味で強烈なのは最終話の「驢馬の皮」。これはあまり知られていないお話ではないかと思うが、一種の貴種流離譚である。
    強く富もある王様、美しい王妃、一粒種のかわいい姫。何不自由ない一家に不幸が訪れ、お妃が亡くなってしまう。父王は悲しみのあまり、正気を失い、母の面影を宿す姫を恋い慕うようになってしまう。姫は何とか父の気を逸らそうとするがうまくいかず、父との結婚を強いられそうになる。辛くも驢馬の皮をかぶって宮廷を逃れ、とある農家で下女として働くようになる。
    最終的には姫は自身の幸せを見つけ、父王も正気を取り戻すのだが、子供に読み聞かせるにはあまり向かないお話かもしれない。

    タイトル・表紙絵に「長靴をはいた猫」が採られているのは澁澤の希望による。雑誌連載時も片山の挿絵で、澁澤は特にこの「猫」が気に入っていたのだという。
    澁澤は巻末解説で、「ダヤン将軍のように眼帯をしている」と述べているが、ダヤンとはイスラエルの英雄で、第二次大戦時に眼を負傷し、隻眼の将軍として知られた人物である。

    現実を離れた味わいが魅力。時には異界に遊ぶのも悪くはない。
    でも、狼には気をつけて・・・!

  • 子供向けじゃない童話という感じで、予想以上に楽しめた。
    赤頭巾や眠れる森の美女は有名なんだけど、私の知っている話とちょっと違った。特に眠れる森の美女は途中から「あれ、こんな話だっけ?」と展開に驚いた。私の知っている話は子供向けバージョンだったんだな……。この童話はけっこう残酷なところもある。各話の終わりにある「教訓」も大人がニヤリとできるものが多い。そして挿絵もちょっと官能的で独特な味がある。

  • 非常に読みやすく、面白かった。
    挿絵がとてもいい。えろちっくで、中身のイメージを作ってしまう感じではあったけども、このイメージでいいのかい?赤ずきんとか。
    表紙かわいすぎ。

    • だいさん
      赤ずきんも眠れる森の美女も破瓜期である
      そのような挿絵はあまりない
      赤ずきんも眠れる森の美女も破瓜期である
      そのような挿絵はあまりない
      2015/07/18
  • 二十年以上ぶりに紐解く。まだ文庫といえば岩波か新潮くらいしか読むものはなく、だんだん文庫化が多くなった時代のころ。澁澤といえば、中学の頃は、なけなしのお小遣をためて、またあの素敵な装丁をなんだかこそこそ買っていたのを思い出す。
    本に何も書かないほうなのに1989の一月の日付をスタンプしている(笑)
    引っ越す度にでも古本にだしていないのは、文庫だからかしらん。

    挿絵もよく、女の子だった私には馴染みの多いものでしたが、これを読んだときは、教訓が面白かったのを思い出します。 まさか刺繍を再開しはじめてまた手にとるとは思わなかったけれど…。
    近々またお墓参り行こうっと。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「挿絵もよく」
      片山健の耽美な絵にドキドキしました。大和書房の「夢の王国」シリーズは、画家が本当に素晴しかったですね、、、と文庫じゃない話を...
      「挿絵もよく」
      片山健の耽美な絵にドキドキしました。大和書房の「夢の王国」シリーズは、画家が本当に素晴しかったですね、、、と文庫じゃない話をしてしまう猫でした。。。
      2012/10/22
  • 猫の親方カッコよすぎ

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「猫の親方カッコよすぎ 」
      仰言る通りですね。しかし片山健画伯のイラストが、、、艶かしくて、、、思わず赤面。。。
      「猫の親方カッコよすぎ 」
      仰言る通りですね。しかし片山健画伯のイラストが、、、艶かしくて、、、思わず赤面。。。
      2012/10/01
  • 澁澤龍彦 訳

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