西瓜糖の日々 (河出文庫 フ 5-1)

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (209ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309462301

作品紹介・あらすじ

コミューン的な場所、アイデス"iDeath"と"忘れられた世界"、そして私たちとおんなじ言葉を話すことができる虎たち。西瓜糖の甘くて残酷な世界が夢見る幸福とは何だろうか…。澄明で静かな西瓜糖世界の人々の平和・愛・暴力・流血を描き、現代社会をあざやかに映して若者たちを熱狂させた詩的幻想小説。ブローティガンの代表作。

感想・レビュー・書評

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  • ある男が西瓜糖でできた世界で暮らす物語。短い章と風変わりな章題、アイデス〈iDeath〉〈失われた世界〉喋れる虎などなど、意味づけを読み取ろうとしてもわからない。そのまま静かで不思議で美しいのに残酷でもある世界を想像しながら読んだ。

  • 詩的・幻想的な世界観の短い小説。「西瓜糖の世界で」「インボイル」「マーガレット」の3チャプターに分かれる。さらにその内部が最短2行から5ページぐらいまでの掌編として区切られる構成となっている。

    舞台は現実の世界ではない。"わたし"が住むその世界では建物・家具・服などさまざまなものが西瓜糖でつくられている。人口は約三百七十五人。人びとはそれぞれに仕事をもち、日々を過ごしている。かつては人間と同じく言葉を操る虎たちの時代で、"わたし"も虎によって両親を失っている。世界のはずれには果てしなく広がる<忘れられた世界>につながる入り口が存在する。<忘れられた世界>との境界にはならず者たちが集う。のどかな西瓜糖の世界を紹介する第一編に始まり、第二編ではインボイルを中心とした荒くれたちの登場が転機となる。

    同著者の『アメリカの鱒釣り』はどう読んでよいのかもわからずに終わったのだが、寓話のような本作はかなり趣きが異なり、終わりまで物語を楽しめた。よく似ていると感じた作品があり、それは村上春樹の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』のなかの半分である「世界の終り」フェイズである。箱庭的な世界観、外部の存在、キーとなる動物など、物語の舞台に多くの共通点がある。また、"わたし"の語り口調とやや浮世離れした言動も村上春樹の比較的初期の作品の主人公たちと相通じる。恋人との語らいの様子なども同じく近しいものがある。それ以前から村上氏がブローティガンの影響を受けていただけでなく、もしかすると『世界の終り〜』刊行前年のブローティガンの自殺が、直接的にも作品を書かせるモチベーションになったのだろうか。

    読み終わってからも、"わたし"が暮らすアイデス(iDEATH)や、広大な外部である<忘れられた世界>、インボイルたちのファナティックな行動、そしてマーガレットのありようなど、それらは何を意味したのかとぼんやり考える。西瓜糖の世界には独特の居心地のよさを感じた。短いこともあって、興味はあるけどなんとなく未読だという方にはとくに一読をおすすめしたい。

  • 初ブローティガン。
    原題”In Watermelon Sugar”。
    全88断章が連なる、寓話。
    「西瓜糖の世界で」「インボイル」「マーガレット」の3チャプター。
    寓意は簡単に判りそうな気も、する。
    時間と、忘却と、生と死と、無関心と、自己欺瞞と……。
    が、あまり茫漠としすぎていて、全然判らないという気も、する。
    つまり村上春樹っぽい。
    影響関係でいえば逆なのだが。
    (また、高橋源一郎、小川洋子、柴田元幸、岸本佐知子、etc...)
    SFではないが、ユートピア≒ディストピア、の系列。
    また、地図を描きたくなる。
    アイデス : 忘れられた世界
    あるいは忘れられた世界の中に孤島のようにアイデスがあり、アイデスの住人の住居はその辺縁にある?
    人々(わたし、チャーリー、ポーリーン)(マーガレット→) : インボイル
    という構図か。
    清教徒的・小市民的生活と、対立。
    時系列的にヒッピーから生まれた文芸では決してないらしいが、やはりヒッピーとの親近性はありそう。
    語り手の「わたし」がむしろ阻害「する」側で、インボイルやマーガレットのほうが読者に近い。はず。人間っぽい。
    語り手が実は鼻持ちならない側、というのも、春樹っぽい。

    連想。
    タイガー立石「とらのゆめ」。
    虎と西瓜から。
    ドラッギーなところとか。

    連想2。
    突飛かもしれないが、「マインクラフト」。
    世界の素材が西瓜糖、というところから。

    藤本和子の文体、好き。
    訳書をいくつか読んでから「塩を食う女たち――聞書・北米の黒人女性」を読みたい。

    • knkt09222さん
      確かに翻訳を読むときは「よいしょっ」と気合が要りますね。
      『すばらしい新世界』のご感想を拝見しました。
      いつか読みたいと思っていたので、...
      確かに翻訳を読むときは「よいしょっ」と気合が要りますね。
      『すばらしい新世界』のご感想を拝見しました。
      いつか読みたいと思っていたので、読むリストに入れ直してみます。
      2023/12/13
    • 傍らに珈琲を。さん
      わぁ有難う御座います!
      とっても嬉しいです!
      私はですね、調子に乗って『華氏451度』も『ソラリス』も『一九八四年』もここに積んでるのですが...
      わぁ有難う御座います!
      とっても嬉しいです!
      私はですね、調子に乗って『華氏451度』も『ソラリス』も『一九八四年』もここに積んでるのですが…
      まだ「よいしょっ」となれずにおります 笑
      2023/12/13
    • knkt09222さん
      その3作、映画という裏技もありますが……。
      「すばらしい新世界」は映画がないので読んでみます!
      その3作、映画という裏技もありますが……。
      「すばらしい新世界」は映画がないので読んでみます!
      2023/12/14
  • いつか読まねば、とずいぶん前から本棚に並んでいたのだけど、なかかなか手が伸びなかった本。小川洋子さんが大「偏愛書」と紹介していた文章を読んだのをきっかけに、ついに開いた。最初、なんだ、これは、と感じつつ、なんとかかみ砕こうと読んでいたけど、途中からぐいっと腕をつかまれたかのように引き込まれた。ちょっと小川さんぽい、と感じたのは先入観かもしれないけど、絵本のような時間をくれる余白と、ゆっくりと進む西瓜糖の日々に訪れる、目を覆いたくなるような事柄が、生きることの複雑さと、どうしよもなさを思わせてくれる。古い本こそ、新しい。とても。

  • もしかしたらかつて〈忘れられた〉別の時代があって、いろんな思惑や策略のために、一度めちゃめちゃになった後にできたのが西瓜糖の世界なのかもしれない。
    支配したり、裁いたりする存在がいない世界は、わたしたちのそれより、ほんのちょっと甘く、やさしい。

  •  西瓜が好きである。だが、この小説に出てくる西瓜は日本のような西瓜の形はしていないと、解説で書いてある。

     読み終えてから、これから書くことの箇条書きリストが書いてある最初に戻ると、また最初から読まないとな……と読み進めてしまう気分になる。
     全編にわたって、鱒と西瓜糖がとにかく出てくる。だが、不思議と西瓜は食べたくなく、むしろ鱒が食べたくなる。とにかく鱒。P136の鱒の孵化場は、かつていた虎の最後の一匹が殺された場所。祭りと埋葬の場所でもある。西瓜と虎と魚たちである。虎を殺した方法はよくわからない。読み飛ばしたのかも。

     多和田葉子の飛魂と対比できそうな気がするが、影響はあったのだろうか。

     この本の目次には死人の名前しか載ってない。インボイルとマーガレットの死がこの世界ではとても印象的であり、他のやり取りはひたすら静かだ。インボイルとマーガレットで作者が何を言いたかったのか、とにかくものすごく苦しいからこれを書きたかったから書いたという感じなのだろうけれど、その切なさが、虎が両親を食って、仕方ないんだよみたいなところに出ているように思った。そして虎が仕方ないと言うように、主人公達も、忘れられた世界に固執したインボイルやマーガレットの自殺を仕方ないとしている。
     この本が妙に惹かれるのは、死を漂う濃霧のように書いていて、その濃霧の森のなかで、村人が普通に魚や畑を耕して生活している、その不気味さ、不思議さが面白いからだろうと思った。

  • 『西瓜糖の日々』R.ブローティガン
    その世界はほとんどのものを西瓜糖で作っている。語り手は少し前まで彫刻を彫っていたが、本を書くことを仕事に変える。
    彼(物語のなかでは明確にされていない。もし彼女ならそれはそれで物凄く面白い)には過去に愛したマーガレットと、今愛しているポーリーンがおり、マーガレットとポーリーンは幼い頃からの友達である。
    この西瓜糖の世界のすぐ隣には(と言うのか、その他の全ては)〝忘れられた世界〟があり、そこを人々は好まずに〝アイデス〟という彼らにとっての理想郷での生活を平穏に静謐に送っている。
    今は静かなアイデスには少し前〝虎の時代〟があり、主人公の両親はかれらに食われているが、その時主人公は虎たちに算数を教えてもらっている。虎たちは美しい声を持っていたが、もうほとんどの人々はその声を忘れている。
    感情の起伏のないような〝アイデス〟に耐えきれなくなったインボイルはある日から〝忘れられた世界〟のすぐ側に住み、忘れられたものたちを醸造してはウィスキーを作りだし酔っ払う生活を始めた。それに賛同する輩がインボイルのまわりに集まり、〝アイデス〟の人々は彼等を無いもののように扱う。
    この物語のなかで、何度も出てくる〝マーガレットはひどく悲しんでいる〟ことについて、主人公は誰にその理由を聞かれても〝知らない〟と答えている。それはまるで感情が感じられない、自分の感情も他人の感情も無いものような場所なのだと思えました。
    インボイルが主人公たちに唱える〝ここがアイデスだなんて、理想郷だなんて、何もわかっちゃいない!〟という言葉にはそんなことが含まれているように思える。
    全体的に詩的な、幻想的な世界観は読んでいて時間の流れをおかしくするようだった。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「全体的に詩的な、幻想的な世界観」
      アンチユートピア小説の傑作。美しいイメージに酔いながら、ゾっとしている自分に気付く。。。
      「全体的に詩的な、幻想的な世界観」
      アンチユートピア小説の傑作。美しいイメージに酔いながら、ゾっとしている自分に気付く。。。
      2013/02/02
    • akitukiyukaさん
      私も、何度も読み返す部分がありました。読んでいくことがまるで見知らぬ無人の町に脚を進めるようで小さく染み付く不安がざわざわするのが分かりまし...
      私も、何度も読み返す部分がありました。読んでいくことがまるで見知らぬ無人の町に脚を進めるようで小さく染み付く不安がざわざわするのが分かりました。
      2013/02/04
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「読んでいくことがまるで見知らぬ無人の町に」
      見知らぬ無人の町、、、口に出来ない不安を上手く言い表してますね。
      レビューを拝見して、久々に読...
      「読んでいくことがまるで見知らぬ無人の町に」
      見知らぬ無人の町、、、口に出来ない不安を上手く言い表してますね。
      レビューを拝見して、久々に読みたくなってきた。「西瓜糖の日々」「愛のゆくえ」と続けて読もう。。。
      2013/02/06
  • ふと思いだす。
    わたしの愛する本たちから――わたしの書いた物語からすらも――ひそかに匂う、どこまでも静かで、どこまでも安らかなもの。
    これは『死』だ。

    現実をおそれ、夢をみたいとねがうこと。わたしにとってほんのささやかな希望であるそれすらも、『死』という深淵を覗きこんでいるということには他ならない。むしろ、その『死』の放つ香りに魅せられているのかもしれない。
    だがわたしたちの求めているものは、もっと先だ。もっと先にあるものだ。『死』の安らぎを受け入れたからこそ、見つめることができるもの。
    そう、今、世界は眠りたがっている。それでも。それでも人は――

    この本のきらめきを、わたしはまだ言葉にはできない。アイデス<iDEATH>の意味するものを、はっきりとした輪郭でとらえることができない。
    でもわたしはこう言うことはできる。今こそ声高らかに叫ぼう。「それでも人は美しい」と。

    なぜそう言えるのかはわからない。理由を答えるには、わたしはまだ多くのことを知らない。
    でも、だからこそわたしはずっと自分自身に問い続けていくのだと思う。きっとそれが『生きる』ということだ。きっと。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「「それでも人は美しい」と。」
      淡々とした文章で人を愛し表現した作家ですね。日本では、もっと受け入れられそうなのに、、、
      「「それでも人は美しい」と。」
      淡々とした文章で人を愛し表現した作家ですね。日本では、もっと受け入れられそうなのに、、、
      2013/01/15
  • これは最初ちょろっと読んで、なんかわけがわからないので、読むのをやめたのだが、架空の田舎。妙に過疎なのだが平地部でそこで、フルーツな話をしてるのだろうかな。

  • 現代的な感覚からすると、世界観に設定が少なく、物足りない気もするけれど、だからこそ古臭くならないのかも。由来は異なるけれど、シュルレアリスム絵画に描かれる無意識の世界のように感じた。
    また、後世の多くの作家と作品に影響を与えていることも読み取れた。忙しなく読み進めてしまったけれど、もう少しゆっくりした時間のなかで読んでみるとまた違った印象を持つかもしれない。

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著者プロフィール

作家、詩人。1935年、ワシントン州タコマ生まれ。56年、ジャック・ケルアック、アレン・ギンズバーグらビート・ジェネレーションの集うサンフランシスコへ。67年に小説『アメリカの鱒釣り』を刊行、世界的ベストセラーとなる。主な著作に『西瓜糖の日々』『ビッグ・サーの南軍将軍』など。風変わりで諧謔に富んだ作風は世界中の若者たちの想像力をかき立てた。84年、ピストル自殺。

「2023年 『ここに素敵なものがある』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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