西瓜糖の日々 (河出文庫)

  • 河出書房新社
3.87
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本棚登録 : 1570
レビュー : 168
  • Amazon.co.jp ・本 (209ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309462301

作品紹介・あらすじ

コミューン的な場所、アイデス"iDeath"と"忘れられた世界"、そして私たちとおんなじ言葉を話すことができる虎たち。西瓜糖の甘くて残酷な世界が夢見る幸福とは何だろうか…。澄明で静かな西瓜糖世界の人々の平和・愛・暴力・流血を描き、現代社会をあざやかに映して若者たちを熱狂させた詩的幻想小説。ブローティガンの代表作。

感想・レビュー・書評

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  •  西瓜が好きである。だが、この小説に出てくる西瓜は日本のような西瓜の形はしていないと、解説で書いてある。

     読み終えてから、これから書くことの箇条書きリストが書いてある最初に戻ると、また最初から読まないとな……と読み進めてしまう気分になる。
     全編にわたって、鱒と西瓜糖がとにかく出てくる。だが、不思議と西瓜は食べたくなく、むしろ鱒が食べたくなる。とにかく鱒。P136の鱒の孵化場は、かつていた虎の最後の一匹が殺された場所。祭りと埋葬の場所でもある。西瓜と虎と魚たちである。虎を殺した方法はよくわからない。読み飛ばしたのかも。

     多和田葉子の飛魂と対比できそうな気がするが、影響はあったのだろうか。

     この本の目次には死人の名前しか載ってない。インボイルとマーガレットの死がこの世界ではとても印象的であり、他のやり取りはひたすら静かだ。インボイルとマーガレットで作者が何を言いたかったのか、とにかくものすごく苦しいからこれを書きたかったから書いたという感じなのだろうけれど、その切なさが、虎が両親を食って、仕方ないんだよみたいなところに出ているように思った。そして虎が仕方ないと言うように、主人公達も、忘れられた世界に固執したインボイルやマーガレットの自殺を仕方ないとしている。
     この本が妙に惹かれるのは、死を漂う濃霧のように書いていて、その濃霧の森のなかで、村人が普通に魚や畑を耕して生活している、その不気味さ、不思議さが面白いからだろうと思った。

  • ふと思いだす。
    わたしの愛する本たちから――わたしの書いた物語からすらも――ひそかに匂う、どこまでも静かで、どこまでも安らかなもの。
    これは『死』だ。

    現実をおそれ、夢をみたいとねがうこと。わたしにとってほんのささやかな希望であるそれすらも、『死』という深淵を覗きこんでいるということには他ならない。むしろ、その『死』の放つ香りに魅せられているのかもしれない。
    だがわたしたちの求めているものは、もっと先だ。もっと先にあるものだ。『死』の安らぎを受け入れたからこそ、見つめることができるもの。
    そう、今、世界は眠りたがっている。それでも。それでも人は――

    この本のきらめきを、わたしはまだ言葉にはできない。アイデス<iDEATH>の意味するものを、はっきりとした輪郭でとらえることができない。
    でもわたしはこう言うことはできる。今こそ声高らかに叫ぼう。「それでも人は美しい」と。

    なぜそう言えるのかはわからない。理由を答えるには、わたしはまだ多くのことを知らない。
    でも、だからこそわたしはずっと自分自身に問い続けていくのだと思う。きっとそれが『生きる』ということだ。きっと。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「「それでも人は美しい」と。」
      淡々とした文章で人を愛し表現した作家ですね。日本では、もっと受け入れられそうなのに、、、
      「「それでも人は美しい」と。」
      淡々とした文章で人を愛し表現した作家ですね。日本では、もっと受け入れられそうなのに、、、
      2013/01/15
  • 『西瓜糖の日々』R.ブローティガン
    その世界はほとんどのものを西瓜糖で作っている。語り手は少し前まで彫刻を彫っていたが、本を書くことを仕事に変える。
    彼(物語のなかでは明確にされていない。もし彼女ならそれはそれで物凄く面白い)には過去に愛したマーガレットと、今愛しているポーリーンがおり、マーガレットとポーリーンは幼い頃からの友達である。
    この西瓜糖の世界のすぐ隣には(と言うのか、その他の全ては)〝忘れられた世界〟があり、そこを人々は好まずに〝アイデス〟という彼らにとっての理想郷での生活を平穏に静謐に送っている。
    今は静かなアイデスには少し前〝虎の時代〟があり、主人公の両親はかれらに食われているが、その時主人公は虎たちに算数を教えてもらっている。虎たちは美しい声を持っていたが、もうほとんどの人々はその声を忘れている。
    感情の起伏のないような〝アイデス〟に耐えきれなくなったインボイルはある日から〝忘れられた世界〟のすぐ側に住み、忘れられたものたちを醸造してはウィスキーを作りだし酔っ払う生活を始めた。それに賛同する輩がインボイルのまわりに集まり、〝アイデス〟の人々は彼等を無いもののように扱う。
    この物語のなかで、何度も出てくる〝マーガレットはひどく悲しんでいる〟ことについて、主人公は誰にその理由を聞かれても〝知らない〟と答えている。それはまるで感情が感じられない、自分の感情も他人の感情も無いものような場所なのだと思えました。
    インボイルが主人公たちに唱える〝ここがアイデスだなんて、理想郷だなんて、何もわかっちゃいない!〟という言葉にはそんなことが含まれているように思える。
    全体的に詩的な、幻想的な世界観は読んでいて時間の流れをおかしくするようだった。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「全体的に詩的な、幻想的な世界観」
      アンチユートピア小説の傑作。美しいイメージに酔いながら、ゾっとしている自分に気付く。。。
      「全体的に詩的な、幻想的な世界観」
      アンチユートピア小説の傑作。美しいイメージに酔いながら、ゾっとしている自分に気付く。。。
      2013/02/02
    • akitukiyukaさん
      私も、何度も読み返す部分がありました。読んでいくことがまるで見知らぬ無人の町に脚を進めるようで小さく染み付く不安がざわざわするのが分かりまし...
      私も、何度も読み返す部分がありました。読んでいくことがまるで見知らぬ無人の町に脚を進めるようで小さく染み付く不安がざわざわするのが分かりました。
      2013/02/04
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「読んでいくことがまるで見知らぬ無人の町に」
      見知らぬ無人の町、、、口に出来ない不安を上手く言い表してますね。
      レビューを拝見して、久々に読...
      「読んでいくことがまるで見知らぬ無人の町に」
      見知らぬ無人の町、、、口に出来ない不安を上手く言い表してますね。
      レビューを拝見して、久々に読みたくなってきた。「西瓜糖の日々」「愛のゆくえ」と続けて読もう。。。
      2013/02/06
  • ひんやりと薄甘くて透き通るような静かな世界が「西瓜糖」という言葉にぴったり。
    ブローティガンは詩人だけあって、小説だけど詩みたいでした。
    深読みしようと思えばいくらでも出来るけど、あえてそうしないで、言葉の間をたゆたうように味わいたい本。
    なぜか「銀河鉄道の夜」に出てくる鳥を捕まえてお菓子にしてしまう場面を思い出しました。あれはきっと西瓜糖の味だと思う。
    西瓜糖もあの鳥も、すごく死に近い場所にある甘さだと思う。

  • 邦題でひねったのかな?と思っていたけれど、原題は"In Watermelon Sugar"とストレート。でも、ちょっとした邦題の細工はやっぱりナイス。

    西瓜糖でできた世界の住人である、「わたし」の生活をつないだ物語。隣人たちと恋人、仕事のあいだで、淡々と日常のひとこまが描かれ、短い章立てで日々が紡がれていく。一見穏やかでファンタジックで、なんの問題もないように見える。穏やかすぎて、逆に「そんなんでいいのか?」と、不安になるくらい。

    意外に思ったのは、西瓜糖でできたメロウなこの世界は、主人公にとって、完成されて快適な世界ではあるけれど、必ずしもハッピーな世界ではないらしい、ということ。たしかに、安心して生きてはいけるけれど、逆にいえば、西瓜糖しかない、何もかもが単純すぎる世界。深く考えて生きることのない世界だということが、人物描写や関係を掘り下げずに、意図的に浅く描いた(と思う)ことからも感じられる。だから、インボイルはこの世界に絶望を感じ、マーガレットは「忘れられた世界」にあんなに引き込まれたのだろう。読み終わって、ヴィアン『うたかたの日々』に通じる、完成された世界と嘆きの物語だと思った。『うたかた―』のニコラのような高揚感は、主人公にはないけれど…ただし、野崎歓さんの『うたかた―』解釈なら、ニコラとこの主人公のスタンスはほとんど同じになるのかもしれない。

    品よい翻訳が心地よいとは聞いていたのですが、個人的には、アーティチョークやブルーベルなど、今はカタカナで通じる植物の名前が、「朝鮮薊」「はまべんけい草」と、和名で訳されているのが穏やかで素敵だと思いました。柴田元幸さんの解説にあるように、ブローティガンの一連の作品は、放浪と理想の共同体を求めるノマド文化のなかで評価された作品らしい。でも、この作品は、そこを特に意識しなくても、作りもののなかで生きるあいまいさと浅さが甘く、どぎつくない冷やかさで描かれたファンタジックな物語で、意外に好みだったので、この☆の数です。

  • 生きていて良かった、と心から思えた本。
    近い時期にこの人が生きていてよかった。日本にも来てたんだよね。
    最後は猟銃自殺。繊細すぎたんだろうか、彼の見ている世界だけ美しすぎたんだろうか。

  • 多くのものが西瓜糖で作られている世界。
    死後を思わせるような、<過剰でない>平穏な人々。
    詩的な幻想ながら、藤本和子さんの翻訳が見事で読みやすかった。
    なんとなく、長野まゆみさんを思い出す。もしかしかたらブローティガンがお好きなのかもしれない。
    『ビッグ・サーの南軍将軍』もいつか読みたい。

  • パキパキと区切られているのが詩集みたいでさらさら読める。幻想的で透明感もあるけれど、インボイル達の最期が狂気じみている。さらさら読めるのに陰があるせいか、不思議な読後感。

  • 静謐で優しく、「過度なもの」が何もない世界。そこにはまるで死後の世界のような空気が漂っていて、読んでいるとなんだか足元が覚束ないような不安に襲われる。世界の成り立ちや歴史は明確に説明されないし、「虎」や「失われた世界」がなんだったのかは結局分からない。失われた世界にあった過度なものに魅せられた人々はみんな自壊してゆくが、作者はそれを否定も肯定もしない。もちろん、それと同じまなざしはアイデス側の人間達にも向けられているが。ほんのりと懐かしい甘い香りがしそうな、まさしく「文学」と呼ぶべき小説だった。

  • 幻想的な世界観と詩的な文章がとても心地よかった。西瓜糖でできた不思議な世界。理想的に見えて理想ではない世界なのだが、私は気に入りました。なかでも、狐火と共にガラスの柩に入れて川に沈めるという西瓜糖世界式のお墓が特に気に入った。夜にはその火が川底でぼんやり光って見えるというのが美しく、お墓なのに暖かみがあって良い。自分がこの世界の住人だったら夜の散歩が趣味になるだろうな。

    穏やか過ぎると言ってもいいくらい穏やかな人々の住むその世界はとても平和そうだが、その平和は〈忘られた世界〉に象徴されるようにたくさんの忘却の上に成り立っているように見える。彼らの世界には本がなく、いまや自分たちの世界の成り立ちすら誰も知らない。無知こそが平穏の唯一の方法だと感じることも私はあるが、それを余計なことを知らないと言うべきか真に大切なことを知らないと言うべきかはとても決めかねる。無知と人々の均一性が全体の平和をもたらすというのは確かにそのように思えるが、それは真の平和なのか、他の方法はないのか……。

    とまあ他にも示唆的な内容をたくさん含んでいるのだが、直の感想としてはとにかく全体の薄甘く生温かい詩的な雰囲気にほろ酔いの心地でした。

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