不在の騎士 (河出文庫)

制作 : 米川 良夫 
  • 河出書房新社
3.63
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本棚登録 : 253
レビュー : 25
  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309462615

作品紹介・あらすじ

中世騎士道の時代、シャルルマーニュ麾下のフランス軍勇将のなかに、かなり風変わりな騎士がいた。その真っ白い甲冑のなかは、空洞、誰も入っていない空っぽ…。『まっぷたつの子爵』『木のぼり男爵』とともに、空想的な"歴史"三部作の一作品である奇想天外な小説。現代への寓意的な批判を込めながら、破天荒な想像力と冒険的な筋立てが愉しい傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 『まっぷたつの子爵』『木のぼり男爵』から続く三部作の一つ。子爵、男爵、ときて最後は騎士。白い甲冑の騎士アジルールフォには鎧の中の実体がない。甲冑の中は空洞。なぜそうなったのか、という説明はいっさいされず、ただ「そのようなもの」として彼は存在する。いや、存在してないのか?(笑)なかなかに悲劇的な状況だと思うのだけれど、アジルールフォ自身の行動はわりとコミカル。高潔で優秀な騎士ではあるけれど、真面目すぎてちょっとみんなに煙たがられてたり、不在ゆえ食事や睡眠の必要がないので、食事中は無駄にお肉を細かく切ったりパンを丸めてそれを並べたりしてる・・・。

    そんな彼になぜかちょっと憧れを抱いてしまう、新入りの若者ランバルド。父親の仇を取ろうと頑張ってるが、なんというか、敵討ちハイとでもいうような精神状態になっており、空回りっぷりがひどい。さらに彼が恋する女騎士ブラダマンテ。彼女もまた、女騎士なんてかっこいい!という読者の期待を裏切って(?)実は掃除洗濯片づけが苦手な汚部屋の住人、異性関係もわりとだらしないので周囲の騎士たちからあまり敬意を払われていない様子。この女騎士にランバルドが一目惚れするも、女騎士はなぜかアジルールフォに夢中、ちょっとした三角関係に。

    ここにもう一人、トリスモンドというややこしい若者が絡んでくる。かつてアジルールフォが悪漢から救い出した処女、その功績を称えられてアジルールフォは騎士に任命されたのだけれど、この助けた女性が処女でなければどうやらこの名誉は無効になるものらしい。しかしトリスモンドは彼女は処女ではなかった、なぜなら私の母だから!と言い張る。互いの真実を証明するためにそれぞれ旅立つトリスモンドとアジルールフォ、そのアジルールフォをおっかける女騎士、その女騎士をおっかけるランバルト。

    さらに興味深い人物として、アジルールフォの従者となるグルドゥルーという男がいます。彼には本来名前がなく、そして同時に複数の名前を持ってもいる。アヒルにもカエルにもスープにも梨の木にも彼は同化してしまい自分が何者かを理解していないけれど、同時にすべてのものになれる。不在の騎士の対極のようなキャラクターですね。

    最終的にトリスモンドはギリシャ悲劇かシェイクスピアかという近親相姦劇を一人で繰り広げ、一人で解決し(笑)、アジルールフォは真相を知らないまま姿を消す。そして物語の語り手としてたびたび登場していた修道尼が何者であったのかが最後に明かされ、語り手と語られていた物語が一つになるというカタルシス。

    かなりコミカルで、童話的でありながら、下ネタというかエロティックな場面も豊富。ユーモラスだけどブラックユーモアでもあり、子供むけのおとぎばなしのようなお話なのに子供には読ませられなさそう。そしてわりとストレートに「存在する」とはどういうことか、という疑問が投げかけられ、いくつかの答えが用意されている。テーマが明快なのに教訓くさくはなく、物語として単純に面白いのが良かった。

  • 中世騎士道の時代、シャルルマーニュ麾下のフランス軍勇将のなかに、かなり風変わりな騎士がいた。その真っ白い甲冑のなかは、空洞、誰も入っていない空っぽ…。『まっぷたつの子爵』『木のぼり男爵』とともに、空想的な“歴史”三部作の一作品である奇想天外な小説。現代への寓意的な批判を込めながら、破天荒な想像力と冒険的な筋立てが愉しい傑作。

  • 9/14 読了。
    舞台はシャルルマーニュ率いる中世の仏軍。磨き上げた白銅の鎧を身に付け、冑の上には虹色の羽根飾りを差した騎士が目庇を上げると、その中は空っぽだった。不在であるがゆえに正確無比で完璧すぎる騎士アジルールフォと、彼に恋する女騎士ブラダマンテ、ブラダマンテに恋する青年ランバルド、そして人の体を持ちながら何にでもなれる下男のグルドゥルー。同じことの繰り返しで様式化した戦の中、一行は騎士としてのアイデンティティを問う旅に出る。
    空っぽ騎士アジルールフォの偏屈キャラがかわいい。宴会でご飯食べないのに料理運んで来させて、肉をひたすら細かく切り分けたりパンを粉になるまで裂いたりする。民話を題材にした人形劇を見るようなコミカルさと愛嬌がありつつ、かなり強引な語り口でメタフィクショナルに終わるカルヴィーノらしい物語。

  • 息してるだけでは生きてるとは言えないのかなと。存在に対する面白い視点。

  • イタリアの作家イタロ・カルヴィーノの1959年の作品です。
    シャルルマーニュの時代、彼の廷臣の中に存在しないのに存在している「不在の騎士」アジルルーフォを中心に、それぞれの存在を確かなものにするために、証しを求める冒険譚です。
    存在をキーワードにしていますが、小難しい話ではなく、奇想天外な展開、ユーモアもあればエロスもあります。そして、話は意外な展開を見せます。ファンタジーとしてしっかり楽しめますよ。

    原書名:IL CAVALIERE INESISTENTE(Calvino,Italo, 1923-1985 )
    著者:イタロ・カルヴィーノ(1923-1985)
    訳者:米川良夫(1931-2006)

  • 人を「その人」たらしめているものというのは一体何なのだろうか。第三者がある人を特定の人物と認識するのは、例えば容姿だったり、声音だったり、その振る舞いだったりと、肉体的な要素が多いように思う。
    一方、「自己が何者か」を認識するのに一番重要なもの。私にとって、それは記憶だ。記憶がなくなってしまったら、自分が誰なのか何者なのか確かめるすべはなくなる。勿論現代科学のうえでは私が「私」であることを証明することはいくらでもできるのだろう。だがそうなった時、私自身の中では何処か信じきれないまま、もやもやした気持ちになるだろうなと思う。結局私が私である、と実感できるのは、「私」を名乗りながら生きてきた人生の記憶があるからだ。
    この作品の主人公であるアジルールフォは、高潔な人柄で武術にもすぐれた、理想的な騎士だ。
    だがタイトルが示す通り、彼には実体がない。
    眩く輝く白い甲冑の中は空洞で、彼の存在と言えば騎士としての強固な意志のみ。それが唯一アジルールフォを彼たらしめている。

    主題だけ見ると重そうだが、軽妙な筆に乗せられて終始楽しく読み進んだ。騎士物語の王道的展開をパロディにしたところも見受けられ、思わずにやりとすることもしばしば。ランバルドがブラダマンテに一目惚れするシーンや聖杯の神聖騎士団の描写は、人が悪いなあと思ったけどね。
    結末まで読むと、アジルールフォの「存在」の拠り所って何だったんだろうと少し切なくなった。
    重い筆致じゃないのに、読後却って、冒頭に書いたようなことをつらつらと考えてしまう。

  • メモ:
    姿が見えない騎士の奮闘。ドン・キホーテ風。

  • 前に「見えない都市」を読んだのだけれど、すごくわかりにくく,それ以来敬遠してた作家。でも,面白い。もっと読みたい作家です。

  • 神聖騎士団の描写は最高。ほとんどモンティ・パイソンw アジルールフォとプリッシッラとの一夜もほとんどドリフ。ラストはまさかの~。テリー・ギリアムなら映画化できると思う。

  • 昔読んだことがあると思っていたら、それは「まっぷたつの子爵」の方でした、たぶんね。
    こちらの主人公は、肉体をもたず、ただ堅固な意思の力によってのみ自らを存在せしめている騎士道の権化アジルールフォ。自身が何者かわからぬ従者グルドゥルーをしたがえて、<存在>をめぐる哲学的な寓話が展開するかと思いきや、そんなこともなく、最終章の農民の言葉にはいささか肩すかしをくらいますが、楽しめる物語です。特に、色仕掛けで騎士たちを骨抜きにしてきた美女プリッシッラと、アジルールフォ殿の一夜の契りは抱腹絶倒の面白さ。そういえば騎士道の神髄はプラトニックにあるのでしたな。

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著者プロフィール

1923年キューバ生まれ。両親とともにイタリアに戻り、トリノ大学農学部に入学。43年、反ファシズム運動に参加、パルチザンとなる。47年、その体験を元に長篇『くもの巣の小道』を発表、ネオ・リアリズモ文学の傑作と称される。その前後から雑誌・機関誌に短篇を執筆し、49年短篇集『最後に鴉がやってくる』を刊行。エイナウディ社で編集に携わりつつ作品を発表、一作ごとに主題と方法を変えながら現代イタリア文学の最前線に立ち続ける。主な長篇に『まっぷたつの子爵』(52年)『木のぼり男爵』(57年)『不在の騎士』(59年)『見えない都市』(72年)『冬の夜ひとりの旅人が』(79年)などがある。85年没。

「2018年 『最後に鴉がやってくる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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