不在の騎士 (河出文庫 カ 2-4)

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309462615

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  • 『まっぷたつの子爵』『木のぼり男爵』から続く三部作の一つ。子爵、男爵、ときて最後は騎士。白い甲冑の騎士アジルールフォには鎧の中の実体がない。甲冑の中は空洞。なぜそうなったのか、という説明はいっさいされず、ただ「そのようなもの」として彼は存在する。いや、存在してないのか?(笑)なかなかに悲劇的な状況だと思うのだけれど、アジルールフォ自身の行動はわりとコミカル。高潔で優秀な騎士ではあるけれど、真面目すぎてちょっとみんなに煙たがられてたり、不在ゆえ食事や睡眠の必要がないので、食事中は無駄にお肉を細かく切ったりパンを丸めてそれを並べたりしてる・・・。

    そんな彼になぜかちょっと憧れを抱いてしまう、新入りの若者ランバルド。父親の仇を取ろうと頑張ってるが、なんというか、敵討ちハイとでもいうような精神状態になっており、空回りっぷりがひどい。さらに彼が恋する女騎士ブラダマンテ。彼女もまた、女騎士なんてかっこいい!という読者の期待を裏切って(?)実は掃除洗濯片づけが苦手な汚部屋の住人、異性関係もわりとだらしないので周囲の騎士たちからあまり敬意を払われていない様子。この女騎士にランバルドが一目惚れするも、女騎士はなぜかアジルールフォに夢中、ちょっとした三角関係に。

    ここにもう一人、トリスモンドというややこしい若者が絡んでくる。かつてアジルールフォが悪漢から救い出した処女、その功績を称えられてアジルールフォは騎士に任命されたのだけれど、この助けた女性が処女でなければどうやらこの名誉は無効になるものらしい。しかしトリスモンドは彼女は処女ではなかった、なぜなら私の母だから!と言い張る。互いの真実を証明するためにそれぞれ旅立つトリスモンドとアジルールフォ、そのアジルールフォをおっかける女騎士、その女騎士をおっかけるランバルト。

    さらに興味深い人物として、アジルールフォの従者となるグルドゥルーという男がいます。彼には本来名前がなく、そして同時に複数の名前を持ってもいる。アヒルにもカエルにもスープにも梨の木にも彼は同化してしまい自分が何者かを理解していないけれど、同時にすべてのものになれる。不在の騎士の対極のようなキャラクターですね。

    最終的にトリスモンドはギリシャ悲劇かシェイクスピアかという近親相姦劇を一人で繰り広げ、一人で解決し(笑)、アジルールフォは真相を知らないまま姿を消す。そして物語の語り手としてたびたび登場していた修道尼が何者であったのかが最後に明かされ、語り手と語られていた物語が一つになるというカタルシス。

    かなりコミカルで、童話的でありながら、下ネタというかエロティックな場面も豊富。ユーモラスだけどブラックユーモアでもあり、子供むけのおとぎばなしのようなお話なのに子供には読ませられなさそう。そしてわりとストレートに「存在する」とはどういうことか、という疑問が投げかけられ、いくつかの答えが用意されている。テーマが明快なのに教訓くさくはなく、物語として単純に面白いのが良かった。

  • 教訓なんかくそくらえ 物語として読めば良いのさ

  • 「われらが祖先」3部作の第3作目。中身が空っぽの鎧だけの騎士、アジルールフォが主人公。『狂えるオルランド』のパロディというだけのことはあり、奇想天外な筋そのものも面白い。この小説で扱われているテーマは「存在」。相変わらずカルヴィーノは、深く考えても、さらっと読み流しても有益な小説を書く。

著者プロフィール

イタロ・カルヴィーノ(Italo Calvino)
1923 — 85年。イタリアの作家。
第二次世界大戦末期のレジスタンス体験を経て、
『くもの巣の小道』でパヴェーゼに認められる。
『まっぷたつの子爵』『木のぼり男爵』『不在の騎士』『レ・コスミコミケ』
『見えない都市』『冬の夜ひとりの旅人が』などの小説の他、文学・社会
評論『水に流して』『カルヴィーノの文学講義』などがある。

「2021年 『スモッグの雲』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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