- Amazon.co.jp ・本 (536ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309462646
作品紹介・あらすじ
十八世紀末イギリスの田舎町。ベネット家の五人の子は女ばかりで、母親は娘に良縁を探すべく奮闘中。舞踏会で、長女ジェインは青年ビングリーと惹かれ合い、次女エリザベスも資産家ダーシーと出逢う。彼を高慢だとみなしたエリザベスだが、それは偏見に過ぎぬのか?世界文学屈指の名ラブストーリー。
感想・レビュー・書評
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次回の課題本の下敷きとして読んでみた。“Pride and Prejudice”の邦訳は各社より出版されており、よりどりみどりな感もあるが、分冊されずに1巻であるのと、表紙デザインのおっとり加減がなんとなく気に入り、この河出文庫版を選んだ。
娘5人を持つ、イギリスの田舎の中流家庭・ベネット家のお話。当時の女性には財産の相続権がないので、両親が娘たちの幸せを願うには、少しでも条件のいい殿方に嫁がせなければいけない。その過程での、当事者・エリザベス嬢(二女)および周囲の人々の愛憎と思惑が渦巻く群像劇…といえると思う。
おそらく、当時のイギリスのブルジョワ・貴族事情としては、「ええとこの女子あるある」的にリアルな題材であることに加えて、娘さんばっかり5人持ちの家庭という、かなり高いハードルを設定した小説だと思う。裕福な殿方に見そめられて嫁ぐのは、当時の(今もか)女子の夢でありつつ、そこを口当たりのいい言葉でくるまず、最初からパンチをきかせた書き出しで攻めてくる。なぜならそれは死活問題だから!現実は厳しいのだ!ご近所に資産の豊かなイケメンが引っ越してくるというドリームな設定を振りまきつつ、色めき立つ両親や、彼らのお近づきを快く思わない人々が心に秘めた、辛辣な計算をあちらこちらで炸裂させる描写が可笑しい。設定された人物と出来事はみんなそこそこ定型的なんだけれど、その定型くささを打ち消してしまう語彙の豊かさと、目のつけどころの鋭さがあったりする。英文学の肝は、こういう迂遠というか、慇懃な底意地の悪さでもあるのだろう。
あらためて読むと、エリザベス嬢とダーシー氏の仲というのは、聞いていたほどの紆余曲折はなく、意外と波風なく収まっているように思えてちょっと拍子抜け。個人的には、五女のエピソードの投入加減のほうが意外と衝撃的。ウィカム氏はたぶんダメだな、こりゃ…といらぬ心配をしてしまうよ、老婆心ながら。まさにこれが、オースティンの描写の細やかさの効果なんだろう。父親のベネット氏の愛情深い皮肉屋っぷりや、兄の恋心を阻止したいビングリー嬢の妨害工作の小姑加減が要所要所で効いており、だれずに最後まで楽しく読めた。水村美苗さんの巻末エッセイも、オースティン愛が高雅に薫って素敵でした。 -
「いま『高慢と偏見』を読んでいる」というと「なんか難しそう」と友人に言われたりします。
しかしその中身はなんのことはない、上野千鶴子さんが言う通り「18世紀版のセックス・アンド・ザ・シティ(http://wan.or.jp/reading/?p=5556)」です。中流帰属のラブコメです。ただ、女性の自立が許されていなかった18世紀の彼女たちの恋愛は、現在にくらべて遥かにシビアなものだったと推察します。
ちなみに新潮文庫版の巻末の解説によれば、小説が社会的・哲学的なテーマを追求するようになったのは19世紀以降であり、18世紀の小説というのは基本的に娯楽小説であり、本書もその中の一つであるそうです。
まあ要は、非常に読みやすくて面白いといいたいのですが、そこはやはり古典でありジェーン・オースティンの代表作と名高い本書。その面白さの理由は、作中の至る所にちりばめられた皮肉・ユーモアとその質の高さにあると思います。僕のお気に入りはミスター・ベネットです。この性格の悪さがたまりませんね。
もちろん、考え方が現代の感覚からは理解しがたいところもあります。例えば私は、「駆け落ちってそんなに悪いことなのかなあ」と思ったりしました。駆け落ちの知らせをきいて姉は泣きじゃくり、基本めんどくさがり(?)の父はあわてて娘を捜しにロンドンへと急ぎ、母はふさぎ込み病気になってしまう。そんなに動揺しなくても…って思いましたけど、まあこの違和感はむしろ古典の醍醐味ですよね。
あ、これは余談ですがこの時の母の「病気」ってたぶんうつ病みたいなものだと思うのですが、このような精神的な不調って現代的な意味での「病気」として認識されていたんでしょうかね?元の言葉はillnessかdiseaseかな。また、フーコーの分析がそのまま18世紀のイギリスにもあてはまるのか。ちょっとそこらへん調べてみたいと思いました。
*たぶんそのうち書き直します。 -
たまには格調高い世界の名作でも読んでみよう……
というのは立前で、これはメインディッシュのための前菜
――なんて、それこそ高慢に尽きるだろうか(汗)
現代風に平たく言えば「婚活ガールズトーク」(笑)
女性が職に就いて自立するのが当たり前ではなかった18世紀末、
いかによりよい条件の男性と結婚するかが
最大の問題だったわけです。
でも、容姿端麗でも性格に難アリだったらイヤだわ~というのは、
国や時代が違っても同じことですよね。
賢く機知に富み、
間違いはきちんと反省して次に活かすヒロインは魅力的。 -
ドタバタすれ違いラブコメ!こんな作品が江戸時代のイギリスで書かれていたんだなあ。
主人公エリザベスがとにかく少女マンガ。賢くて、天真爛漫で、やや暴走しがちだけどしっかり者で。
後半が特に可愛い。やきもきしちゃうリジー超かわいい。自邸でのパーティでダーシーと喋れるかうずうずしてるリジーかわいい。‘’しかし、彼が自分でコーヒー茶碗を返しにきたので、彼女は少し元気がでてきた。‘’が最高にかわいくてよき。よき!
「あなたの心が溌剌としているからです」 -
これを今まで読んでいなかったのは大失敗!18世紀のイギリスの田舎の恋愛小説ということで、まあ、まどろっこしい話なんだろうと予想していたのですが、とにかく、人間観察、描写が凄いので、飽きない。
ツンデレ紳士が…知的で溌剌としてるけど身分が下の女性に恋をしてしまって、素直になれないんだけど我慢できなくて少しずつアピールしてる、そんなツンデレ美青年紳士のダーシー氏がとても可愛かった!
小説として似た系統としては、我が国の夏目漱石の『三四郎』などの初期三部作が思い浮かびます。むしろ漱石が手本にしたのでしょうね。
最初はテンポが合わなくて、努めて読み進めてたのだけど、気がついたらすっかり流れに乗せられ…。長いのに2日で読みきってしまった。 -
冒頭の巧さはすごい。吸い込まれていくように、その世界に入っていけた。私が女性だから余計に、かな。
10代の頃「嵐が丘」「風と共に去りぬ」を夢中で読んだ私としては、この婚活劇は苦笑ものだし、多分10代の頃だったら途中で読むのやめたような気が…。
しかし40目前の今、これはなんだか微笑ましい物語りなんだな。英国ならではのウィットのきいた感じが好きになった今だから更に、著者の冷静で温かい視点が共感できる。
それでも、ジェイムズがこの続編を書いたりしなければ、あと10年は絶対手に取ることはなかったと思われます。 -
J・オースティンは代表的な英国小説家の一人である.舞台は18C末のイギリスの田舎町である.恋愛と結婚というテーマを重苦しくせずに,現代の若い女性にとっても学ぶべき人生の問題が一流の小説として語られている.BBC版のDVD(本学図書館所蔵)を鑑賞すると,イギリスの美しい田園風景と当時の風俗がより楽しめる.阿部知二氏の翻訳は,当時の中上流階級の英語の趣きを伝えるものとして評価が高い.上質な翻訳の日本語を味わうのもおもしろい.日本でも人気が高く,読んで楽しい小説である.「ブリジット・ジョーンズの日記」はこの小説の現代版の翻案である. s_kobayashi
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200年前に書かれた小説ということでちょっと構えて読み始めたんですが、予想外の面白さに終始笑いっぱなし。ダーシー登場シーンはにやけっぱなし。
ご都合主義をまったく感じさせない構成力に、人物配置の妙。
何でもないシーンなはずなのに、オースティンの巧みな筆さばきにページをめくる手が止まらない。とんでもない筆力。
辛口で品のいいユーモアと合わせて、私はコニー・ウィリスを思い出しました。ウィリスの萌えの源泉はここだったんですね…。
ダーシーもエリザベスももちろん好きだけど、一番輝いていたのは父親のベネット氏。面白すぎて彼の台詞ばかり集めてしまった。
“「あなたは話したいのだろうね。聞くことには異存はありません」”
“「それは約束しかねるな、ほんとうのところ」”
“「自分の子がばかなら、いつもそれを心にとどめておきたい」”
“「(略)かわいそうなリジー! だが、力を落とすことはない。少々素頓狂なものと縁につながるのが耐えられないような気むずかしい青年など、惜しがる値うちはない。(略)」”
こんなのばっかり。素敵だなあベネット氏! -
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少女漫画みたいだと思った。第一印象は最悪なのに誠実で優しいところを知っていって…みたいな話。
モテる男性は自分になびかない女の子がいたら気になってしまうものなのかも。
著者プロフィール
ジェイン・オースティンの作品






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こちらこそ、ごぶさたしています。
水村さんの巻末エッセイ、ご指摘ありがとうございます。私は浅いオースティン読みなので...
こちらこそ、ごぶさたしています。
水村さんの巻末エッセイ、ご指摘ありがとうございます。私は浅いオースティン読みなのでアレなんですけど、『ノーサンガー・アビー』なんかも好きです。『高慢と偏見』が最高傑作とされるのは、「ちょっと偏屈、でも実はいい人のお金持ちイケメン」、ダーシー氏をイギリス女子の憧れ男子として刷りこんでしまったからではないかと思っています。
「課題本」というのはですね、昨秋からある読書会の世話人を頼まれておりまして…その読書会の課題図書、という意味です。次回はP.D.ジェイムズ『高慢と偏見、そして殺人』を取り上げるので、この本ほか数冊を関連本として読んでいます。話題がどう振れてもいいように準備するのも少々骨が折れますが、読む本の幅が広がるので、楽しんでやっています。
感想を書くときには、「うまく書いてやろう」とはほとんど思わないんですが(人間だから、やっぱりちょっとは思いますけど)、『魔法の樽』みたいに、読んだ本が面白いと、自然と感想に力も入りますね。シンさんを含めて元・たな友のみなさんは私の知る限り、読みもそれを書き表すスキルも素晴らしくて、読んでいてとても楽しく、勉強になります。
読書会の世話人ってすごいですね!
連絡や下調べと、やることがい...
読書会の世話人ってすごいですね!
連絡や下調べと、やることがいっぱいありそう。
P・D・ジェイムズとは懐かしい名前を……。
『不自然な死体』や『皮膚の下の頭蓋骨』を面白く読みました。もう94歳になるんですよね。
読書会に参加してくださるかたには、私よりも広く深い本の世界に親しんでいらっしゃるかたが多いので、私の世話人の仕事って、メールを受け付けて、飲み会の会場を手配しているだけですよ(笑)。P・D・ジェイムズはちょっとクラシカルかとは思ったんですが、単品+二次創作的で面白いかも…ということで選びました。ダルグリッシュシリーズにもぐらっときましたが。