ほとんど無害 (河出文庫 ア 4-5)

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309462769

作品紹介・あらすじ

突拍子もない事故で、最愛の女性と離ればなれになったアーサー。放浪の末、サンドイッチ職人としての平安な人生を手に入れるも、突然トリリアンが彼の娘を連れて現れる。一方フォードは、銀河ヒッチハイク・ガイド社の異変に疑問を抱き…。並行宇宙を舞台に繰り広げられる、大傑作SFコメディ最終巻。

感想・レビュー・書評

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  • 銀河ヒッチハイクガイド3部作の5作目にして最終話。
    作者死去により本当にほんとうの最終話。

    ***
    銀河系の歴史はごっちゃになっていたんだ。
    人々は努力していたけれど、度重なる時間移動や時空移動によりますますごっちゃになっていくばかりだ。

    フォード・ブリーフェクトは「銀河ヒッチハイクガイド」を発行している本社を訪れて驚いた。買収されてすっかりまともに変わってしまったんだ。
    こんながあの自由で無茶な我らが本社なのか?!

    トリシア・マクミランは、送るはずだったもう一つの人生を17年間悔いている。
    宇宙人で二つの頭と三本の腕を持つゼイフォードと知り合ったのに、一緒に銀河に出られなかったんだ。彼女に訪れた二度目のチャンス、家の庭に緑の宇宙人が降り立ち、彼女を宇宙に誘う。もちろんトリシア・マクミランは迷わなかった。しかし宇宙人たちは、彼女の望むような”宇宙人”ではなかったんだ。

    アーサー・デントは一人で銀河ヒッチハイクガイドを続けている。
    彼にこの銀河で足りないものは二つだけだ、生まれ故郷の惑星と、愛する女性。
    共に銀河ヒッチハイクに出た愛するフェンチーチャは消えてしまった。痕跡すらない。
    宇宙船の事故で辺境の星に墜落したアーサーは、その星でまあそれなりに静かな暮らしを送っていた。
    ある時アーサーの小屋に、宇宙旅行慣れした美しい女性と、いつでも不機嫌な若い娘とが現れた。
    アーサーには準備ができていなかったんだ、もっとも突然「自分の娘」が現れて、二人きりで暮らすことになる準備ができている人間などあまりいないだろう。

    銀河の歴史はごっちゃになって、いくつもの平行世界を作り、ますますごっちゃになっていた。

    アーサーの前に現れたトリリアンは、宇宙に出なかったことを悔やむトリシア・マクミランではなく、地球が破壊される前に三本の腕と二つの頭を持つ宇宙人ゼイフォードと銀河ヒッチハイクに出たトリリアンだった。そして彼女が子供を持つため選ばれた男性の遺伝子の持ち主がアーサーだったんだ。
    トリリアンの娘はランダムという名で、度重なる惑星移動と時間移動のため、自分の居場所も年齢も分からず、いつも癇癪を起こしている。
    突然現れた「自分の娘」と二人きりで暮らすことになったアーサー。

    そしてアーサーのもとに、フォードが新しい「銀河ヒッチハイクガイド」である鳥型ロボットを送ってくる。

    この鳥型ロボットは、ごっちゃになった銀河の流れを戻すために持ち主を乗り換え、持ち主の望むことをすべてかなえる機能を持っていた。

    物語最後の場面は地球。
    ランダムと鳥型ロボット、アーサーとフォード、平行社会のトリリアンとトリシア、地球へと集まった彼らは、避けられない彼らの命運に呑みこまれる…。

    ***
    題名の「ほとんど無害」は、「銀河ヒッチハイクガイド」で地球を「無害」としか紹介されていなかったのが、
    フォード・プリーフェクトの調査により「ほとんど無害」に文言が増えた!というネタなんですが、
    「無害」から「ほとんど無害」って悪くなってないかい?

    …さて。今回は最初から最後まで深刻な雰囲気で進みました。
    状況も深刻なのですが、今までだったら登場人物のハチャメチャさで笑い飛ばしていたのですが、今回は登場人物たちの心情も何かを失くしたり悔んだり非常に深刻でした。
    「銀河ヒッチハイクガイド」冒頭で人間を揶揄するのに「この惑星の人間は驚くほど遅れていて、いまだにデジタル時計を生かした発明だと思っているほどだ」と書いているのですが、この話の中でアーサーが大事に持っているのが「アナログ時計」というのも象徴的なのかなんなのか。

    ラスト場面もかなり深刻な状況になるのですが…登場人物たちがかなりキツい心境で生きているので、あのラストはむしろ彼らには平穏なのかもしれない。
    作者自身も書き終えた後「暗すぎる!続きを書く!」と思っていたけれど、急逝により敵わず。
    それなら作者も登場人物たちもクジラもゼラニウムもイルカも…「長い旅お疲れさま」と締めましょう。

  •  シリーズの冒頭で、ものすごくくだらない理由で、地球は宇宙人の艦隊から、あっという間に消滅させられます。地球滅亡の感慨に浸る暇もない、あっけない幕切れ。
     銀河中のヒッチハイカーに読まれる書物(厳密には紙の本ではないデータベースですけれども)『銀河ヒッチハイク・ガイド』の現地調査員であるフォード・プリーフェクトは、その地球滅亡の瞬間、たまたま地球に調査のために滞在している真っ最中。フォードは友人だったアーサー・デントを連れて、その瞬間、地球を滅ぼしにきたヴォゴン人の宇宙船にヒッチハイクすることで、間一髪脱出します。
     ほんの一瞬で故郷を滅ぼされたアーサー・デントは、パニックになりながらも、フォードと一緒に銀河じゅうを頼りなく彷徨う、トンデモな旅に出ることになり……。

     ……だめだ、ストーリーをとても短くまとめきれない。
     しかし、ストーリーをというよりも、むしろ英国流の皮肉のたっぷり聞いたジョークを楽しむ本です。(断言)
     展開がはちゃめちゃすぎて、正直、途中でストーリーの運びについていけない部分も多少ありましたが、たぶんそういうのはどうでもよくて、ただこの人を食ったユーモアあふれる語りを楽しんだらいいんだと思います。
     全体を通じて、「無茶苦茶や!」とツッコみながら腹を抱えて笑いました。かなりデタラメでありながら、ときどきものすごく本格SFらしい設定が出てき……たかと思えば、次の地の文ではいきなり台無しにされていたりして、始終ニヤニヤしながら読んでいました。

     個人的には、1作目『銀河ヒッチハイク・ガイド』と、5作目『ほとんど無害』の二冊が飛びぬけて面白かったように思います。
     ラスト、5作めの終わり方は、ファンからも賛否両論だというのが、ものすごく頷けるエピローグでありました。第五巻の内容は、間違いなくすっごく面白かったし、巧妙な伏線が絶妙に絡み合って、秀逸な収束を迎えたのですが、それでも「ええええええ、そんな終わり方!!??」と悲しく叫ばずに居られない。うう、ネタバレになりそうだからもう黙ります…

     本当は、続きを書くという筆者の発言があったそうなのですが、その前に急にお亡くなりになったそうで……残念でなりません。

  • 前作で恋に夢中なあまり馬鹿なことしなくなった悪ガキが、達観した大人になって「でもやっぱオレの本質って、結局馬鹿じゃん?」と気付き改めて冷静に馬鹿なことを言い出した作品で「おお、大人の馬鹿!お帰り!」と両手を上げて歓迎しつつじっくりと楽しめたSF。いやしかし終わっちゃった~…。銀河ヒッチハイクガイドシリーズ最終巻。いや終末巻。読み終わりたくなくてちびちび読んでたのにいつのまにかふっと終わってた。なんて喪失感。でも、こんなに馬鹿で素敵なSFシリーズを今までありがとう、さようなら、ダグラス・アダムス。

  •  『銀河ヒッチハイク・ガイド』シリーズの最終巻です。<br>
     第4作『さようなら、今まで魚をありがとう』から8年後に書かれたこの最終作ですが、これまでの作品とは全く異質な感じがする作品でした。<br>
     腹を抱えて笑える能天気な明るい空気がたまらなかったこれまでとは異なり、シリアスな雰囲気が漂っているのです。第4作で幸せをつかんだはずのアーサー・デントは再び孤独になっているし、トリリアン(そして並行世界のトリシア・マクミラン)もかつて自らが選択しなかった人生を思っているし、フォードは『銀河ヒッチハイク・ガイド』を出版する会社の変貌に怒りを覚えているし・・・。やはりゼイフォードやマーヴィンといった強烈なキャラクターが顔を見せない影響でしょうか、笑いよりもシリアスさが強い気がします。新キャラクターのランダムは結構いいですけどね(終盤のトリシアを見かけたときの行動は最高)^^<br>
     ただし、物語の構成というか、小ネタの寄せ集め、といった感じの前半3部作とは異なって、一本の筋の通った話になっている関係か、読者をひきつける力はかなり強いです。一気に読めてしまう。<br>
     中盤からクライマックスへと至る流れの展開は大変読み応えがあって、面白く(ただし笑いはあまりないですが)グイグイと引き寄せられます。そして愕然の結末。一つの物語として見たとき、この作品は大変よくできた作品になっていると思います。<br>
     しかし、どうも違和感がつきまとうのは、結末もさることながら、これまでのシリーズの面白おかしい能天気さが、緊迫感にとってかわられているからでしょうか。<br>
     シリーズの最終作がこれというのは(一つの大きな物語として、きちんと完結できてしまう結末だったがゆえに)悲しすぎます。一つの挿話としてなら良いんですけどね・・・。あとがきによれば、ダグラス・アダムスもこの結末はシリーズ最終作としてはふさわしくないと思ったのか、続編を書く予定だったようですが・・・残念ながらなくなってしまいましたから・・・。もし完結編を作ったらどうなったのでしょうか。アダムスの言葉からすると、それなりのハッピーエンドにはなったのでしょうかね^^<br>
     ちなみにシリーズの一片として考えると星4ですが、単体の小説として見ると星5くらいかな。一つの物語としてはよくできていると思います。<br>

  • 銀河ヒッチハイクガイドシリーズ完結〜
    全五作の中でダントツ深い〜〜!ほぼ脳内、ACID食って考えが突き詰められまくって、昨日すっごいとこまでイッテもうてたなーオレ、て翌日思うけど結局何を考えてたか覚えてないみたいな自分だけ哲学、そのもの。
    あとがき読んで知ったんやけど、この完結編、ファンの中では最高傑作か、最悪かでバチバチ別れてるんですね、確かに〜それ分かる。
    私もまだどちらか分からんもん。読んでる時は最高〜と思ったけど、読後はえー!ちょっとこんなん銀河ヒッチハイクガイドちゃうやーん、勘弁してよ〜フォードのキャラもよー、となったし。
    ラストもびっくりやでしかし。
    でもマーヴィン出てこないのに、やっぱこんなにおもろいなんてズルい、そして途中出てきた陽気なロボットもかわいい。ロボットのキャラ設定世界一素敵なんずるい

  •  今作は前作と違い、様々な惑星での冒険が描かれていて面白かった。平行宇宙などの知識があるとより楽しめる。衝撃のラストが待ち構えているが、私としては悪くないと思う。

  • 銀河ヒッチハイクガイド シリーズの最終作?

    ■シリーズの並びはこうらしい

    正篇
    『銀河ヒッチハイク・ガイド』
    『宇宙の果てのレストラン』
    『宇宙クリケット大戦争』

    続篇
    『さようなら、いままで魚をありがとう』
    『ほとんど無害』【これです】

    ●名台詞

    “銀河系の歴史はちょっとごっちゃになっているが、これには数多くの理由がある。ひとつには、歴史を記録しようとする人の頭がちょっとごっちゃになっているからだ

    “「ほら、イギリスでやってるあの不思議なあれ、なんて言うんだったかしら」
    「クリケットかしら。それとも自己嫌悪とか」
    「いえ、議会制民主主義だったわ」

    “なぜだかわからないが、生命はニューヨークにさえ住みつく。冬の気温は法定最低気温を大幅に下回る 。

  • このシリーズは『さようなら、いままで魚をありがとう』で完結、と思い込んでいた。
    宇宙人とエルヴィス・プレスリーとか、パラレルワールドなのかやっと再びアーサーは地球に戻ってこれたけれどまたしてもあのヴォゴン人に破壊されてしまうとか(笑)いやはや愉快な荒唐無稽。よくわからんままでなんか読んでしまう、タイトルも秀逸。
    アーサーが予言者に「ニーズにあわせた個別的な」特別な祈りを聞こうとする場面とか、にやにやしちゃう。
    登場人物はもちろん、著者のダグラス自身も、こういうことを真剣に(たぶんきっと)やってるところにとても好感が持てる。

  • 再読.前巻でメインを張っていたフェンチャーチは一切出てこなかった.今まで通りアーサーがもとの地球に戻れるかを巡るストーリーで,乗っ取られた「ガイド」社と戦うフォードと,本職のキャスターとして働くトリリアンの話とが入り組んでいる.めいめいがそれぞれの宇宙を持っていて,自分以外のものとして見えているものは単にほかの宇宙と交わっている部分にすぎない,ということが何度か書かれているが,ストーリー全体がそれをよく表現している.最初はバラバラで動いていた各人の世界が,最終的に一カ所に収束する様が見事だと思った.

  • 最終巻、とは思えないくらい毛色が違うお話。
    大森さんの解説なしにはこの喪失感の持って行きどころが無かったのではないかしら。
    BBCはこの先を捏造(?)し、作者さえ後悔したという弱った結末だけど、これだけの喪失感が生まれるからには引っ張り具合がうまかったのだよなあ〜と擁護してみたりして。

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著者プロフィール

1952-2001年。英ケンブリッジ生まれ。1978年BBCラジオドラマ「銀河ヒッチハイク・ガイド」脚本を執筆。翌年、同脚本を小説化し大ベストセラーに。モンティ・パイソンの脚本に携わっていたことも。

「2022年 『これが見納め』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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