時間割 (河出文庫)

  • 河出書房新社
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感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (520ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309462844

感想・レビュー・書評

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  • 読みながら興奮してにやにやしてしまうような、そういう小説を読むことの喜びをひさしぶりに味わった。
    タイトルの時間割という言葉がいったいなにを指すのかもわからないまま読みはじめると、日記(現在の時間の流れに属しながら過去を記録する)の形式でこの物語が進められることを知り、過去の一日が現在の数日にわたって語られること、あるいは逆に過去の数日が現在の一日のうちに語られること、そうした時間の自在な伸縮から、この小説は時間そのものをまなざすような物語なのではないかという予感がわいてくる。
    その予感は第二部になると現在の出来事をあわせて記述するという方法でより明瞭になり、このあたりは解説でもわかりやすく触れられていたが、第四部に至るとこの日記自体を振りかえり、そこに新たな意味づけを行なっていくといった作業が展開される。
    ひとつの出来事はまた別の出来事を呼び起こし、それらが時間を行きつ戻りつして連関し合う。それはまた海から記憶を引き摺り出すことでもあり、幾度にもわたって時間と結びつけられる水の比喩は、この都市にながれる黒い川、絶えず窓を打つ雨へと繋がる。
    とりわけ第一部の、この陰鬱な都市の有り様を探索してゆくパートはとにかく引きこまれる。ブレストンの町は数々の生物的な比喩に覆われ、その息遣いがこちらにまで迫ってくる。すべてはこの町の器官なのだ。そうして冒頭の滴に灯りの映る描写から反復される水と炎のイメージが都市を、あるいはルヴェルを飲みこんでゆく。
    これだけでもうかなり嬉しいのだけれど、さらにこの小説の根底に横たわる存在としてふたつの神話があり、それは大聖堂、姉妹、探偵小説(これらはいずれも対をなす存在として鏡に象徴される、ということは解説で語られてしまった)といった幾つもの要素を支え、結びつける。この探偵小説『ブレストンの暗殺』は作中作的な役割を果たしながら、『時間割』という小説自体に探偵小説的な枠組みをもたらし、しかも順行=逆行の構造として呼応する。
    ……と、深い考察があるわけでもなく書かれていたことをほとんどそのまま記録しただけなのにずいぶんな文字数になり疲れてしまった。ほかにもよかった場面とか好きな要素とかたくさんあるんだけど、ほんとうになにより疲れてしまったので、そのうちまた読んでじっくり考えられたらと思います、きっとまた読みますので、、、、

  • 前半と後半でテンションの差がかなりある気がして前半の憎悪と後半を乗り越えて末尾の愛着らしい語り方がすきだと思う けど全編不穏だった

  • 文学
    古典

  • ある事件。事件といってもフィクションの世界ではたいした事件ではないのだが、ともかく、その事件をきっかけに時間の潮流が二層三層と多層化していくあたりがこの作品の醍醐味か。

    ただ、自分はまださわりですらない第1部が最高にいいと思った。読者はフランス人であるジャック・ルヴェルとともに濃霧と煤煙に包まれた都市ブレストンへ、深夜のハミルトン駅へと降り立つことになる。赤い17番バス、泥炭の泡立つ黒い川、大聖堂、飾り窓やブリキでできたビールの看板。頻繁に風景ショットが挿し込まれ、あたかも自分もこの街を彷徨っているかのような陰鬱な気分にさせられる。

    是非、お試しあれ。

  • 架空の街に対する憎悪はどこから来たのか?それは日記を書く根拠というより、日記を書くという行為がそれを生み出したよう。

  • 120ページで挫折。

  • カフカ的不条理めいてるけど、そうではない。とても難解な小説。そんで、究極にアンチクライマックス。忍耐心とかを養いたい人に最適。

  • 時間割を昨日から読み始めました。ビュトール。
    マンチェスターをモデルにしたブレストンという都市を舞台にした小説。分裂、鏡像、カノンを執拗なまでに追及した、現代の日記文学。
    いまんとこ、この小説の言いたいことは、「日記はその日のうちに書け。溜めて書こうとすると、大変なことになるぞ」ということらしい(笑)
    (2007 06/07)

    「時間割」と「ユリシーズ」

    今日、ビュトールの「時間割」読み終えました…んーっと、すぐ最近読んだ本とむりやりにでも比較してしまう癖がある自分は、「ユリシーズ」と比べてしまうのでした。この2作品は関係大あり。何せ「時間割」の迷宮はダイダロスが作った。ダイダロスとは他でもない、スティーブン・「ディーダラス」のことだから…

    まず、異なる点から。まあ、なんてか読後感が違うのね。緻密でほの暗いビュトールと、放言的で明るいジョイス。あとは語りの人称かしら。日記だから当然1人称のビュトールと、3人称ってか誰が語っているか全くわからんジョイス。
    続いて共通点。
    まずは、両者とも神話がベースになっている。20世紀文学らしい。続いては時間。ジョイスは1日、ビュトールは1年。この区切りが大切。
    言ってみれば、方法は似てるが、気分が違うといったところ。ただ一番の共通点は「麻痺」というテーマかも。その点では町を通りがかる多数の人々こそ、主人公なのかも。

    おまけです。
    このルヴェルの日記には触れられていない、避け通している「何」かがある。探偵は犯人。だとすれば彼こそ放火犯?
    語られなかった2月29日に何かある。

    これを読むあなたも放火犯?(2007 06/13)

  • 久しぶりに物凄い小説に出会った。フォークナーやジョイス、ブルーストを上回る作品かもしれない。
    一度読んだだけでは語れないが、幾重にも時間と記憶が重なる構造手法であったり聖書の普遍的物語を下地に用いる手法、決して苦にならない引きずり込まれる文章など全ての要素においてレベルがあまりにも高い。

    改めて小説の奥深さに触れることができた物凄い作品です。

  • 集中して読まないとちょっと退屈。

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著者プロフィール

Michel Butor (1926‐2016) フランスの小説家、詩人、批評家。フランス北部モン゠ザン゠バルールで生まれる。ヌーヴォー・ロマン(Nouveau Roman)の作家の旗手のひとりと目される。1956年、小説第二作『時間割』(L’emploi du temps)でフェネオン賞(le Prix Fénéon)を受賞、翌年1957年第三作目の『心変わり』(La Modification)でルノドー賞(le Prix Théophraste Renaudot)を受賞し注目を集めた(主人公に二人称代名詞「あなたは」を採用した小説作品として有名)。1960年に四作目の『段階』(Degrés)を発表後は小説作品から離れ、1962年『モビール──アメリカ合衆国再現の習作』(Mobile: Étude pour une représentation des États-Unis)を皮切りに空間詩とよばれる作品を次々と発表し始める。画家とのコラボレーション作品が数多く、書物を利用した表現の可能性を追究し続けた。

「2023年 『レペルトワールⅢ [1968]』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ミシェル・ビュトールの作品

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