- Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309463537
感想・レビュー・書評
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ギフトの物語からだいたい20年後の、アンサルという都市が舞台。交易で栄えたアンサルの人々は、長らく戦争をしておらず文字を持たず唯一神のアッスを信じるオルド人に攻め込まれて久しく、占領下の町で道の長に仕える少女が自分の存在と役割を理解し成長してゆくお話です。一作目『ギフト』に出てきたオレックとグライも出てきます。ルグウィンらしい静かな雰囲気の作品ですが、ダイナミックなドラマもあり、読みやすかったです。何度もじっくり読み込みたいお話。
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2020/7/4購入
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前作ギフトと同じく葛藤の中を生き抜く物語。神秘性は少ないが、人間社会に対する深い洞察がある。無血に近い革命、書き言葉の文化性、言葉の了解の深度、憎しみ、ジェンダーと色々なテーマが読み取れた。スリルや躍動感もあった。人に対する信頼を描いたのが名作の所以か。
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西のはての年代記Ⅱ~南のサル山を望む港町アンサルは東の砂漠から押し寄せたアスダーに占領され,多くの住民が殺され,書かれたものは悪だと多数あった書物を破棄され,17年が経過している。アンサルの実質的中心地のガルヴァマンドの主・道の長は悪魔の穴を教えなかったために拷問にかけられて両足を折られ不自由な生活で,館に住む人間も少ない。メマーはカルヴァ家の女性がオルド兵に乱暴された結果生まれた女の子だが,母から秘密の扉を開けて書庫に入る秘密を伝えられており,この書庫の存在を通じて道の長と館の秘密を共有し,文字の読み書きも習っている。オルドのガンドに招待され高名な詩人であるオレックがアンサルを訪れ,妻のグライが連れ歩くハーフ・ライオンを通じて,二人と一匹を館に宿泊させることになった。オレックは諸国を歩き,埋もれた詩や物語を集めている。文化が華開いたアンサルにも埋もれた書があるはずだとやってきたと打ち明けられるが,秘密は明かすことができない。自由の詩を著したオレックならば,オルドに支配されたアンサル市民を立ち上がらせることができると抵抗勢力があるが,元議事堂の前に設置された大テントに火を放ったが首謀者は殺害される。市民とオルド兵の間に緊張が走り,ガンドの息子はガンドを殺したとガルヴァマンドに兵を進めてきたが,ガンドの実質的妻であるアルサン女性のお付きから,ガンドと妻は大怪我をして息子に幽閉されていることが先に伝えられていた。一度,秘密の書庫に下がった道の長が表玄関に戻ってくると,枯れていたお告げの泉が復活し,お告げの書が人々に示され,幽閉されているガンドを開放するように人々は動く。解放されたガンドは兵に攻撃を禁止する命令を発し兵も従ったが,血気にはやる市民も存在する。解放されるために解放せよとお告げの書は伝えていたのかも知れないが,それは子ども向けの動物絵本だった。兵と市民の緊張が続く中,オルドからの小隊がアンサルに向かってくると聞いて,道の長はメマーを使者に立てて,ガンドと繋ぎをつけた。大王からの使者は,オルドに税を払えばオルドの被保護国にするという内容で,メマーは納得できないが,人々は大いに喜び,周辺からも使者が来て,交易が復活する模様だ。メマーは自分の読む力を超えたと判断した道の長は,読む力を更に身につけるため,オレック・グライと共に旅をすることを勧める~こうやって,第三部に続くんだねぇ。なるほど,なるほど。訳者のあとがきは当にそのことを書いているが,やっぱり読者は本編よりもあとがきを先に読むことを承知して「あとがき」を書いている。「あとがき」で「本編を是非読んで欲しい」って云っているもの。まあ,それは良いとして,このシリーズでこのⅡが平和主義で貫かれていて良い。暗い状況の中で明るい前向きな姿勢が安心させるからだろう。このシリーズは読み終えたが,ル=グウィンのSFも機会があったら読んでみようと思う