パワー 下 西のはての年代記Ⅲ (河出文庫)

  • 河出書房新社
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本棚登録 : 119
感想 : 13
  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309463551

作品紹介・あらすじ

悲惨な事件によって愛する人を失ったガヴィアは、エトラを離れて放浪する。逃亡奴隷の集落「森の心臓」や、生まれ故郷である「水郷」をめぐりながら、旅の途中で出会った人々に助けられ、ガヴィアは自分のふたつの力を見つめ直してゆく-。「西のはて」のファンタジー・シリーズがついに完結。ネビュラ賞受賞、ル=グウィンがたどりついた物語の極地。

感想・レビュー・書評

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  • 『西のはての年代記III』の上下巻。

    表題はパワーだが、原題はもちろん複数形。個人の背景となる「権力」でもあり、個人の持つ「力」でもある。主人公のガヴィアは姉のサロとともに幼いときに水郷の地空奴隷狩りによって都市国家エトラの「アルカマンド」につれてこられて働いている。かれは、ひと目見たものをすぐさま覚えて暗証することができるという能力によって、アルカ家の子供達(主人一族や奴隷をふくむ)とともに学校で学んでいる。姉のサロは、その美貌と性格により、同じ学校で学ぶ主人一族の長男にギフトされる立場となっている。ここの段階でのパワーというのはまさに、権力構造そのものをさすが、主人公のガヴィアは主人一家と奴隷がともに学ぶことができる学校で学ぶことができるという学び舎で学ぶなかで、その構造的矛盾を理解できないでいる。
    しかし、主人一家の子供達(嫡子や庶子)との子供なりの権力関係や主人一家と奴隷の間の根本的な矛盾に様々な出来事の中で気がついてゆく。姉のサロは、主人の一族の振る舞いにより死んでしまい、それをきっかけに、ガヴィアはオレック・カスプロの著作集を手に森に入る。釣りをするという技術しか持たないまま、森を徘徊するうちに飢えによってあやういところ、森の世捨て人クーガによって一命を取り留める。彼とともに過ごして回復し、主人の妻から姉のサロに対する償いと思える金の入った巾着をクーガに預け、解放奴隷の王国を築いているバーナの都市に移動することを決意する。
    ガヴィアは、自らの持っている能力、一度知ったことばを忘れることなく語ることができるという能力(ギフトあるいはパワー)をクーガのもとでは発揮することはなかったが、バーナは、ガヴィアの類まれな能力に注目し、彼に語らせる。しかし、ガヴィアは、解放奴隷であるはずのバーナの一党による奴隷狩りによってさらわれてきたイラードとメルの姉妹と知り合うが、バーナが魅入られたイラードとの関係を疑われたガヴィアはバーナのもとから離れて、故郷と思われる水郷の地を目指す。
    系譜の記憶を持たなかったが、やがて、親族と出会う。水郷の地におけるがヴィアの持つ記憶と語りの能力は、狩猟をして予言をするという能力とみなされることとされるが、彼は納得がいかない。おばの予言(助言)により、北に向かい2つの川を超えると開放されるとの言葉を信じ、故郷と思われた水郷の地をさって、オレック・カスプロが住まうという大学の街、メサンをを目指すことになった。クーガに預けた巾着を思い出して、取り戻すべく再びクーガの森にはいるが、クーガの朽ち果てた遺骨を発見する。そして、バーナの街が都市国家軍によって破壊されたという離脱者のことばによって、バーナの地に戻るが、そこであったのはメルであった。
    メルとともにメサンを目指す。そして、様々な試練を経て目さんでオレックに出会い、彼とともに暮らして、視力の衰えたオレックのもとで、その援助者としての未来が語られて長い物語が終わる。
    本書のタイトルの「パワー」は、複数形である。主人と奴隷の権力関係であり、解放奴隷の救世主であるはずのバーナが持つ、権力であり、その権力による犠牲者の一人のメルとともに旅をする。また、ガヴィアのもつ能力が発揮される(パワーを持つ)場もあればそうでない場もある。様々はパワーとの出会い、一筋では理解できないパワーと遭遇の物語でもある。
    この物語の背後には多様性について、著者の理解が込められているように見える。父のアルフレッド・クローバーはカリフォルニア・インディアンの一部族の最後の一人となったイシを保護し、博物館に住まわせ、イシから部族の物語を聞き取って記録に留める。しかし、この一族の滅亡を止めることはできず、むしろ、失われた一族の知識あるいは記憶を止めようとした。その娘のル=グウィンは、本書を含む『西のはての年代記』を残す。これらは、いずれも連関しているように思えるのだが・・・・。

  • 読者を呑み込む、というのだろうか。いやそれでは乱暴に過ぎる。けれどわたしは、この物語を読んでいるあいだずっと、主人公とともに歩んでいたように思う。信じては裏切られ、また、助けられ助けてという旅路。奴隷であり、追われるものであったという「鎖が切れたと思う」という表現は前後の文脈含め完璧にひとつの「流れ」の終わりを示しているようだし、最後の機知に富んだやりとりは物語を総括して「支配」という「暴力」について見事に結論づけている。鉤括弧が多くて申し訳ないが、この物語を読んだ方ならば納得してくださると思う。そして解説がいうようにこのシリーズの原題はすべて複数形で、ちからが働くもの、働かせるもの、その働きを受けるものについて語っているようにも思えたのである。

  • 2020/5/24購入

  • まるで古代ギリシャの物語の様な奴隷制のある都市国家群から始まり、シリーズ全体の主人公ともいうべきオレックに会うまでの物語
    奴隷制や独裁者を置くことで自由の意味を考えさせられる
    アクションはちょっと物足りない感じもしたけど、その分内面の描写や異文化での暮らしや風習が良く書かれていると感じられた
    ともかく設定も物語もしっかりしたファンタジーを読めたと実感できる本だった

  • まやかしではない本当の自由。しかし、それを得るためには、矛盾した、かりそめの自由、権力をいくつもくぐり抜けなければならなかった。読後、深い深いところからの静かな喜びがこみ上げてきた。

    3部作を通して、本当に多くのものを感じた。主人公と共に生き、私も成長したのだ。物語の力がここにはあった。

  • 西のはての年代記Ⅲの下巻~バナーの率いる森の心臓に攫われてきたイラードはメルと云う名の妹を連れていたが,バナーから逃れるためにイラードがカヴの部屋に隠れていたことで命を狙われると恐れる周囲が森を出ることを勧めた。行く場所は故郷である水郷地帯しかない。14・5年前に攫われた時の姉と自分の名前だけだったが,すぐに伯母が見つかり,伯父の許へ送られた。水郷では男と女が別れて村を作り,男は狩りや漁で手に入れた水鳥や魚を持って女の許に行き,料理をして貰うのだ。大人の儀式と釣りの腕で認められたガヴは暫く後,自分の力の話を始めるが,伯母が同じ力を持っている事を知り,他の大人に葦の島に連れて行かれる。カヴは偉大なる目になれるという目使いのドロドは麻薬効果のある茸を使って思い出しをさせる。死に掛けているところに伯母が現れ,小さな子を連れて追っ手に迫られつつ二つの川を越えていく姿が見えたという言葉で,自由を求めて旅立つ。預けた金の入った巾着を取り戻そうとクーガの洞窟を訪ねると,クーガは小川の中で半ば白骨化した姿をしていたが,居間となる洞窟には彼の宝の塩箱が置かれ,きちんと巾着も納められていた。クーガを埋葬し,バナーの森を訪ねると,多くの死者を出した戦乱の果てにエトラとカシカは同盟を結び,不足した奴隷を補うために,森の心臓を焼き払い,イラードも連れ去られていた。メルを救い出したカヴィアは大学のある北東のメサンを目指すが,行く先々で吟遊詩人とも云う逃亡奴隷を執拗に追い掛けるエトラの者の噂で持ちきりだ。カヴィアは追っ手がホビーであることを直感し,村や町を避けて二つ目の川を目指す。渡し場近くでホビーを現れるのを見て,慎重に二つ目の川を越える。後ろを向こう岸に着いて振り返ると乗り手を失った馬が溺れかけている姿を見る。メサンに着いた二人は,自由の詩を書いたオレックを訪問し,自由と家と仕事と大学での学生という身分を得る~あれっ,これで終わり?

  • 資料ID:92111906
    請求記号:
    配置場所:文庫本コーナー

  • 上巻に続いて一気に読了。
    「パワー」は主人公の持つ特別な「力」だけでなく、他人を自在にあやつる「支配力」、「暴力」、そして言葉の持つ「力」を指しているんだと思った。
    三部作を通じてル=グウィンが読者に伝えたかったのは言葉の持つ力を信じるということなのだろう。

  • 原題が、powersであると、訳者のあとがきを読んで知る。
    なるほど、と思う。
    この本は、主人公の力について書かれた本ではなく、世の中に存在するすべての力について書かれたものであったか、と腑に落ちる。

    なかでも物語中、たくさん出てくるのは信頼の力についてだ。
    主人公の少年は、人を信じやすい。そして、裏切られる。何度も。
    今度は気をつけよう、と彼は思うのだが、しかし、やっぱり彼は信じ、そして裏切られる。

    だが、物語の最後、オレック・カスプロに会い、そして、少年は手に入れたかったものを手に入れる。
    自分を信じる、という力を。

  • 辿り着く先のことを考える。それはどこなのか。それはほんとうにどこでもよくて、ただ自らの強く願った先に辿り着いたかどうかだけが、重要なのだろうか。
    主人公たちの旅する世界が、読みすすめるほどに色濃く浮かんでくるようになるいっぽうで、物語は終わりへと近づいてゆく。この親しみと寂しさの入り交じる感情を強く得るかどうかは、よい本を読んだかどうかをはかるいいものさしになる、と思う。

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