大いなる遺産 上 (河出文庫)

  • 河出書房新社
3.86
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (415ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309463599

作品紹介・あらすじ

テムズ河口の寒村で暮す少年ピップは、ある日大きな屋敷に連れて行かれる。女主人の婚礼で時が止まったままのその家では、昔日の花嫁と美少女エステラが奇妙な隠遁生活を送っていた。やがて莫大な財産を約束されたピップはロンドンに旅立つ…。巨匠ディケンズの自伝的要素もふまえた最高傑作、抜群に読みやすい新訳版。

感想・レビュー・書評

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  • うーん、何から書こうかなあ。
    面白いよ。
    この本を読もうと思ったのは実はちょっと前に読んだカルロス・ルイス・サフォンの「天使のゲーム」がいまいち良く分からなくて、「天使のゲーム」の中の主人公が子供の頃から大事にしていたこの「大いなる遺産」に鍵があるのではないかと思ったから。なるほどねえ。鍵かどうか分からないけれど、河の下流の沼地近くの最底辺の生活、お屋敷の中の時間が止まったような老婆…。似ているモチーフはある。
    主人公ヒップはテムズ川の河口の沼地に近い所で、姉とその夫ジョーと暮らしていた。両親は亡くなり、癇癪持ちの姉に虐待されながら育っていた。回りの大人にも馬鹿にされ、いつも嫌な思いをしていたが、鍛冶屋である姉の夫のジョーだけがいつも友達のように暖かく接してくれた。
    ある時、大きなお屋敷に呼ばれ、そこの女主人の前で遊ぶように言われる。その女主人はかなりの老婆なのに、黄ばんだウェディングドレスに身を包み、時が止まった暗い部屋で陰気に暮らしている。そして、その傍らにはエステラという美しい少女がいた。老婆に命令されるがまま、老婆の目の前でエステラとトランプをしたり、老婆を支えて部屋中をぐるぐる歩き回ったりしたあと、報酬をもらうということが何回かあった。エステラはものすごくお高くとまっていて、ヒップを下品だと馬鹿にしたので、ヒップは泣くほど傷ついたが、エステラに恋する気持ちは抑えられなかった。そして、その時から自分を小さい頃から大事にしてくれたジョーが教養が無くて下品であることを恥ずかしく思うようになってしまった。
    お屋敷の老婦人に気にいられたヒップはある時、その大いなる財産を貰えること、そしてジェントルマンになるためロンドンに出て教育を受けるように弁護士を通じて告げられる。
    エステルに相応しい男になるためにジェントルマンになることを夢見ていたヒップは、突然の幸運に意気揚々とロンドンに向かう。ジョーとの別れの時、愛するジョーと別れることを辛く思う反面、下品なジョーを恥ずかしいと思う自分の薄情さに罪の意識を持つ。
    ああなんかこの気持ち分かるな。
    次にジョーに会ったときにジョーが自分に相応しい人間であるよう、ジョーにももっと勉強してほしいと願うのだが、ジョーはもっともっと誇り高き人間だということにこの時は気づいていなかった。

    夢見たロンドン。夢見た都会。
    都会の現実とは?紳士淑女の現実とは? 暗く黴臭い部屋。死刑囚から宝飾類を頂く趣味の悪さ。お金への執着。爵位への執着。
    先が見えないロンドンでの生活をヒップの同居人ハーバートの明るさが救う。

    そもそも、お屋敷の老婦人(ミス・ハヴィシャム)とエステルとは何者なのか?どうしてヒップが気に入られて財産を受け取ることになったのか?
    もしかして、小さいころ沼地にいた脱獄囚に命令されて食べ物とヤスリを与えたことに関係あるのか?

    大きな謎と十代(?)の少年が最底辺の生活から最高の生活へ棚ぼたで抜け出す過程の成長が面白い。
    一番最近読んだイギリス文学は「高慢と偏見」で、上流社会の視点から書かれていたが、この小説は下流社会から上流社会を見て書かれているので、同じイギリスでも目線が違っていて興味深い。

    • Macomi55さん
      土瓶さん
      こんばんは。このレビューの4行目の作家の名前も知ってますよね。読んだことありますよね。あ、きらいな作家でした?
      土瓶さん
      こんばんは。このレビューの4行目の作家の名前も知ってますよね。読んだことありますよね。あ、きらいな作家でした?
      2023/04/07
    • 土瓶さん
      (⌒▽⌒)アハハ!
      嫌いではないですよ~。ただ、ちょっと……たまたま、偶然、なんとなく、「風の影」は合わなかっただけで。
      (⌒▽⌒)アハハ!
      嫌いではないですよ~。ただ、ちょっと……たまたま、偶然、なんとなく、「風の影」は合わなかっただけで。
      2023/04/07
    • Macomi55さん
      土瓶さん
      私も「薔薇の名前」は再挑戦しましたが10ページくらいで挫折しました。あんな難しい本最後まで読んで「面白い」と言える土瓶さんのこと尊...
      土瓶さん
      私も「薔薇の名前」は再挑戦しましたが10ページくらいで挫折しました。あんな難しい本最後まで読んで「面白い」と言える土瓶さんのこと尊敬しますよ。
      2023/04/07
  • 田舎の孤児ピップ少年が大富豪に見い出される物語。

    話の大筋がしっかりしているうえに、サイドストーリーも丁寧に書かれていた。出来事のつなぎ方が自然で、巧妙で、しかも次々と起きるので読者を飽きさせない。さすが文豪というか、上品な文章だった。『高慢と偏見』を読んだときも上品な文章だと思ったが、古典の名作って別に凝った文体でもないのに、人物・風景・感情描写(要するに全部。笑)がしっかりしていて、その3つのバランスがいいからそう感じるのかもしれない。

    大いなる遺産の前巻は子供時代の話が多めだった。なぜかわからないが、僕は子供時代というのが妙に好きで、色々な小説を読んでいても子供時代のパートを一番好きになることが多い。(『悪童日記』や『こちらあみ子』は子供の話だし、『わたしを離さないで』も子供時代のパートが一番好き。)そういうわけで上巻はピップのほのぼのした子供時代が最高だった。中でもピップ少年と鍛冶屋ジョーの友情が心温まった。この二人は魂で触れあっていた。成長したピップがどうなるのか、下巻が楽しみだ。

  • ピップは、裕福でなくても平凡な生活を送っていたのに、エステラにふさわしい紳士になりたいと願うあまり、今まで仲の良かった優しい鍛冶屋のジョーが下品でがまんできなくなるのが悲しい。
    ピップは成人後遺産を得る権利を得て、ロンドンへ移住。
    物語は読者を飽きさせない展開で最後まで進む。間違いなく面白い。

  • 序盤の純粋無垢なピップと、エステラに馬鹿にされて自分の生活を恥じるようになるピップ、莫大な遺産を手にして以前の生活環境を見下すピップの様子が描かれる。

    新しい世界を知って興味や憧れを持った時、自分の慣れ親しんできた世界を相対化して比較検討するための尺度を得る。これまでは測るという発想そのものがなかったが、突然自分の身の回りを測るようになる。(自分にとっては)新鮮な外部を基準にしているのでそれらはひどく下品で価値のないものに思える。憧れに向かっているというだけで自分がなんだか崇高に思えて、同時に周りの人がその尺度を持っていないことがもったいないと思うようになり、自分の尺度を押し付けようとしてしまう。
    身に覚えのある心の動きが描かれていてよかった。

    家だとイキイキしてるが職場に近づくにつれて感情を失っていくウェミックが印象的。

    243
    「プライドって一種類だけじゃないのよーー」
    「一種類だけじゃないの」ビティーは言葉を続けた。「ジョーは今の身分でちゃんと立派に能力を発揮して、みんなの尊敬を受けているでしょ。だからプライドがあって、そこから引き上げられたくないかもしれない。本心を言うと、わたし、そうだと思うの」

  • ロンドン外郊の寒村でピップ少年の幼年時代から語り起こされる。テムズ川河口部近く、沼地の多い鄙びた地域が舞台である。

    両親は早くに死去し、7人の兄弟もまた長姉とビップの他5人は子供のうちに死去。ピップは長姉夫婦が引き取って育てている。長姉の夫ジョーは鍛冶屋でビップも程なくその徒弟になる。つまりピップの子供時代は貧しい暮らしなのであった。
    その後ピップは町の裕福な老女からその屋敷に定期的に招かれることになる。老女の車椅子を押したりするが、老女の真意はよくわからないまま。
    この老女、純白のウェディングドレスを着た白髪の姿で、言わば「 老嬢 」( ミス・ハヴィシャム )。
    そしてある日ピップは、ある資産家らしき人物からから経済的支援を得られることを告げられる(どうやら「 老嬢 」の思惑らしい)。ここでピップの人生は急に明転。ジェントルマンになるためロンドンに旅立つ。ここまでが19章。
    以降20章からが言わば「 ロンドン編 」となる。

    この「 ロンドン編 」を読み進めて程なく、読者の私は程なくある変化に戸惑う。主人公ピップの人間観察の眼、他者の心理への洞察が急に大人びているのだ。ピップ、急に賢明になったな…と困惑を感じつつ読む。そして 25章で以下の一文に出会う。

    「 私は今でもあの道に対して、世間を知らぬ若さと希望に満ちた感性によって培われた愛着を抱いているー 」25章333p

    思うに「 ロンドン編 」以降は、成年壮年以降のピップが自身の若き日を回顧する時制になっているように気づいたのだ。一方で 「 幼年時代 」はピップの子供としての主観目線で書かれていた。( 戻り読みすると「 幼年時代」の諸章でも、回顧の視座が散見されはする )。

    ともかく、明確な説明無きままの目線・時制変転のため少々戸惑った。ディケンズの他の小説でも同様な急転があった気がする。

    ところで冒頭第1章でピップ少年は村の墓場で脱獄犯に遭遇。脅されたピップは家からヤスリの工具と食べ物を密かに持ち出し、この脱獄犯の男に手渡す。その後この脱獄犯は程なく官憲に発見され再捕縛される。ピップ少年はいつかこの脱獄犯に復讐されるのでは…と心配になった。だが豈図らんや、後にこの脱獄犯はピップ少年が自分を売らなかったことに感謝の念を抱いていたことが知らされる。このエピソード、ちょっと意外な意味づけと感じた。

    さて下巻の展開は如何に。

  • 面白い

  • 3.86/248
    『テムズ河口の寒村で暮らす少年ピップは、未知の富豪から莫大な財産を約束され、紳士修業のためロンドンに旅立つ。巨匠ディケンズの自伝的要素もふまえた最高傑作。文庫オリジナルの新訳版。』(「河出書房新社」サイトより▽)
    https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309463599/

    原書名:『Great Expectations』
    著者:チャールズ・ディケンズ (Charles Dickens)
    訳者:佐々木 徹
    出版社 ‏: ‎河出書房新社
    文庫 ‏: ‎415ページ(上巻)

    メモ:
    ・死ぬまでに読むべき小説1000冊(The Guardian)「Guardian's 1000 novels everyone must read」
    ・一生のうちに読むべき100冊(Amazon.com)「100 Books to Read in a Lifetime」
    ・世界文学ベスト100冊(Norwegian Book Clubs)
    ・西洋文学この百冊
    ・オプラ ブッククラブ『Oprah's Book Club』

  • 2015年1月18日読了。

  • 弁護士事務所に置かれた仮面と、グレートギャツビーのめがねの看板。荒涼館における、天井に描かれた壁画。

  • 感想は下巻へ。

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著者プロフィール

Charles Dickens 1812-70
イギリスの国民的作家。24歳のときに書いた最初の長編小説『ピクウィック・クラブ』が大成功を収め、一躍流行作家になる。月刊分冊または月刊誌・週刊誌への連載で15編の長編小説を執筆する傍ら、雑誌の経営・編集、慈善事業への参加、アマチュア演劇の上演、自作の公開朗読など多面的・精力的に活動した。代表作に『オリヴァー・トゥイスト』、『クリスマス・キャロル』、『デイヴィッド・コパフィールド』、『荒涼館』、『二都物語』、『大いなる遺産』など。

「2019年 『ドクター・マリゴールド 朗読小説傑作選』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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