フェッセンデンの宇宙 (河出文庫)

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (457ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309463780

作品紹介・あらすじ

天才科学者フェッセンデンが実験室のなかに創った宇宙。それを見てしまった「ぼく」は-。名作中の名作として世界中で翻訳された表題作他、「向こうはどんなところだい?」「翼を持つ男」など稀代の奇想SF作家の代表作を収録、さらに文庫版のための新訳3篇を加えた全12篇。情感豊かなストーリー・テラーがおくる物語集。

感想・レビュー・書評

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  • 研究室に宇宙を作った科学者フェッセンデンを描いた表題作をはじめ、人間の存在意義や叡智、歴史と、そして終わりというSF本来の面白さを詰め込んだクラシカルな短篇集。

    以前読んだ『翼を持つ少女 BISビブリオバトル部』に登場したSF短篇集です。名作として語り継がれ、執筆されてから50年以上経っているのに少しも色褪せない豊かな世界観。それぞれの短編で上質な読後感を味わえます。

  • amazonで目にした瞬間、懐かしさのあまりに速攻クリックしました。小学生の頃、学校の図書館に収められていた子供向けの「SF全集」に「フェッセンデンの宇宙」が掲載されていて、読了直後は本気で恐くて眠れなかったことを覚えています。
    数十年ぶりに再読して、そりゃ子供にはトラウマになるよなぁと納得。子供にも判りやすい寓意に満ちた、発表から一世紀近く経ってもその本質は古びない名作です。子供の頃読んだのは、どっちのバージョンだったんだろう?1937年版と1950年版、かなり印象が異なるので驚きました。ただ、どちらのバージョンも、主人公が「滅ぼしてはいけない」と決意する極小文明の描き方が非常に欧米系の理想主義寄りで、この歳になると若干の違和感は禁じ得ませんでしたね。

    その他の短編も、今読むと古臭さを感じるのは否めませんが、それを差し引いても充分読み応えのある佳作ばかりです。あの華々しくもぶっ飛んだ「キャプテン・フューチャー」シリーズを生み出した作家と同一人物とは思えない、地に足の着いた思慮深さを感じます。「向こうはどんなところだい?」は、スペースオペラ的世界観を真っ向から覆す、SF者として衝撃的とも言える内容。スペースオペラの代名詞とも言えるハミルトンがこれを書くという、SFの懐の深さに痺れますね。

    鴨的に印象深かったのは、「太陽の炎」「世界の外のはたごや」。自らのちっぽけさ、愚かさを心底理解しつつも、それでも挑戦し続けずにはいられない地球人類のバイタリティをリリカルに表現した、地味だけれど心に残る作品です。ハミルトンの作品は、押し付けがましくないから良いんですよねぇ。こういうきりっと引き締まった短編、今のSF作家にも是非書いて欲しいです。

  • フェッセンデンの宇宙、フェッセンデンの宇宙(1950年版)のみ読了。山本弘「神は沈黙せず」で大々的に取り上げられていて気になり、松田道弘「ベストゲーム・カタログ」でも見かけたのでこれはもう読むしかない!となり。自分の実験室に極小宇宙を作り上げたフェッセンデンとその目撃者となったブラッドリー。その極小宇宙に恣意的にさまざまな化学変化を起こして過程を楽しむフェッセンデン。見てるうちにだんだんと感情移入していくブラッドリー。結末はそうなるだろうなというところにおちつき、しかし、自らが住むこの宇宙、地球もそうなのではないか、という疑問でしめられる。1950年版の改版された方は、初版のものよりフェッセンデンのブラッドリーをハナから小馬鹿にしたところが改められてると感じた。これを、神はいるのか?世にあまた起こる超常現象の原因は…といった疑問にまで持ち込んだ山本弘の技量には改めて感服。◆無粋だが疑問に思った点は二つ。(1)疑似宇宙装置は何ものにも囲われていなかったようだが、それでいて部屋の中で無重力と重力ありの状態をわけておけるものなのだろうか?(2)特に触れられていなかったが疑似宇宙装置の(無重力状態を発生させる)動力源は何だったんだろう?もし電気だったとしたら、停電したらどうなっていたのだろう?

  • よくみるかんじのはなしの元、もしやここか~?!
    入れ子構造カモネ…ってぞっとさせてくるやつだーいすき

  • 山本弘の「BISビブリオバトル部」シリーズでSF大好き不思議少女が猛プッシュしていたハミルトンの短編集「フェッセンデンの宇宙」。彼女のプレゼンのあまりの熱さに、全然SF好きでもないのに、どうしても読みたくなってしまった。新品ではもう手に入らないみたいで、何十軒も古本屋をはしごして、ようやく見つけた。

     面白い! キャプテン・フーチャーの作者として有名とか言われても、なんのこっちゃだけれど、これはすごく面白い。全短編ハズレなし!

     「フェッセンデンの宇宙」は、自宅の部屋の机上に小さな宇宙をつくりだすことに成功した天才物理学者の狂気の話。
     小さいとはいえ、それは紛れもない宇宙空間で、私たちが住む銀河系同様、無数の星々と、無数の生物がそこには存在している。フェッセンデンは、これは私が創り出した宇宙だからと、様々な実験をする。
     ある星には、巨大な星を落下させて、そこに住む生物がこの天変地異を乗り越えられるか、という実験をする。結果は失敗。フェッセンデンにとっては、あ~あ、絶滅しちゃった、くらいの感想。良心の痛みなど感じない。たぶん子供が蟻を踏み潰すくらいのこと。
     他の星には、同じような知的生命体がいる星を近づけて、仲良くするのか、それとも戦争をするのか、という実験をしている。結果は戦争になって、片方の知的生命体が、もう片方を滅ぼしてしまう。

     その様子をフェッセンデンとともにスコープで観察していた元同僚の男は、あまりの残酷な結果を目の当たりにして、フェッセンデンに実験をやめるように忠告する。しかしフェッセンデンはやめようとしない。これは自分がつくりだしたものだから、どうしようと自分の勝手だ、という理由で。そして二人は口論から取っ組み合いに…

     
     こんなストーリーから思い出したのが、藤子・F・不二雄のSF短編漫画「創世日記」
     懐かしんで読み返してみたら、やっぱり設定は似てる。こちらはおもちゃの円盤のなかにフェッセンデンが創り出したような小宇宙が存在していて、たまごっちみたいに、日夜気にかけて円盤を撫でていると、宇宙がどんどん成長して、いま私たちが住んでいる銀河系のようなものが生まれる、というもの。藤子先生、SF好きだったからきっと読んでたよね、フェッセンデン。
    (結末が違うからあくまで着想を得たというレベル、パクリではない)


     この他の短編もものすごく面白いんだけど、紹介して読みたくなる方が増えても、ほら、もう手に入れるの難しいから、ここで止めます。

  • ハミルトンの短編集
    「BISビブリオバトル部」で紹介されて興味を持ったので読んでみた

    表題作の人工宇宙で実験する話の他、火星の開拓から帰ってきた人の話、風がまるで意思を持っているかのようなファンタジー、棺の中で目が覚めた人、彗星が接近するときに地球外生命体との遭遇、翼が生えた男の一生、自分達が少なくとも2番目以降の生命体である事を知った人、お互いの夢がそれぞれの現実な二人、過去から未来まで様々な偉人が邂逅する場所の話など


    SF的には「ねーよ」と科学的なツッコミを入れたくなる部分はあるものの、書かれたのが60~70年前という事なので、さもありなん
    むしろそれを考慮すると、原子力の利用とか宇宙における生命の痕跡とかに言及しているのは先見の明があるように思える
    総じて、「科学技術は人々に幸せをもたらすのか?」というのがテーマになってる作品が多い

    二人の夢が表裏一体になっている話は、邯鄲の夢とか胡蝶の夢とかに代表されるようにずっと昔からある命題で
    自分が今認識しているのは果たして現実か夢かは本質的に区別できないよな
    この辺を突き詰めると哲学的な話になるんだろうなぁ


    他の作品にしても、やはりSFは思考実験として面白い
    この宇宙が何かのシミュレーションでは?もし地球外生命体が存在するとしたら?人類が終わるときとは?を考える切っ掛けとしてはいい題材だと思う

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    「フェッセンデンの宇宙」☆☆☆☆
    本書の一番最後に1950年版が収録されているが、こちらは改稿前の1937年版。
    小学生くらい時によく夢想したなあ。
    神さまみたいな存在がいるとしたら、自分はその人物によって操り人形のように遊ばれているだけではないのかと。
    映画「ドラえもん のび太の創世日記」でのびたが自室で宇宙を創る話があるが、この作品の影響を受けているのだろうか?

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    「風の子供」☆☆☆☆
    金脈の眠る砂漠の高原に向かう男は、そこで「風」にまつわる話を聞く。

    擬人化された「風」が登場するが、本当に人のように思えてくる描写がうまい。
    私の頭の中では完全に風が暴れまわっていた。
    これは映像では難しい、小説ならではの自由さだ。
    風の台地を抜け出しても不確かなものに囚われてしまう何とも言えない終わり方も結構好きだ。
    ただ、同じ河出書房の奇想シリーズに並ぶロバート・F・ヤングの作品が好きな私にとっては、ローラとのロマンスのはじまりが唐突過ぎると感じた。

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    「向こうはどんなところだい?」☆☆☆
    事故が起きた火星の開拓計画から帰ってきた男の話。

    わくわくする宇宙の広がりを見せつけることの多いSF小説だが、実際に宇宙へ進出するとなると、こういう楽しさだけでは語れない出来事も起きてくるだろうな。

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    「帰ってきた男」☆☆☆☆
    男は気が付くと、棺の中にいた。
    死んだと勘違いされて埋葬されてしまったらしい。
    なんとか墓場を抜け出し我が家に帰ろうとするが……。

    最初はあんなに家族のもとに帰ろうとしていたのに、優しいというか皮肉というか、なんとも奇妙で面白い。
    はじめは復讐劇に発展するのかと思った。

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    「凶運の彗星」☆☆
    地球に彗星が接近していた。
    世の天文学者たちは危険性はないと判断していたが、主人公のマーリンが旅で訪れた湖の小島ではある異変が起きていた。

    「脳だけを切り離して生きる」というアイデアもハミルトンが早くに取り上げたアイデアらしい。
    とはいえ現在では(昔でも?)B級にランク付けされるような宇宙人襲来モノで、あまりおもしろくない。

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    「追放者」☆☆☆☆
    SF作家の集まりで変わり者のキャリックがあるエピソードを語る。
    彼は「空想してきた宇宙と世界が、いきなりどこかで物理的実在に具体化した」という。

    物語の導入でオチが読めてしまうが、私は好きだ。
    ぞくっとさせるようなラストの一文もいい。

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    「翼を持つ男」☆☆☆
    翼をもって生まれてきたデイヴィッドは空での生き方を謳歌するが、ある時一人の女性に恋をする。

    夢を追う本能的な生活と退屈な実生活という二者択一の問題は現代でも多くの人に当てはまる。
    しかし、この物語はあまりそういう読み方は相応しくなくて、少し不思議な話くらいの受け止め方がちょうどよさそうだ。
    あまり考えこむと、話がとっちらかったまま急に放り出されたような印象を持つかもしれない。
    あと、ロマンスの描き方がやはりへたくそ。

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    「太陽の炎」☆☆☆
    水星から帰ってきたケラードは「何か」を見たようだが、それを誰にも言わずに隠している。

    ケラードたちは落胆することになったが、自分たち以外の存在が希望となる人もいるかも?
    やはり不定形の存在の擬人化がうまい。

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    「夢見る者の世界」☆☆☆☆
    ジョタンという国の王子カール・カンは、イリノイ州でヘンリーとして生きる夢を見る。
    一方、「目を覚ました」ヘンリーには、ジョタンでの出来事とカール・カンは夢としか思えない。
    果たしてどちらが現実なのか。

    「われ思う、ゆえにわれあり」とは言うが、それは思考する存在がいるというだけで、今の自分はその存在が見ている夢なのかもしれないと考えるとキリが無くなってくるな。
    フェッセンデンの宇宙と同じで、小学生の頃によく考えた。
    この世界はゲームの一部なんじゃないかとか、これは夢じゃないかとか、この自己の意識って本当に実在するのかとか。
    フェッセンデンに続いて、ハミルトンは自己の存在とか意識というものに懐疑的だったのだろうか?
    ロマンスは少しだけよかった。

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    「世界の外のはたごや」☆☆☆☆
    戦後の苦境に陥った国家を救うために、政治家ギナールとその護衛メリルは、異空間で地球の各時代の賢人たちの知恵を借りようとする。

    あとがきによれば、「歴史の各時代から有能な戦士を集める」というアイデアもハミルトン考案だそう。
    今でいうとFateシリーズとかだろうか。
    たいしてその偉人が好きなわけでも知っているわけでもないのにわくわくしてしまうんだよなあ。

    自選短編アンソロジーが編まれたときにハミルトンが選んだ作品で、メッセージ性が強い。
    「いずれ人は死ぬのだから、生きる過程はすべて無意味なのではないか」という問いの答えにも思えた。

    単行本には収録されておらず、文庫化に当たって訳し下ろし。

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    「漂流者」☆☆☆
    小説家のポオに会いに来たある女性は、ポオは遠い未来の存在であり、作品にそれが表れているというが……。

    これまた自己の存在にまつわる話。
    やはりこういうテーマが好きなのだろう。
    話を広げたままで終わってしまったので、もう少し続きを読んでみたかった。
    単行本には収録されておらず、文庫化に当たって訳し下ろし。

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    「フェッセンデンの宇宙(1950年版)」☆☆☆☆
    1937年版ではブラッドリーとフェッセンデンは大学の同僚に過ぎなかったが、こちらでは親友関係にある。
    また、フェッセンデンの実験に対するブラッドリーの態度なども異なっている。

    1937年版はフェッセンデンの狂気のようなものがよく表れていたように思うし、1950年版は科学者としての興味からはじまって徐々に正しく事態を理解していく認識の変化がおもしろい。
    1950年版は単行本には収録されておらず、文庫化に当たって訳し下ろし。

  • 著者の代表的なSF短編(1930年~1960年)を集めた作品集。「フェッセンデンの宇宙」「風の子供」「向こうはどんなところだい?」「帰ってきた男」「凶運の彗星」「追放者」「翼を持つ男」「太陽の炎」「夢見る者の世界」「世界の外のはたごや」「漂流者」「フェッセンデンの宇宙(一九五〇年版)」の12篇を収録。どれも秀作ばかりで面白かった。

    「フェッセンデンの宇宙」の実験室に創られたミニチュア宇宙のアイデア、「百億の昼と千億の夜」と同じだ。光瀬龍は、この短編のアイデアを借用したのかな?

  • 少しでもSF文学に興味がある人には確実に読んでほしい短編集。今ではお約束になりつつある設定やら「マトリックス」の骨子は70年以上前から存在していたのか…と驚いてしまった。

    SF的な革新的アイディアを散りばめつつ、星新一的なショートショートのスタイルにきっちり落とし込んでいるのも流石。一話一話を読み終えた時の読後感が印象的に残り、考えさせられる。

    表題の「フェッセンデンの宇宙」「向こうはどんなところだい?」「帰ってきた男」「追放者」「翼を持つ男」「夢見る者の世界」が特に気に入った。「追放者」は藤子F不二雄がイラストをつけたらめちゃくちゃハマりそうな世界観だ。

    読んでいて一番心に響いたのが「向こうはどんなところだい?」内の一節。「しかし、自分にとっても何かが終わったような気がした。若いということが終わったような気がした。年寄りになった気はしなかった。しかし、若い気もしなかった。この先若い気がするとも思えなかった。二度と若い気はしないだろう」。エドモンド・ハミルトンは天才だと思う。

  • スぺオペだけじゃないぞハミルトン

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