幻獣辞典 (河出文庫)

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (329ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309464084

感想・レビュー・書評

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  • ボルヘスが古今東西の神話や文学作品から引く幻想動物群の辞書式排列、1974年。ウロボロス、ケルベロス、サラマンドラ、マンドレイク、ゴーレム、サテュロス、ミノタウロス、トロール、ガルーダ、キマイラ、クラーケン、バジリスク、アケローン・・・、どこかで目にした名前が並ぶ。

    「オドラデク」
    数ある幻獣の中でも、カフカのオドラデクは奇想として抜きん出ていると感じる。その形態が不可解なだけでなく、それが存在しているという世界そのものがまるで意味が分からない。

    「バハムート」
    世界の成り立ちやその起源を説明するためにそれぞれの文化が持ち出してくる動物たちの物語も興味をそそる。世界の土台のそのまた基層をなす巨大魚バハムートが自らまばゆい光を発しているがために人間には不可視である、という筋立ては示唆的だ。無限遡行を回避し、第一原因の実体化という形而上学をも否定しようとするなら、このように"人間理性の限界"を設定するしか方途はないのではないか。

    その他、「ミルメコレオ」「墨猴」などに意表を突かれた。「コンディヤックの感覚の立像」「プラトン年」については本書で初めて知り、好奇心を刺激された。



    本書を読んでいて思いを巡らさずにはいられなかったのは、古代人にとって「実在」と「象徴」とはどのように区別されていたのか、ということ。近代的な実証主義を通過した現代人にとって、「現実の存在」と「想像上の存在」とは截然と区別される。しかし、mythos による世界理解がまだ優勢であった古代人にとっては、「象徴」もまた同様に「現実的な存在」であったのか。経験的事実に裏打ちされた事象のみが「実在」の資格を有すると見做す実証主義は、必ずしも普遍的なものではなく、歴史的に相対化されるものだということを改めて思い返した。

    本書でしばしば参照される古代ローマの百科全書『博物誌』を物したプリニウスの眼に、世界はどのように映っていたのか。古代人にとって「虚構」とは何だったのか。そもそも古代人に「虚構」というものが在り得たのか。「虚構」という観念の歴史的起源はどこに設定されるのか。我々が幻想小説やSF或いはオカルトや都市伝説の類を面白がるというようなアイロニカルな構えは、やはり随分と現代的なもののように思われる。



    知識とは、その存在価値をその有用性によって測られる類のものではない。そもそも存在価値の有無を追及されるべきものですらなく、そうした追及に応答する義務もない。そうではなくて、集積され分類され排列された知識群は、その内容とは無関係に、それが lexicographical に整列配置されているというその存在形式ゆえに、美的なもので在り得るということ。そしてそこに美的なものを感じ取る感性が在り得るということ。ボルヘスのアンソロジーはそうしたことを気づかせる。図書館とは、まさにこうした知識群の美的な在りよう――カタログ化の美学、アーカイヴ化の美学とでも呼ぶべきもの――を具現化していると云えるのではないか。

    「誰しも知るように、むだで横道にそれた知識には一種のけだるい喜びがある」

  • 架空の生き物を集めた辞典。
    河出文庫はかなりユニークなラインナップを刊行するレーベルだが、まさかこれを文庫にしてしまうとはw
    世界には色々な怪物がいて、様々な人物がそれを書いているが、最後の『解説』に『ボルヘス』が登場する構成が面白い。確かに本人が一番『怪物』かも……。

  • 本書の初邦訳は1974年。さる新聞のコラムで存在を知って購入。
    日本を含む世界の空想上の動物たちが有名どころ(ガルーダ、バハムート等)から良く分からないもの(ある雑種、球体の動物等)まで幅広く紹介されている。絵はあまりなく、自分で想像を膨らませることが好きな方向け。
    読むというより、永く本棚において時々ページを繰る、という楽しみをするのが良いと思う。

  • 古今東西の幻獣・聖獣・怪物についてまとめられている。
    こういう辞書っぽいの好きです。
    どの項目も短くまとめられているので、隙間時間に気軽に読めました。
    出典元の作品などにも興味がいくのでここが沼の出発地点かもしれません。

  • 学生のころに、単行本表紙のピンクのヘタウマなチェシャ猫にやられ、欲しいと思っているうちに品切れとなり、最近改版されたので「ようやく買える!」と意気込んでいたところ、このたび版元を変えての文庫化。

    ボルヘスの撰による、古今東西の幻獣に関するごくごく短い解説、というよりエッセイ集。ボルヘスの淡々としていながら、厚みのある筆致で解説されるものを読んでいく。柳瀬尚紀さんの堅めに仕上げられた訳文もボルヘスにマッチしている。以下、掲載の幻獣への感想を箇条書き。

    ・ギリシャ神話の怪物は結構、「神の嫉妬や怒りで姿を変えられてしまったニンフ」率が高いので、地味に気の毒。

    ・中国の古典『山海経』に記されている怪物、刑天の図版が掲載されている。斧と楯で武装しているのに、相変わらず全然怖くない。

    ・ご存じアレの決戦の地の由来、ア・バオ・ア・クーはあまりにも観念的すぎる生き物(たぶん)で、全然ビジュアルが浮かばない。

    ・カフカ『家長の心配』のオドラデクは西岡兄妹の手でビジュアル化されているけれど、文章だけで読んでもやっぱりふしぎで妙に可愛い。

    西洋の幻獣に関するものはボルヘスの「ホーム」感もあるので、あっさりしていながらも非常に知的で、削りに削ってこの字数にまとめたという印象。東洋の幻獣に関する解説は、西洋文明からの視点で物珍しく、しかも緻密に解説する面もあるので、「西洋(ラテンアメリカだけど)の人はこう見るんだなあ」という自分の東洋文化目線を感じるのも面白い。ただ、「われわれが聖書でなじんできた悲愴的な要素に欠けるゆえに、中国の聖典は物足らないかもしれない。」(169ページ)という点には東洋人の私も多いにうなずく。中国の聖典(ここでは『論語』)をはじめとする文献って、淡々としすぎて逆に可笑しみを誘うものが結構あるわけで。

    片手でめくれるサイズなので、なんだか豆本をめくっている風情があって楽しい。最初から通読するよりも、ぱらぱらめくってエンドレスに目を通すのがよいような気がする。

  • 神話から小説まで、世界中の幻獣たちを120項目取上げて一冊にまとめた有名な辞典。一気に読むというよりも、時々開いてぱらぱら読むのがちょうど良い。例えばトロールが時代と共に、また地域によってどう変わったかといった例を語り、イプセンが「ペールギュント」で描いた愛国主義者のトロールは都合の悪いものを見せないためにペールの目をくり抜こうとするといった話も付け加わる。ボルヘスの仕事ぶりには恐れ入る

  • 絶版のを読んだことはあったけど、新しい表紙が好みで買ってしまった。
    物語の種であるボルヘスの、さらにその種という感じ。彼の編む怪奇譚集系に共通する、あの感じです。

  • セイレーン、八岐大蛇、一角獣、古今東西の竜といった想像上の生き物や、カフカ、C・S・ルイス、スウェーデンボリーらの著作に登場する不思議な存在をめぐる博覧強記のエッセイ120篇。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/781913

    勉強続きの合間、ふと幻想の世界に浸りたくなる。そんな瞬間ありませんか。
    そんな試験前の週末に紹介した本。
    気になる生き物のページだけ読んでも楽しめます。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/781913

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