キャロル (河出文庫 ハ 2-12)

  • 河出書房新社
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感想 : 84
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  • Amazon.co.jp ・本 (462ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309464169

感想・レビュー・書評

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  • 「太陽がいっぱい」などで有名なパトリシア・ハイスミスが1952年に別名義で発表した作品。
    恋愛物です。
    マッカーシズムの赤狩り旋風が吹き荒れた厳しい時代だが、ペーパーバックでベストセラーになったそう。

    若い娘テレーズと、美しい人妻キャロルが出会う。
    テレーズは舞台美術家の卵で、クリスマス商戦でにぎわうデパートでアルバイトをしていた。
    感受性豊かなのが災いして不慣れな環境に戸惑い、感性が暴走しそうになっていたのだが。
    それとなく惹かれあう気持ちを伝えていく二人。
    キャロルは教養があり裕福な社交界の女性だが、じつは離婚の危機を迎えていました。

    テレーズにもステディなボーイフレンドがいたのですが、その上手く行ってないっぷりがまた、不安定で苦くて頭でっかちでどっちつかずで、若さそのもの。
    幼い子もいるキャロルと、一体どうなるのというのか?
    キャロルの親友のアビーや、デパートに勤める仲間の女性なども異彩を放ちます。
    揺れ動く切ない関係が美しく描かれ、どうがんばっても絶望かと思えば意外とそうでもない展望が見えて。
    これは‥
    1952年という時期に書かれたのでは、バイブルとなるはずです。
    そのことも含めて、感動しました☆

  • こちらも選書のために読んだ。

    パトリシア・ハイスミスは『太陽がいっぱい』などのサスペンスフルな作品イメージがあったため、もう少しダークな感情が吹きあがる作品との先入観があったが、実際読んでみると少し違った。サバ―ビアに住む富裕な家庭の女性に、大都会に住む、貧しいながらも華やかな夢を持つ若い女性。彼女に好意を寄せる男性二人…結構お洒落ドラマ設定かもしれない。テレーズ、実はかなり恵まれてねえか?と勘繰りつつ読み始める。

    出版された年代がマッカーシズム吹き荒れる1950年代ということもあってか、恋愛シーンそのものはまったくどぎつくなく、むしろクリーンな印象を受けるが、テレーズが恋に落ちる瞬間やその後の移ろう気分など、何気ない動作や景色の中に感情の揺れが細やかに描かれているところにアーウィン・ショーの『夏服を着た女たち』のような都会小説の趣きを感じながら読んだ。ハイスミスならではのミステリ作品っぽさが味わえるのは後半のロードムービー的な展開だが、ラストの感触がこれも同じくアーウィン・ショーの『愁いを含んで、ほのかに甘く』のように、アメリカ文学の優しさとヘルシーさを感じながら読み終えられた。

    個人的には、アビーの存在が二人の関係に嫌みのない感じで安定を与える役割なのが気に入っている。それに、大活躍も何もしないけど、ミセス・ロビチェクも実にいい。人生のままならなさをNYCで体現している老婦人という立ち位置が、なんだか好み。

  • ハイスミスは、本格ミステリ、暗いミステリ、と思っていて読んでいなかったのだけれど、この作品はミステリではなくて恋愛モノ、ときいて、しかもものすごく評判がいいし、映画のほうの評判もすごくいいので読んでみたんだけど、評判どおり、すごくよかった。まったくミステリではなくて、文章も純文学っぽく、雰囲気があって、美しい。

    主人公テレーズがデパートの売り子っていうのはきいていたけど、舞台美術家志望ってきいたらもっと早く読んだかも。舞台の話がちょっと出てきたり、彼女がセットの模型つくったりしているのが楽しい。時代は1950年代、そのころのニューヨークのデパートや街の雰囲気、ふたりが旅するいろいろな街のホテルの感じとかが素敵。

    テレーズは十九歳、彼女が恋するキャロルは妻であり母であり、30代後半くらい?、そしてテレーズと同じデパートで働く中年の独身女性、旅先で知り合う老女、とか、年齢のことを考えさせられたり。
    テレーズは若い。キャロルが旅から先に戻ってしまってひとり残されたテレーズが、それでもはつらつとして、自分のエネルギーを、自分の未来を感じるところ、自分はまだ若い、どこも痛くない、なんでもできる、とか思うところ、ほんとに、若いってそういうことだよな、いいなあ、と思った。愛する人と別れても、まだいくらでもやり直せる、未来がある、なんでもできる、と。
    一方、離婚され、子どもを奪われたキャロルは、いったいこの先なにがあるだろう、もう立ち直れないんじゃないか、と思った。そう、わたしは、てっきり、ふたりは別れる、と思い込んでいたのだ。なので、ラスト、テレーズがキャロルのもとに戻ったのは心底意外で、本当に驚いた! これこそ大どんでん返し! ハッピーエンドになるなんてこれっぽっちも思ってもなかった! だからなおさら、すごくうれしかった。信じられないながらも、なんだかぱあーっとまわりが明るくなったような気がしたくらい。
    ハッピーエンドにしたのは、ハイスミスの希望かな。現実はそうじゃないから希望を託したのかな、と推測するとせつない気もしたり。
    一緒に住みましょう、と言ったキャロルは強くてかっこいいと思った。自分の気持ちに正直で、勇気があって。ケイト・ブランシェットぴったりだ。というか、映画では彼女がキャロルを演じていると知っていたので、読みながらキャロルはケイト・ブランシェットでしかなかったけれど。映画もぜひ見たい。

  • 1回目の感想
     映画を観てから原作を読んだ。原作のキャロルは、脆さであったり危うさであったりがよく表現されていて、より人間らしく感じられた。テレーズが、キャロルをただ美しい理想の人間ではなく、現実の人間としてとらえはじめたところにテレーズの成長がある。
     この2人の織り成す関係性がとても美しい。人が求め合うとか惹かれあうといったことは、本来簡単なことではないはずでうまいこといくものでもないのだろうけれど。

  • きっとテレーズにとって本当の初恋。
    だからこそキャロルしか見えないし、他のものに対して苛立ちが伴う。人を初めて苦しくなるほど愛するとはこういうことだったなぁと思い返したりした。
    2人が離れてからのほうが結構好きだったかな。
    冷静になって彼女をまた愛するの良かった

  • レズビアンへの差別や社会風刺が、とかよりもまず、単純に恋愛ものとしてとても刺激的。
    物語は終始テレーズ視点で進むが、上品で魅力的で思わせぶりなキャロルの態度にはらはらさせられる。
    そして、そんなキャロルがついに囁く「私の天使」という言葉!
    テレーズが夢中になってしまうのもわけはない人物だと思わせられる。

    運命というものは存在するし、どこにも転がってる。ただ、何もかもを捨ててそれに飛び込む勇気が普通の人には無いんだと思う。でもこの「キャロル」のテレーズは、最後はきっとうまく飛び込めた。

  • 人並みに嫉妬したり、恋に思い悩むテレーズが愛おしくなった。
    キャロルに対する評価が定まるのは、中盤以降。実はテレーズへの愛に溢れていて、そして人間臭いところがたまらない。

    愛すべき二人が車でアメリカ横断旅行(?)に出るって、すごく映画的と言うか、おしゃれだなと思ってしまった。

    単なる恋愛小説ではないのは、テレーズには男性のお相手がいて、キャロルには元夫と娘がいたことかもしれない。いわゆるLの世界的な「イケてるビアン達の都会ライフ」とは全く違うお話になっているw

    テレーズとキャロルの関係が監視されて、娘の親権争いに利用されるのは、ゲイとしては非常に苦しい気持ちになってしまった。
    子どもの幸福が大人の勝手な都合と司法によって損なわれるのは、同じLGBTというくくりだと「チョコレートドーナツ」という映画を思い出した。

  • とんでもなくよかった。控えめに言って最高。
    映画を見て、次の日に原作を購入した。
    映画では描かれていなかったテレーズの想いが書かれていてすごく共感した、キャロルと出会った時のテレーズと同い年の私。


    最後キャロルの同棲の話を断った後のパーティで、美人な女優さんに好意を抱かれているのを見てやっぱりテレーズは相当美人なんだなと思ったし、映画のキャストさんであるルーニーマーラで当てはめると、そりゃあモテる…と思った。テンション上がる。今でさえそうなんだから昔はかなりLGBTへの差別がキツくて、相当辛かっただろうし葛藤しただろうなと思う。今でさえ、同性で付き合うってなった時に間違ってるとか言わせてしまうのだから。それなのに、自分達の気持ちをしっかりと持って人を愛するなんてすごいなと思うし感動しかない。
    性別が違うから愛せる、それが正しいんだという考えから人が人として人を愛するという考えに代わってほしいなと思う。

    • 大野弘紀さん
      素敵。とても素敵で、泣いてしまいそうなくらいに、素敵なレビュー。
      素敵。とても素敵で、泣いてしまいそうなくらいに、素敵なレビュー。
      2019/01/21
    • ペネストローネさん
      ありがとうございます。。
      ありがとうございます。。
      2019/01/31
  • クリスマス商戦の忙しいデパートでアルバイトをするテレーズが、美しいキャロルに出逢い、強く惹かれ恋をする。

    ミステリー作家として有名なパトリシア・ハイスミスが描く恋愛小説。
    こういった作品も残していたのだなと意外でもあるが、こういう恋愛小説も悪くないと思う。

    この作品が単なる恋愛小説でないのは恋愛をするのが男女でなくふたりの女性であること、レズビアンを扱う小説だというところだ。
    正直に言うと、わたしの周りにはレズビアンを公言するひとがいないため、それなりに偏見を持っている。
    レズビアン小説と知っていてパトリシア・ハイスミスの作品でなければ多分読むことはなかったのではないだろうか。
    この作品は発表当時はハイスミスの名前ではなかったらしいので、現在こうしてハイスミス作品として発売されたためそこそこ偏見を持つわたしという読者にも読まれることになった。そして、読むことにより少しではあっても偏見がなくなる。
    本って素晴らしい。

    恋愛小説、それもレズビアンとなると面白おかしく過剰なまでにセックスシーンが書かれてポルノみたいな仕上がりになっていたら嫌だなと思いながら読んだのだけれど、そういうことは無かった。
    ハイスミス自身がレズビアンであるためか、テレーズの心の動きを中心に描かれており、直截な描写は殆どされていない。
    わたしのように文章で痴態描写を読むことが苦手なひとでも読めるありがたい一冊だ。

    キャロルに出逢い、それまでリチャードという恋人がいたテレーズが本当にひとを愛する気持ちを知り、最終的には成長していく。
    ラストは予想と違うものだったが、淀んでしまいそうなレズビアンを扱う小説としては良い終わり方なのかもしれない。

    滅多に読まない恋愛小説だけれど、面白く読めた。

  • Edward Hopperの表紙が印象的で手に取ったところ、サスペンスの女王として知られるパトリシア・ハイスミスの恋愛小説だという。恋愛の中にもサスペンスもあるのだろうと思っていたが、これが完全なる恋愛小説でした。しかし、終始ハラハラしながらこの結末がどうなるのだろうと読ませる筆力はさすがで、気が付いたら時間を忘れて最後まで読み終えてしまうほど。是非、クリスマスを迎えるこの時季に読んで欲しい一冊です。来年公開の映画も期待大です!

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著者プロフィール

1921-1995年。テキサス州生まれ。『見知らぬ乗客』『太陽がいっぱい』が映画化され、人気作家に。『太陽がいっぱい』でフランス推理小説大賞、『殺意の迷宮』で英国推理作家協会(CWA)賞を受賞。

「2022年 『水の墓碑銘』 で使われていた紹介文から引用しています。」

パトリシア・ハイスミスの作品

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