帰ってきたヒトラー 下 (河出文庫)

制作 : 森内 薫 
  • 河出書房新社
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本棚登録 : 617
レビュー : 64
  • Amazon.co.jp ・本 (289ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309464237

感想・レビュー・書評

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  • 上巻に引き続いて読んだ。
    この巻では、よみがえったヒトラーが、「ユーチューブ・ヒトラー」として大ブレイクし、再び政治家を志すまでが描かれる。
    マスコミとの戦い、ネオナチからの襲撃、そして自由を擁護するアーティストとして祭り上げられた彼は、あらゆる政党からラブコールを受ける。
    上巻より広がりが出ている感じがした。

    ヒトラーの演説は(本人はいたってまじめにやっている)、ブラックジョークとして誤解される。
    そんな風に笑いものにしていく風潮を、こちらもそんなものかと思って読んでいると、シビアな場面が現れる。
    秘書の「クレマイヤー嬢」の祖母のエピソードだ。
    彼女はユダヤ人で、ホロコーストで家族をすべて失っている。
    その彼女が、孫娘が「ユーチューブ・ヒトラー」の秘書をしていると聞いて激怒するのだ。
    あの時、1930年代の頃だって、みんなヒトラーのことを笑っていたじゃないか、と。

    社会が道を誤っていくときって、こんな風なのかもしれない。
    訳者森内さんがいうように、ヒトラー的なものはクラウド的に遍在し、いつの間にかそれに慣れ親しんでしまう。
    それは突然やってきたものではないのに、気づいた時には手遅れの状態になっている。
    そう思うと、他人ごとではない。
    背筋が寒くなった瞬間だ。

  • 第二次大戦当時、自殺したとされたヒトラーが70年後の現代に蘇り、当初は本人似のコメディアンとして認知されるものの、メディアを通じて次第に人気が出て行って…という話。
    読んでて面白いのに、読みすすめていく内にとんでもなく不安になる不思議な小説。
    その不安は①そもそもヒトラーの話を面白おかしく読んでしまってる自分がいるけどいいのだろうか?②ドイツやイスラエルの読者はこれ読んでどんな気持ちになるんだろ?③これはヒトラーの事例だけど、似たような状況が知らぬ間に起こり得るってことだよね?、といった具合に様々な思いが入り混じって押し寄せてきます。
    巻末のニューヨークタイムズの書評やイスラエルでの版権を獲得した編集者へのインタビュー、そして日本で活躍しているドイツの方と訳者による解説はとても読み応えがありました。
    本国ドイツで200万部のベストセラーとなった時、著者が「これは200万人が参加する社会実験だ」と言ったというのは頷けます。
    ヒトラーについて思考停止で“絶対悪”と決めつけるべきではなく、そこに至るまでの過程があったことに気付かされます。

  • 笑えない。

  • つまり現在のドイツで実はヒトラーはそれほどの違和感なく受け入れられてしまうのではないか、という皮肉なお話。繰り返されるナチスはあくまでも民主主義的な手続きを経て政権を取ったという事実は重いし、今の諸国の政治体制がポピュリズムに傾きつつある時代にこの小説の微温的なハッピーエンドが薄気味悪さを漂わせる。

  • あの「ナチス」のアドルフ・ヒトラーが現代に甦ったらどうなるかという、ブラックユーモアにも感じる作品。

    ドイツで大反響となり、250万部を売り上げ、映画では240万人を動員したベストセラー。
    日本で出版された文庫本も上下巻累計24万部を売り上げた。

    1945年からタイムスリップしてきたヒトラーは、現代ではヒトラーのそっくり芸人という扱いをうける。当の本人は、タイムスリップしてきたという事実と現代での扱われ方を生き抜く術として受け入れ、テレビ業界に紹介されるや、テレビやインターネットで政治風刺演説を繰り広げ、一躍時の人に。

    当たり前だが、まるで本人の生き写しのような容姿や演説に、賛否両論が起こるも、YouTubeでは70万回の再生回数を3日間の間に成し遂げ、民衆の人気を勝ち取っていく。

    それでも世界の禁忌に触れる芸風では敵も多く、新聞の攻撃に会うが、その新聞までも屈服させる快進撃。徐々に現代ドイツが抱える問題を改善する意識も芽生え、ある事件をきっかけに各政党から引っ張りだこになるほど勧誘される立場となる。

    今や「ナチス」やヒトラーに関する話題は、あらゆる方面から禁忌とされている。ヒトラーとは、ほんとにただ残忍で冷徹な指揮官だったのか。今となっては真実を知ることも難しいが、あれだけドイツ国民を熱狂させ、きちんとした国民選挙で選ばれ総統となった絶大な魅力、改革を実行していった手腕と行動力は、今の政治家には感じられないものばかり。ある出来事や考え方だけに注目すれば、決して人権的とは言えず、現代では考えられない手法を用いていることもあるが、もしも現代に甦ったとしたら、ドイツ国民とは言わず世界中が彼の魅力に惹き付けられ、再び総統のポジションを得ることになるのかもしれない。

  • 上巻に比べるとドタバタ的シーンは減ったかな。一方でヒトラーを真に「理解する」人が増えてきて雲行きが怪しくなってくる。
    近年の極右系暴言政治家が選挙で選ばれてきてしまう風潮に似たところを感じてちょっと怖い。

  • 笑いが散りばめられている小説なのですが、最後はヒトラーが反省するのだろうとか、何らかの形で現代の世から去るのだろうとか、そんなストーリーを予想していました。だって何と言ってもあのヒトラーだし、そういう終わり方じゃないと多くの人は納得しないんじゃないだろうかと思って。

    予想を裏切られ、この本のヒトラーは生きたまま、そして相変わらず使命感に燃えたままで物語が終わります。文庫本版についているニューヨークタイムズの書評のところに、ブラックユーモアを使ってナチスの過去と向かい合う新しいアプローチだと書かれていました。なるほど。

    本を読んで大笑いし、そこでふと我にかえり「こんなに笑っていいのだろうか?」と自問する。そういう小説でした。映画にもなったんですね!

  • 上巻に続き下巻を読みました! 
    「この本はヒトラーを笑うのではなく、ヒトラーとともに笑う」みたいなことをどこかに書いてあったと思うのですが、確かになと納得です。
    この本を読んでいると、ヒトラーがチャーミングでいい人な気がしてきます。
    もちろん内容はフィクションですし、過去に行われた悲惨な出来事を思うと、フィクションとは言え、そう思うことが正しいことなのか?と自問してしまいます。
    そして本書でヒトラーが行うような手口、もしくはヒトラーのようない人物が現れた時にその思惑に気づくことができるのか?
    私自身、そして周り、日本という単位で考えてみても疑問です。
    終始ユーモアを感じながら読み進めることができますが、最後の最後にはやはりどこか「ゾッ」とさせるものがあります。

  • 最後のページを読み終えるまで、私は彼の無事に安堵し、彼の一層の活躍の予感に素直に喜んでいた。
    だが、物語の外に出て、我に返った時、とりわけザヴァツキ夫妻を思い出し、彼がこれから作り上げていく未来に思い至って、空恐ろしい気持ちがしてならなかった。

    あとがきの通りだ。
    読者は、物語に没頭すればするほど、彼とともに笑い、そうするほどに、我に返った時、背筋の凍る思いをし、一度でも彼に共感を覚えてしまったことを猛烈に反省する。
    どこか、「あの」歴史にも似ている。

    彼が、彼のような人が現れた時、途中で我に帰ることの出来る人間が、一体どれほどいるだろう。
    それは、あまりに恐ろしい想像だ。

  • 複数巻を平行に読了シリーズ。といっても、最近はあまりプレッシャーも不安もないな。

    上巻で離陸したユーチューブ・ヒトラーが大人気となり、タブロイド紙「ビルト」に目をつけられる。ビルト紙による罠の会談を、相手方の不満が残る形で切り抜けると、その足で極右政党の本部に乗り込んで、体たらくぶりを斬る映像を取る快進撃を続ける…。

    上巻で「離陸したところ」と書いたが、下巻が始まった途端に調子に乗りまくりで、あれよあれよという間に半分は読み終えてしまうだろう。

    過去の人が過去のままだと思いこんで(というわけでもないが)、左右政治家にぶち当ててみたら、実はヒトラーのほうが柔軟で、うまくあしらってしまうさまは痛快である。その一方で、クリスマスの話など、なんとか書きました、というような話もあるので、昭和家はうまくなされているのではないかと思う。

    相変わらずのヒトラー口調と一般人のコントラストが非常に素晴らしい訳をなされており、堅苦しいように見えるヒトラー一人語りも、軽く読めてしまうところがまた面白い。一章で移動は1つ、イベントも1つというのも、読者を飽きさせないテクニックであろう。内容は☆4。

    ただでさえ短い作品だが、下巻は特にあれ?ここで終わるの?と思わせる厚さを残して終わり(終わり方は個人的に好き)、その後に長々といろんなマスコミの書評などで嵩上げして、上下2巻にしているのはいただけない。1冊で済む話だ。星を一つ減らしたのはそこ。

    また、よく考えてみると、ドイツ人が書いて、ドイツ人はこの作品に出てくるヒトラーを一切認めてはならないのだが認めざるを得ないという、複雑な状況で読んでんだろなと思いながら読むと、なおさらおかしい気分になる。

    2019年に読んだものの中では、ベスト3には入るけど、1位ではないかな。

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著者プロフィール

1967年、ドイツのニュルンベルク生まれ。エルランゲン大学で歴史と政治を学ぶ。ジャーナリストとしてタブロイド紙〈アーベントツァイティング〉紙や雑誌などで活躍。ゴーストライターとして4作品を刊行。

「2016年 『帰ってきたヒトラー 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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