青い脂 (河出文庫)

  • 河出書房新社
4.00
  • (6)
  • (6)
  • (4)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 150
レビュー : 10
  • Amazon.co.jp ・本 (623ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309464244

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 1999年に出版された
    ロシアの作家ウラジーミル・ソローキンの長編SF小説。

    2068年、酷寒の地に建つ遺伝子研(GENLABI)18に、
    七人の文学者のクローン体が運び込まれた。
    クローンたちは新作を書き上げると
    焼け焦げて仮死状態に陥り、
    超絶縁体の《青脂》――青い脂――を体内に蓄積させる。
    研究所員の一人、
    言語促進学者ボリス・グローゲル曰く、
    防衛省が月面にピラミッド型をした不変エネルギーの
    反応器を造っており、
    その原料になるのが第五世代の超伝導体と《青脂》で、
    それは軍事用ではなく、毒性もなく、
    分解可能だが燃えることもない――。

    物語の鍵を握る謎の物体が
    次から次へと人の手に渡っていく様は
    さながら河竹黙阿弥『三人吉三廓初買』のようだと
    思いつつ、ニヤニヤしながら読み進めたが、
    次第にボルヘスの名言が頭を擡げ出した。

     > 長大な作品を物するのは、
     > 数分間で語りつくせる着想を
     > 五百ページにわたって展開するのは、
     > 労のみ多くて功少ない狂気の沙汰である。

     ※『八岐の園』~「プロローグ」
      (岩波文庫『伝奇集』p.12)

    様々なテクストを織り込んで諷刺を利かせているのは
    理解できたが、
    後半のエログロ描写ですっかりお腹いっぱいに(笑)。
    ただ、《青脂》が製造される2068年のロシアに
    中国語・中国文化が浸透しているらしい叙述について、
    解説(p.604)には、

     > すでに疲弊した西洋に代わって中国が勢力を増し、
     > やがてその文化が
     > ロシア文化を侵食するだろうという
     > ソローキン独自の未来予測

    とあり、中国のパワーが増大して、
    ロシアに限らず世界中を席巻している現状を鑑みるに、
    前世紀末時点での作者の予見は
    的中していたと言えるのでは……と、
    その点には深く頷かされた。

  • 最初の1ページですでに、何言ってるのかわからないよこれ!と混乱をきたすあまりなぜか面白くなってくる(笑)極寒の近未来ロシア、遺伝子研究所らしきとこに赴任してきたボリスという男が男の恋人に送る手紙という体裁で日記のように綴られる文章は、ところどころに中国語やその他の言語、造語、略語などが入り乱れ支離滅裂。理解できない単語で躓いていると前に進まないので取りあえず無視して読み進めているうちに、なんとなく輪郭は掴めてくる。中国語についてはまあ、漢字なのでだいたい意味はわかるし。

    どうやらその研究所では人工孵化された文豪の「再構築物(リコンストラクト)」(純然たるクローンともちょっと違うっぽい、文字通り死体から再構築されたのか、見た目は大変グロテスク)に執筆させることで分泌される「青い脂」の採取を行っている。それがなんの役に立つのかはよくわからない。

    トルストイ4号、チェーホフ3号、ナボコフ7号、パステルナーク1号、ドストエフスキー2号、アフマートワ2号、プラトーノフ3号らが施設に届けられ、彼らの数人が執筆した作品も読めるのだけど、これがなんともまあ本編以上にキテレツで、なんのこっちゃわからない(でもなんか面白い)一応チェーホフだけは戯曲になってるし、もともとの本人の性格が良い(?)せいか、この中ではわりとまともだったかも。

    これが600頁ずっと続くのかなあ?とちょっとしんどくなってきた200頁あたりで、しかし突然謎の組織が研究所に乱入。あららボリスくんは主役じゃなかったの!?と、うろたえてるうちに強奪された「青脂」を持って逃げた男のその上司のそのまた上司のそのまた上役の・・・なんかよくわからないけど謎のゾロアスター系宗教組織みたいな大地と交合するとか言ってる変な団体が出てきて、どうやら近未来ロシアは二つの派閥にわかれて争っているらしい。そんなわけでどうやら敵対派閥であるボリスたちのいた研究所から奪って来た「青脂」入りのトランクを持った巨大な童子が1954年のモスクワにタイムスリップ。

    ここからメインは1954年のスターリン時代(実在の人物がぞろぞろ出てくるが年代や年齢はかなりパラレル)に。氷漬けになってボリショイ劇場に現れた、青脂入りトランクを持った巨人をスターリンと仲間たちは解凍する。どうやら大地交合団体は過去すでに二度、変なものを送りつけていたらしく、スターリンも閣僚たちもあまり驚かない。(ここまででも本筋とは関係なさそうないくつもの小説内小説あるのだけれど、だんだんその支離滅裂っぷりが面白くなってくる。慣れって怖い)

    スターリンの家庭の事情、未来では再構築されていた女流詩人アンナ・アンドレエヴナ・アフマートヴァ=AAAのよくわからない卵出産のエピソード(当時のロシア文壇事情に超詳しかったら楽しめたのだろうか)、さらにスターリンとおホモだちのフルシチョフの無駄に具体的な「坊やとおじちゃんプレイ」などを経て、スターリン一行はなんとナチスドイツのヒトラーのもとへ。

    狐と狸の化かし合い的なすったもんだがあって最終的にスターリンは青脂を脳に注射、宇宙規模にまで肥大した脳が世界を覆いつくし・・・

    いったいなにが起こってどうなったのかわからないまま不思議なエンディングを迎え、呆然。おそらくロシアの社会情勢や文壇事情にもっと詳しければニヤリとできる部分もたくさんあるのだろうけど、でもそういうの全部知らなくても、とりあえず「なんかすごいもん読まされた」感。わけのわからないパワーに圧倒されてしまう。理解できたわけではないのに読後変な充実感があって、悪い気はしなかった。ソローキン、もっと他の作品も読んでみたいな。

    • yamaitsuさん
      淳水堂さんこんにちは!

      これ文庫本でもかなり通勤で持ち歩くのは重たかったですが、単行本ならさらに重かったのでは(@_@;)
      しかも内...
      淳水堂さんこんにちは!

      これ文庫本でもかなり通勤で持ち歩くのは重たかったですが、単行本ならさらに重かったのでは(@_@;)
      しかも内容もアレですし(苦笑)

      淳水堂さんの感想も読ませていただきました~!
      これほんとに、どうストーリーを要約したものか困りますよね。「よくわかんないけど面白かった!」的な感想だけでも良いのだけれど、自分の脳内を整理するためにはやっぱりあらすじを辿らざるをえず・・・

      いやはやすごい本でした。
      2017/10/19
    • 淳水堂さん
      私は「絶対読み返さないから、ブクログにはちゃんと書き残さないと将来思い出せない」と気合い入れて要約(になってないけど)しましたよw

      こ...
      私は「絶対読み返さないから、ブクログにはちゃんと書き残さないと将来思い出せない」と気合い入れて要約(になってないけど)しましたよw

      この作品発表時には、作者がおちょくった登場人物でまだ存命だった人がいるらしく(フルシチョフの娘だっけな)よく作者無事だったなあ、さすがに存命者の性描写はマズくないか?と思いましたが。
      2017/10/19
    • yamaitsuさん
      淳水堂さん

      >>ちゃんと書き残さないと将来思い出せない

      これすごくわかります(笑)この本を何度も再読するとは思えませんもんね。
      ...
      淳水堂さん

      >>ちゃんと書き残さないと将来思い出せない

      これすごくわかります(笑)この本を何度も再読するとは思えませんもんね。

      確かに実在の人物存命中は、下手したら名誉棄損で訴えられたりしないのかしらと読んでるこちらがハラハラするかも。
      私は最近だとウェルベックの「服従」読みながら心配になりました(苦笑)
      2017/10/20
  • 文学

  • 現代ロシア文学のスター、いや、スターと言うよりはモンスターと評される若手作者の長編小説。こーれーはヤバイです。ヤバ過ぎて、何度も挫折しかけてやっとの思いで読み終えました。人生で一番読むのに苦しんだ作品と言っても過言ではないかもしれない。前衛アート?奇怪なスラング、文豪のクローン、エログロスカトロ何でもござれ、極め付けはスターリンとフルシチョフの濃厚な濡場。読むのに並々ならぬ体力が必要です。

    你好、私の優しい坊や。やっとお前がくれた書を読み終えた。正直に言おう。一文字目から腐っている。これを書いたのはどこの醜悪な気狂い野郎だ?おかげで私はMバランスを7ポイント失った。マイナス=ポジット。後はただ乾いたカッテージチーズになるしかない。なんてことだ。リプス ・你媽的 ・大便 !

    引用という訳ではないのですが、上記のような文体で第1章が開始(『時計じかけのオレンジ』のスラングはまだ解読の余地があったけど、それ以上の難しさ)。近未来、雪に埋もれたシベリアの遺伝子研究所で働く多国籍チーム。彼らはトルストイ4号やナボコフ7号を始めとしたクローンを創り上げ、各個体が執筆活動の後に蓄積する謎の物質「青脂」を集めていた。しかしそれも強奪された後に様々な者の手に渡り、最終的にはタイムマシンで1954年のスターリンに送られる。それを手にした最高指導者は…。

    好きか嫌いか問われれば大っ嫌いだけど、まるで卓に置かれた礫死体のように、どうしても視線を外す事ができない作品。クローン達が書き上げたとされる作品群は各文豪の文体模写とソローキンの個性の合わせ技が炸裂。また、その他にも短編として独立した挿話が数多くあり、それぞれスタイルも違い、美術館の展覧会に足を踏み入れたようで大変面白かったです。「水上人文字」と「青い錠剤」が特に好き。鬼才ソローキンが放つ猟奇の世界に、勇気を振り絞って身を投じてみては。

  • 何とか最後まで読んだ。ボリスの手紙の宛先が不明だが、結末で明かされる。全体的にはカルト映画を観ているような感じだった。ナボコフのクローンが書いた小説だが、理解できる人いるのだろうか。

  • 文庫化により再読。
    単行本が出たときも話題になっていたが、まさか文庫になるとは思っていなかったので驚いた。
    ソローキンのはちゃめちゃっぷりがこれでもかと爆発した1冊。色々とぶっ飛んでいるし、かなり突き抜けちゃってるが、このまま行って欲しいw

  •  想像していた内容と良い意味で違った本。ロシアの作家や歴史的な人物が登場したり、パロディが成されていたりする。それに加え、SF要素がある。初めのうちはもう何が何だか分からない。登場人物たちも新ロシア語で話しているし。しかし、読み進めていくうちに不思議と何を言っているかが感覚で理解できるようになります。それに1954年が舞台になると普通の言葉で話すようになるので、言葉だけは理解できるようになります。物語中で起こることは、私の理解の範疇を超えていましたが。
     2068年の作家たちのクローンによる作品は、その作家っぽく書かれていて、作者のの手腕が光っていると思います。
     ところで、結局「青脂」とは何だったのだろう。どうして青い脂はスターリンの脳を肥大化させるような力を持っていたのだろう。スターリンが2068年まで生きながらえているのも、もしかして青脂の力? 青い脂は作家が作品を執筆することで生成されるということだったから、文学によって生まれる目に見えないものを可視化した物質なのか? このような疑問は解決されぬまま終わります。
     色々考えられる作品ですが、序盤を読み進めるのが苦しかったので、個人的にはしばらく再読したくありません。

  • 単行本で既読。

全10件中 1 - 10件を表示

ウラジーミルソローキンの作品

青い脂 (河出文庫)を本棚に登録しているひと

ツイートする