ヘリオガバルス あるいは戴冠せるアナーキスト (河出文庫)

  • 河出書房新社 (2016年8月8日発売)
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本 ・本 (240ページ) / ISBN・EAN: 9784309464312

感想・レビュー・書評

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  • 白水uブックス版(多田智満子=訳)を
    学生時代から何度か読んでいるが、新訳にも手を出してみた。

    ローマ帝国第23代皇帝
    マルクス・アウレリウス・アントニヌス・アウグストゥスこと
    幼名ウァリウス・アウィトゥス・バッシアヌス、
    セウェルス朝第三代当主でもあった通称ヘリオガバルス
    もしくはエラガバルスの評伝――というには迂遠な、
    著者アントナン・アルトーによる幻視的エッセイ色の濃い創作。
    アルトーは無秩序で退廃的な、
    ローマ史上最悪とも評される少年皇帝に、
    狂気と紙一重の状態に置かれた自分自身を重ね合わせていたらしい。

    第一章 精液の揺り籠
     ヘリオガバルスの誕生に繋がる、一族の物語。
     政権を奪還するため、あらゆる手段を駆使した女たちの
     画策によって産み落とされ、
     神官として育てられた男児の背景。
     204年にアンティオキアで生まれたウァリウスは、
     幼年のうちに太陽を祀る司祭に据えられ、
     太陽神ヘリオガバルスを名乗って神との同一化を目論んだ。
     アルトーは、そんな彼が採用した一神教の正当化を
     アナーキーと呼んだ。

    第二章 諸原理の戦争
     バッシアヌス一族が祀った太陽神の宗教について。
     男児として生まれながら
     女になりたいと願ったヘリオガバルスは、
     相反するものを、苦痛を味わって自身の内で一致させたが、
     男性的なものと女性的なものの間に抽象的な闘争を
     生じさせた。
     アルトーは、ヘリオガバルスの生涯を、
     そうした原理の解離の類型であると考えた。

    第三章 アナーキー
     息子を献身的に支えた母ユリア・ソエミアと、
     彼女の権力への執着に裏打ちされた愛情に
     報いようとしたヘリオガバルスだったが、
     内面は混乱し、行動は倒錯的だった。
     玉座に就き、専制政治を敷いて、
     どんな法も受け入れない支配者となった彼は
     アナーキストだった――と、アルトーは述べる。
     ヘリオガバルスに蹴散らされたローマ人たちにとって、
     彼の治世は無政府状態だったが、彼にしてみれば、
     それは一族が奉ずる宗教の復権であり、均衡の回復だった。
     しかし、自身の息子アレクサンデルを王位に就けようとした
     叔母ユリア・マンマエアの陰謀によって、221年、
     ヘリオガバルスと母ユリア・ソエミアは無残な死を遂げた。

    【余談】
     白水uブックス版
     https://booklog.jp/item/1/4560070806
     表紙画像が誤っています。
     Amazonとブクログの連携ミスらしいのですが、
     2018/01/25、
     ブクログから修正不能との返答。
     読書SNSの運営に本好き・愛書家は存在しないのかと
     頭を抱えた次第。
    【余談付記 2021/02/05】
     白水uブックス版
     https://booklog.jp/item/1/4560070806
     表紙画像がいつの間にか正しい状態になっていました。
     但し、修正完了のお知らせはいただいていません。

    • 深川夏眠さん
      いらっしゃいませ、お茶どぞー( ^^) _旦~~

      無料サービスなので、あまり文句を言ったり
      注文をつけたりするのは筋違いだと理解して...
      いらっしゃいませ、お茶どぞー( ^^) _旦~~

      無料サービスなので、あまり文句を言ったり
      注文をつけたりするのは筋違いだと理解してはいますけれども。
      ある程度利用歴の長いユーザーには
      複数回に渡る仕様の改変(改悪)とか、運営会社の変更だとか、
      この画像表示問題のような細かい点に目配りができず、
      融通も利かないところが、なんだかなぁ(溜め息)……です。

      古い、あるいはあまり注目されていないけれど名著だよ、
      みたいな本を発掘するためのツールではないですよね。
      書店で平積みにされている本を更に売るためのシステムなのかな、と。
      運営者の中に、書物に対するこだわりの強い人がいれば、
      もう少しマシな対応をしていただけるのでは、とも思いますが。

      Twitterを使い始めた当初、ブクログ運営アカウントもフォローしたのですが、
      流れてくる話題があまりにも役に立たず、単純に面白くもないので(爆)
      フォロー解除してしまいました(笑)。

      こちらも「まあ、その程度のツールだし」と割り切って付き合うのが
      一番かもしれませんね(トホホ)
      2019/01/27
    • 佐藤史緒さん
      お茶どうも〜 旦(´∀`=)
      そう、発掘ツールじゃないんですよね。以前はプレミアム会員になれば自分でオリジナルアイテム登録ができ、画像...
      お茶どうも〜 旦(´∀`=)
      そう、発掘ツールじゃないんですよね。以前はプレミアム会員になれば自分でオリジナルアイテム登録ができ、画像も登録できたんですけど、今はそれもできなくなってしまいました。残念です。
      結局、本を商品と捉えるか、作品と捉えるかという価値観の問題ですよね。あるいは読書を自己啓発やコミュニケーションのための手段とみるか、読書そのものが目的とみるか。私は後者の方なんですけど、ブクログの方向性としては明らかに前者ですよね。
      2019/01/27
    • 深川夏眠さん
      どもどもー。

      オリジナルアイテム登録可能、だが、画像を貼り付けられないことについて、
      先日、運営に質問しました。
      私の記憶では、導...
      どもどもー。

      オリジナルアイテム登録可能、だが、画像を貼り付けられないことについて、
      先日、運営に質問しました。
      私の記憶では、導入当初「ひとまず登録だけ。そのうち画像OKにするかも」
      みたいな話だった気がするのですが、どうなっていますか? と。

      答えは「提供停止。リリース予定は未定」とのこと。
      http://img.p.booklog.jp/366021945c4d5438dc693597166523_l.jpg

      ( ˘ω˘ ) .。oO(チェッꐦ)ww

      そんなワケで、
      自分の本棚では画像が出ないアイテムは後ろ(というか下方)に回す主義なので、
      私家版はずーっと潜った先にひっそり埋もれています(笑)。

      > 価値観の問題

      まさにそうですね、おっしゃるとおり!
      私も「物語そのものに関心があって、本はそれに相応しい体裁であってくれれば」
      と思うタイプで、読書にコスパを求めていません。
      だから、何か違うんだなぁ……と思うことだらけです(ブクログに限らず)。
      2019/01/27
  • 書き出しにシビれて衝動買いした。
    それで読み始めたら、いつまで経っても登場人物を覚えられない。
    しかもだんだんと話が錯乱してきて、訳がわからなくなってきた。
    小説として読んでいたのが間違いだった。これは散文詩なのだと途中から自分に言い聞かせた。
    そしたら始めから終わりまで通読する必要を感じなくなってやめた。適当にページをめくって読んでいる。すると、きらりと光る表現がそこここにある。
    まるで、金かダイヤモンドかを、硬い岩を必死で削って探しているかのような読み応え。
    いつまでも通読はできないだろうけど、何度もページをめくるに足る本であることは確かだ。

  • 18歳で死んだローマの若き皇帝、ヘリオガバルス。両性具有者であることが象徴するように二重性のうえに立ち、矛盾を生き抜いた彼の短くもポエジーな人生が歴史小説風にまとめられていた。
    テーマはかなりバタイユに似ていたが、最終的な到達点が合一し2つの原理の区別をなくすこと、というのが少し物足りない。
    12という数に関する分析はかなり興味深い。円環時間の4に原理を表す3(ピラミッドや地下の逆三角形に似た濾過器を想起させる)をかけたもので、デュメジルの神々の構造なんかと結びつけられないだろうか。
    女性の活躍という点も面白かったが、神聖視してしまっているのが少々いただけないか。

  • 澁澤龍彦氏の『異端の肖像』で知り、興味を持ったヘリオガバルス。
    彼の生涯についての本かと思い手に取ったのですが思っていたものとは違いました。
    この著者を詳しく知らず、初めて読んだ本なので余計にそう感じてしまうのかも知れませんが言葉が本から飛び出してぐいぐい迫ってくるような感じがして妙に疲れてしまいました。
    私の著者への知識不足が招いたのですが疲れました…。

  • ライチ光クラブで気になっていたローマ皇帝エラガバルス。多分、この人だよね…と手にしました。読みやすい文章で面白かったです。ちょっと大学時代の史料を読んでいる気分になりましたが、こちらには知識を得るだけじゃない文章の面白さがありました。でも、もっとヘリオガバルス自身の描写があるとよかったな、と思いました。あの頃のローマ帝国の混沌さは伝わりました。

  • 新訳版。旧訳は多田智満子訳、白水社刊。
    新訳が文庫で出るというのはちょっと吃驚するような出来事だが、ある種の奇書が入手容易になったのは有り難い。河出文庫も色々とぶっ飛んでるね。

  • 白水社から出ていた多田智満子訳のをずっと前から読みたかったのだけど、すでに絶版で入手が難しく忘れかけていたころに、河出文庫から新訳が!アルトーはおそらく元の文章そのものがややこしいので、翻訳の良し悪しは正直よくわからなかったけど(たまに日本語としておかしい気がする箇所があったけど翻訳のせいかどうかわからないし)それなりに読み易かった気はします。

    3章だてになってるんですが、正直2章はちょっと飛ばそうかと思った(苦笑)短いので一応読みましたが、ヘリオガバルスとは直接関係ない作者の自説が延々と述べれているだけなので、難解。もちろん読んだほうが全体の理解は深まるとは思いますが。もしここで躓く人がいたら、思い切って飛ばして3章だけ読めば十分。本題ともいうべき3章は圧倒的に面白い。

    以前『神の裁きと訣別するため』を読んだときにも思ったのだけど、アルトーは作家である前に演劇人であるということを念頭に置いて読むと、全体像を立体的に理解しやすい気がする。ヘリオガバルスという最高権力者にしてアナーキーという矛盾をかかえた人物のことも、その奇矯な行動が舞台上のことであると思えば理解できるような。なんというか、彼にとって臣下も国民も、観客だったのではないかと。彼のやることにいちいち反応(怒りでも喝采でも軽蔑でも)を返す観客がいるからこそ、彼の狂気はエスカレートしていったような印象を受けました。

    訳者のあとがきにもギリシャ悲劇のようだとありましたが納得。女性の支配力が強いのもバッカスの巫女みたいで怖い。

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著者プロフィール

1896-1948年。「思考の不可能性」を思考するフランスの詩人。「残酷劇」を提唱する演劇人。西洋からの脱却を必死に試みて、後年、精神病院へと監禁される。激烈な生涯と『演劇とその分身』『ヘリオガバルス』等の著書によって巨大な影響を与え続けている。

「2019年 『演劇とその分身』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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