闘争領域の拡大 (河出文庫)

制作 : Michel Houellebecq  中村 佳子 
  • 河出書房新社
3.50
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本棚登録 : 112
レビュー : 9
  • Amazon.co.jp ・本 (210ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309464626

感想・レビュー・書評

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  • 1994年発表のウエルベック小説デビュー作がようやく文庫に!これまで読んだウエルベック作品の主人公も大概、非モテ、コミュ障、あるいは性欲過多、逆に淡泊すぎなど極端な人物が多かったけれど、これはなんだろうねえ、ちょっとずつ全部の要素を持ちつつ、トータルで「無気力」というのが特徴でしょうか。

    主人公とは別に28才童貞でデブでブサイクという同僚ティスランくんが登場しますが、無気力で別れた女のことをぐずぐず未練に思ってる主人公と違い、ティスランくんは飽くなき狩りの場へ果敢に乗り込んでいく。しかし若くて可愛い子ばっかり狙ってる時点で、結局ブーメランなのだよなあ・・・。ただしイケメンに限るんでしょ、と言ってくる男に限って、女性の容姿にうるさい。女性側から言わせてもらえば、きみたち男性だって、女性を選ぶときに基本的にはより若くて美しいほうにいくでしょ?北川景子とゆりやんがいたら北川景子選ぶでしょ?そんな自分の選り好みを差し置いて、女は男を中身で選ぶべしとは片腹痛いわ。きみたちのほうで外見ではなく内面の美しい女性を選び、なおかつ自分の内面を磨く努力をすれば問題ないのだ。おのれの非モテを、容姿と、容姿で選ぶ女の所為にしてるうちはお前は絶対にモテない!と断言してあげたい。

    ・・・というティスランくんへの説教はさておき。つまり富(お金)における富裕層と貧困層との格差問題と同じく、恋愛(セックス)においても富裕層(勝ち組)と貧困層(負け組)の格差ひどいよね、という、その格差間の「闘争」が今作のお題であり、「闘争領域の拡大」という一見お固い感じのタイトルとは裏腹に、要はカノジョが欲しくてじたばたするモテない男子の話、当社比ではとても読み易くライトなウエルベック作品となっておりました。

    主人公もティスランも収入面では問題ないので、性欲においてもお金で解決することは可能であるにも関わらず、童貞ティスランくんは「世の中にはタダで何回でもそれをできるうえに、愛までついてくる」ケースが多々あるのに、お金を払ってするのはいやだとのたまう。いや気持ちはわからんでもないが、恋愛相手を「タダで何回でもセックスさせてくれる上に愛までくれる」自分にとってだけ都合のよいアイテムのように考えてる時点でもうきみは根本から間違っているんだよ・・・。

    ただまあ、恋愛にしろ貧富にしろ極端な二極化が進んでいることは現代日本でも感じます。昨今次々とよくもまあと呆れるほど毎日目にする不倫のニュースにしても、つまり一部の恋愛体質の人たちだけが結婚してまでも恋愛したくて相手をとっかえひっかえしているだけで、一方で、不倫以前に結婚どころか恋愛さえする気のない傍観独身者が多数存在する。その不平等を主人公やティスランのように悔しがる人もいるのだろうが、好きで傍観独身者側にいる私のような人間からしたら、惚れたはれたは、やりたいひとたちだけで勝手にやっていてくれ(こっちのことはそっとしておいてくれ)という感じ。

    ゆえにそれを妬むあまりティスランくんにナイフを持たせて殺人教唆する主人公のクズっぷりには驚愕。無気力なら無気力らしく無害でいればよいのに。残念ながらこの主人公にあまり同情する気にはなれず、ただただ、生存競争に負けた敗者は淘汰されていくしかないのかという現実のみが悲しかった。

  • ウェルベック先生的要約は

    「自由が進むと、経済的な落伍者が出るように性的落伍者がでるよ。」

    「それってとっても苦しいことで、メンタルもやられちゃうよね。」

    うん、つらい。

  • 自分が属している社会。しかしそこにいる人たちと自分は違っているという違和感。なぜ彼らはそうやって生きられるのか。
    外部と接しているのは僕であって直接僕でないような、この不思議過ぎる感覚。「僕」という容れ物を通して見る世界。「僕」の中の人。そんなイメージが浮かぶ。
    自由な経済システムは金銭の、自由なセックスシステムはまた別の貧困化を生む。誰も敢えて言わないことを言い放つのがウエルベックだな…。
    外の世界を監察しながら「僕」の中の人の思考と精神世界に浸かっていくような小説

  • 本当にうんざりすることしか書かれてない。こんな小説が存在してくれていて本当に良かった。

  • 入手困難だった作品が河出文庫より刊行された。
    河出文庫はホントこういうのを拾ってくれるから有り難い(あと、ちくまも)。
    濃縮されたウエルベックのエッセンス……と言いたくなるような内容。読む人は多分選ぶし、誰彼構わず勧められる本ではないが……これ、好き。

  • これがウェルベックのデビュー作らしい。テーマというか作者の姿勢は本当に一貫していて清々しさすら感じる。これと後の作品を比べると(全部読んではいないが)、変えていっているのは読者層を広く取り込むための工夫の部分だろうか。遡ってデビュー作が文庫化されるくらいなのだから、その努力は上々の成果を上げている。この作品自体は、面白いのだけど、まあウェルベックの作品として一番に薦めることはないかなという感じ。

    最後はあの後、自殺したのかな?してないのかな?どちらもあり得ると思うが…。雄大な自然の中にいてもむしろ虚無感を感じるというのは自分にも覚えがある。個人というものの枠組が根源的には「死によって世界から分離されるもの」として規定されており、その前提のもとに社会が運営されているのだから、冷静に考えるとなかなかぞっとする。人は繋がりが完全に絶たれることに耐えられないにも関わらず、それを社会全体が奨励している。可能性のなくなった人は死んでいく。人間は一体なにがしたいんだ、とは思う。

  • ウェルベックの原点。

    資本主義社会では、誰もが財を成す権利を持ち、それを行使するか否かを決める自由を手にしていると幻想している。
    けれど、それは当然「誰もが」であるはずはなく、このシステム下においては性愛でさえ、持てる者だけが享受し、持たざる者はどれほど足掻こうとも除外されてしまう。

    主人公と正反対で、外交的かつ情に厚いビジネスパートナーのティスラン。
    彼の頭の中は常時と言っていいほど、女性のことが占められていて、自分が愛した女性に無償で愛されることの自由と格闘している。
    けれど残念なことに、彼の容姿やセンスは女性を惹きつけるどころか、遠巻きに嘲笑を浴びるほどだ。

    『性的行動はひとつの社会階級システムである』

    それは金銭とは別の、勝者と敗者を生産するシステムであった。
    ティスランを見ながら、主人公は自分が大量の愛を与えたかつての恋人ヴェロニクを思い出す。
    彼女は鬱病を患い堕落していき、主人公は注いだ愛情をただの浪費だと考えるようになる。
    主人公とティスランは、この闘いに何らかの勝利をもたらそうと画策するのだが……。

    ウェルベックが、日本のオタク文化を見たら、賞賛するだろうか、罵倒するだろうか。
    二次元の中に理想の女性を描き、彼女との擬似恋愛に満たされる、第三次産業が起こした革命(笑)
    ただ、まあ、結局のところ、ティスランも主人公も、自らの勝手な欲望を、都合よく消費出来る女性を求めているだけなのでは。
    そこに時間もお金もかけないことを望むのは、最早恋愛の神聖視ではない。

  • 争の領域に誘われたが、果たして闘争の領域を目指そうとしたのか?その想いで読み進む事で繰り広げられる物語を客観視すると無意識のうちに闘争の領域を目指すべく目指していたことに気付かされた。ウェルベックが示唆した方向は残念ながらその通りになりつつあるが、このことについては彼が後々語り続けていくことになったんだろう。

  • ちょっと後半の展開が急なきがするけど、ウェルベック独特の視点がもう現れている気がする。

    恋愛の自由主義化によって経済と同じ階層が出現してしまった。

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著者プロフィール

1958年フランス生まれ。ヨーロッパを代表する作家。98年『素粒子』がベストセラー。2010年『地図と領土』でゴンクール賞受賞。15年には『服従』が世界中で大きな話題を呼んだ。『ある島の可能性』など。

「2018年 『闘争領域の拡大』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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