ウエルベックの処女小説。批判的な描写が多く、はじめは読みづらかったけど、半ばくらいから面白くなって一気に読んだ。
内容は、自由競争に疲れた(あるいは敗れつつある)者の独白となっている。ときどき哲学的な思弁が入ってきて面白かった。
勝手に要約すると、経済、セックスといった自由を求める競争はさらなる戦いを生み、戦線は日々拡大している。そして、その戦いから押しやられ落ちこぼれた者たちはどこへ向かうのか――といった感じだろうか。
つまらない街並み、退屈な仕事、派手派手しい広告、頻発するデモやテロ、実りのない異性へのアプローチ、主人公はもうなにもかもがうんざりといった様子だ。うだつの上がらない男女に対する軽蔑はまるで自己嫌悪そのもので、その逆に美男美女に対してはあっさりとへりくだる。「ちょくちょく気づかされるのだが、並外れて美しい人々というのは、たいてい慎ましく、優しく、愛想がよく、思いやりがある。」もう諸手を挙げて賞賛している。
要するにここでウエルベックは世間の敗者の潔い代弁(あるいは彼自身の告白)をしているのだ、と思うことにした。自分より下のものは徹底してこき下ろすが、自分より上の物には素直に羨望のまなざしを送っている。その羨望は「到達しえないものへの飽くなき聡明な憧れ」であって、彼が唱える社会階級システムを土台にしているように思える。
「性的行動はひとつの社会階級システムである」と主人公は言い切る。そしてまた「どうあれ愛は存在している。その結果が観察できるから。」と言う。彼に言わせればこの二つの間に矛盾はない、ということだろう。そしてつまるところ彼自身は愛されたいのだ。あるいは彼の同僚である同じく敗残者であるティスランも、誰かから愛されたい。しかしそれが叶わない。苦渋の世界で、彼らの心はさまよい、変化してゆく。
はじめはつまらない小説だと思ったけど、最後には共感してしまった。(ちゃんと理解できてるかわからないけれど)この小説に共感して評価することは僕にとっても一種の告白のような気がする。それほど物悲しく恥ずかしい小説だ。まるで現代社会の孤独を予言しているかのような作品だった。