夢の本 (河出文庫)

  • 河出書房新社
3.50
  • (2)
  • (3)
  • (9)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 218
レビュー : 10
  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309464855

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 読書家のボルヘスおじさんが古今東西の夢にまつわる話を集めたアンソロジー。
    最初は聖書からの引用と古代ギリシャローマが続き、単調ですこし辛かったが、途中の『病める騎士の最後の訪問』あたりからぐっとバリエーション豊かになる。合間に挟まる程度の分量だと聖書の引用もくどくない。
    ゆっくりとかみ砕き文そのものを愉しみつつ、前の話・次の話とのコントラスト、「ここにそれを挟むか~」という選集だからこその楽しさも。
    枕元に置いておき、子どもが寝物語をせがむように少しずつ読みたい。

  • ボルヘスが編んだ古今東西の夢にまつわる断章の数々、1976年。アンソロジストでもあるボルヘスが蒐集・分類・排列した云わば「夢の図書館」とでも呼ぶべきもので、この作品自体が雑多なイメージ群からなるひとつの夢のよう。



    「宝玉の果てしない夢」「悪夢」「病める騎士の最後の訪問」「白鹿」「アロンソ・キハーノ、夢を見る」「荘子の夢」「王の夢」「意識と無意識」「隠された鹿」等々。自分が夢を見ているのか、自分が誰かの夢なのか。主/客の階層構造がくるりと反転して、始まりも終わりも無い、原因も結果も無い、meta-level も object-level も無い「円環」構造に転じてしまう奇想譚の数々。

    改めて、夢と現実との位相構造ということを考えた。夢とは、現実との関係に於いて、主/従だとか実/虚だとか表/裏だとかいうように、必ずしも非対称的な(二者間に価値の偏差がある)二項対立関係のうちに位置付けられるものではないということ、そうした二項の区別自体が無意味なものとして解消されてしまう地点が在り得るということ。

    それは或いは、双方の関係が互いに対等かつ対称的であるがゆえにどちらが実像でどちらが虚像であるのかが決定不可能となる「鏡像」の構造であったり。或いは、裏がいつの間にか表と地続きになりどちらが裏でどちらが表であるのかが決定不可能となる「メビウスの帯」の構造であったり。或いは、自分は誰かの夢の中の存在でありその自分が見る夢の中の誰かが見る夢の中に・・・と始まりも終わりも無限遠に消失してしまっている「無限遡行」の構造であったり。そしてその無限遡行の彼方で、尻尾が頭に咥えられた蛇を見出さないとも限らない・・・。

    夢は、"基底としての主体、世界を構成する眼差しの始点としての近代的主体"という観念を無化するかのようだ。

    「第一原因を独断的に措定する形而上学を回避するなら無限背進か無限循環に陥るしかない」とするミュンヒハウゼンのトリレンマが思い出された。



    夢にまつわる先行研究と云えば何よりもまず『夢判断』をはじめとするフロイトの精神分析が挙げられるところだが、本書の中にフロイトの文章は収録されていない(ユングのものは「意識と無意識」がひとつだけ含まれている)。「ボルヘスは徹底したフロイトぎらい、精神分析ぎらいで通っている」と澁澤龍彦は「ボルヘス追悼」の中で書いているが、確かにフロイトとボルヘスとでは夢に対するアプローチは全く異なる。

    フロイトは、夢を性的なものと結びつけて解釈しようとする、云わば人間の内部に沈潜していく方向で捉えようとする。そこでは、人間存在の前意識的な実相がその内側から暴かれる。

    それに対してボルヘスは、夢を人間の外部(にあるヨリ大きな何か、「コールリッジの夢」で語られている《永遠客体》?)へと通じる秘密の抜け穴のようなものとして捉えようとしているのではないかと思う。ボルヘスの文章を読んでいて感じる、人間のスケールを超えて時間的にも空間的に遠くに高まっていくあの「高度の感覚」、そこから見ると人間は微小な一点となりついに消失してしまうような上空に連れていかれる感覚、に通じるところがあるのではないかと思う。

    ボルヘスの世界観は、「あらゆる文化現象がセクシュアリティとの葛藤の色を帯び」(田中純『建築のエロティシズム』)ている世紀転換期ウィーンの雰囲気とは、やはり全く異質である。

    人間は、世界を構成する主体などではないということ、世界によって夢見られた影でしかないのかもしれないということ。

    ボルヘスの「白鹿」という詩は、それをとても美しく表現しているように感じられる。



    巻末の解説で、フーコーが『言葉と物』の序文で言及した「中国の百科事典」の話が『幻獣辞典』所収とされているが、正しくは『続審問』に収められた「ジョン・ウィルキンズの分析言語」からの引用である。

  • 古今東西の書物や伝承から「夢」にまつわる断章を集めた膨大なアンソロジー。たぶん年代順なのか序盤は聖書からの引用が多く、聖書の夢は大体預言でご都合主義なこじつけが多いのでちょっと退屈。

    そして全体的に「夢」に関する解析や論考のようなもののほうが多い印象で、期待していたものとちょっと違ったかも。勝手に、もっと夢が題材になった小説や、物語の中での夢の部分の抜粋を集めたような本をイメージしていたので。

    ところどころに入るボルヘス自身のエッセイは面白い。病める騎士の最後の訪問(ジョヴァンニ・パピーニ『悲劇の日々』)よくあること(ホルヘ・アルベルト・フェランド『パロ・ア・ピケ』)塔の郷士の見た夢(エッサ・デ・ケイロース『名門ラミーレス家』)など、いくつか原本を読んでみたいと思う作品もあった。

    でも結局シンプルに好きなのは、鉄板の、荘子の夢やアリス、テンペストからの引用。あと『紅楼夢』も面白そうだったのでいつか読んでみたい。

  • 夢をテーマに、古今東西の神話伝説、詩や小説から縦横無尽に引用したアンソロジー。

    一番印象的だったのは、金瓶梅の主人公の夢で、ループもの…なのかな?夢にもう一人自分が出てきて、自分の立場を横取りされてると思いきや、いつのまにか自分がそのもう一人の立場になっていて、新しい自分の来訪を迎え…みたいなループ。
    金瓶梅って恋愛ものだったと思うんだけど、これはこの後どうなってしまうんだろう…

  • 祝文庫化

    河出書房新社のPR
    『ギルガメシュ』『聖書』『千夜一夜物語』『紅楼夢』から、ボードレール、ニーチェ、カフカなど113篇。無限、予言、鏡、虎、迷宮といったモチーフも楽しい夢のアンソロジー。
    http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309464855/

    国書刊行会のPR
    世界最古の物語『ギルガメシュ』『旧・新約聖書』『千夜一夜物語』。「夢」にとり憑かれた盲目の詩人ボルヘスが集めた古今東西の厖大なテクスト群、全133篇。読者が再び見る夢の数々を閉じ込めた夢の大図書館。
    https://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336033963/

  • なんだか世界が広がったような気がする。読んで良かった。読み終わった後もパラパラと読みたくなる一冊。コールリッジの詩、『証し』がとても印象的だった。

  • ボルヘスの編集した夢にまつわるアンソロジー。
    1行の短文もあれば数頁にわたるもの、合わせて133篇。時に東洋のものも混ざりよくぞこれだけ蒐集をしたものだと思いました。
    一つの大きな夢の世界が小さな133の夢で構成されているような感じで読めました。

  • ボルヘスによって蒐集された113の夢の物語。アクロバティックな詩的イメージに目がくらむ「幻想詩『夜のガスパール』第三の書」、13世紀のモンゴル皇帝の夢と18世紀英国詩人の夢とが接続する「コールリッジの夢」、堕落した神々に銃を向ける「ラグナレク」、キリストの体が打ち付けられた〝木”が語る、9世紀アングロサクソン族の詩「十字架の夢」など。ずっと読み続けていると、時代を超え無数の夢が渾然と共鳴をはじめて酩酊したようになる。あと、「夢の虎」でボルヘスが召喚に失敗したというへなちょこな虎たちは意外にカワイかったかも?。トラりん的なものを勝手に妄想中(1976)

  • ボルヘスが編纂した『夢』のアンソロジー。
    現在の『アンソロジー』ではなく、断章として夢をテーマにした文章だけが収録されているので、個々のテクストが有機的な繋がりを持って、ひとつの大きな夢を構成しているような読後感があった。
    しかし、権利関係が厳しい現代では、こういう形でのアンソロジーを編むことは不可能に近いんだろうなぁ。

全10件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1899年アルゼンチン生まれ。詩人・小説家。独自の視点で編んだアンソロジー多数。主な著書に『伝記集』『アレフ』『不死の人』『汚辱の世界史』など。ほかに『幻獣辞典』『創造者』『ボルヘス怪奇譚集』など。

「2019年 『夢の本』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ホルヘ・ルイス・ボルヘスの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
皆川 博子
皆川 博子
米澤 穂信
森見登美彦
ホルヘ・カリオン
劉 慈欣
多和田葉子
ジェーン・マウン...
皆川 博子
有効な右矢印 無効な右矢印

夢の本 (河出文庫)を本棚に登録しているひと

ツイートする
×