わたしは英国王に給仕した (河出文庫)

制作 : Bohumil Hrabal  阿部 賢一 
  • 河出書房新社
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本棚登録 : 94
レビュー : 6
  • Amazon.co.jp ・本 (325ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309464909

感想・レビュー・書評

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  • 再読。初めて読んだときは主人公が自分の場所を見つけてよかったな、わたしも人生の終盤にはこういう風に落ち着けるとよいな、と思って本を閉じたのだったけれど、なにか引っかかる...と読み返し、読書会で人と話してみて違和感の理由がわかった。主人公は「いろいろあったけれど転落することで見えるようになったものがあった、村人に受け入れられた、これでよかった」と話を終わらせているけれど、それは自己欺瞞ではないの?という気持ちになっていたのだった。

    彼の立場にあったら自分だって同じステップを踏んで踊っただろう、でもだからといって動物たちと心静かに余生を送っていいのか、という気持ち。フラバルはジーチェの在り方をそのまま肯定していたのか、小市民はこうして生きるしかないと諦めていたのか、どちらだったのだろう。

  • チェコの小説、かつホテルが舞台というのに惹かれて手にとる。14才のときからホテルで給仕人見習いとして働きはじめたヤン・ジーチェ。最初のホテル「黄金の都プラハ」はセールスマンの常連客が多く、比較的庶民向けビジネスホテル的なイメージ。ジーチェはセールスマンたちから教訓を得たりしつつ、駅のソーセージ売りでお釣りをくすねて小金を溜め娼館「天国館」で散財。

    次に働いた「ホテル・チホタ」は車椅子のオーナーがいる小規模なホテルだけれど将軍や大統領などがお忍びで女性を連れてやってくるような高額で特別なホテル。ここでは給仕長のズデニェクから多くを学ぶ。登場人物の中では個人的にこのズデニェクが一番魅力的だった。宵越しの金は持たねえ江戸っ子タイプというか、無駄遣いなんだけどその遣い方がカッコイイ。

    そして「ホテル・パリ」で、ジーチェは尊敬すべき給仕長スクシヴァーネクに出会う。彼こそが「英国王に給仕した」人物。お客を見ただけで食べたいものがわかる一流の給仕長だ。ホテル自体も一流で、チェコの首相とエチオピアの皇帝のパーティーで、主人公はエチオピア皇帝に給仕し勲章をもらう。

    しかしお隣のドイツでナチスが台頭、愛国心の強いチェコではドイツ人は嫌われていたが、ジーチェはドイツ人体育教師のリーザと恋に落ちる。従軍看護婦として前線で活躍、一目置かれているリーザと結婚した主人公はドイツ人の保養施設で給仕として働くことに。当然、チェコ人の間では裏切り者として嫌われるが、リーザがユダヤ人から奪った切手を元手に、ついに彼は自身のホテル「石切場」のオーナーに成り上がり・・・。

    前半の流れはは貧しい少年のサクセスストーリーの趣があり、変な客たちや、セールスマンの売る変な商品(空気人形や、オーダーメイド服を仕立てる工場の等身大マネキンが浮かぶ光景など)が、いかにもチェコ風(※私が勝手に思うチェコはシュヴァンクマイエルのアニメーション世界)で面白く、エロやグロもありつつコミカルに読んでいたのだけど、戦争が始まると、なかなかそうはいかない。主人公は抜け目なくピンチを切り抜け成功していくが、そこそこクズなこともしているので読者はそれを素直に喜べず、彼自身もやがて、その虚しさに気づいてしまう。

    戦後、共産党統治下で百万長者が逮捕された収容所が、なんやかんやで愉快な楽園状態になるくだりはそれでも楽しかった。そしてジーチェは道路工夫となり孤独な後半生に突入するが、そんな彼にはポニーとヤギと犬と猫が常に寄り添っており、ちょっとしたブレーメンの音楽隊状態(笑)立派なホテルのオーナーだった頃に、ジーチェが求めて得られなかったものを、彼に与えてくれたのはこの動物たちと、貧しく名もない村人たちだった。意外にも(?)ラストに救いがあって、ジーチェ良かったね、と思える。

    タイトルはジーチェ自身の経験としては「わたしはエチオピア皇帝に給仕した」であるべきだろうけど、彼がお手本にしたスクシヴァーネク給仕長の「わたしは英国王に給仕した」という矜持、その一言で良いことも悪いこととも丸め込まれてしまう感じ、人生における自分のプライドの置き所というようなものの象徴だったのかなと思う。

    余談ながらホテル・パリは実在のホテルだそうで、今もプラハに健在(https://www.hotel-paris.cz/ja/)あまりの素敵さにうっとり。

  • 感想はこちらに書きました。
    https://www.yoiyoru.org/entry/2019/06/11/000000

  • ・チェコスロバキアの文学。
    ・訳者の阿部賢一先生を交えた読書会に参加
    ・作者のボミフル・フラバルさんはビール工場でうまれた。
    ・好きな言葉
    わたしが保守し自分自身で砕いた敷石で補修しようとしていた道は、わたしの人生に似ていた。背後には草がぼうぼうと生えていて、道の先にも生えていた。けれどもわたしが作業した区間だけは、わたしの手の痕跡が残っているようにおもえた。・・・
    ・給仕見習いから、百万長者になり、戦争で全て失って道路坑夫になった主人公。他人に認められたいってとこから自由になった最後が感動したな。
    ・ビール工場にフラバルのプレートが掲げてあるそうで本人の希望で犬のションベンがかかる高さって。これは、こぼれはなし。
    ・百万長者の収容所。ナチの女性のプールなんかは本当の話でグロテスク。

    また、チェコスロバキアの文学を読んでみよう!

  • 第二次世界大戦をはさむ激動のチェコで、ホテルの給仕人として働いていた少年、のちにホテルオーナーとなった男の半生を描く。激動の時代ゆえに、重い話題もあるが、どこかほら話のテイストがあって、イメージが豊かで、決して重々しくはなく、非現実的なんだけど、面白くて、やがて悲しい。ヴォネガットのいくつかの作品を思い起こしたりもした。特に主人公が手に入れたホテル「石切り場」の描写は、浮世離れした美しさがお気に入りである。

  • 祝文庫化!

    河出書房新社のPR
    中欧文学巨匠の奇想天外な語りが炸裂する、悲しくも可笑しいシュールな大傑作。ナチス占領から共産主義へと移行するチェコを舞台に、給仕人から百万長者に出世した主人公の波瀾の人生を描き出す。映画化。
    http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309464909/

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著者プロフィール

1914年ブルノ(現チェコ共和国)生まれ。63年短編集『水底の小さな真珠』でデビューし一躍チェコの代表的な作家となる。『厳重に監視された列車』『わたしは英国王に給仕した』『あまりにも騒がしい孤独』他。

「2019年 『わたしは英国王に給仕した』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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