わたしは英国王に給仕した (河出文庫 フ 17-1)

  • 河出書房新社
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感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (325ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309464909

感想・レビュー・書評

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  • 池澤夏樹の世界文学全集は、インパクトがありました。けばけばしい色合いの表紙もそうですが、ラインナップがすごかった。知らない物語がたくさん。ハードカバーはかさばるのであまり買えませんでしたが、近年、次々に文庫化されていて、ついつい買ってしまいます。そんなかんじで、この本も、池澤夏樹のあれだ、という知識以外はほぼ知らないままに買ってしまいました。
    そういう動機だったので、他に読まねばならない本に劣後してしまい、何年か積読状態だったんですが、このたび一念発起して読みました。チェコ文学なんてはじめて。おりしも100分de名著のハヴェルの指南役に、この訳者の阿部さん。タイミングがかぶりました。
    おもしろかったですよ。シュールで。いや、シュールという一言で片づけるには、他の要素がいろいろ入り込んでいますが。というかたぶん、重いんですよ。いろいろ。時代背景として戦争はあるし、いろんなひとの没落なんかもあるし。でも、なんにせよ、どんなに重いテーマであっても、語り口は軽やかで、サバサバしていて、読んでいてすがすがしかったです。
    どこだったが、「男なんて、ちょっとしたことをなんでもエロティックにとらえちゃうんだよね」みたいなことが書いてあったりしてたんですが、ちょっとエッチなこともちりばめられたりして、そのへんも気分転換になりました。読んでよかったです。【2020年3月14日読了】

  • 感想はこちらに書きました。
    https://www.yoiyoru.org/entry/2019/06/11/000000

  • 再読。初めて読んだときは主人公が自分の場所を見つけてよかったな、わたしも人生の終盤にはこういう風に落ち着けるとよいな、と思って本を閉じたのだったけれど、なにか引っかかる...と読み返し、読書会で人と話してみて違和感の理由がわかった。主人公は「いろいろあったけれど転落することで見えるようになったものがあった、村人に受け入れられた、これでよかった」と話を終わらせているけれど、それは自己欺瞞ではないの?という気持ちになっていたのだった。

    彼の立場にあったら自分だって同じステップを踏んで踊っただろう、でもだからといって動物たちと心静かに余生を送っていいのか、という気持ち。フラバルはジーチェの在り方をそのまま肯定していたのか、小市民はこうして生きるしかないと諦めていたのか、どちらだったのだろう。

  • チェコの小説、かつホテルが舞台というのに惹かれて手にとる。14才のときからホテルで給仕人見習いとして働きはじめたヤン・ジーチェ。最初のホテル「黄金の都プラハ」はセールスマンの常連客が多く、比較的庶民向けビジネスホテル的なイメージ。ジーチェはセールスマンたちから教訓を得たりしつつ、駅のソーセージ売りでお釣りをくすねて小金を溜め娼館「天国館」で散財。

    次に働いた「ホテル・チホタ」は車椅子のオーナーがいる小規模なホテルだけれど将軍や大統領などがお忍びで女性を連れてやってくるような高額で特別なホテル。ここでは給仕長のズデニェクから多くを学ぶ。登場人物の中では個人的にこのズデニェクが一番魅力的だった。宵越しの金は持たねえ江戸っ子タイプというか、無駄遣いなんだけどその遣い方がカッコイイ。

    そして「ホテル・パリ」で、ジーチェは尊敬すべき給仕長スクシヴァーネクに出会う。彼こそが「英国王に給仕した」人物。お客を見ただけで食べたいものがわかる一流の給仕長だ。ホテル自体も一流で、チェコの首相とエチオピアの皇帝のパーティーで、主人公はエチオピア皇帝に給仕し勲章をもらう。

    しかしお隣のドイツでナチスが台頭、愛国心の強いチェコではドイツ人は嫌われていたが、ジーチェはドイツ人体育教師のリーザと恋に落ちる。従軍看護婦として前線で活躍、一目置かれているリーザと結婚した主人公はドイツ人の保養施設で給仕として働くことに。当然、チェコ人の間では裏切り者として嫌われるが、リーザがユダヤ人から奪った切手を元手に、ついに彼は自身のホテル「石切場」のオーナーに成り上がり・・・。

    前半の流れはは貧しい少年のサクセスストーリーの趣があり、変な客たちや、セールスマンの売る変な商品(空気人形や、オーダーメイド服を仕立てる工場の等身大マネキンが浮かぶ光景など)が、いかにもチェコ風(※私が勝手に思うチェコはシュヴァンクマイエルのアニメーション世界)で面白く、エロやグロもありつつコミカルに読んでいたのだけど、戦争が始まると、なかなかそうはいかない。主人公は抜け目なくピンチを切り抜け成功していくが、そこそこクズなこともしているので読者はそれを素直に喜べず、彼自身もやがて、その虚しさに気づいてしまう。

    戦後、共産党統治下で百万長者が逮捕された収容所が、なんやかんやで愉快な楽園状態になるくだりはそれでも楽しかった。そしてジーチェは道路工夫となり孤独な後半生に突入するが、そんな彼にはポニーとヤギと犬と猫が常に寄り添っており、ちょっとしたブレーメンの音楽隊状態(笑)立派なホテルのオーナーだった頃に、ジーチェが求めて得られなかったものを、彼に与えてくれたのはこの動物たちと、貧しく名もない村人たちだった。意外にも(?)ラストに救いがあって、ジーチェ良かったね、と思える。

    タイトルはジーチェ自身の経験としては「わたしはエチオピア皇帝に給仕した」であるべきだろうけど、彼がお手本にしたスクシヴァーネク給仕長の「わたしは英国王に給仕した」という矜持、その一言で良いことも悪いこととも丸め込まれてしまう感じ、人生における自分のプライドの置き所というようなものの象徴だったのかなと思う。

    余談ながらホテル・パリは実在のホテルだそうで、今もプラハに健在(https://www.hotel-paris.cz/ja/)あまりの素敵さにうっとり。

  • ・チェコスロバキアの文学。
    ・訳者の阿部賢一先生を交えた読書会に参加
    ・作者のボミフル・フラバルさんはビール工場でうまれた。
    ・好きな言葉
    わたしが保守し自分自身で砕いた敷石で補修しようとしていた道は、わたしの人生に似ていた。背後には草がぼうぼうと生えていて、道の先にも生えていた。けれどもわたしが作業した区間だけは、わたしの手の痕跡が残っているようにおもえた。・・・
    ・給仕見習いから、百万長者になり、戦争で全て失って道路坑夫になった主人公。他人に認められたいってとこから自由になった最後が感動したな。
    ・ビール工場にフラバルのプレートが掲げてあるそうで本人の希望で犬のションベンがかかる高さって。これは、こぼれはなし。
    ・百万長者の収容所。ナチの女性のプールなんかは本当の話でグロテスク。

    また、チェコスロバキアの文学を読んでみよう!

  • 読み始めてすぐに「これはいつ頃のお話なんだろう?」と気になり出したが、そうした疑問をすくい上げるように、物語の中盤からヒトラーやナチと言った単語が現れ始める。この展開自体が、まさに時代や国家と言った大きなものに個人がなすすべなく流されて行く情景を物語っている。

  • B・フラバルのように生きたい! 軽い語り口で人間の表と裏、悲劇と喜劇、権威と失墜、愛と憎しみ、貧乏と金持ち。人は対局を持っているが、人前では隠しているし、時として自分自身にも嘘をついている。そんな人間の本性を面白く、切なく、身近に感じさせてくれるすごい本。鳩に餌を上げようとして転落死したとされる作者の、教養に随伴する知性を前面に出さないことをモットーとしているところ、カッコいい!!

  • 素晴らしすぎた
    美しく愛しい寂しい物語
    最終章は最初から最後の一文まで素晴らしすぎるんだけど、それはそれまでの4章のユーモアなど茶目っ気があるからで。
    4章までの語り口や歴史の混ぜ方などが去年読んだイ・ギホさんの『舎弟たちの世界史』を想起した。
    どちらも歴史に翻弄される一市民の物語で、ユーモアとシリアスとのバランスが良い。
    『舎弟たちの~』の方がブラック度が高いかな。


    少しずつ大きな歴史の動きがジーチェの生活に影を落としはじめてから、それがひたひたと文章にも潜んでいく。
    そんな中にもユーモアがあって基本的に最終章までは可愛いなぁ、愛しいなぁと思いながら読んでいけるんだけど、
    ラストのラストは静謐さの中でユーモアも悲しみも全てが美しく愛しく哀しくて目の端に涙が溜まっていった。
    寒い中読んだからか涙が温かく感じられて…。



    読んで良かった。
    大好きな本です。

  • 主人公が中学生の頃好きだった男の子と重なる。

  • 【G1000/29冊目】チェコがナチスドイツの占領下にあった時代。あるホテルの給仕見習いは、客の釣り銭をごまかす等して貯めたお金を使って周りの人がドイツ人を疎ましく思っている中、彼は資本主義の荒波に乗り、ドイツ人に取り入ることによってまたたく間に百万長者となり、自分のホテルをも持つことになりますが、チェコ人にとってはドイツ人に取り入って成り上がった彼を良く思っていませんでしたが、成功者であることには間違いありませんでした。
    しかし、戦争が終わり、共産主義であるチェコスロバキア共和国が再び立ち上がった時、彼の手元には何一つ残されていませんでした。そんな中、誰も来ない辺境で晩年を過ごすことになった彼は改めて自分を見つめ直すことができ、本当に生きることの価値を見出すことになったのではないでしょうか。「これからする話を聞いて欲しいんだ」という言葉は読者のみならず、鏡に写った自分に聞かせたい物語なのかも知れません。

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著者プロフィール

20世紀後半のチェコ文学を代表する作家。
モラヴィア地方の町ブルノに生まれ、ビール醸造所で幼少期を過ごす。
プラハ・カレル大学修了後、いくつもの職業を転々としつつ創作を続けていた。
1963年、短編集『水底の真珠』でデビュー、高い評価を得る。その後も、躍動感あふれる語りが特徴的な作品群で、当代随一の作家と評された。
1968年の「プラハの春」挫折後の「正常化」時代には国内での作品発表ができなくなり、その後部分的な出版が許されるようになるものの、1989年の「ビロード革命」までは多くの作品が地下出版や外国の亡命出版社で刊行された。
代表作に『あまりにも騒がしい孤独』(邦訳:松籟社)、『わたしは英国王に給仕した』(同:河出書房新社)などがある。

「2022年 『十一月の嵐』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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