失われた地平線 (河出文庫 ヒ 4-2)

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (273ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309467085

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  • 1930年代、バスクル(※架空の地名らしい)のイギリス領事だったコンウェイは、現地での暴動から白人居住者を退避させる任務についていたが、彼と副領事のマリンソン、アメリカ人のバーナード、敬虔な伝道師のミス・プリンクロウの4人の乗った小型飛行機が何者かに乗っ取られ、ヒマラヤ山脈の果て、チベット高原らしきところに不時着してしまう。犯人の操縦士は死亡、4人はラマ僧の一行に助けられ「シャングリ・ラ」という場所に案内される。そこは地図にも載っていない秘境、穏やかで平和な理想郷だった・・・。

    1933年に発表されその後2度映画化されている冒険ユートピア小説の最新訳の文庫化。電気グルーヴやチャットモンチーの歌にもなった理想郷の代名詞としての「シャングリラ」という名前はもちろんこの小説が出どころ。場所のみならずネーミングも作者の創作。

    コンウェイが体験するメインのストーリーの外側に、語り手と同窓の作家ラザフォードのプロローグとエピローグがあり、二人と共通の友人であったコンウェイに、ラザフォードは思いがけず中国・重慶の病院で再会、熱病で記憶を失っていたコンウェイが記憶を取り戻したあと語った話を小説化して語り手に読ませたという体裁になっている。なぜシャングリラを脱出したコンウェイが重慶にいたのか、そしてその後再びシャングリラを求めて旅立ったコンウェイがどうなったのかは語られない。ラザフォードはコンウェイの話の裏付けを取ろうとするが真相は不明のまま、考えようによっては全てコンウェイの妄想とも受け取れるが勿論そうではないと思うほうがロマンがある。

    シャングリラでは、中庸が大切とされ、なにごともほどほどのゆる~い感じだ。文明から隔絶しているようで実は最新の設備(お風呂とか)は備えており、図書館もあってそこにはちゃんと新刊もある。もともとイケメンでエリートだったコンウェイが実は戦争により諦観に達しており、この謎のシャングリラから脱出どころかずっとここにいたいと思う気持ちはすごく共感できた。あくせく働かなくて、毎日本読んだり音楽聞いたりして過ごせるなら私も別に文明社会に戻りたいとは思わないわ。そしてなにより、不死ではないけど不老でいられる素晴らしい特典つき!

    脛に傷もつバーナードと、熱心な伝道師であるミス・プリンクロウも、コンウェイ同様シャングリラに留まることを望むが、ただひとり20代半ばの若いマリンソンは脱出しようと躍起になる。このマリンソン、いつもカリカリしていて余裕もユーモアもなく、ちょっと面倒くさい子なのだけど、もしかして「正気」なのは彼だけなのかもと思わせる部分もあり、一概にバカとも言えない。コンウェイは結局この若者に引きずられてしまうのだけど、謎の美女・羅珍の動向もコンウェイの決断に影響を及ぼしたのかもしれない。このへんの心理は映画で見たら面白そう。

    個人的には、あーシャングリラ住みてえ!としか思わない。出ていきたがる人の気が知れないわ。でもきっと私もマリンソンくらいの年齢で国に恋人や家族を残してきてたら出ていきたいと思うのかもしれない。この小説で描かれた理想郷の特殊さは、そこが美女だらけのハーレムとか美酒と美食の桃源郷とかじゃなくて、本来修行僧の寺院だという点。若いもんには退屈なんですね。私はもはやおばちゃんなので老人ホーム感覚で、ああいう理想郷でぼんやり余生を送れたらどんなに幸せだろうと思います。

  • マリンソンとコンウェイの最後の掛け合いはスピノザのもう一つの世界線を思い出したのは安直だろうか。


  • 謎の人に飛行機がハイジャックされて、中国ともチベットとも区切りがつかないヒマラヤ山脈に不時着する。さらにわけの分からない修行僧に案内され、僧院シャングリ・ラ(豪華)に招かれる。コンウェイ他2人は帰らなくて良さそうな雰囲気を出すが、コンウェイの同僚マリンソンは反抗的な態度をとりつつ帰ろうと主張する。そんな中、コンウェイは僧院の中でも一番偉い僧と面会することになる。

    不老不死に近く、ゆっくりなペースで老いていく環境のシャングリ・ラ。暮らしは寝て食べて遊んでに近い。山奥にいるのにピアノもハープシコードも図書室もある。某外資系ホテルを思い出した。1回泊まってみたいとすら思う。

    あと話の根幹ではないが、シャングリ・ラでショパンの弟子を名乗る男がコンウェイに出版されてない曲を教え、コンウェイがシャングリ・ラから帰還後に弾いた話。夢があるなぁと思った。作曲家が生きていたら当然お蔵入りになった曲だってある。どんな曲だろう。想像が膨らんで、なんとも夢を見てるかのようだった。

  • 言わずと知れた「理想郷シャングリラ」の出典元。ドキュメント風の作風と伝聞を上手く活かした構造で効果を上げている。もはやこのジャンルの古典的名著なのだが、今読むとボリューム不足を感じるし、書かれていない部分も大いに気になるところ。いつの時代でも「恋」というのはやっかいなものなのだな。

    本田美奈子の歌を思い出しつつ。

  • フランクキャプラ監督の映画をみてすぐに原作を読んでみた。登場人物のコンウェイとチャンは同じ名前ながら、若い領事館マリンソン・当方伝道会のミスプリンクロウ・指名手配の詐欺師アメリカ人バーナードとなっている。映画が原作を丁寧になぞってつくり、シャングリラの描写も誠に綺麗にできていることを感じた。原作では大ラマ僧との対話そしてマリンソンとの口論をメインに挿げられているが、逆に原作ではなぜコンウェイがマリンソンと一緒に青の谷を脱出することを決意したのか明瞭な理由がない、プロローグとエピローグも映画のほうが丁寧に描写されていた。原作でようやく理解できたのが、シャングリラを認めずなにがなんでも脱出しようとするマリンソンの文明国ならではの価値観。ビートルズがあれだけ賞賛していたインドをあっさり離れたのと似ている気がする。

  • 正体不明の男に乗っ取られた飛行機は、ヒマラヤ山脈のさらに奥地に不時着した。偶然通りかかった謎の集団が導く先には、西洋の技術文明と東洋古来の精神文化が組み合わさった不老不死の楽園があった。世界中で読み継がれ、2度も映画化された冒険小説の名作が、美しい訳文で待望の復刊!

    『金星特急』でシャングリラが出てきたので原典を読みたいなと思っていたらちょうどよいタイミングで新訳が出版されたのでそちらを読むことにしました。んーー正直あんまりピンとこなかった。コンウェイの気持ちの変化が1mmも分からなかったんだが・・・え、普通に楽しそうだったのにどうして心変わりして脱出することになっちゃうの??シャングリラ=楽園という世界観も私には分からず、出たらあっという間に老いて死ぬってそれは逆に地獄なのではと思ってしまった。選択権がないのが何とも、なあ。1900年代のイギリス人が書いているから仕方ないのでしょうが、東洋を下に見てる感じもして、日本人としては微妙。

  • 名作が復刊。旧版も持っているが……。
    冒険小説でもあり、ミステリでもあり、時間を忘れる面白さ。しかしこんなに薄い文庫本だったかなぁ……もっと長かったような気がするが、それだけ濃厚なストーリーだった、ということか。

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著者プロフィール

1900年-1954年。『チップス先生さようなら』『鎧なき騎士』『忘れえぬ日々』などの小説がある。本書は、チップス先生とならび著者の代表作で、数々の文芸賞も受賞している。

「2020年 『失われた地平線』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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