突囲表演 (河出文庫)

著者 :
  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (508ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309467214

作品紹介・あらすじ

カフカやピンチョンと並ぶ天衣無縫の想像力。現代中国の鬼才による代表作が、ついに文庫化。X女史の年齢は諸説紛々二十八通りあり、ピンは五十歳からキリは二十二歳まで。容姿は「皺だらけ」とも「性感(セクシー)」とも噂され、小さな煎り豆屋を営みながら、裏で五香街(ウーシャンチェ)の住人たちを狂気へと誘う……。おそるべき密度と回転速度で描き出す、究極の監視社会と、アナーキーなX女史。突破せよ、女たち! 軽やかに、ひょうひょうと。――斎藤美奈子

感想・レビュー・書評

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  • いつも白水Uブックスだった残雪が河出文庫から!500頁の長編ですが、今まで読んだ残雪の中では比較的読み易かった印象。舞台は五香街(ウーシャンチェ)、謎めいた「X女史」が、妻子ある男性「Q男史」と姦通したことについての、「筆者」(五香街の速記者である男性)の記録という体裁で構成されている。

    X女史は数年前に五香街にやってきたよそ者で、美男の夫と、六歳の息子・小宝と、煎り豆屋を営んでいる。年齢不肖で、22歳説から50歳説まで28通りの説がある。いつも鏡または顕微鏡を覗いており、妖しい巫術を使うと噂され、夜になると彼女のもとにふらふらと少年少女が集まってくるが、彼女自身は顕微鏡を覗いているだけ、少年少女は黙って座っているだけ。

    街には「筆者」のほか、「人好きのする寡婦(45歳)」や「寡婦の親友の48歳の女」「同業女史」「X女史の夫の親友」「22歳の石炭工場の若造」「黒ビロードの帽子をかぶった老婆=金ばあさん」などがおり、日がなX女史を見張り、つきまとい、部屋にあがりこみ、話を盗み聞き、X女史の妹にも聞き込みをし、さらに「暗闇会議」なるものを開いて情報を交換し、筆者がそれを記録している。そしてX女史とQ男史のどちらが先に仕掛けたか等の持論を述べあい協議している。

    身も蓋もない言い方をすると、登場人物全員頭がおかしい。状況をわかりやすく言い換えるなら、都会から来たヨソモノ夫婦を、田舎のムラ社会の人々が監視する話。X女史は彼らとは合わない価値観を持っており、それを壊したくて仕方ない彼らは彼女の欠点をなんとかみつけだして糾弾しようとするが、そもそもX女史のほうでは彼らを相手にしていない。

    X女史一家とQ以外のほぼすべての街の人間の証言は、欺瞞だらけでとても滑稽(ユーモラスに描かれているので素直に笑うも良し)おそらくX女史は大変魅力的な女性なのだろう。寡婦始め街の女性陣は自分のセクシーな魅力を吹聴し、かつ身持ちの良さも自慢しているが、どう見てもX女史に勝てないための負け惜しみ発言としか思えず、X女史の美男の夫についても幼稚等とバカにしているがその実イケメンの旦那が羨ましくて仕方ないのがみえみえ。

    一方男性陣はこれまたX女史の魅力にすっかり参っているのに相手にされないため、もっともらしい口実を設けてストーカーしているだけ。「X女史の夫の親友」がとくに酷い。まあとにかく街の人間全員が出歯カメでストーカー。よっぽどヒマなのだろう。性的なことで頭がいっぱいで、男も女も欲求不満。X女史は確かに奔放な女性ではあるようだが、この人々に比べたらとても健全だ。そしてこの村人たちの「囲み」をひょうひょうと「突破」していく。

    作中で街の人々は「性交」という言葉は下品なので「業余文化生活」と呼んでいるのだけれど、解説によると最初に中国でこの本が出版されたときに「性交」という言葉とそれにまつわる描写が検閲で削除されたらしい。中国らしい…。「どちらが先に仕掛けたか」の章で三人の人物が持論を展開する部分は、男女の価値観の違いなどがとてもわかりやすく表れていて興味深かったです。

  • 謎の女性X女史を巡り、噂や醜聞が溢れている。五香街で炒り豆屋を営むX女史、街の視線や妄想で実体のない存在のようにさえ思えてくる。客観性の拡大と重複であらぬ姿として祭り上げられる、吊し上げられる。不思議な構造と現代監視社会へのアイロニーにも思える。

  • 人の証言によって容姿や年齢が変わる、読んでいてもイメージが定まらない不気味さを覚えるX女史。ユニークな登場人物と荒唐無稽なストーリー。なるほど、カフカが引き合いに出されるのも理解できます。
    しかし、夢の中の情景のような荒唐無稽差ではなく、言葉数多めの状況説明なため、カフカのような不安定な情景が浮かんでこず、そこまで没頭できなかった。
    面白かったんだけど、ちょっと惜しい感じがしました。

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著者プロフィール

1953年中国生まれ。文革期を思わせる長編『黄泥街』でデビュー。邦訳作品集に『蒼老たる浮雲』『カッコウが鳴くあの一瞬』『廊下に植えた林檎の木』『かつて描かれたことのない境地』『最後の恋人』がある。

「2020年 『突囲表演』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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