短くて恐ろしいフィルの時代 (河出文庫)

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309467368

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  • 『短くて恐ろしいフィルの時代』(角川書店(角川グループパブリッシング)) - 著者:ジョージ・ソーンダーズ 翻訳:岸本 佐知子 - 高樹 のぶ子による書評 | 好きな書評家、読ませる書評。ALL REVIEWS
    https://allreviews.jp/review/2446

    短くて恐ろしいフィルの時代 :ジョージ・ソーンダーズ,岸本 佐知子 | 河出書房新社
    https://www.kawade.co.jp/sp/isbn/9784309467368/

  • 寓話的で政治や社会を風刺する意識が明確なフィクションである。文字サイズはやや大きく実質140ページほどで長篇としては短い。類似として、解説でも触れられる『動物農場』のほかカレル・チャペックの戯曲も思い浮かぶ。

    登場人物たちは人間ではなく、生命を与えられた機械仕掛けの生物のようである。主な登場人物は<内ホーナー国>に住むわずか7人の国民たちと、それを取り囲む<外ホーナー国>の警備隊や大統領などである。作中で明らかにはされないが、<外ホーナー国>にしても現実の国家のような人口をもたず、全体でもせいぜい数十人から百人程度だろうか。極端に国土の狭い<内ホーナー国>は国内に一人しか住むことができず、<外ホーナー国>にはみ出さざるをえないために普段から二国間の関係は悪い。そんななか、<内ホーナー国>に個人的な恨みをもつフィルという<外ホーナー国>の一人の住民が国境を越えて生活する<内ホーナー国>の人びとを糾弾しはじめる。フィルに扇動された<外ホーナー国>国民による<内ホーナー国>にたいする迫害は徐々に激しさを増していく、というのが大まかな流れである。

    ロボットに近い生物たちだが生殖活動をして子どもを産むなどは人間と変わりないが、彼らの風変りな生態(脳が頭からこぼれ落ちてしまうなど)や大げさな言動によって細部はかなりコミカルである。一方でストーリーそのものは現実の過去にも再三起こった独裁社会への移行や、移民や小数派に対する迫害、忖度や事なかれ主義によって組織が腐敗する過程が描かれており、シリアスなテーマとコミカルな演出の組み合わせが特徴である。雰囲気としては小説よりも、50年ほど前の風刺要素を含むギャグ漫画作品に近いと感じた。物語後半には、現実であれば相当にショッキングな出来事もおこるのだが、先のようなコミカルな描写によってかなり中和されている。

    作品としての短さ、人間社会でおこる過ちの恐ろしさをオブラートに包む漫画的な演出をあわせて考えれば、「大人も読める教育的な児童文学」を目指して書かれた作品として読めた。

  • 今まで読んだ本の中で、一番頭の中で想像した画がこびりついて離れない話だったかもしれない。

    今まで読んだ翻訳本は、読みづらく、想像しづらいものが多かったけど、素晴らしい翻訳の力!

    単行本の場合、表紙がどんななのかわからないけどこの文庫本の表紙がなんだか好き。

  • 岸本さんの本ということで読む。

    着想が面白い、こんな国の話は読んだことがなかった。だって3国でてくるけど、国民の圧倒的少なさよ。こんな国の民主主義はあってないような。すぐにパワーバランス崩れるから。

    ヘンテコ三昧の登場人物(最初人間と思っていたのですが、読み進めるとどうやら違う)。外の国の大統領がでてくる度にハラハラ。そして題名通りのフィルの恐ろしさよ。

    最後の最後で全編通してそこいらにあった雰囲気は一変し、クライマックスへ。

    いや、でもね。
    とにかく岸本さんの唸るような圧倒的翻訳力よ。


  • なんだかとてもタイムリーでとても考えさせられる、それでいてとてもとてもユーモラスなお話だった。

    特定の誰かをモデルにしたわけでなく、独裁者の最大公約数として描かれる「フィル」。
    だから、あの人にも見えるし、あの人にも見える。
    いつの時代も、いや、誰の中にも存在する「フィル」の影。

    巧妙な演説で人々を魅了し、ついには年老いて耄碌した王の座にとってかわる。
    国と国との境目。
    税金の徴収。
    武力衝突。
    親友隊の組成。
    侵略者の処刑。
    危険分子は芽が出たらすぐ。見せしめに。

    それぞれの国の住人たち、親衛隊や市民軍やマスコミや隣国の人々の動き方も実にリアルでゾッとする。
    民衆はいつだって影響されやすく、変わりやすい。
    そのことを私たちは忘れてはならない。

    そして岸本佐和子さんの訳がめちゃくちゃいい。
    こういう奇妙なお話は翻訳すると分かりにくくなりがちなんだけれど、もともと日本語で書かれていたような自然な語り口。
    奇妙で不思議なおとぎ話の世界がありありと目の前に浮かんでくるような描写。
    国民が一度に一人しか入れない国土の小ささとか、抽象的な図形や無機物でできた身体をもつ人々とか、脳がラックから外れるとか。そんな突拍子もないねじれたユーモアが、違和感を覚えさせない日本語で描かれている。

  • あいつらには不当な扱いを受けるだけの正当な理由がある!と鼻息荒く隣国を弾圧する民衆。
    快感に酔って、どんどんエスカレートしていく様が不気味だった。

  • 青山ブックセンター本店のTwitterで

    米文学の鬼才による抱腹絶倒で背筋の寒くなる「おとぎ話」

    と紹介されていた本。
    翻訳が岸本佐和子さんだったこともあり、図書館にて探す。
    2011年発行の本なので、退色していたけれど、全体がオレンジ色に彩色されて綺麗な本だったことが伺える。

    抱腹絶倒とはいかないけれど、なかなかシュールなお話でした。後書きでは、政治的な要素などないとは書かれていますが・・・。
    なので、難しく考えずに読んでみましょう。

  • 読み返すたびに、異なる独裁者の姿が浮かび上がる、あまりにも独創性と普遍性の両立した傑作ユーモア小説。小説家を目指す人々にもっとも影響を与えてきたと言われる大作家の、諧謔と笑いに満ちた最高傑作。

  • 理想的本箱の紹介を受けて。おとぎ話。表現されている登場者は、人と同じ。人に例えると残虐といえる行為をするため、理屈をつけて正当化。おとぎ話のようなので客観的に見ることができる。自分のまわりの人に似た光景も見られるし、自分もそうなんだとの自戒にもなる。

  • めちゃくちゃおもしろかった。

    ・疑心暗鬼から虐殺までの過程
    ・悪の陳腐さについて
    ・悪事は属人として押し着せられ構造的には何も反省されない
    ・そして繰り返す(多分)

    という示唆深ポイントばかりだった。
    何かにむすびつけずにフラットに読むのもアリ。

    鈴木久美さんの装丁も素敵。

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著者プロフィール

1958年テキサス州生まれ。なにげない日常を奇妙な想像力で描く、現代アメリカを代表する作家。おもな小説に、『短くて恐ろしいフィルの時代』、『リンカーンとさまよえる霊魂たち』(ブッカー賞)など。

「2023年 『十二月の十日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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