あなたのことが知りたくて : 小説集 韓国・フェミニズム・日本 (河出文庫)

  • 河出書房新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309467566

感想・レビュー・書評

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  • 結局わたしがいるのは「知らない」側だ。
    多様性を受け入れるということを、ちゃんと理解していて受け入れるのと、ちゃんと理解しないで受け入れることの違い。

    P227「知らないでいようとすることが、表面上は無実に思える弱さと無知と、わずかのやさしさで成り立っていたとしても、この先そんな気持ちを抱えたままであれば、私がいったいどうなってしまうのか、今ももちろん、これからもずっと恐ろしいままだ」(高山羽根子)

    自分は相手の背景を知らないからこそ、相手との「違い」を認識することができない。
    相手との「違い」に触れなければ、自分は「優しい他者」として存在しうる。
    目の前の相手が誰かに傷つけられそうになった時、自分は「優しい他者」として、相手を守ることができる。
    だけど、自分が相手との「違い」に触れた時、自分の無知は、目の前の相手を圧倒的に傷つける。

    誰かを知る、という責任
    歴史的背景への知識の乏しさ

    改めて自分の無知を自覚する。

    副題として『韓国・フェミニズム・日本』と入っており、最初がチョ・ナムジュさんの『離婚の妖精』で始まるものだから、日本と韓国のフェミニズムの小説集なのかと思ったら、意外とSF作品が多かったなっていう印象の作品集。

    SFはちょっと苦手なので、途中から飽きちゃってぐだつく。
    やはりそれはわたしがあまり文化的背景や歴史を知らなすぎるせいなんだろう。
    「わかるわー!!」っていう共感続きの作品ではなかったことは確かだ。

    この作品集の中では、西さんの作品『韓国人の女の子』が一番好きだ。

    ブクログの感想を拝見すると、『京都、ファサード』が好きだという方が結構いらして、でもわたしはその作品の中にある文脈を上手く読み取れなかったりして、きれいな文章ではあったけれど、「好き」とは違った。
    結局、「わからなかった」のだ。

    わたしが西さんの作品を好きなのは、「こっち側」から「あっち側」を描いていて、わたしは圧倒的に「こっち側」にいて、「こっち側」にいる主人公の気持ちがよく「わかる」からだ。「こっち」から「あっち」を描くと「わかる」くせに、「あっち」から描かれた作品に対してはぐだついてしまって、それはたぶん「わらかない」からだし、わかろうとしてないからなんだと思う。
    そしてその時に思ったのは、『京都、ファサード』を好きな方は、きっと「あっち側」をちゃんと分かろうとした人、知ろうとした人なんだろうな、ってことだ。それを伝えられる作品も、受信できるアンテナを持っている読者も、素敵だ。
    こういう「わかる⇔わからない」といった、ちょっとした一人一人の自己中(価値観)が大きくなって、ぶつかって、「分かり合えなく」なってしまうんだろうな。
    せめて、相手の言葉に耳を傾けて、きちんと話を聴ける人でありたい。

    今日は生理痛が酷いのでもう寝る。
    おやすみなさい。

  • [K-BOOKらじお]♯3 読者・みるくさん―韓国文学はわたしの人生の糧になりました – K-BOOK振興会
    http://k-book.org/news/220617/

    [K-BOOKらじお]♯8 麗子さんの韓国便り―話題の一冊は自己啓発本に、日本の児童小説は累計170万部突破! – K-BOOK振興会
    http://k-book.org/news/radio_08/

    WAKICO
    https://wakico-illustrator.studio.site/

    あなたのことが知りたくて :チョ・ナムジュ,松田 青子,デュナ,西 加奈子,ハン・ガン,深緑 野分|河出書房新社
    https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309467566/

  • パク・ミンギュ「デウス・エクス・マキナ deus ex machina」が面白かった!
    体長1700kmに及ぶ、巨大な神が突如地球に降臨したことによる大混乱を描いた物語。
    わけ分かんないけど便宜上、神ということにします。ところで何故真っ裸?コイツけっこうお腹出てるな。誰か芯食ったツイートしてるか見てみよう。等々、右往左往する人類。
    神をモデルにした着せ替えゲームアプリが速攻リリースされ、安易に流行る場面が最高だった。
    どうあがいても無駄、でも死ぬまでまだ若干時間はあるらしいと察したときの行動、確かにこんな感じかも。
    もう笑うしかない、の現代版。もうスマホ眺めるしかない。

    チョ・ナムジュ「離婚の妖精」
    妻に別れを告げられた男性二人。
    結託するのかと思いきや、自分の正当性を崩されたくない気持ちが強すぎて全然対話が成立しない。
    目に映るものすべてをジャッジしてやる、って姿勢の厄介さがよく分かってうんざりした。

    西加奈子「韓国人の女の子」
    以前読んだ時の苦い気持ちを覚えてて、恐々読んだ。
    まだ若く、自己中心的で愚かな二人が傷つけ合った過去。
    助けて!と叫ぶかわりに、お前なんかより私の方が辛い!と罵り合って。
    言葉選びも何もかも乱暴なんだけど、その時に選び取れるものが他になかったのだろうとは想像できる。
    だからやっぱり第三者によるジャッジをここに持ち込みたくない。
    この記憶はあくまで本人たちだけのもの、という思いでいたい。

  • ハン・ガン目当てに購入したけど他の韓国作家の作品も面白かった。日本作家は身近な韓国人との出会いとか韓国を訪れたときを題材にした作品が多かったのに対して韓国作家は日常に溶け込んだSF作品が多かったのが興味深かった。面白かったなと思ったのは韓国作家の方です。

    印象としては、ハン・ガンはさすが、パク・ソルメもさすが、デュナの作品もっと読みたいという感じでした。

  • "日本だとか韓国に限らず、世界中のそれぞれの国に、同じような痛々しい罵倒の言葉があるのだろう。 詳しくわからないからこそ、不用意に口にしてはいけないだろうという予感だけをまとう表現は、あらゆる文化の中にひっそりうずくまっている。(中略) それぞれの言葉には、痛みの伴う悲しい文化があるのだろうと思え、悲しみごとすべて引き受けてその痛々しい言葉を口にすることが、よそから来た人間にはどう考えてもできそうになかったし、とはいえその言葉を、文化の中で無い ものとして扱ってはいけないようにも思えた。"(p.221『名前を忘れた人のこと』高山羽根子)


    "言葉とは、いったい何だろう?
    カンマとは何で
    ピリオドとは何なのか。
    そこにこめることができる気持ちと
    隠すことができる気持ちとは。"
    (p.121『京都、ファサード』ハン・ガン)

  • 良い良い良い良い良い良い良い。ずっと良いが続くアンソロジー。「私たち」と連帯できることは心強く、安心できるけれど、それだけでは見過ごしてしまう・こぼれ落ちてしまう差異がある。ある一点ではマイノリティな私も別の面ではマジョリティの特権を持っている。私とは異なる「あなた」という目線で他者をみること。
    ハン・ガン「京都、ファサード」がいちばん好き。

  • 韓国と日本の作家による短編を6作ずつ収録。女性をめぐること、日本の中の韓国、があぶり出される一冊。あきらめを経た怒りや、自分の周りの社会を初めて俯瞰したときの驚きが鮮やかにつづられている。
    『桑原さんの赤色』(松田青子)、『韓国人の女の子』(西加奈子)、『水泳する人』(パク・ソルメ)あたりが良かった。

  • チョ・ナムジュさんが書いた『離婚の妖精』と、松田青子さんが書いた『桑原さんの赤色』が好き。イ・ランさんが書いた『あなたの能力を見せてください』も好きだな。中には訳が分からず理解ができなくて、読んでいる最中に「読みきれないかもしれない……」と泣きそうになったような話もあったけれど、好きな物語が好きすぎたので、これは確実に本棚行き。女同士の連帯を、これからも頑張りたい。

  • 知らないとただ知らないままだけど、知ってしまうと、気づいてしまうと解像度が上がって目につくもの耳に入るものは変わってくる。

    『桑原さんの赤色 / 松田青子』
    『韓国人の女の子 / 西加奈子』
    『名前を忘れた1人のこと / 高山羽根子』
    が面白かった。

    ベトナムのクチトンネルに行った時、現地ツアーを申し込んだら日本人は1人しかおらず、私1人に1人のガイドさんがついてくれた。バスの中に様々なの言語が飛び交う様子とか、ベトナム戦争の武器や基地を見て話を聞いてという景色を思い出した。

  • 『文藝』2019年秋季号「韓国・フェミニズム・日本」特集に寄せられた小説に、単行本刊行時に書き下ろされた作品と初邦訳作品を加えて再編集されたもの。

    差別や分断、抑圧などを絡め取った物語によって、生活の中にある私自身の違和感を考える。結局は自分が求めていたものをこの本から見出すことになるのだろうけど、様々な作家さんの様々な視点を読めるのは、アンソロジーならではのとてもいい読書体験だと思う。
    倉本さおりさんの解説もよかった。「連帯」や「シスターフッド」という言葉の前提として、『「私たち」を別個に存在する無数の「私」たちと理解』して、その上で共に在ること。

    松田青子『桑原さんの赤色』、デュナ『追憶虫』、パク・ミンギュ『デウス・エクス・マキナ deus ex machina』、高山羽根子『名前を忘れた人のこと Unknown Man』、パク・ソルメ『水泳する人』、星野智幸『モミチョアヨ』がお気に入り。

    『桑原さんの赤色』「女性募集」という言葉に含まれる暗黙の条件によって奪われるもの。

    『追憶虫』この作品からSFもあることを意識する。脳に寄生し繁殖、子孫はまた他の人へ寄生するが、人体への影響は前の宿主の記憶の一部が自分の記憶に交じって思い起こされること。面白い設定。

    『デウス・エクス・マキナ』突然降りてきた巨大なおっさんみたいな人型のものを前に、急に1つにまとまる世界が滑稽。「こっち側」と、敵もしくは得体の知れないものの「あっち側」。

    『名前を忘れた人のこと』『知らないでいることが、表面上は無実に思える弱さと無知と、わずかのやさしさで成り立っていたとしても、この先そんな気持ちを抱えたままであれば、私がいったいどうなってしまうのか、今ももちろん、これからもずっと恐ろしいままだ。』

    『水泳する人』一番好きかもしれない。語感。『どうにか年をとり、何かを引き受け、どうにもできないことをやると仮定し、やったと信じて、ときには何かが決定されることもあって、そうやって生きていくんだよね?』

    『モミチョアヨ』一人称についてかなり考えた。潜在的なホモソーシャル。

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著者プロフィール

チョ・ナムジュ:1978年ソウル生まれ、梨花女子大学社会学科を卒業。放送作家を経て、長編小説「耳をすませば」で文学トンネ小説賞に入賞して文壇デビュー。2016年『コマネチのために』でファンサンボル青年文学賞受賞。『82年生まれ、キム・ジヨン』で第41回今日の作家賞を受賞(2017年8月)。大ベストセラーとなる。2018年『彼女の名前は』、2019年『サハマンション』、2020年『ミカンの味』、2021年『私たちが記したもの』、2022年『ソヨンドン物語』刊行。邦訳は、『82年生まれ、キム・ジヨン』(斎藤真理子訳、ちくま文庫)、『彼女の名前は』『私たちが記したもの』(小山内園子、すんみ訳)、『サハマンション』(斎藤真理子訳)いずれも筑摩書房刊。『ミカンの味』(矢島暁子訳、朝日新聞出版)。『ソヨンドン物語』(古川綾子訳、筑摩書房)が近刊予定。



「2024年 『耳をすませば』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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