- Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309467733
感想・レビュー・書評
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ハン・ガンさん 祝ノーベル文学賞受賞!
本書を一読後、レビューが困難で随分悩みました。「あとがき」「訳者補足」「解説」を経て、じわじわと理解が深まったものの、二度読み必至(己の読解力不足!)かもしれません。鎮魂と恢復の繊細な物語に、自分の遠い記憶を重ねていました。
3章構成で、全て短い断片的な文章から成り、詩ともエッセイとも受け取れますが、通読して初めて、著者の死生を伴う来歴が窺われる構造の輪郭が明瞭になり、私小説に近い印象と味わいでした。
著者は、本書を<清潔な「白」ではなく、生と死の寂しさをあふれるほど内に秘めた「白」についての作品>と語っています。「白」の中身がとても深いです。生後2時間で早世した姉の記憶を軸とし、廃墟から再生したワルシャワの「白い」 都市で考え続けます。
私(著者)の生と体を彼女(姉)に貸し与え甦えらせることで、死者を悼み、孤独と静けさに向き合いながら共に生きる勇気を描き切っているようです。
生者と死者の視点を変えながら、丹念に「白いもの」を描いていく過程に、誰しもが抱えているであろう喪失感や孤独が重くのしかかりますが、希望と光の兆しがあり、癒しにつながる気がしました。
ノーベル文学賞受賞を報じる新聞記事の、「物語の多くに共通するのは、社会の抑圧に対して静かに抵抗する"傷ついた人たち"の姿」には、韓国の歴史・政治的背景があるのでしょう。
さらに、「彼女の小説には常に、心に深い傷を負った人物が登場し、肉体と魂の相克の問題が主題とされる」とあり、本作を読んで妙に納得しました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
何とも言えない読後感が溢れました。
小説なのか、エッセイなのかどう表現すれば
いいのか分からないが、一つ言えるとしたら
すごく偉大な作品を描かれたということです。
詩的な文章が素晴らしいです。
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この本のおわりまで読んだあと、
きっと多くの人がそうするように
第2章をもう一度読んだ。
最初に読んだときには気が付かなかった。
私、や、私たち、の使い分けに気をつけていれば
気付けたのかもしれない。
吹雪の描写が、まるで違って感じられた。
「弱々しく消え去ってゆく、
そして圧倒的に美しいこれ」
生きている実感は
失ってからでなくては
わからない(かもしれない)けれど、
失ってからでは
わからない(かもしれない)。
もっと詩のような文章を、
もっと書こうと思った。
もっと正直に、
もっと書こうと思った。 -
祝ノーベル文学賞受賞。ということで初ハン・ガン。「白」という色の持つイメージを美しく想起させる。訳者のセンスにも感謝。
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今年ノーベル文学賞受賞された韓国人の作家さん、ハン・ガンさんの代表作品です。
内容は、うぶぎ、米、灰、雪、息、など「白いもの」をテーマに、65個の物語がえがかれています。
短い文章の中で、美しい表現に惹き込まれ、どこか作家の強い想いを感じさせるような印象がありました。
あとがきや解説から
作家にとって大切なある人に捧げた作品であることと、韓国語で「白」という本当の意味を知った後では、
再読した時に色んな感情が込み上がり、気がつけば涙が出てしまいました。
静かな部屋だったり、寒い冬の時期に読むとより一層この作品の美しさを実感できると思います。 -
『すべての、白いものたちの』の「白い」は、韓国語ではヒンという言葉だそうです。ヒンとは生と死の寂しさを、こもごもたたえた白さです。
表紙の赤ん坊用の白い肌着のようなものが表すように、この本にはハン・ガンさんの生後二時間で亡くなった姉への思いが根底に流れているように思えました。しんしんと雪が降り、真っ白におおわれた場所の冷たさを味わうような感じがしました。白いものの表現は、姉への思いだけではなく、ワルシャワでの戦争がもたらした破壊や、人の死への鎮魂の思いも感じました。また、姉の存在と自分の存在意義の意味を考えているようにも思えました。
うまく表現できないけれど、感覚に訴えるものがありました。ハン・ガンさんの文章は、じっくりと読んで理解したくなる不思議さがあるように思いました。 -
美しい言葉でつづられた詩集だが、痛みがひしひしと伝わってくる。
冷たく、寒く、もの悲しい。
生後2時間で亡くなった姉に思いを馳せ、生きながらえている自分に重ね合わせる。
自分は生きていていいのか?
白は生(産着)であり、死(寿衣)でもある。
※寿衣とは埋葬の時に着せる衣装との事
韓国やワルシャワの歴史が背景にあるからこそ、悲しみを強く感じてしまった。
ひどく心を揺さぶられる作品だった。 -
誰かに自分の身体を貸し与える、ということは、自分でない誰かの視点で存在する、ということだ。
そうした視点で見たワルシャワは、新鮮で、より清らかで、より寒々しく、より白かっただろう。
冷たさが身に染みるような小説。
最後に吸いこんだ、姉の白い小さな息が、生命の繋がりの象徴として、崇高で貴重な存在感。
日本には俳句や和歌があるせいか、散文詩の地位が低いように思う。世界的に見れば、文学の不動の頂点は詩であるにもかかわらず。
このような小説が果たして日本では広く読まれるかどうか。
斎藤真理子さんという優れた翻訳家のおかげで、韓国語で書かれたイメージを損なわずに読めることは喜ばしい。
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最後まで読んであらためて思う。
この作品は読み手が完成させる小説なんだな(◍•ᴗ•◍)
著者プロフィール
ハン・ガンの作品





