南方熊楠コレクション〈5〉森の思想 (河出文庫) (河出文庫 827E)

著者 :
制作 : 中沢 新一 
  • 河出書房新社
3.08
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本棚登録 : 75
感想 : 2
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  • Amazon.co.jp ・本 (535ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309472102

感想・レビュー・書評

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  •  粘菌とかいろいろ。
     キマラタケとかキツネノチンボなど、陰茎に似る植物がどうたら論はある。
     カシャボに関し、南方先生その辺で 全集にあるやつに、カシャボは火車だとかサンスクリット説はあほだとかカシャボに化かされた話とかカシャボに代表される化生のものが鳥の足をしてゐるのはとか、書いてあるのにカシャボとは折口信夫曰く「南方先生が」を持ってくるとか、三巻にあるのにマンドレイクに関する南方熊楠の興味を無視してナチスドイツがどうのだけを書くとか、かなりもやもやする。

    いいけどすげえ皮肉で、南方先生はカシャボが馬をかまってどうのといふのと、ロシヤで川のなんかに関する儀礼(馬を川の神へ捧げる)を併せて紹介してるのだが、本書ではおさる関係に「後の石田英一郎の河童駒引考がどうの」は一切出てこない。

    『岩田村大字岡の田中神社について』は引用で止まるが、その「大年神の子に聖神と向日神(古事記には「白日神」とあるが南方説では本居宣長の「この白は向の誤記」なのだがその辺の説明は一切なく本居宣長のなんとかが出るだけ)がでる件」と言ふ南方説に関して五来重先生の「ヒジリ=ひ治り(本書では「火知り」だけど)」説を出して、この辺は「柳田説に拘ったための南方の誤りと思う」ときて、「南方にとってひじりは火でも日でもよい」、つうて「小童(ヒジ)は依童を使った呪術者の」といふ柳田『毛坊主考』の引用を「南方の着眼点」と言ひ張る。聖神からヒジリに関する南方説で大年神のお子さんにファイヤーを司る「庭日神(庭の火を司る神)」ゐるけどオリエンテーション(「家相」の見立て)やる向日神と日の善悪を占ふヒジリの人に、ファイヤー部分ないけど。

     注釈で、百合若は鬼若や牛若の如きドメスティックなナニであるとする。南方先生は一貫して「百合若=ユリシーズ」説を唱へてゐたけども。

    あと適当なタームへアイヌの伝承を入れるとか、面白いんだけど、注釈があの、「他人のブログのコメント欄へ自分の記事を書く」やうな作業が延々。

  • 南方熊楠コレクション最終巻。
    熊楠の専門は最終的に「粘菌学」だったろうと思う。従って本巻がいよいよ熊楠思想の核心に当たるわけだ。中沢新一の解題もいよいよ長大になっている。
    森に分け入って粘菌を観察する熊楠の姿は、キノコを採集して歩いた作曲家ジョン・ケージの姿と重なる。南方熊楠も、正規の植物学を習ったアカデミズム派ではなく、アマチュアなのだが、その発見は当時としては国際的にも通用するものだったようだ。
    我々にとって粘菌というのは、これを読んでもやっぱりよくわからないのだが、植物と動物の境界をさまようような、「微妙な」生物であるらしい。なるほど、そのへんに粘菌の面白さがあるのかもしれない。
    そのように山野に絶えず分け入った南方熊楠は、神社合祀に対してはかなり本気で怒り、批判の論陣を張ったようである。巻末の方にそうした文章が載っている。
    神社を合祀するということは、結局森を破壊することだ。熊楠の考えでは、日本人の民俗宗教は、「森」や「神木」に寄せられてきたものであり、神社はそこに後から付けられたに過ぎない。システムとしての神道は付属物であって、日本人の民間信仰の本体は「森」の方にある。
    この「森」を破壊することは、日本人の民俗伝統を破壊することであり、「愛国心」を破壊することである。
    熊楠がここで言っている「愛国心」は、こんにちネトウヨが「当たり前」と標榜し、国家が学校教育に強要してくる「愛国心」とは、かなり違ったものだろう。熊楠の「愛国」本体は民俗的特質にあるが、後者のは制度的「国家」をターゲットにしている。
    熊楠的に言えば、現在、森を失いもともとの民間信仰の大半を失った(言っておくが、天皇崇拝は伝統的な民間信仰であった試しはない)日本には、愛国心も何も残っているはずはないのである。
    「当局はかくまで百方に大害ある合祀を奨励して、一方には愛国心、敬神思想を鼓吹し、鋭意国家の日進を謀ると称す。何ぞ下痢を停めんとて氷をくらうに異ならん。」(P528「神社合祀に関する意見」)
    下痢は現在に至るまで、延々と続いてきたわけだ。

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著者プロフィール

1867年、紀伊国(現在の和歌山県)に生まれ、1941年に同地にて没する。在野の民俗学者、博物学者、生物学者として知られる。
著書に、『南方閑話』(坂本書店、1926)、『南方随筆』(岡書院、1926)、『続南方随筆』(岡書院、1926)などのほか、全集や選集、書簡集など多くの文業が刊行されている。

「2018年 『熊楠と猫』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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