- Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309624303
作品紹介・あらすじ
鳥はなぜうたうのか?鳥がうたうのは、求愛のため、繁殖のためである。しかし、そのことで鳥の歌は次第に複雑になっていった。人間は、なぜ言葉を話しはじめたのか?人間も言葉以前にうたっていたのではないか?長い進化の過程で、人間だけが、ある時「歌」から「言葉」へと、大いなるジャンプをなしとげた。いまだ謎であり続ける、人間が言葉を得て、心を持つに至る悠久の時間に、初めて光をあてる。
感想・レビュー・書評
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鳥が鳴くということ、赤ちゃんが泣くということへの考察がおもしろい。
繋がりは増えたけど、人がもともと持っている「伝えたい」という欲求が満たしきれていない現代の日本。さらには伝えたいことを忘れ、繋がることの快感で留まってしまってる。やっぱり、そこからのアクション、本当のコミュニケーションが大事なんだ。そこまでいかないと満たされないはずなのに、それにも気づかず欲求不満に陥ってる、ことがあるのかも。
小川さんの語る言葉が美しいのはもちろんだけど、岡ノ谷先生の言葉もかっこよかった。
「いかに美しい嘘を、想像を持つことができるかというのが実験の始まりですよね。」
「豊かな言語能力を養うためには、豊かな文学に触れる以外方法がありません。」
それから、「言語・音楽・数学というのはね、絶対に深い対応はあって、人間の特異性を作った大きなものだけど、たぶん一つの根っこにあるなという気がします。」…おぉ!言語も音楽も数学も好きです!高校の時に数学にはまったのも至極当然の流れだったのかな。本当に数学の問題を解いてるときって楽しかった、言葉を紡ぐ感じで。ミードの「サモアの思春期」も読み返したくなりました。 -
セミがものすごい音で鳴いて自分の耳の鼓膜が破れたりしないのかという問いに、先生は、脊椎動物だったら、耳小骨を支えている筋肉をゆるめるとあまり音が伝わらないと教えてくれる。人も大声を出すときは、無意識にその筋肉を緩めていると。ひとつづつ、少しづつの理解が楽しい。
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小川洋子さんと東京大学教授の岡ノ谷先生の、言葉の起源をめぐる対談です。
小川さんを通して伝えられる自然科学の世界は、なんて魅力的なのでしょう!
非常に興味深く、楽しく、気付かされることがたくさんありました。
岡ノ谷先生は言葉がどうやって誕生したのかを研究されています。
ハダカデバネズミやジュウシマツの歌から導きだされた、言葉のはじまりは「さえずり」であるとする、さえずり起源論がおもしろいっ!
言葉の起源についての話から、コミュニケーションの目的、意識や心の発生にまで話題は広がります。
読んでいて好ましく感じたのは、小川さんも岡ノ谷先生も、よいインスピレーションを与えあっているのが伝わってきたからだと思います。
識者が一方的に講義をする、というのではなく、お二人が互いに有意義な気付きをもたらし、もたらされたんですね!
言葉という特殊な道具を得たことで、人間は滅びていく。
小川さんはあとがきで「死を意識した生き物として、自分たちが生きた証を人は残そうとする。その証の一つが物語である」と書かれています。
それを読んだとき頭に浮かんだのは、見知らぬ土地で監禁されながらも、自らの物語を語り合った8人の人質たちでした。
きっとこの対談で拾った物語の種は、小川さんの中で温められて、この先も数々の花を咲かせていくのだなぁ…。
いつもほとんど意識することのない「言葉を使える」ということのすごさを感じながら、言葉と向き合う意義深い時間が得られました。 -
言葉の起源を探索しているうちに、いつしか意識や時間の発生にまで及ぶ対談。言語の起源は「歌」であるという仮説を提唱する科学者岡ノ谷一夫氏を作家の小川洋子が訪ねる。
岡ノ谷氏によれば、ジュウシマツのさえずりを分析すると家族や仲間から分節化した歌を学び、さらには分節化したフレーズを組み合わせていることまで分かるという。また、ハダカデバネズミという地下で社会生活を営むネズミも歌を歌うという。こうして、人間の言葉も歌から生まれたのではないかとする「原語の歌起源説」が提唱される。種を保存するための求愛から始まった歌がコミュニケーションの手段として高度化していったことは十分に考えられる。
この対談は、聞き手の小川洋子の鋭い質問とアイデアが刺激となって、スリリングな展開を見せ、深い世界へと降りて行く。人が成長していく過程で、自分だけではなくて、他者にも内的過程(意識)があることを想定できるという「心の理論」が披歴された後、他者の行動に感応するミラーニューロンをヒントにして、他人の意識がこのミラーニューロンを介して自分に映し出される時に自己意識が生まれるのではないかという「自己意識の他者起源説」も提出される。また、言葉を持つことで「時間」という概念も誕生したのではないかという哲学的な世界へと誘ってくれる。この「言葉」と「時間」の相互関係については、動詞の活用形の中に時間の概念が包摂されていることを精神医学者の中井久夫が『私の日本語雑記』の中で述べているように、言葉と時間は糾える縄の関係にあるという方が正確なように思われる。
最後に小川洋子が「人間が言葉を獲得した、と人間が主語になってきましたが、むしろ言葉が人間を作ったと言っても許されるのではないか、という気さえしてきました」と語っているが、この対談がお互いを刺激しあう創造的なものとなっていることを象徴していて印象的である。 -
動物と人間の違い、赤ん坊からの言葉の獲得。
人間固有の言葉を考えてみると興味深い。
鳥が歌うときは体もリズミカルになるらしく、他の動物にはリズム感そのものがないらしい。 -
言葉はいつどのように生まれたのかという疑問はさまざまな論点から論じられている。私たちがものごとを考えるのはすべて言葉によっており、言葉のない生活は想像ができない。一方で自分の身のまわりいる生き物のすべてが言葉を持たない動物であることも誰もが知る事実である。言葉はなくても生きていられるのである。
本書は言葉の専門家といえる小説家の小川洋子氏と、言葉の起源の研究のために動物の観察と実験を続ける科学者の岡ノ谷一夫氏の対談集で構成されている。興味深いのは岡ノ谷氏がことばの起源を人間以外の動物の観察に求めているということだ。特にジュウシマツの観察から鳥の鳴き方には言葉の生まれるきっかけと思われる何かがあるというのが面白い。
また対談の中で、自意識の確立は言葉以前にも起こりうるという話も興味深かった。他者とのふれあいの中で自己は意識されるのであってそこに言葉は不要というのだ。常識的な考え方からは遠いものであり、新しい知見として注目した。
もちろん言葉の発声の謎はこれで解決できたわけではない。むしろ疑問が深まった。しかしこの哲学的ともいえる謎に挑む学者の存在を知ったことこそ本書を読んだ収穫であった。小川氏の柔らかな受け答えも興味深い。 -
岡ノ谷先生の理論を小川さんがインタビューして体系だった教えを請うような内容を予想していたら、随分違いました。
もっと、自由闊達に話が飛び交い、言葉とは、意識とは、神とは、と思わぬ領域にまで及びます。科学者って自分の領域に閉じ籠っている印象があったんですが、色々な話題や小説のこと、お二人の会話を楽しんで読めました。
先日のFM放送で小川さんは「奇跡の人」について、奇跡の人とはサリバン先生のことと云われてました。本書によれば、刺激等価性に気付かせてくれた先生という、その奇跡の意味を科学者の目から解釈してくれます。
サボテンに意識があってどーすんだろー。
惑星ソラリスに意識があって、どーすんだろー。
そんなこと、考えたことなかった。
岡ノ谷先生って、面白いですよ。-
>サボテンに意識があってどーすんだろー。
でも、サボテンが生き抜くために意識が有効に作用しているという研究が確かありましたよね。>サボテンに意識があってどーすんだろー。
でも、サボテンが生き抜くために意識が有効に作用しているという研究が確かありましたよね。2013/09/01 -
サボテンにとって意識には適応度があったということですかね。意識はコミュニケーションから生まれるという岡ノ谷先生からみたら、サボテンのそれは、...サボテンにとって意識には適応度があったということですかね。意識はコミュニケーションから生まれるという岡ノ谷先生からみたら、サボテンのそれは、意識と云えるものじゃないんじゃないでしょうか。2013/09/02
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科学というよりは、よもやま話的なライトな体でエビデンスとか細かいこと抜きでこういう話もあるよねー的に対談してる本。真偽はともかく話題自体は面白いので小中学生の理系志向を進めるのによさそう。
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子どもの言語獲得
そもそも言葉とは
など、言葉に関する思いを持ちつつ
向かった図書館で見つけた本。
推測で語られている部分も見られるが、
冒頭10ページ足らずで、ひき込まれた。
じっくり読みたい。 -
小説家小川洋子さんと、言語の歌起源説を
唱える岡ノ谷さんとの対談本。
科学的なことはさらっと書かれていて
色々なこと(言語、音楽、神、脳、
コミュニケーション、心、など)について
お二人で楽しくお話しているところに
お邪魔しているような気がする
楽しい読書になりました。
「小鳥の歌には人間の言葉と共通する特徴が
ふたつも含まれていることがわかる。
他者から学ぶことと、組み合わせを作ること。」(P20)
伝えるべきことがほとんどない現代日本社会でコミュニケーションに意味が生まれるとすれば、それは創造なのだという点。お二人がそれぞれ独自の論理を辿りながら、この一転に共に行き着いている点も美しい実験をみているようで刺激的でしたよね。