シンデレラの謎 (なぜ時代を超えて世界中に拡がったのか)

著者 :
  • 河出書房新社
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感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309625058

感想・レビュー・書評

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  • タイトルだけ見て、もっとライトな内容の本なのかなと思って読み始めたら、民俗学、歴史学、神話学、文化人類学など、多角的なアプローチで「シンデレラ譚」はなぜ世界中に広がっていったのかを、広大なスケールで解明しようとする、なかなか専門的な本だった。それでいて読みやすい。
    様々なシンデレラ譚に分類される物語の要約も豊富に載っていて、それを読むのも面白い。
    もっと深掘りしてほしい部分はあったが、未完成な分、いろいろと思考が巡らされて、それもまた面白い。

    まず第一章で、シンデレラ譚の基本構造を抑えていく。シンデレラ譚には基本的に5つの要素から構成されており(例外もいくらかある)、①継母のいじめによるヒロインの試練②援助者の出現③非日常世界としての宴会や舞踏会④花嫁テスト(主に靴)⑤結婚によるハッピーエンド…がそれらの要素である。
    本書に載っている世界各地に伝播した類話を見ていくと、多くの類話がこの5つの要素を満たしていて驚く。

    第二・三章で、古代エジプトからヨーロッパルートのシンデレラ譚・中近東からアジアルートのシンデレラ譚が考察と共に紹介される。
    第四章では変形型のシンデレラ類話と、それらの類話がなぜそのような形式の物語になったのかの考察がなされている。

    第五章では、万単位で時間を遡り、ホモ・サピエンスの大移動と神話・民話の伝播について考察すると共に、それらと絡めて世界にあるシンデレラ類話で、なぜ殺人や移動が話の中に盛り込まれていたのかなどを考察していく。
    ホモ・サピエンスが世界中に移動しなければならなかった理由を、旧約聖書の楽園追放の逸話、創世記のノアの方舟の逸話、バベルの塔の逸話、カインがアベルを殺す逸話などから紐解いていくところが面白い。

    続いて第六章と終章があるが、個人的にメインは第五章までといったところか。
    しかし改めて靴の重要性について言及する場面もあるので、読んで損は無いと思う。

    考えすぎといえば考えすぎな部分もあるかもしれないが、全体的に面白く読めた。
    もっと感想を書こうと思えば書けるかもしれないが、以下に備忘録がてら目次を引用させていただくので、その題を見て面白そうだと思ったら、ぜひ読んでみてほしい。


    目次

    第一章  シンデレラ譚の基本構造
    1 継母のいじめによるヒロインの試練
    2 援助者の出現
    3 非日常世界としての宴会や舞踏会
    4 花嫁テスト
    5 結婚によるハッピーエンド

    第二章 古代エジプトからヨーロッパルートのシンデレラ譚
    1 古代エジプトの「ロドピスの靴」
    2 宗教的シンデレラ譚——「エステル記」
    3 ビザンツ帝国の「シンデレラ」——テオドラ
    4 イタリアのバジーレの「灰かぶり猫
    5 ドイツのグリム兄弟の「灰かぶり」
    7 ディズニーのアニメ映画『シンデレラ』
    トピックⅠ ヨーロッパ系「シンデレラ」(灰かぶり)の正体
    トピックⅡ シンデレラ譚のミッシングリンクの謎

    第三章 中近東からアジアルートのシンデレラ譚
    1 『アラビアンナイト』の「足飾り」
    2 イエーメンの「可愛いヘンナ」
    3 ペルシャの「月の顔」
    4 チベットの「奴隷の娘」
    5 中国の「葉限」
    6 ベトナムの「タムとカム」
    7 ミャンマーのカレン族の「雨季のおこり」
    8 朝鮮半島の「コンジ・パッジ」(豆福と小豆福)
    9 日本の「糠福と米福」
    トピックⅢ シンデレラ譚の日本伝播——明治以前と以後の二重構造
    トピックⅣ シンデレラ譚に登場する援助者のメタモルフォーゼ

    第四章 変貌するシンデレラ類話とその連鎖
    1 「イグサ頭巾型」・「姥皮型」のシンデレラ類話
    トピックⅤ 変身によるカムフラージュと花嫁のヴェール
    2 「ロバの皮型」シンデレラ類話の系譜
    トピックⅥ 「ロバの皮型」の近親相姦願望と「白雪姫」の謎
    トピックⅦ 一種の仮面劇としてのシンデレラ譚の変身
    3 復讐型継子いじめ譚の類話
    トピックⅧ 再婚と継子いじめ譚の成立

    第五章 ホモ・サピエンスの大移動と神話・民話の伝播 
    1 シンデレラ譚の普遍性と伝播の関係
    2 ホモ・サピエンスの大移動の経路
    3 『聖書』が語るホモ・サピエンスの移動
    4 一万年——五〇〇〇年前の殺人事件
    5 移動と殺人が組み込まれたシンデレラ類話
    6 移動における外婚制と女性の役割
    トピックⅨ 古代ギリシアのデメテル神話と日本神話の類似性
    トピックⅩ ロマ(「ジプシー」)の民族移動と神話・民話の伝播

    第六賞 シンデレラ譚の伝播とメディア
    1 口承という方法と語り手
    2 書承の特色
    3 翻訳・翻案と異文化受容
    4 絵本、挿絵という視覚メディア
    5 アニメ映画、DVD,インターネットのメディア

    終章 なぜシンデレラ譚は人気があるのか
    1 もう一人の主役である継母
    2 ヒロイン、援助者、読者だけが知る真実
    3 靴のシンボル
    4 呪力から魔法昔話へ
    5 シンデレラストーリー——没落と上昇のパースペクティブ
    6 結婚願望と見果てぬ夢

  • 落窪物語のように日本でも古来からシンデレラのような話があるのは知っていたが、全世界に存在することは知らなかった。
    民族学の視点でシンデレラの話がどのように伝播したのかの考察をまとめており、非常に興味深かった。
    落窪物語の解説がなかったのが残念。

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著者プロフィール

1944年香川県生まれ。現在、関西大学名誉教授、ワイマル古典文学研究所、ジーゲン大学留学。ドイツ文化論、比較文化論専攻。
主要著作
『魔女とカルトのドイツ史』(講談社現代新書)、『ナチスと隕石仏像』(集英社新書)、『「笛吹き男」の正体』(筑摩選書)、『図説 ヨーロッパの装飾文様』(河出書房新社)、『現代ドイツを知るための67章』(明石書店、編著)、『ポスト・コロナの文明論』(明石書店)など多数。

「2023年 『ベルリンを知るための52章』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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