暗夜/戦争の悲しみ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-6)

  • 河出書房新社
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感想 : 20
  • Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309709468

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  • 10代でベトナム戦争へと志願した若者キエンが、過ごした戦地と生き延びてなお地獄の戦後を、戦争・恋い模様を個人の視点で描いた戦争文学。過去から現在へ続く時間軸に背き、様々な場面に飛びながら展開する構成に最初は荒っぽさを感じたが、次第に記憶の断片を整理していく過程であることが分かり、リアリティさが増してくる。
    前半はベトナム戦争の生々しい表現が続くが、ベトナム兵のキエンから見た戦争について書かれており、10~20代を戦地で過ごしたキエン、そしてキエンがまとめる部隊の若者がどういう思いで戦争に向かい、そして命を落としていったのかが描かれている。特に自分の部隊の部下を全て失ったキエンは、生き残ったことで背負う苦しみの大きさを強調している。
    大義がない戦争、米ソ冷戦の代理戦争として、悲惨な運命とたどったベトナムで若者たちの将来が失われることの悲しみは、ただただ悲しみでしかない。
    後半になり、キエンとフォンと恋の回顧が始まる。おそらく戦争で失った最も重要なもので、取り返そうとつらい記憶をたどる作業が行われるのだ。このシーンでは、1960年代のハノイの美しい田園風景や都市部の煉瓦造りの建物、夜の暗い街並みなど、情景が目に浮かぶのだ。そこでつましい幸せが約束された高校生たちは、米国の北爆で戦争が始まると、やがてお互いに肉体的にも精神的にも癒えることのない傷を負う。
    キエンとフォンは10年の戦争を経て、再会を果たすが、もはや互いに互いを埋められない関係になっていた。なぜそうなってしまうのか。その理由と解きほぐすため、回顧を続けたキエンの物語は、戦争の悲しみから抜け出すことができなかった。戦争からは悲しみしか生まれないことを強く伝えている。

  • 『暗夜』は同じく社会主義圏(だった)ソルジェニーツィン作品の絶望感・共存する明るさに似ている。伝統的宗教が失われ共産党批判が許されないなか弾圧をする理由がありえない不条理で描く奇妙な晦渋か?/宮崎正弘推奨『戦争の悲しみ』は世界文学と呼ぶにふさわしいベトナム戦争中の悲恋の物語。初恋の夢は失われたのではなく「平和への祈り」のように、草木が生い茂って見失われた道のように現存すると言う。人間は暴力的でそれは生殖と近しい。戦闘などの描写が凄まじい。「現役の作家で彼ほど多くの殺戮現場と死体を見たものは少ない」映像不要

  • 「戦争の悲しみ」
    泥沼のベトナム戦争に17歳から兵隊となって10年以上戦場で暮らし、戦後、遺骨収集作業に加わり、大学等で学んだ後に戦争を描いたという来歴の本。
    大昔に五味川純平の「人間の条件」を読んで、迫力や話の分厚さに感動したが、あくまで小説として読んでいた気がする。こちらはもっとリアル。材料が著者の経験した事実だと思われるから。しかし主人公の戦後の現実と回想という形をとっているので惨たらしい状況描写が延々と時系列で繋がっていかず、読むことの苦しさから何とか免れる。
    帰還兵が戦争体験のトラウマでその後の生活がまともにできなくなるという話は幾度も聴いたことがあるが、文章を書けるひとがそれをリアルに語っている重さ。戦争でない平時に健康で暮らせることの有り難みを大切にしなくてはと改めて思う。また世の中で最も避ける努力をすべきなのが戦争なのは間違いない。
    やや消化不足なのがこの本のもう一つのテーマである恋愛。ちゃんとしたセックスなしの恋愛は成立しないのか、男女の永続的な関係はそれ以外の形はないのか、この面では勉強が不足しており、主人公とその恋人の結末に納得いかず。
    蛇足だが最後の章は不要ではないかと思う。いきなり主語が変わって「私」が登場し、それまでの主人公が「作家」と呼ばれる。この本が自叙伝ではないことを明らかにしたいためかもしれないが、急に距離を置かれたような不自然感がある。

    「暗夜」…短編集
    残雪という作家は初めて読む。
    どの話も読み手に疑問を抱かせつつも、読ませていく引力がある。ふつうならわからないと面白くなくてやめてしまうのだが、なんだろう??と思いつつ読み続けられる面白さがある。
    どうもこの世とあの世?の間の世界のことを暗示していそうだな、と思う話が多いと感じたがそれも読む側に任されているのだろう。

  • 暗夜
    主人公は知り合いのおじさんに連れられて、かねてより憧れていた〝猿山″へ向かう。しかし出だしから道は真っ暗、得体の知れない亡霊や鳥の妨害にあったり、宿には全然泊めてもらえなかったりと全く上手くいかない。さらには村に残してきたはずの家族や友達が現れてことごとく罵倒される。つれのおじさんにもなぜかめちゃくちゃ罵倒される。まったく進捗を見ないまま振り出しに戻るが、そこで主人公は今度は一人で行こうと強く決意する。いわく、何かをなそうと決意した人間を本当に妨げることは誰にもできないんだ、と。

    .........
    残雪の書いたカフカ論も読んだのだが、本作はまさしく「城」のオマージュだと思った。もっとも、より脈絡が無く、より幻想寄りで、より登場人物は口汚ないが。

    残雪の書く物語は、短いほどプロットで話が進み、長いほど会話で話が進むようだ。そして長くなればなるほど混沌として、解釈を激しく拒むような苛烈さが増してくる。(余談だが、カフカは逆に短い話ほど読者を置き去りにする傾向があるかもしれない。それでもカフカは常に解釈を要求してくる。)

    幻想的なプロット、暗喩を感じさせるモチーフ、そして力強い会話がこの作家の魅力だと思った。作品数に対して邦訳が少ないようなので楽しみに待ちたい。

  • 残雪はギブアップ…不条理さはまだいいんだけど、ひたすら暗くて鬱々としていて、気が滅入ってダメだった。。
    バオニンの戦争の悲しみは惹き込まれた。息詰まる戦場や密林の描写と、現在の生活(こちらも決して明るくないんだが)が交錯して展開し、どうつながるのか気になって。戦争は、目に見えるものだけじゃない、いろいろなものを破壊するんだな…

  • 暗夜はとても不思議な短編集だ。どの作品にも共通するのだが、年代と場所がわからない。特に中国に詳しいわけでもないからなおさらだ。それだけに、というべき、それだから、というべきが、おのずと登場人物達の心象へ集中するのだが、これもまた一筋縄ではいかない作業なのだ。難しい作品ではあるけれど、独特の余韻ののこる世界だと思う。
    戦争の悲しみのなかでは、頻繁に時代が錯綜する。意図的にそのように記述されているのは明らかだが、そうしたアクロバティックな手法により、登場人物達の背負う悲しみや孤独が強調される。今のベトナムは平和な国だが、40年もの間続いた戦争とはどのようなものだったのか想像すらできない。南側からみた書物や写真とは違った貴重な記録でっもあると思う。

  • 残雪「暗夜」
    カフカ的な不条理ワールド。
    AだからBという道理が通じない世界は
    さながら迷路の中をぐるぐる回らされているかのよう。

    バオニン「戦争の悲しみ」
    ベトナム戦争を侵略された側から描いた作品。
    戦前、戦中、戦後。
    言葉で“過酷”と書くだけでは到底足りない現実が
    入り乱れた時系列の中で痛切な叫びとなって立ち上る。

    あまりに衝撃的な体験の前後で、
    我々はそのままではいられない。
    それでも、生きていかなければならないし、
    我々は生きていくんだ。

  • アジアの現代文藝。

  • 時間をかけて読んだ。そして読むのに時間がかかった。

  • 「戦争の悲しみ」はベトナムの小説である。フランス文学を読んでいるような気がするが、日本の戦争小説とも似ている。暗夜は中国の小説で幻想小説であり映画に出来そうである。

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著者プロフィール

1952年、ヴェトナム生まれ。ヴェトナム人民軍に入隊し、各地で戦闘に従事する。91年に本書『戦争の悲しみ』を刊行し、94年、英インディペンデント紙外国小説賞受賞。

「2010年 『暗夜/戦争の悲しみ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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