暗夜/戦争の悲しみ

  • 河出書房新社 (2010年8月3日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (544ページ) / ISBN・EAN: 9784309709468

みんなの感想まとめ

戦争の悲しみと個人の記憶が交錯する物語が描かれています。主人公キエンは、ベトナム戦争を戦った若者として、戦地での苦悩や失った仲間への思いを率直に語ります。彼の視点からは、戦争の非情さとそれによって引き...

感想・レビュー・書評

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  • 10代でベトナム戦争へと志願した若者キエンが、過ごした戦地と生き延びてなお地獄の戦後を、戦争・恋い模様を個人の視点で描いた戦争文学。過去から現在へ続く時間軸に背き、様々な場面に飛びながら展開する構成に最初は荒っぽさを感じたが、次第に記憶の断片を整理していく過程であることが分かり、リアリティさが増してくる。
    前半はベトナム戦争の生々しい表現が続くが、ベトナム兵のキエンから見た戦争について書かれており、10~20代を戦地で過ごしたキエン、そしてキエンがまとめる部隊の若者がどういう思いで戦争に向かい、そして命を落としていったのかが描かれている。特に自分の部隊の部下を全て失ったキエンは、生き残ったことで背負う苦しみの大きさを強調している。
    大義がない戦争、米ソ冷戦の代理戦争として、悲惨な運命とたどったベトナムで若者たちの将来が失われることの悲しみは、ただただ悲しみでしかない。
    後半になり、キエンとフォンと恋の回顧が始まる。おそらく戦争で失った最も重要なもので、取り返そうとつらい記憶をたどる作業が行われるのだ。このシーンでは、1960年代のハノイの美しい田園風景や都市部の煉瓦造りの建物、夜の暗い街並みなど、情景が目に浮かぶのだ。そこでつましい幸せが約束された高校生たちは、米国の北爆で戦争が始まると、やがてお互いに肉体的にも精神的にも癒えることのない傷を負う。
    キエンとフォンは10年の戦争を経て、再会を果たすが、もはや互いに互いを埋められない関係になっていた。なぜそうなってしまうのか。その理由と解きほぐすため、回顧を続けたキエンの物語は、戦争の悲しみから抜け出すことができなかった。戦争からは悲しみしか生まれないことを強く伝えている。

  • 230411*読了
    残雪さんの「暗夜」含む短編7篇はなんとも不思議だった。
    さらっと読んでしまうと到底理解できない。
    ご本人も傾倒されているカフカともまた違う。
    独特の世界観で、他の誰とも似ていない。
    よくある話のようで、絶対にあるはずのないフィクション。

    「戦争の悲しみ」はまさにタイトル通り。
    悲しすぎる。
    戦争は絶対に体験したくないけれど、今も戦争の悲しみを味わっている人がいる。
    これは物語だからではなくって、現実にも同じような経験をしてきた人がたくさんいる。
    そのことを思うと、とても苦しい。
    女性だからこそ、男性に虐げられてしまう苦しみもそう。男性であるが故に戦地に赴き、残虐を身を持って味わってしまうこともそう。
    なんて悲しいのだろう。

    この二人の作家に共通しているのは、いい意味でのもやもやとした空気感。
    中国と、ベトナム、アジア圏の作家さんらしさというのもあるのかもしれない。
    「暗夜」はまるで夢の中にいるようなもやもや感、現実のようで現実でない感じが特徴。
    「戦争の悲しみ」は過去の追憶が多いからこそ、過去を振り返った時、脳裏に浮かぶもやもやとしていながらも、一部はくっきりと鮮明だったりする、あの記憶。

    今、ご存命かは調べていないのだけれど、刊行当時はまだ生きていらっしゃって、文学全集発刊以降にもきっと作品を出されているので、そちらも気になる。

  • 『暗夜』は同じく社会主義圏(だった)ソルジェニーツィン作品の絶望感・共存する明るさに似ている。伝統的宗教が失われ共産党批判が許されないなか弾圧をする理由がありえない不条理で描く奇妙な晦渋か?/宮崎正弘推奨『戦争の悲しみ』は世界文学と呼ぶにふさわしいベトナム戦争中の悲恋の物語。初恋の夢は失われたのではなく「平和への祈り」のように、草木が生い茂って見失われた道のように現存すると言う。人間は暴力的でそれは生殖と近しい。戦闘などの描写が凄まじい。「現役の作家で彼ほど多くの殺戮現場と死体を見たものは少ない」映像不要

  • 「戦争の悲しみ」
    泥沼のベトナム戦争に17歳から兵隊となって10年以上戦場で暮らし、戦後、遺骨収集作業に加わり、大学等で学んだ後に戦争を描いたという来歴の本。
    大昔に五味川純平の「人間の条件」を読んで、迫力や話の分厚さに感動したが、あくまで小説として読んでいた気がする。こちらはもっとリアル。材料が著者の経験した事実だと思われるから。しかし主人公の戦後の現実と回想という形をとっているので惨たらしい状況描写が延々と時系列で繋がっていかず、読むことの苦しさから何とか免れる。
    帰還兵が戦争体験のトラウマでその後の生活がまともにできなくなるという話は幾度も聴いたことがあるが、文章を書けるひとがそれをリアルに語っている重さ。戦争でない平時に健康で暮らせることの有り難みを大切にしなくてはと改めて思う。また世の中で最も避ける努力をすべきなのが戦争なのは間違いない。
    やや消化不足なのがこの本のもう一つのテーマである恋愛。ちゃんとしたセックスなしの恋愛は成立しないのか、男女の永続的な関係はそれ以外の形はないのか、この面では勉強が不足しており、主人公とその恋人の結末に納得いかず。
    蛇足だが最後の章は不要ではないかと思う。いきなり主語が変わって「私」が登場し、それまでの主人公が「作家」と呼ばれる。この本が自叙伝ではないことを明らかにしたいためかもしれないが、急に距離を置かれたような不自然感がある。

    「暗夜」…短編集
    残雪という作家は初めて読む。
    どの話も読み手に疑問を抱かせつつも、読ませていく引力がある。ふつうならわからないと面白くなくてやめてしまうのだが、なんだろう??と思いつつ読み続けられる面白さがある。
    どうもこの世とあの世?の間の世界のことを暗示していそうだな、と思う話が多いと感じたがそれも読む側に任されているのだろう。

  • 暗夜
    主人公は知り合いのおじさんに連れられて、かねてより憧れていた〝猿山″へ向かう。しかし出だしから道は真っ暗、得体の知れない亡霊や鳥の妨害にあったり、宿には全然泊めてもらえなかったりと全く上手くいかない。さらには村に残してきたはずの家族や友達が現れてことごとく罵倒される。つれのおじさんにもなぜかめちゃくちゃ罵倒される。まったく進捗を見ないまま振り出しに戻るが、そこで主人公は今度は一人で行こうと強く決意する。いわく、何かをなそうと決意した人間を本当に妨げることは誰にもできないんだ、と。

    .........
    残雪の書いたカフカ論も読んだのだが、本作はまさしく「城」のオマージュだと思った。もっとも、より脈絡が無く、より幻想寄りで、より登場人物は口汚ないが。

    残雪の書く物語は、短いほどプロットで話が進み、長いほど会話で話が進むようだ。そして長くなればなるほど混沌として、解釈を激しく拒むような苛烈さが増してくる。(余談だが、カフカは逆に短い話ほど読者を置き去りにする傾向があるかもしれない。それでもカフカは常に解釈を要求してくる。)

    幻想的なプロット、暗喩を感じさせるモチーフ、そして力強い会話がこの作家の魅力だと思った。作品数に対して邦訳が少ないようなので楽しみに待ちたい。

  • 残雪はギブアップ…不条理さはまだいいんだけど、ひたすら暗くて鬱々としていて、気が滅入ってダメだった。。
    バオニンの戦争の悲しみは惹き込まれた。息詰まる戦場や密林の描写と、現在の生活(こちらも決して明るくないんだが)が交錯して展開し、どうつながるのか気になって。戦争は、目に見えるものだけじゃない、いろいろなものを破壊するんだな…

  • 暗夜はとても不思議な短編集だ。どの作品にも共通するのだが、年代と場所がわからない。特に中国に詳しいわけでもないからなおさらだ。それだけに、というべき、それだから、というべきが、おのずと登場人物達の心象へ集中するのだが、これもまた一筋縄ではいかない作業なのだ。難しい作品ではあるけれど、独特の余韻ののこる世界だと思う。
    戦争の悲しみのなかでは、頻繁に時代が錯綜する。意図的にそのように記述されているのは明らかだが、そうしたアクロバティックな手法により、登場人物達の背負う悲しみや孤独が強調される。今のベトナムは平和な国だが、40年もの間続いた戦争とはどのようなものだったのか想像すらできない。南側からみた書物や写真とは違った貴重な記録でっもあると思う。

  • 残雪「暗夜」
    カフカ的な不条理ワールド。
    AだからBという道理が通じない世界は
    さながら迷路の中をぐるぐる回らされているかのよう。

    バオニン「戦争の悲しみ」
    ベトナム戦争を侵略された側から描いた作品。
    戦前、戦中、戦後。
    言葉で“過酷”と書くだけでは到底足りない現実が
    入り乱れた時系列の中で痛切な叫びとなって立ち上る。

    あまりに衝撃的な体験の前後で、
    我々はそのままではいられない。
    それでも、生きていかなければならないし、
    我々は生きていくんだ。

  • アジアの現代文藝。

  • 時間をかけて読んだ。そして読むのに時間がかかった。

  • 「戦争の悲しみ」はベトナムの小説である。フランス文学を読んでいるような気がするが、日本の戦争小説とも似ている。暗夜は中国の小説で幻想小説であり映画に出来そうである。

  • 後半(分量としては全体の2/3くらい)に載っているバオ・ニンの「戦争の悲しみ」の話をまずしたい。

    戦争を描いたものというのは多くの場合、どちらか一方の側からの視点になる。ベトナム戦争の場合、米国では多くの作品、特に映画が作られており、ベトナム戦争というと「ベトコンによるゲリラ戦」といったイメージを持ってしまう。

    「戦争の悲しみ」はベトナム戦争に従軍したキエンが主人公である。戦争については秩序だって語られるわけではなく、断片的なエピソードが順不同で思い浮かぶがままに書いたかのように現れる。米国が憎いとか南ベトナムの傀儡軍が憎いといった書き方ではなく、ただひたすらに現場の最前線における戦闘シーン(特にそこにおける失われた仲間とのエピソード)が描かれる。

    戦争を文学として描くとき、現実があまりにも過酷なため、小説はノンフィクションよりも今ひとつなものになりがちである。本作品では戦争が物語の核でありながら、恋人フォンとの再会や別れといった要素をうまく絡ませることで小説として成功している。戦争小説というより恋愛小説ととらえる人もいるだろうが、私はやはり核は戦争小説なのだと思う。

    もう1つの作品は中国の作家「残雪」による数本の短編。著者はカフカの研究論文も書いている人で、計算され尽くした「居心地の悪さ」を作品の軸に置いている。どう読んでも落ち着かない。短編ということもあり、カフカよりも内田百閒を読んだときを思い出した。

    この作家の作品をまた読むことがあるかどうかは分からないが、こういう全集形式だからこそ出会えたものであり、編者である池澤夏樹さんは慧眼であるとしか言えない。

  •  残雪はいわば不条理小説。出来の悪い蛭子能収といったところか。戦争の悲しみはベトナム戦争とそこでトラウマとなりまた性的不能者になったキエンの話。著者の表現したいこととは違うのかもしれないが、悪も貧乏も罪も年齢も身分も愛は乗り越えるが、セックス不能だけは乗り越えられないということか。
    Coccoの歌にもあるように、愛する人のために遠くで働いても「あなたのお姫様は今頃他の誰かと腰を振ってるわ」ということなのだろう。
     愛するフォンが集団レイプされて傷ついたが、果たしてキエンを遠ざけた理由がその体験に由来するものなのか。レイプされたからこそフォンはキエンとのプラトニックな関係が可能になると思い、キエンも同じ事を考える。しかし、8年以上も続いた戦場にいるキエンへの思いは、キエンと再開した数ヶ月のセックスレスの生活が続いたことで幕を閉じる。
     戦争の悲しみとは、何の悲しみだったのだろう。

  • 2009年9月22日読了 「暗夜」はよくわからず。「戦争の悲しみ」はベトナムから描いたベトナム戦争ということで、興味深かった。

  • 『暗夜』
    現代中国文学を代表する作家、残雪。
    彼女の代表的な7つの短編が収められている。

    残雪は文学評論家としても優秀な人で特にフランツ・カフカに対して造詣が深い。
    その影響からかこの短編集もカフカを思わせるような作品で、この不思議な世界に一度入り込んでしまうとなかなか抜け出せないくらい面白い。

    『戦争の悲しみ』
    人類史上最悪の戦争といわれるベトナム戦争。
    そのベトナム戦争を体験した作者が戦争にまつわる苦悩を描く。
    数ある戦争文学の最高峰に位置するのではないでしょうか。
    是非一度お読みいただきたいです。

    ハリウッドの戦争映画などでは運命という言葉で単純に終わらせてしまいますが、戦争はそんな簡単なものではないとこの作品は教えてくれます。
    人々の生きたいという力が伝わってきます。

  • [ 内容 ]
    世界で称賛されるアジアの二人の作家の代表作。
    夢の論理に満ちた奇想天外な物語を紡ぎだす、現代中国屈指の語り手による、初訳を含むベスト作品集と、戦争に引き裂かれた男女の悲恋をヴェトナム側から描いた話題作。

    [ 目次 ]


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    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 「暗夜」は謎だらけの美しい短編集だけれども、その謎が何の寓意なのか考え始めると頭がグルグルに。「戦争の悲しみ」はすなわち人間存在の悲しみ。キエンとフォンのたましいが救われて欲しい。

  • 「戦争の悲しみ」
    ベトナム戦争を北ベトナムの当事者の視点から描いた作品。

  • 残雪は始めて呼んだけど、とても好きだった。
    カフカ好きな人はきっと好き。
    文学はこういうこともできるっていうのをもっと知ってもらいたい。

    バオ・ニンの「戦争の悲しみ」は、時系列に沿わずに戦時中の体験や現在の苦悩を描いているんだけど、
    なんていうか「伝える」技巧っていうのとエピソードの鮮烈さっていうのがよくかみ合っていて面白かった。

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著者プロフィール

1952年、ヴェトナム生まれ。ヴェトナム人民軍に入隊し、各地で戦闘に従事する。91年に本書『戦争の悲しみ』を刊行し、94年、英インディペンデント紙外国小説賞受賞。

「2010年 『暗夜/戦争の悲しみ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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