灯台へ/サルガッソーの広い海 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 2-1)

  • 河出書房新社
4.10
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本棚登録 : 255
レビュー : 20
  • Amazon.co.jp ・本 (500ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309709536

作品紹介・あらすじ

灯台を望む小島の別荘を舞台に、哲学者の一家とその客人たちの内面のドラマを、詩情豊かな旋律で描き出す。精神を病みながらも、幼い夏の日々の記憶、なつかしい父母にひととき思いを寄せて書き上げた、このうえなく美しい傑作。新訳決定版(『灯台へ』)。奴隷制廃止後の英領ジャマイカ。土地の黒人たちから「白いゴキブリ」と蔑まれるアントワネットは、イギリスから来た若者と結婚する。しかし、異なる文化に心を引き裂かれ、やがて精神の安定を失っていく。植民地に生きる人間の生の葛藤を浮き彫りにした愛と狂気の物語(『サルガッソーの広い海』)。

感想・レビュー・書評

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  • わざわざいうまでもなく、本作(「灯台へ」)が名作であることはまず間違いない。

    何より構成がグッときた。

    戦前。天気の都合で、けっきょく灯台に行けなかった、その前日を、本作の半分くらいが閉める。

    ついで、戦後、誰かが死に、誰かが生き延び、島の別荘が、ある老婆によってかろうじて維持されていたことの報告。

    そして、生き残った人たちが灯台へ。それは、かつての幸福な思い出に誘われて、という動機であるはずが、現実はそうもいかない。。。

    女性がまだ、当たり前のように差別されていた時代。同時に、男性ラムジー氏がこうも「怪物的」な存在として描かれていることに、また、ラムジー夫人ではなく、ラムジー氏が生き残ったことに、苦々しさと胸苦しさを感じざるをえない。
    しかしそこには、明確な肯定も否定もない。

    まるで、こうして「いま」が形作られたのだよ、と言われているようで。

  • 『灯台へ』のみ。あらゆる事象は特定の箱の中にだけ閉じ込められてあるって?例えばある発言は、特定の文脈の特定の1つの箱の中にしか入ってこないって?誰がそんなことを言ったよ!意識はそんな常識的な制約など飛び越え、どこまでも自由に、どこまでも流れていくものなのだ。そこでは出来事とは恰も冗漫な挿入句。背景事情とは長い長い修飾語。比喩は単に事象を描写するためでなく、より大きな文脈を支え、広範囲を照らし仄めかす為、類稀れなる精度と極度の緊張の下に選ばれる。そしてそんな世界は幾様にも多様に存在し得、お互いはきちんと併存し得る。記憶は、形のうちに凍りついていることを拒み、魂のように自由に蒼穹を遊びまわる。意識の帰属は曖昧で、誰の意識でもあり、お互いは繋がっていて、引っぱりあって、すれ違い、さいごに自然や悠久のときと結びつくことで多幸感のうちに途切れてゆく。

    そして、予感の偏狂。もし世界に満てる万象が、あなたに気付いて欲しいサインを微かに送り続けているとしたら?そしてあなたがそれらからのサインを拾い続けねばならないという終わりのない義務感に駆られてしまったら?私にとってこの本を読む体験は、浜辺の砂の一粒一粒をつぶさに観察すような強迫観念と、その営みがもたらす絶望に似た幸せに包まれる読書だった。そこではまた、風が舞い起こす記憶と、意識が勝手に丁稚上げてくるお伽話に向き合わされる。狂気と知りつつ自らそれに身を委ねることのうちに、ある種の幸福はきっとある。でもいつまでも凝と観てはいられない。空高く吹き抜ける天津風が、手元からその姿(ヴィジョン)ごと砂を攫っていってしまうから。敵わぬと知りつつせめて巻末に索引が欲しい。心の水たまりに泛ぶ儚い印象(ヴィジョン)を項目として。

    頁を開くたび私の心を跳躍・蹂躙する言葉は、決して同じ表情を留めはしない。馴れ親しんだ日常も風景も刻一刻と変化し、常に姿を変えながら出会い直させられる。砂や波のように。名作の名作たる所縁として、この本の字句は私の儚いこの一瞬より永らえ、いつまでも生き伸びていくのだろう。岩や山のように。それらは異なる印象を光のようにはじき返し、淡い予感としてだけ心に残りながら、ノスタルジアのなかに照り輝く。なんて貴重な体験だったろう。なんと悦ばしい読書だったろう。一言一句まで満たす胎動は、何かが起りそうな予感に溢れ、最後の一行で結論に達してもなお、何かが産まれそうで産まれない無責任の中に私を恍惚と揺蕩わせてくれた。

  • 昔読んだ記憶

    灯台へ 
    潮の香りがするどこかノスタルジックな印象

    サルガッソー
    丁度ジェーンエアを読んだ直後にサルガッソーを読み、ジェーンエアに人種差別的な要素があるんだと気づいた作品 
    何気なく差別要素が入っていたことに気付いてびっくりした
    人種差別的な要素って、あからさまに入ってるより何気なく入っている方がたちが悪いのかも知れない

  • 灯台へ
    鴻巣友季子の訳が素晴らしい。

  • 7/9 灯台へ 再読。岩波文庫版と比較しつつ。

  • 「灯台へ」で描かれているのは記憶の世界である、と私は思った。それが全章を通してみると、特定の人の記憶ではなく、不特定多数の誰か、という大変複雑な構造の作品ではないかと感じるのだ。
    「サルガッソーの広い海」に取り組むために、私はわざわざ「ジェイン・エア」を読んだ。しかし、本書に取り組み方には、私は先にジェイン・エアを読むことをお勧めする。でないと面白さは半減する。そのくらい関係の深い小説であると思う。

  • 2015.10.22

  • モダニズムを池澤夏樹文学全集より。

    「灯台へ」
    些細な一瞬一瞬の行為を内面深くまで書き出す著者が描いたのは、ラムジー一家とその友人の10年の時を隔てたある一日とある一日。
    ずっと昔から人の心はこんなにも豊か.

    「サルガッソーの広い海」
    植民地生まれの主人公が苦難の末結婚したのが本国出身の若者。しかし帰属と価値観の違いが主人公の心を引き裂いていく・・・。
    ジェーンエアを読んだことないからわからなかったけれど、後書きを読むといっそう切ない。

  • ウルフの文体がよい。

  • 『サルガッソーの広い海』/
     ヒロインは奴隷制廃止ですべてを失った大農園主の家に生まれます。やがてヒロインの家族は、奴隷から解放されたものの貧しい暮らしを強いられている黒人系住民の暴動によって虐殺され、その後、本土に引き上げてから上流階級の男性と結婚します。はじめは幸せな結婚生活を送っていたのですが、ある日、夫に、「彼女には黒人の血が混ざっている」と告げ口する者がありました。理不尽な差別があまりにも多い時代のことです。ヒロインは夫からDVを受け、精神を病んでいきます。そんなヒロインを夫は、『ジェーン・エア』の登場人物であるあの、「バーサ」と呼んで侮辱し破局へといざなうのでした。

    詳細
    http://r24eaonh.blog35.fc2.com/blog-entry-126.html

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著者プロフィール

イギリスの作家。1882年ロンドンで生まれる。作家・芸術家・批評家のサークル〈ブルームズベリー・グループ〉に加わり、1915年、第一長篇『船出』を発表。〈意識の流れ〉の手法を用いた『ダロウェイ夫人』(25)、『燈台へ』(27)、『波』(31)で先鋭的なモダニズム作家として高い評価を得た。1941年、『幕間』(没後出版)の完成原稿を残して入水自殺。

「2020年 『フラッシュ 或る伝記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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