苦海浄土 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)

著者 : 石牟礼道子
  • 河出書房新社 (2011年1月8日発売)
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  • レビュー :19
  • Amazon.co.jp ・本 (780ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309709680

作品紹介

「天のくれらす魚」あふれる海が、豊かに人々を育んでいた幸福の地。しかしその地は、海に排出された汚染物質によって破壊し尽くされた。水俣を故郷として育ち、惨状を目の当たりにした著者は、中毒患者たちの苦しみや怒りを自らのものと預かり、「誰よりも自分自身に語り聞かせる、浄瑠璃のごときもの」として、傑出した文学作品に結晶させた。第一部「苦海浄土」、第二部「神々の村」、第三部「天の魚」の三部作すべてを一巻に収録。

苦海浄土 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)の感想・レビュー・書評

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  • (2016.10.02読了)(2016.09.28借入)
    『苦海浄土』は、いつか読もうと思っていたのですが、三部作になっていたとは知りませんでした。第一部『苦海浄土』、第三部『天の魚』は、講談社文庫で読んだのですが、第二部『神々の村』はまだ文庫になっていないし、単行本は図書館になかったので、三部作全部が収録されているこの本を借りてきました。第二部と解説を読みました。
    『神々の村』は、最後に出版されたのに、どうして第二部なのかと思っていたのですが、書かれている内容が時系列から見ると第一部と第三部の間に入るからということのようです。第三部より第二部のほうを先にまとめて出版してくれたらよかったのに、出してくれる出版社の事情とかがあったのでしょうね。解説には何も書いてないですね。
    この本で、第二部だけを読みましたが、全体で800頁ほどで二段組なので、全部をこの本で読むとしたらかなり気力がいると思います。
    図書館の貸出期間は、二週間ですので一日50頁以上読まないと期限内に返せませんね。
    第二部だけだと250頁ほどで、単行本だと400頁ほどになります。一週間あれば何とか読めそうです。

    胎児性水俣病の患者さんの様子などが淡々と書いてあります。かなり悲惨な状況なのですが、石牟礼さんは余計な感情を交えずに書いています。
    患者さんの話の間に、兎、狸、蜜蜂、唐芋、蜜柑などの話が入ってきます。のどかな村のありふれた生活であるかのような書き方です。
    後半は、巡礼団を組んで大阪での株主総会に出かけてゆくさまが描かれています。水俣の工場には、頭の悪い人ばかりで道理のわかる人はいない。社長だったら道理がわかるだろうと自分たちの気持ちを伝えに行くのですが、・・・。
    一つの企業の流した廃液にふくまれていた有機水銀による中毒で多くの人が亡くなり、体が不自由になり、差別にさらされました。原因に気づきながら手を打たなかった国や企業、その間に増え続ける被害者。水俣病事件の後でも、同じようなことが繰り返されてきました。個人が、意図的にやったことなら、死刑は免れないでしょう。国や企業なら許されるのでしょうか。被害者たちは、責任を取れと言ってるわけではないのですが。
    自分たちがどのような目に遭ったのかわかって欲しいし、二度と同じような目に合う人がないようにしてほしいと言っているのだと思うのですが。
    出来れば、健康な体に戻してほしいということもあるのですが。脳細胞が、壊されているようなので、現在の医療技術では、何ともならないのでしょう。

    【目次】
    第一部 苦海浄土
    (講談社文庫・新装版)
    第二部 神々の村
    第一章 葦舟
    第二章 神々の村
    第三章 ひとのこの世はながくして
    第四章 花ぐるま
    第五章 人間の絆
    第六章 実る子
    第三部 天の魚
    (講談社文庫)
    生死の奥から  石牟礼道子
    解説 不知火海の古代と近代  池澤夏樹
    年譜/主要著作リスト

    ●科学文明(233頁)
    進歩する科学文明とは、より手の込んだ合法的な野蛮世界へ逆行する暴力支配をいうにちがいなかった。
    ●すべて地獄(265頁)
    坊さまが衆生たちにくり返しくり返し話したのはこの世は地獄という説話であったから、ものごころつきはじめにわたしは、現身のあるところすべてこれ地獄であるというリアルな認識に突き落とされた。たぶんその幼児体験は、水俣病事件に出遭うための、仏の啓示であったにちがいない。
    ●聴覚異常(277頁)
    音はきこえるばってん、喋りよる内容はわからん、
    ●国(307頁)
    東京にゆけば、国の在るち思うとったが、東京にゃ、国はなかったなあ。
    (厚生省の対応について)
    ●ラス・カサス(348頁)
    ラス・カサスの目にうつったインディアスは、水俣および不知火海沿岸の人びとになんと酷似していることか。被害民らが、見かねた少数の支援者らのすすめで裁判に踏み切ったのは、災厄発生以来十五年も二十年も、あるいは三十年も経っていた。
    ●文盲(367頁)
    日本は文盲のない国と言われながら、部落の婦人の中には全く字の読めない人、読めても書けない人が多くおります。
    ●毛髪水銀量(376頁)
    衛生研究所の名において松島氏の分析された、水銀量地区別成績書、昭和36年度の表によればその最高価は、水俣漁民60ppm、津奈木漁民66.5ppm、湯浦93.8ppm、などである。この時期、各市町村衛生担当者には、発病の恐れのある毛髪水銀量のボーダーラインを、50ppmとして通知していたというが、松島氏の希望していた具体的な予防措置は何ひとつ取られなかった。
    ●遺体を連れて帰る(380頁)
    生きて寝とるときは、背中で手足のぶらぶらしとっても、気になりませんばってん、解剖して、ずてずてしとっとですけん、縫い合わせてあるとでしょうが、いつ、ひっ切れるか心配で。
    仏さまの前に、ちゃんと連れて帰らんば。
    ●水俣病補償処理員会(385頁)
    厚生省が任命した水俣病補償処理員会とは、じっさいはチッソが筋を書き、厚生省が加担したにすぎぬ機関であった。
    ●道理のわかる(427頁)
    いくら会社でも上の方にゆけばものの道理や、もののあわれのわかる人物がいると思いたい。

    ☆関連図書(既読)
    「新装版苦海浄土」石牟礼道子著、講談社文庫、2004.07.15
    「天の魚 続・苦海浄土」石牟礼道子著、講談社文庫、1980.04.15
    「水俣病」原田正純著、岩波新書、1972.11.22
    「証言水俣病」栗原彬編、岩波新書、2000.02.18
    「水俣病の科学 増補版」西村肇・岡本達明著、日本評論社、2006.07.15
    「谷中村滅亡史」荒畑寒村著、新泉社、1970.11.20
    「田中正造の生涯」林竹二著、講談社現代新書、1976.07.20
    「沈黙の春」カーソン著・青樹簗一訳、新潮文庫、1974.02.20
    「奪われし未来」T.コルボーン・D.ダマノスキ著、翔泳社、1997.09.30
    (2016年10月4日・記)
    (「BOOK」データベースより)amazon
    「天のくれらす魚」あふれる海が、豊かに人々を育んでいた幸福の地。しかしその地は、海に排出された汚染物質によって破壊し尽くされた。水俣を故郷として育ち、惨状を目の当たりにした著者は、中毒患者たちの苦しみや怒りを自らのものと預かり、「誰よりも自分自身に語り聞かせる、浄瑠璃のごときもの」として、傑出した文学作品に結晶させた。第一部「苦海浄土」、第二部「神々の村」、第三部「天の魚」の三部作すべてを一巻に収録。

  • 今までにも、聞き書きの文学をいくつか読んできた(UNDERGROUND、チェルノブイリの祈り、台湾海峡1949、などなど)が、これもすごい。というか、これはすごい。できるだけ多くの日本語話者に読まれるとよいなと思う。というのは、石牟礼道子の語り下ろす水俣方言、市民団体や労組などの組織言葉、あるいは会社や政府のお役所言葉が、それぞれの語る内容と分かちがたく結びついて、この世界のありよう、それぞれの魂のありようを描き出しており、それはおそらく翻訳不可能で、石牟礼の描き出したものを、最もきちんと受けとめることができるのは、世界の中で60分の1にも満たない日本語話者をおいて他にないからだ。2段組700頁以上の本書を前にするとややたじろぐが、最初の100頁も読めば、あとは読まずにいられない。しかしまた、最初の100頁ほどを読むだけでも、十分意味があるし、読んでよかったと思えるはずである。具体的に言えば、第1部の第4章までは是非とも読んでみてほしい。不知火海がまさに「苦海浄土」であることがわかります。

  • これは、すごい4.71平均、やばい、やばいぞーこれはすごい
    高いかなと思ったけどまさかここまで高いとは

    魂の声、すごく詩のような小説を感じた。
    自分も詩を作るが、小説での詩の方法やり方を意識した。
    そして、詩のような小説が超絶に好きなのだとゆうことを発見した。
    ジャンジュネや、ガルシアマルケス、カフカ、音楽では、坂本龍一、
    また再度今の今、気づいたことは、それは、我々の世界と対比されてるとゆうこと
    深い洞察、広大な宇宙に個人の魂の声が対比されてるものこそ、大好きな小説なのだと思った。

  • 戦争関係の本とか、読むと気持ちが沈みそうで普段どうしても手が出にくく、フランクルの『夜と霧』や井伏鱒二の『黒い雨』をまだ読んだことがない。『苦海浄土』もその気持ちが沈みそうな部類に入っていたのだけど、NHKの「100分de名著」で扱ってくれたのを機に読むことができた。
    第二部、第三部も読みたかったのでこの全集で読んだが、読み切るのに時間がかかった。夜寝る前などにちょっとずつ読み、布団に入ると夢の中で患者のおばあさんが水俣のことばで語りかけてくる、というのが何日か続いた。正確な聞き書きではないにしても、石牟礼さんの筆の力はすごい、と感じた。患者さんの顔や声や性格が目に見えるようだった。
    第一部の第三章でゆきさんが海の美しさを語るところは印象的だった。後の方で裁判や自主交渉する方も、もう一度海に出て働けるならお金はいらないという。美しく豊かな海さえあれば、それで穏やかに生きていけた人達だったのに。ゆきさんの旦那さんの「わしゃ、水俣病をうちかぶることはできまっせん。会社もかぶらんものを」というのが心に響いた。
    第二部では大阪の株主総会で患者さんたちがご詠歌を歌う場面でぼたぼたと涙がこぼれた。病気の症状や家族の看病だけでも大変なのに、会社や世間から心無い言葉をかけられるのはよっぽどのストレスになったと思う。
    もし自分が患者だったら、患者の家族だったら、会社の従業員だったら、水俣市民だったら、どうしていただろうと考える。どちらの立場にいたにせよ、自分は沈黙して行動は起こせなかったんじゃないかという気がする。でもそれは選挙の時に「投票しないことが自分の意思表示だ」という人と一緒だな。責任の放棄とも考えられる。
    この本は水俣病を巡る一連の事件や出来事を書いているのだけど、人生のいろいろな面に通じる普遍的なことも読み取れるのではないかと思う。今読んだ時点で読み取れていない部分もきっとたくさんあると思うので、もうちょっと年を取ってからまた読み直してみたい。

  • 読むのに時間かかりました。読み手にも覚悟が必要な本です。
    水俣病という言葉は社会科の教科書で知ってましたが、そこまで詳しく知ろうとしたことはありませんでした。また、石牟礼道子についてもそんなに知りませんでした。
    この世界文学全集では第一部「苦海浄土」第二部「神々の村」第三部「天の魚」をまとめて収録しているので、作者が40年かけて書いてきた水俣病の話を一気に読めるので、お得といえばお得です。

    石牟礼道子という作家は、基本的には詩人なんだと思います。その文章は文学的で詩情溢れてます。さらに、水俣の人たちが使う方言がまた美しく、まさに忘れられてしまった日本の田舎の良さが言葉使いにも情景描写にも現れてます。
    ただ、自分は「え、これはドキュメンタリーなのか、文学なのか?」と正直戸惑いました。どっち付かずのような気がしたのです。文学でもないし、かといって水俣病の歴史をきっちり描いているわけでもない。作者自身の心象描写も多いです。とはいえ、作者自身も水俣市の生まれであり、当時30代の主婦であった彼女が自らの足で患者たちと話し、聞き取った言葉、そして支援者として活動してきた、当事者でもあります。これはどうとらえればいいのか。

    しかし、この作品が今でも名作と言われるのだとすれば、たぶんこの曖昧なところなんではないかと思いました。
    水俣病が発生した時代、それは格差の時代でもありました。高度成長期にのり、近代化し発展していく日本、そしてその影として生まれた公害の被害者は「田舎者」でありました。
    戦後から発展していく町と田舎、持つものと持たざるもの、どちらにも属さない、曖昧な存在である作者は変わろうとしていく日本の醜さを文学として残そうとしているかのように私は思いました。

    昭和は良かったと懐古する人もいますが、このような本をしっかり読んで、影を思い出して欲しいと思います。
    あと、第一部「苦海浄土」しか読んでない方はぜひ第二部第三部と読んでみて欲しいです。被害者を叩く人や企業側の言い逃れ、無責任な政府など、全く今も昔も変わってないなあ、と実感できます。

  • 公害病を代表する水俣病をあつかった古典。患者さんが乗り移ったかのように、作家・石牟礼道子がもだえながら紡ぎ出す言葉の鋭さ、深さ、美しさ。読みやすいとは言えないが、世界的文学によって誘われる世界を体験してほしい。
    (松村 教員)

  • 近代への呪詛。

  •  昭和30年代に引き起こされた水俣病は、発覚当初に原因は工場の廃液だと判明しながら国とチッソがこれを認めず、多くの犠牲者を出した。著者は水俣病患者と社会との闘争を40年にわたり追い続けた作家で、「故郷にいまだに立ち迷っている死霊や生霊の言葉を階級の言語と心得ているわたくしは、わたくしのアニミズムとプレアニミズム調合して、近代への呪術師とならなければならぬ」と本書で決意のありかを示す。
     著者の筆には、真実を追求・糾弾する社会的側面と、被害者たちの姿を土地の方言を活かした詩的なリズムで刻む文学的側面があるのだが、その類まれな両立は、著者の特性に負うところが大きい。著者は1927年に天草で生まれて水俣で育ち、そして30歳を過ぎたころに作家として水俣病に出会っている。この偶然を、池澤夏樹は解説で、「まるで病気の方が彼女をスポークスマンとして用意したかのごとくだ」と驚嘆する。
     本書は、池澤が個人編集をした世界文学全集に収められている。優れた古典作品ではなく、本書がその一冊に選ばれた意味が、1ページごとに胸に迫る。

  • 908-セカ-3-04 300201175

  • ☆信州大学附属図書館の所蔵はこちらです☆http://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB04387195

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