短篇コレクションI (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)
- 河出書房新社 (2010年7月12日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (524ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309709697
作品紹介・あらすじ
南北アメリカ、アジア、アフリカの傑作20篇。新訳・初訳も含むアンソロジー。
感想・レビュー・書評
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230217*読了
世界文学全集、短篇もよかった…。
南北アメリカ、アジア、アフリカの珠玉の作品が20篇。
岸本佐知子さんや村上春樹さんが訳されている短篇もあり、お二人が好きな自分はそれがもう嬉しい。
特に印象に残っているのは、「南部高速道路」「朴達の裁判」「レシタティフー叙唱」「冬の犬」「ささやかだけれど、役に立つこと」「ダンシング・ガールズ」「面影と連れて」でしょうか。
同じ時代であっても、国によって当時の暮らし方や考え方が違う。
戦争と近い時代だからこそ、それが際立っていました。
「南部高速道路」はこんなことあったら怖いわ!と思うようなSFチックな小説で「冬の犬」は北国での冒険と恐怖を感じた幼少期の体験が、自分とはまるで違っていて印象的だった。
「ダンシング・ガールズ」は岸本さん訳と思って読んだのもあるけれど、当たり前のようでそうではない風景、非日常のようで日常、そんなストーリーでインパクトがありました。
この3作以外で上にあげた作品は、人間の感情、悲しみや絶望、怒りや妬みを描いているので、楽しく読むというよりも心が辛くなったり揺さぶられたりして、でもどれも読めてよかったと思える作品たちでした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「南部高速道路」
アイデアが天才的。交通渋滞が、これほど心動かす物語になるとは。
「波との生活」
詩的な文がそれこそ波のように次から次に押し寄せ、鳥肌がたった。
「白痴が先」
死神を説得する。
「タルパ」
よくありそうな話なのに、なんだ、この喚起力!
「色、戒」
まさに映画。運動神経のよい作者だと感じた。
「肉の家」
すさまじい沈黙の重さ。またこのあからさまなタイトル。目も当てられない。
「小さな黒い箱」
パッション=受難=情熱を取り戻すために。
「朴達の裁判」
ゴーゴリの魂を継ぐ小説。主人公朴達に対する愛情をまぶしたユーモアが何とも良い。ずっと読んでいたくなる。
「夜の海の旅」
精子の旅が、観念的に隠喩的に語られる。この長さでちょうどいい。これ以上長くなるとついていけない。
「ジョーカー最大の勝利」
漫画と小説のあいだ。
「レシタティフーー叙唱」
心にじかに触れてくる。あるいは心という虚構を鮮明につくりだす小説。
「サンフランシスコYMCA讃歌」
高橋源一郎的。こっちが元祖だけれど。
「ラムレの証言」
10割が事実。3割が小説。
「冬の犬」
流氷をめぐる、生死をさまよう場面がすばらしかった。しかし犬はあっけなく……このやるせなさこそが小説。
「ダンシング・ガールズ」
アメリカで、自室に娼婦を連れ込んで、踊っていけない理由は!? すぐに思いついた人は本作を読むべき。
「母」
いつか面白くなるのだろうと思いながら読んだら最後まで面白くなかった。
「猫の首を刎ねる」
選者池澤夏樹だからこそ楽しめた一編。
「面影と連れて」
御嶽(うたき)の森の、拝所(うがんじゅ)の、もっと奥にある聖所(いび)。その描写に、息を飲んだ。 -
世界各地から集めた粒揃いの短編。知らない作家を知るいい機会になり,また近年の世界情勢を推し量ることもできる。
ピックアップ:
コルタサル 「南部高速道路」
初っ端はアルゼンチンの文学。日常世界に隣接した気だるさの感覚がよく読み取れる。長いようで短い,時間感覚を麻痺させる,短編ならではの良さがある。
ディック 「小さな黒い箱」
題名からしていろんなイメージが湧いてくる。システマチックな世界観は個人的に好みに合う。
金達寿 「朴達の裁判」
本書の中では比較的長い作品。笑いに込められた怒りを読み取った時,饒舌な語りに引き込まれていく。
目取真俊 「面影と連れて」
最後は方言マシマシの日本文学。やはり誰かに語りかける一人称は圧倒的な虚構を産むようだ。 -
【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/56296 -
メディアを通して世界情勢を知った気でいても紛争のニュースは遠い国の出来事でしかなく、旅をするにも時間とお金がかかる。でも小説を読めば能書きなしで世界中の面白い部分を体験できる。「名作」だけ集めた従来の文学全集に一石を投じる本書のセレクションは、パレスチナ、韓国、カナダから沖縄の作品まで幅広い。美しい水を恋人にした男の話や、理由なく殺される弱者の押し殺した嘆き。教科書に載らない彼らの小さな声は、しなやかで力強い肉声となって読者に語りかける。この一冊で、ニュースとは違う世界のリアルを体験してほしい。
(教員推薦)
↓利用状況はこちらから↓
https://mlib3.nit.ac.jp/webopac/BB00539316 -
夏休みなので読書感想ツイートを。
#ラムレの証言
ガッサーン・カナファーニー
http://amzn.to/2hX24LE
短篇コレクションI (池澤夏樹個人編集 世界文学全集 第3集)
読む前に、何ページくらいあるのかな~確認したら6P=紙3枚分で、思わず「え、みじかっ!(・・;」と声が出た。
61年前の作品だけど、僅か6頁の中に凝縮されているのは現在のニュース等で見聞きするパレスチナとまるで同じ。一行目から最後の一文字まで緊張が緩むことがない。太陽の日差しと息苦しい静けさと張り詰めた空気にこっちも呼吸が止まりそうになる。読後はため息とものすごい疲労感。
「褐色の肌の女兵士」の冷酷さに現在も続くイスラエルの歪みが映し出されている。アラブ等非欧州系ユダヤ人はスファラディムやミズラヒムと呼ばれイスラエルでは二級市民扱いで差別されるが、同時に対アラブの盾として国境警備隊等でパレスチナ人に直接暴力をふるう当事者。
イスラエル国内の極右支持層・対アラブ強硬派にはこの「褐色の肌の女兵士」のような非欧州系ユダヤ人が多いらしい。ブルーハーツのTRAIN-TRAINの歌詞「弱い者たちが夕暮れ さらに弱いものをたたく」と、EDEN4巻の崔とリュウイチの会話を思い出した。
そもそもが政治的に造られた対立・暴力の構造が、作品が発表された61年前から何も変わっていないことに呆然とする。まるで時間が止まったみたいに暴力がずっと続いている。「なんだこれマジでクソだな」って気持ちでいっぱいだ。結末は映画『オマールの壁』のラストを思い出させる。
ちなみにラムレの場所はテルアビブの南西、リッダ(Googleマップの表記はロッド。ちなみにDAMの故郷。)の南西隣。……多分。地図上の表記は「ラムラ」。レでもラでもどっちでも良いのかな?ラマッラーと混同しそう。
『短編コレクションⅠ』は約3.5cmとそこそこイカツイ厚さだけど、#ラムレの証言 自体は僅か6ページなのでさくっと読めます。楽しい話じゃないけど何度も読みたくなる。読後はどっと疲れますが、夏の日差しと暑さを感じながら短時間で重苦しい気持ちになりたい人にオススメ。 -
なかなか普段は読めない、凡ゆる時代の凡ゆる文化の短編が読めてよかった。
好きだった、印象に残った話:
「色、戒」 張愛玲
「朴達の裁判」 金達寿
「レシタティフー叙唱」トニ・モリスン
「母」 高行健
「面影と連れて」 目取真俊
案外アジアの国の作品が好きなようなので(翻訳の問題もあるかもしれないが)、もっと中国や韓国の文学も読んでみようと思った。また、他にも前から読みたかったチヌア・アチェべやマーガレット・アトウッドの作品が収録されていたのも良かった。文体が好きなのでそれぞれの長編も読んでみようと思う。 -
他のコレクションも面白そうなので随時読むこと
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朴達の裁判が面白い。
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気になった半分くらいを拾い読み。
『面影と連れて(うむかじとぅちりてぃ)』が凄かった。
語りにぐいぐい引っ張られ,短編とは思えない読後感。