三大陸周遊記 (世界探検全集)

  • 河出書房新社
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本棚登録 : 87
感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309711829

感想・レビュー・書評

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  • 高野秀行氏がナビゲーションを務める『三大陸周遊記』にやって参りました!彼が手掛けたまえがきはやっぱり面白かった!何ならもっとはっちゃけても良かったくらい。
    面白いだけでなく、彼特有のユーモラスな語り口調のおかげで十分良い予習になるし、面白い視点のまま本書に臨める。

    著者のイブン・バットゥータは、モロッコ出身の大旅行家。
    22歳の頃聖地メッカ巡礼を目的に故郷を離れたが、やがて世界旅行へと乗り出す。その範囲は北アフリカからユーラシア大陸を横断して中国と、ザッと世界半周は制覇している。
    本書は1977年刊の同タイトルに高野氏のナビゲーションを加え、復刊したもの。高野氏曰く原書の4分の1に抄訳されており、担当したのは日本で初めて『アラビアン・ナイト』を翻訳した前嶋信次氏であるとの事。

    高野氏が述べているように、同じ旅行記でも『東方見聞録』よりは読みやすいと思う。
    (イブン・バットゥータより50年程前に生きた)マルコ・ポーロの『東方見聞録』も、『三大陸周遊記』に引けを取らずスケールが大きい。しかしリアリティに欠けていて拍子抜けする箇所もあり、実際「ジパング」のように訪れてもいない国について「見聞」だけで乗り切ったりしていた。

    本書は北ア〜中国の広大な範囲、つまり彼が「実際に」訪れた国々を余すことなく記録してくれているから、一旅ルポとして自然と楽しめる。あとは彼自身が敬虔なムスリムで、旅の行方を「神(アッラー)の思し召し」と捉えているところも、紀行に穏やかな彩りを添えていた。

    全体を通して客観的な文章だったけど、下記のように民間伝承っぽい話も紛れていたりする。
    イブン・バットゥータを乗せた船が40日以上遭難した時、前方に見覚えのない山が見えた。それを船乗り達は「ルッフ」(巨鳥)だと嘆き、イブン・バットゥータも必死に神に祈りを捧げる。結局「アッラーは絶好の風を送り、反対の方向に船を転じさせ」、彼らはルッフと対峙することはなかった。
    この辺とかシンドバッドの巨鳥とクジラ島のエピソードを合わせたみたいで、読んでいて気持ちが浮き立った。40日以上も知らない海上を漂流していたら、幻覚を見てもおかしくない。『東方見聞録』とは違ってまだリアリティがあるし、読者の想像も無理のない範囲で膨らむ。

    「いま世界で起きていることは、イスラム教とは関係ない。ただ憎しみを増幅させているだけだ。ほとんどの問題は、他者を尊重しないから起こるんだ」
    『パリのすてきなおじさん』という本に書いてあった、現代を生きるムスリム移民の言葉である。本書の旅の節々でそれを思い起こしていた。
    例えばメッカの人々は、異教徒も大切にもてなしていた。ダマスクスでは慈善財団が発足されており、同じく異郷の者への生活支援も手厚かったという。道中異教徒の襲来もあったりしたが、彼の目を通した14世紀の世界は不思議と調和が取れているように思った。

    旅の大本命だったメッカの優しさに心打たれ、自分も世界の人々と分け隔てなく交流したいと思ったのか。旅が30年も及んだのは、その思いもあったからなんだろうか。
    これも無理のない範囲の想像だったらいいな。

    • ahddamsさん
      ほん3さん、おはようございます。
      私も高野さんがTwitter(今はX)で本書の話をされていて、そこで知りました汗
      また著者と書きましたが...
      ほん3さん、おはようございます。
      私も高野さんがTwitter(今はX)で本書の話をされていて、そこで知りました汗
      また著者と書きましたが、実際は口述筆記で旅の途中に知り合った人に記録してもらったそうです。著者のことは世界史でチラッと出てくるみたいですが、そもそも選択していなかったので知りませんでした笑
      2023/09/16
    • koalajさん
      ahddamsさん
      こんばんは。
      熱いレビューを見て読みたくなり読んでみました。
      世界史でこの大旅行家の名前をうっすらと覚えていたものの、こ...
      ahddamsさん
      こんばんは。
      熱いレビューを見て読みたくなり読んでみました。
      世界史でこの大旅行家の名前をうっすらと覚えていたものの、この時代にこんなにスケールの大きい旅だったなんて驚きですね!ご紹介して頂き、ありがとうございました♪
      2023/12/19
    • ahddamsさん
      koalajさん、こんばんは。
      レビューを拝読しました♪元々旅行記が好きだったので、この時も楽しんで読んでいました。(高野さんの影響も大きい...
      koalajさん、こんばんは。
      レビューを拝読しました♪元々旅行記が好きだったので、この時も楽しんで読んでいました。(高野さんの影響も大きいですが^ ^;笑)当時のイスラム世界が比較的寛容だったのは、やっぱり一番の驚きですよね…!
      こちらこそ、読んでいただけてとても嬉しいです♪
      2023/12/19
  • ブク友さんの熱いレビューをきっかけに手にとりました。ありがとうございます♪

    時は14世紀、30年近くに及ぶ大旅行記。
    スケールが大きすぎて想像もつきませんねー。
    訪ねた土地の活気あふれる様子、特にメッカの賑わいが印象的。イブン・バットゥータはイスラム教徒ですが、異教徒からも歓待されたり、多様な民族が街の中で住み分けていたり、混沌の中にもそういう寛大で懐の深い所があった時代なのでしょうか。

    この書は、旅行から戻った後の口述筆記とのことですが、詳細な記憶、客観的な視点からの洞察によって、長く読み継がれる旅行記になっているのだと感じました!

  • マルコ・ポーロより50年遅れて生まれたモロッコ出身のイスラム世界の探検家、イブン・バッドゥータの世界周遊記。客人を大切にする一方、異教徒には厳しいイスラム的視点から見た世界は東方見聞録とは一味違うのです。黒死病も真っ盛りで、酷さがわかります。

  • 特色の異なる各地の風景や習俗の描写が鮮やかで、今読んでも違和感が無い旅行記。特に辺境などは、現在もさほど変わらない光景があるのではと思わされ、1,300年代の記録なのを忘れるほど。現代のあらゆる旅行者と決定的に異なるのは、バットゥータには法官という尊崇される立場とスキルがあり、訪問地の王に優遇されたり、豊富な財と(奴隷として)愛妾や使用人を抱えた、一種の大名旅行だった点。反面、内乱に遭遇したり、疫病に罹ったり、盗賊や海賊に襲われ身ぐるみ剥がされたりと、命に関わるあらゆるトラブルにも遭っており、当時の旅の難易度も見て取れる。下賜された人質の返還を拒否したり等々、今日の一般人とは異なる感覚に、時代的(または宗教的)制約を感じる事もあった。最初実見談を興味深く読んでいたが、荒唐無稽な話が混じるにつれ、話の信頼性は割り引いた。ともあれこの大旅行記は、拡大したイスラム圏の恩恵を受けた一例で、彼の体験が良い相棒を得て著作として遺ったのは、恐らく旅行そのものに匹敵する価値と言えそう。

  •  14世紀のイスラム(モロッコ)の旅行家、イブン・バットゥータの大旅行記の。全訳は家島先生が東洋文庫全八巻で訳されているが、師匠に当たる前嶋先生の抄訳となる。(このあたりは高野秀行による前書きに詳細がある)。
     モロッコ、エジプト、アラビヤ、黒海周辺、アフガン周辺、インド、アジア、中国(元)と約30年に渡り旅を続けているが、そのヴァイタリティと知的好奇心には脱帽する。
     東方見聞録に比べると、こちらのほうが断然読みやすく、面白い。情報の正確性はともかく、前者がガイドブックとすれば、こちらは旅日記である。善きにしろ悪し気にしろ起こった出来事を克明に記しており、読んでいてワクワクするのである。

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著者プロフィール

アラビアの旅行家。北部モロッコに生まれ、22歳の時に聖地メッカの巡礼を志して故郷を離れ、以後29年間にわたり、文字通り三大陸を旅行。この間、滞在地で法官に任ぜられるなど高い教養の持ち主でもあった。

「2023年 『三大陸周遊記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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